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1.石の意志(1)
うちはマダラという史上最強の亡霊と戦う五影たち。
マダラの放つ《木遁・花樹海降誕》により追い詰められます。
「アレは…おじい様の…!」
樹海降誕――初代火影であり綱手の祖父である千手柱間の秘術です。
その完成度の高さはもはや祖父のものと引けを取らず、
なんと花まで咲かせてしまうほどなのです。
「近づいて来る! …どうします!?」
負傷し、綱手から応急手当てを施してもらっているメイ。
非常に高速で迫りくる木々の根に対して、
我愛羅が砂の術を使ってなんとか皆を切り抜けさせようとします。
「(樹海降誕ではなく花樹海まで…。
カブトめ…!)」
マダラに初代火影の秘術中の秘術まで駆使させるカブト。
「(初代火影千手柱間ほどの忍はもういない……。人は皆そう言う。
その強さを聞いた者は六道仙人と同じくおとぎ話だとね…。
今こそ…そのおとぎ話を現実に…!)」
カブトのおどろおどろしい考えは、
穢土転生で甦ったマダラによって実現されていきます。
岩肌が露出する荒野をまったく意に介さないかのように、
巨大な根が這い回り、そして巨大な花が咲き乱れます。
「なんて…規模なの…。…一瞬で森を作るなんて!」
眼前に広がる光景に目を丸くするメイ。
我愛羅がつくった砂の雲に乗って我愛羅、綱手、メイは難を逃れました。
一方でオオノキは《軽重岩の術》の類をエーにかけ、浮遊する彼の肩にのり難を逃れました。
「皆、花粉に気を付けろ! 吸い込むな!」
綱手は花粉に気を付けるように皆に注意を促します。
厄介な事に花樹海の花の花粉は毒性を秘めている模様。
「待てコノヤロー!!」
カブトを追いかける忍連合の忍たち。
「花に気を取られ過ぎだ…」
しかし樹海から須佐能乎をまとったマダラが彼らの行く手を塞ぎます。
そして《火遁・豪火滅失》により辺りを火の海へと化したのです。
その規模は凄まじく、まるで山火事のような自然火災を相手にしているかの様。
たとえ五影といえども、命からがらといった様子です。
メイが水遁を放とうとするも、チャクラ切れか、または煙と花粉にやられたのか、
意識が徐々に混濁していき皆地面へと倒れます。
2.石の意志(2)
「やはり歳か…。ワシにはもう…。」
薄れゆく意識の中、昔のことが走馬灯のようにオオノキによみがえってきました。
「ホラ、左が汚れちょる!
貴重な岩隠れの石だぞ!
もっと几帳面に磨かんかい!
強いストロークを基調に!!」
少年時代のオオノキをたしなめる老齢の人物。
身長も低く、二代目土影とされるムーではないと思われます。
初代土影でしょう。
「(このダジャレがキツイ…)」
少年オオノキは里のシンボルと思われる燭台のような小さい塔に飾られる石を、
一生懸命磨きながらも、ダジャレを並べ口うるさい初代土影に閉口気味です。
「里の象徴だか何だか知んねーけど…。
どー見てもただの石コロだろこんなもん…!
木ノ葉みてーも顔岩でも造りゃあサマになんのに…。
うちの土影様は安上がりな…」
しかしオオノキはとうとう耐え切れず、文句をぶつぶつと漏らし始めます。
「オオノキ…。ワシはな石を見ればその石にどんな価値があるか分かる。
この石はな…我ら忍里の堅い意志の象徴!」
と初代土影は言います。
「象徴までダジャレにしてこじつけて、
ケチってんなよ…。」
まだダジャレを言うのかと、オオノキは呆れたといった様子で土影を見ます。
「が…、確かにこんなものはただの石じゃ!」
と突如オオノキが磨いていた石を池に放り投げてしまった土影。
「え〜〜〜!?
なんてことすんだ、くそじじい!!
どれだか分かんねーぞ!」
当然、憤慨するオオノキ。
「ホレ…こんなものはこうして新しいのを乗っけても分かりはせん。」
それどころか土影は手近な石を、
先ほどまで磨いていた石の座に代わりとして乗っけてしまいます。
理解できないといった表情を浮かべるオオノキに、
土影はこう諭すのです。
「肝心なのは己の中の意志じゃ。」
シンボルに飾られていた石は不思議な力を秘めているといった類の霊瑞でもなんでもないのです。
そう。それは岩隠れの里の一人一人が持つ意志を表現するもの。
「ワシはな…、人の意志を見ればその意志がどんな価値があるかも分かる…。
オオノキ…。お前の意志は世界をも変えうる力を秘めておる。
…じゃが気をつけなくては、せっかくのその意志も無くなることがある…。
壁じゃ! 壁に当たるうちそれを捨て…、言い訳し、
かわりに憎しみを拾うことになりかねん。
いいか。お前の意志…捨てずにステップアップじゃ!!」
"捨てる"、"拾う"――
オオノキが"己を捨てた"という我愛羅の言葉に対して、敏感に反応しました。
そして老い先短い自身の"己を拾う"場所をこの戦場に選んだのです。
これは初代土影に幼い頃、言ってもらった言葉に影響され繋がっていたのでした。
ところが青年となってマダラと対峙したオオノキは、
その絶対的な力に屈服させられ、己の意志を手放してしまったのです。
「…まだ踊りたいようだが…、お前のは踏み込みがなってない。」
マダラは余裕の表情を浮かべます。
対してオオノキは息を切らし地べたをなめながらも、目の前にある石を掴み取り、
初代土影に言われたように己の意志を絶対に捨てないとばかりに、マダラを睨みました。
でも…敵わない絶対的な力の前に、掴んだ石を手放さざるを得なかったのです。
その日からオオノキは憎しみを拾ってきました。
でも、それは初代土影が池に放り投げたように"石"に過ぎなかったのです。
本当の"意志"は捨てたと思い込んでいた池に眠っていただけ。
たとえそれが池の中にあっても、探し出し再び自分のものにすることができたオオノキは
あの屈辱の時と違って、今度こそはその力に立ち向かうことができる――
「なにが…"やはり歳か…"じゃ…。
言い訳して…いいわけあるか! じゃぜ。」
初代土影の言葉を思い起こし、
今にも倒れてしまいそうな体を奮い起こして、
オオノキは《塵遁・限界剥離の術》を樹海に放ちます。
辺りに充満としていた煙や花粉は、
鬱蒼と囲い込む樹海が切り開かれることで空気の通り道ができ、
他の影たちも何とか起き上がることができました。
「よく踊る……。だが踏み込みがまだ浅い。」
昔、オオノキに言った言葉を覚えているのか、
マダラは皮肉めいたように、そう口にします。
そのマダラの姿を見た綱手は驚愕します。
胸の辺りには柱間の顔が見えます。
「まさかとは思ったが…、だから木遁まで…。」
ようやく事の真相が呑み込めたといった綱手。
「(クク…。大蛇丸様が作ったダンゾウの試作とはわけが違うよ。
マダラより強かった初代火影…。
そしてこの二人を融合したコレはボクの切り札!!
この穢土転生は誰も止められない…!!)」
カブトはほくそ笑みます。
戦場へと森の中を駆け抜けるサスケ。
その眼にはあるはずのない姿が映ります。
死を超えて、再び会い見えることになるのでしょうか――