671『ナルトと六道仙人』

扉絵にはナルトを象徴するアシュラ像。
退避するようにサスケを象徴するインドラ象。
帝釈天(インドラ)との戦いに常に負け続ける落ちこぼれの阿修羅。
一方で雷を自在に操り戦いに幾度となく勝利を収めるも、
次第に人心が離れていった帝釈天
それをナルトとサスケに対比させています。

1.ナルトと六道仙人(1)

「ワシの目にはハッキリと
 アシュラのチャクラがお前に寄り添うのが見える。」

と六道仙人。
しかしナルトはあまり驚かない様子。
自分の中の得体の知れない何か、
いまようやくその存在を知って納得したかのような表情です。

「…なら、もう分かっているハズだな。
 兄インドラの転生者が誰なのかも……。」

六道仙人の言葉に頷くように
ある一人の男の名を挙げます。
憧れた友であり、裏切りの敵であり、
常に気にかかる存在だった人物――

「サスケ…」

五影会談の戦いのときの話。
狂気に満ちたサスケと相対したとき、
ナルトはサスケと戦いあわなかったのは、
ただサスケの中の憎しみに応える
自信がなかったわけではありません。
もっと本質的な――
因果ともいや業<カルマ>とでも言うべき
避けられない宿命に安直に対峙すべきでない
とナルトの本能が悟ったからです。

「オレやサスケの前にも…
 その何だ…
 テンセイシャ…ってのがいたらしいけど…
 そいつら結局どうなったんだ?」

とナルト。

「一世代前の転生者は千手柱間とうちはマダラだった…。
 柱間がアシュラ。マダラがインドラだ。
 …その2人がどうなったかは分かるな。」

と六道仙人は言います。
ただしマダラは力を欲するがあまり、
柱間の力も手にしてしまいます。
結果、輪廻眼に象徴される六道仙人の力を得たのです。
しかし、それは六道仙人自体望ましくないとしていた。
力の均衡を図る為でしょう。
そうした輩がインドラ側に生まれるだろうことを避けるべく
うちはの石碑に自らの言い分を遺したのです。
しかし、それももはや徒労であったと語っています。

「じゃあ、仙人の大じいちゃんは、
 ずっと自分の子供の兄弟ゲンカを見てきたって事か?」

ナルトがまとめると、
六道仙人は深々と頷きます。

「…そうか…」

心中を察するように、
ナルトも居た堪れない表情をします。

「忍宗においてチャクラは個々を繋げる力と説いた。
 ワシはチャクラを個一つだけの力を
 増幅するものであってはならないと信じておる。
 母であるカグヤは乱世を終らせた後も
 一人の力だけで世界を束ねた。
 が…やがて母の力はうぬぼれを生み、
 人々はその力の存在を恐れる様になっていった。
 卯の女神と呼ばれていた母が…
 いつしか鬼と恐れられる様になったのもこの為だ。
 力が一人に集中すれば、
 それは暴走しやがて力に取りつかれてしまう。
 今のマダラがまさにそれだ…。
 まるで母のカグヤの様だ。
 インドラの転生者を終えた今は
 十尾の力を得てワシに近づき、
 母カグヤの力にさえ近づこうとしている。」

マダラの力の暴走を危惧する六道仙人。
力が一つに集約すれば整った秩序を崩壊させる
破綻(カタストロフィ)が生ずる――
その現象は物理現象にとどまらず、
こういった歴史的な諸問題にも顔をのぞかせるのが
興味深いところです。
実は一つにまとまることが"平和"ではないのです。

平和とは共存。ゆえに力の均衡をとることは大事なのです。

後に力の均衡を働かせるべく、
六道仙人は尾獣という形で分散させました。

2.ナルトと六道仙人(2)

「無限月読とは幻術にかけるだけではない。
 幻術の夢を見せ続け、生かしたまま、
 個々の力を利用する為に……
 皆を神樹の根に繋げて生きた奴隷とする幻術だ。」

限月読とは単なる幻想ではない――
実態は到底幻想とも言えない、惨たらしいものです。

「母は白眼以外に写輪眼の力をも有していた。
 瞳力を使い、その術を民へと向けた事もある…。
 凄惨な術であった。
 チャクラが一つになってしまえば、
 また新たなチャクラの実が出現する…。
 それだけは何としても止めなければ世界は終わる。」

