出張のため遅れまして申し訳ありません。
オビトの回想の続きです。

603『リハビリ』

.リハビリ

「ここへ来て…どのくらい経つんだ?
 もうずいぶん居る気がする。」

広大な地下空洞。
オビトはここへ墜ちてから、日の明かりを見ることもなく、
ただひたすら時が流れることだけを感じているようです。

「家賃いらないから心配ないよ」

と白ゼツ。
もうこの時分から白ゼツは居たようです。

「魔像から作られたぼくらは食事しなくてもいいしね…。
 食費も無し…。トイレも無し…。うんこもしないし。」

ともう一人、ゼツと違ってトビの面のようなグルグル顔をもった
人造人間が語りかけます。

「だからって…お前らとオレを一緒にするなよ!
 オレは半分その訳分かんないのがくっついてるだけだ。」

とオビト。潰れてしまった右半身には、
この人造人間たちと同じ人造体が移植されているのですが、
違和感を隠しきれない様子。

「そのおかげで君も飲まず食わずで生きてられるんだよ。
 逆にありがとうって感謝してほしいくらいだよ。
 こっちこそ一緒にされたくないね。
 君のは感情の無い人造体!」

と白ゼツは語ります。

「ボクらは人造人間…。
 ちゃんと感情がある!!
 うんこはしないけど。
 …それもちゃんと笑いの分かる君よりいいのがね。
 ボキャブラリーも頭のキレも君より上っスよ!」

ともう一人のグルグル顔が語ります。
しゃべり方の雰囲気はまるで登場したての初期のトビのようです。
この人造人間は何かそのことについて関係があるかもしれません。

「るっせ――!
 …ならお前らがオレよりレベル上だって
 証明してみろよ!」

そんな人造人間たちの調子に
少し琴線に触れたかのようなオビト。

「ボクらが…」
「君を…見張ってる!!」

口をそろえて、親指を突き上げる人造体たち。
彼らがオビトのリハビリを手伝っているのは、
どうやらマダラに任されているからのようです。

「ケッ!
 …こんな口先だけのデク人形共に見張らせて、
 自分はずっとおねむかよ!
 ぜってーこんなとこ抜け出して、
 リンとカカシに会うんだ!!」

当のマダラは外道魔像からチャクラをもらいながら、
無駄な活動を避けるように休眠状態です。
オビトの力強い意志と言葉ですが、
首を振る人造体たち。

「マダラの命令で君をここへ運んだ後、
 マダラがでっかい岩でもうフタしちゃったから…。」

聞けば彼らはマダラに言われて、
負傷したオビトを運んだのですが、
出入り口となる部分をマダラが
大きな岩で塞いでしまったようです。
「もうフタしちゃった」というニュアンスは、
もともとこの出入り口は閉じられている――
つまりこの大空洞はもともと閉鎖された空間で
オビトの存在をマダラが察知して、
そのときだけ入口が開かれたというような感があります。

「そもそも前からずっと"リンリンリン"
 寝ごと言ってますけど、
 外に鈴でも拾いに行きたいんすか?」
「たまに"バカバカバカバカ――"バカカシ…とも言うよね。」
「ああ! そうそう。たま〜にね。」
「バカカシって何?」
「さぁ…直接聞いてみたら」

とまぁバカカシかと思えば便意についても聞いてみたり(!?)と、
オビトをからかうかのような人造人間たちの様子に
業を煮やしながらも、複数いる白ゼツが、
この空間の外の世界へいって、
情報収集しているらしいことをオビトはつかみます。

「ボクら地面の中を移動できるからね。」

と白ゼツから聞いて、
ここを出れる可能性を少しでも感じたオビト。
腰を落ち着ける気はないようで、
マダラの訳分からない話に付き合うつもりも毛頭ないようです。

「インガを切るだの何だのと…。」

愚痴をこぼすオビトに、
白ゼツはマダラの計画を掻い摘んで伝えます。

「まぁカンタンに言うとね、
 本当の世の中の嫌な事を捨て、
 良い事だらけの夢の中に逃げちゃおうって話!
 …夢だから何だって思い通り…。
 死んだ人だって生きてることにできる。」

夢の中への逃避。
続けてグルグル顔が言います。

「ん…ああ…。
 幻術ででっかい夢の世界造って
 そこに皆で行こう! ってこと。
 …行こうって言うよりは、
 無理矢理連れてく感じなんだけど…
 しかも一生ね。」

幻術による夢の世界。
馬鹿馬鹿しいといった感じで、
オビトはため息をつきます。

「マダラぐらい力があれば何だってできるよ…。
 ただ、今は弱っててできないよ。
 …だから色々と準備があんのさ。」

と白ゼツ。
しかし、オビトは特に関心を示しません。

「あっそ…興味ねェーな。
 ンなことより、
 オレは絶対外へ出るからな。」

マダラがいくら巨大な力を持っていようと、
偉大であろうがなかろうが、
理想の世界だろうがなんだろうが、
オビトにとっていま一番大切なモノはリンとカカシ。
彼らに再び会うためにも、
オビトは血の滲むようなリハビリを繰り返すのです。

「強がって傷を隠してもダメ。
 ちゃんと見てんだから。」

いつだったか、手裏剣を弾ききれず、
手にかすり傷を負った時のこと。
自分の未熟さを曝け出すようで、
思わず隠してしまった浅傷。
それを丁寧に手当てしてくれた
リンの言葉と顔が思い浮かびます。

こなしてきた任務。
中には遅刻した日も数知れず。
リンを想い続けた日々。
カカシとケンカした日々。
もろもろの思い出を抱きしめて、
いつしか外に出られるように、
オビトは自らを奮い立たせます。

「(…なじんできてる…
  もう少し…もう少しで会えるぞ…
  リン…カカシ…!!)」

髪も襟首にかかるほどになった時分。
人造体である右半身も、
自分の体と遜色なく扱えるようになりました。
そんな折、カカシとリンが霧隠れの忍に囲まれたという情報を
白ゼツから聞いて、居ても立ってもいられなくなったオビト。
出入り口のの大岩にひびを入れるまでに使えるようになりましたが、
それでも大岩はびくともしません。
代わりにオビトの人造体部分の腕がもげてしまいます。

「リンとカカシを……助けにいかなきゃ…!」

そんなオビトを見るに見かねたように、
グルグル顔がオビトに力を貸します。

「ボクの体を着るといいよ。」

そういってグルグル顔は、
自らの体をほどけるようにして変化し、
オビトを包み込みます。

「ありがとう。お前ら!!」

トビの姿となったオビト。
カカシとリンを助けるために、
この地下空洞からの脱出を試みるのです。