588『影を背負う』

1.影を背負う(1)

「これで…転生の死人は全て消える。
 戦争も終わりの時が近づく。」

イザナミ》のつくりだしたループに陥ったカブトは、
イタチが煮るなり焼くなり好きにできる状況にあります。
穢土転生を終わらせることができる――
それは同時にイタチも消えてしまうことを意味します。

「なら…兄さん…アンタも…」

少し名残惜しそうにサスケが言います。

「…オレは、木ノ葉隠れうちはイタチとして…、
 もう一度忍里を守ることができる。
 もうこの世界に未練はない。」

もちろん、イタチとしてはこうした形であっても、
サスケの姿を少しでも見られたことは嬉しいことだったでしょう。
しかし、別れの刻は刻一刻と近づいていることは分かっています。
木ノ葉隠れを守るという形で、再び永遠の眠りにつくのも、
イタチにとって納得できる最期です。

「なぜだ!?
 兄さんにあんなことをさせた木ノ葉の為に、
 何でまた兄さんが!!
 兄さんが許せても、オレが木ノ葉を許せない!!
 この世に未練がないだと!!?
 オレをこんな風にさせたのは兄さんなんだぞ!!」

しかしサスケはそう簡単に納得できるはずがありません。
募らせてきた木ノ葉への憎しみ。
それを全て捨てられるほど、
サスケの想いや歩んできた道のりは決して容易くはないのです。
サスケも懸命だった――

「お前を変えられるのはもうオレじゃない。」

イタチもその事は重々理解しています。

「だからせめて…、
 この術を止めることがオレの今できること。
 ナルトに託したことをないがしろにしないためにもな。」

サスケのことは、ナルトに託してあります。
ナルトならばきっとサスケを正しい道へと戻してくれる――
想いに応えてくれるはずです。
一方でサスケはイタチの反応があまりにあっさりしていたためか、
"ナルト"という単語が唐突に表れたためか、
面食らったように戸惑います。

「(…穢土転生の術を止める印を教えろ…)」

イタチはカブトに月読をかけて、穢土転生を解除しようとします。

2.影を背負う(2)

マダラの分身たちと戦う五影たち。
結局、マダラの分身たちは須佐能乎を使っており、
分身体といえど非常に強敵です。

「強すぎる…。こんなのをどうやって…」

と立ち上がることができない水影・メイ。

「確かにこのままでは…」

須佐能乎の猛攻におされ吹き飛ばされた風影・我愛羅

「ウオオォー、オラァ!!」

相手の猛攻に負けず劣らず、
我武者羅に相手を薙ぎ倒す火影・綱手

「火影。戦い方が雑になってるぞ!
 死なぬとも、そんなやり方ではすぐにバテる!!」

攻防を繰り返しながらも、
冷静に戦況を見つめ、的確に味方にアドバイスする雷影・エー。

「命をかけて戦ってんだ。
 これ以上のやり方がないんだよ!」

目には目、歯には歯。
圧倒的な力には圧倒的な力で。
しかし力任せなやり方もすぐに限界が来ます。
不意打ちを受けて吹き飛ばされる綱手

「くそっ…。
 このワシが…写輪眼ごとき幻術に…!」

エーも不意打ちでつかまり、写輪眼による瞳術で幻術にかかります。

「解!!」

土影・オオノキがエーにかけられた幻術を解きます。

「すまん土影…。」

オオノキは、味方のピンチを敏感に察知。
戦況をこれ以上悪化させないために、
雷影・エーが幻術にかかったとみるや、
《須佐能乎》をまとったマダラの分身たちをかいくぐり
いち早く助け出します。

「オオノキめ…。
 戦闘経験値の差が出始めたな。
 スサノオを加重岩の術で止めて…、
 雷影まで助けたか…。」

その行動を戦闘経験に裏付けされた老練さと評価したマダラ。

「立て…影共!!
 生死を分ける時にもう弱音を吐くな!!」

オオノキの言葉にハッとする他の影たち。

「五影のはしくれなら、
 最後の言葉はその肩書きに恥じぬものにせい!!
 ワシらがナルトに預けた戦いがあるのじゃ!
 あいつに預けられたここでの戦いは絶対に勝つと誓ったんじゃぜ!
 それにもう一つ、
 ワシらは忍のモノ全員から預かったもんがある――
 五影を預かったことを無駄にするな!!

オオノキの言葉に奮い立つ一同。
「影」――それは単なる言葉ではありません。
その重責を果たせると見込まれたからこそ、
皆の中から選ばれし者。
その誇りと選んでくれた人々に懸けて、
決して負けることはできないのです。

「やはり問題はオオノキか…。
 (あやつの心を折るしかあるまい)」

精神的支柱となり、五影の中でも一番手強いと考えたマダラは、
オオノキに的を絞って分身たちを差し向けます。

「チャクラも残り少ない。
 これが最後だと思え!」

オオノキの元に集ったエー、綱手我愛羅、メイ。
オオノキは綱手に治癒、心身活性を施してもらいながら、
最大級の《塵遁・限界剥離の術》を放ちます。

「(スサノオを出していた分、
  塵遁の吸収が間に合わなかったな…)」

《須佐能乎》を解いてからでないと、
輪廻眼による《封術吸引》は繰り出せないのでしょう。
不意を突かれた形で間に合わなかったマダラは、
とにかく塵遁を回避する行動にでます。
そこへ塵遁の内側から水龍が口を開けて、
狙い澄ましたかの如くマダラを襲います。
メイの《水遁・水龍弾の術》です。

「オレには物理攻撃しか効かんと言ったハズだ。
 塵遁で分身を消しつつ陽動をしかけたつもりだろうが…」

回避できないしきれませんが、吸収してしまえばよいだけです。
《封術吸引》の態勢に入り輪廻眼となったマダラ――今度こそ間に合います。
ところが何か妙であることに気づきます。
腕にまとわりついた砂――
水龍には砂が混ぜられていたのです。

「砂だけではない!」

我愛羅の砂の術は《封術吸引》をスムーズにはさせません。

「砂がイヤなら術の吸収を止めればいいのよ。
 ま…、そしたら雷水龍弾でしびれちゃって動けないけど♡」

水龍弾にはエーの雷遁も加わっています。

「そのスキにワシが塵遁をかます
 そうなれば封印する時間は充分じゃぜ!」

水龍の牙を嫌がれば砂に、
砂を振り払えば水龍の牙にかかる。
そしてとどめは塵遁。
一度捕えられれば、マダラに逃れる術はなかったのです。

「見たか!
 これが五影の全力じゃぜ!!」

五影たちの見事な連携に、
その実力をさすがのマダラも認めざるを得ない様子です。

「(なるほど…。さすがは仮にも影の名を背負う忍達だ…。)
 ならば、うちはマダラも、全力でも応えよう。
 五影も何も全てが無駄になるということを…。
 この完成体須佐能乎でな!」

しかしマダラもこのまま素直にやられてはくれません。
《須佐能乎》を最大級に発揮し、
砂に込められた封印術を破壊、
五影の前に聳<そび>え立つようにして構えます。