神樹自体が悪いのではなく、
その力を追い求め、手にし、溺れる愚者が生ずることは
決してこの世界のために良くはないと断言できる――

「ワシはお前にマダラを止めてほしいと思っている。
 今までの転生者と違い、
 少々バカっぽいその意外性…
 そこに可能性があるかもしれん。」

と六道仙人。ナルトは早速その意外性を見せます。

「死んでさえずっと長げーこと
 見守ろうとしてきた世界が…
 こんなになってんのに…
 まだオレ達のことを信じてくれてありがとう。」

と深々と感謝を見せます。

「礼を言うな…。
 ワシにはそんな資格は無い…。
 今の世がインドラ…
 イヤ、母のやり方を本当は望んでいて…
 それが自然の流れだとしたら、
 ワシは自分のワガママで止めようとしている事になる。
 尾獣の使われ方にしてみても、
 世の均衡と平和でなく、兵器として使われる。
 ワシの考えは甘いのかもしれんな。」

と弱音を吐露する六道仙人に、
ナルトはにっこりとしながら、

「イヤ! 大じいちゃんは間違ってねーよ。」

とナルトが力強く断言します。

「その通りだぜじじい!」

湧き上がってきたのは守鶴。
不思議がるナルトに、続いて出てきた牛鬼が言います。

「オビトの奴がな…。
 守鶴とオレのチャクラの一部を
 マダラから引き抜いたんだ。
 お前に足りてねー尾獣の力も
 ちゃんと分かってやがったぜ。…あいつ。」

オビトが助けてくれたことに驚くナルト。

「…色々あってな。
 ワシもお前の中へ入れた。
 これですべての尾獣のチャクラが
 お前の中へ入ったぞ。ナルト!」

と九喇嘛。皆、一部のチャクラであるため
形が不完全ですが、陰の九尾のチャクラは、
ナルトにしっかり渡っています。

「これでやっと約束の時が来たぜ。
 六道のじじいよ。」

六道仙人は頷きます。

「…そうだな。九喇嘛よ…。
 ガマ丸の予言通り…。
 九匹のケモノの名を呼びたわむれる碧眼の少年……
 お前はやはり皆の協力を得る魅力がある様だ。
 ワシの魂をこうして呼べ、
 アシュラが転生したのもうなずける。
 守鶴、又旅、磯撫、孫悟空、穆王、犀犬、
 重明、牛鬼、九喇嘛。
 予言の子が世界を変える時が来たようだ。」

荘厳な雰囲気の中、
ナルトの方を見る六道仙人。

「ナルトよ。お前は何がしたい…。
 この戦いの果てに何を望む?
 お前の正直な考えを聞きたい。」

しばらく見とれていたナルトですが、
真摯な表情で答えます。

「確かにオレってば、
 そのアシュラって奴に似てっかもな…。
 ただそいつと違ってバカでガキで色ンな事
 よく分かんねーかもしんねーけど、
 "仲間"がどういうもんかは知ってんよ。
 オレはそれを守りてェ…それだけだ。」

六道仙人はナルトの中にしかと答えを見たようです。
そして同じくサスケにも接触していた六道仙人。

「それがお前の答えか…」

サスケも同じ答えを出したようです。
インドラの転生ながらも、
真実に辿り着いたようです。

「…かつて弟アシュラに全てを託し
 兄インドラに目を向けてやることができなかった。
 それが災いの元となった。
 利き腕を出せ。
 此度は兄インドラの転生者であるお前にもワシの力を…」

サスケの中に善を見出した六道仙人。
サスケは利き手として左手を掲げます。

「…託す事にした。
 そしてこれから先…ナルトとサスケ。
 お前達がどうするか…
 どうなるかはお前達次第だ。」

一方で右手を掲げるナルト。

「オレとサスケは本当の兄弟じゃねーけど、
 オレ達かなりの友達だから。」

ナルトの表情を見て、
六道仙人も微笑みます。
二人に六道の力が与えられます。

さて、ガイとマダラの決闘ですが、
マダラをやり込めるもいまいち決定打に欠く様子。
ガイは最終奥義《夜ガイ》を発動する覚悟をします。