591『リスク』

1.リスク(1)

イタチを包む光の柱。
やがて、イタチもその光の柱と同化していくように、
塵芥が引きはがれていきます。
そして最愛の弟に笑顔を残すと、
紙吹雪となって、イタチの気配は完全になくなるのです。
残された穢土転生の媒体。
イザナミの中に閉じ込められたまま動かないカブト。
しばらく立ち尽くすサスケ。
時が止まってしまったかのように、静寂な時間が過ぎていきます。

「オレは…」

何か言おうと開きかけた口。
しかしサスケは何も言葉を続けられませんでした。

「あの光は?
 …いったい何なんです?」

マダラを包み込む光の柱。
メイの言葉がその不思議な光景を端的に表しています。

「須佐能乎が消えさらに穢土転生の塵あくたが激しく舞っておる。
 これは間違いなく…」

オオノキは起こっている事態を把握したようです。

「穢土転生が解放されたということだな。」

オオノキの言葉を続けるように、
マダラが呟きます。

「カブトはまだ捜索中のはず。…早すぎる。
 発見しただけならともかくこの術まで止めるとは…
 いったい誰が…」

穢土転生を止めるべく術者であるカブトを捜索する手は打ちました。
しかし、予想外に早い結果に綱手も訝しかるような捉え方です。

「誰でもよい…。
 誰であろうと忍世界を守った英雄じゃ!
 天はまだワシらを見放してはおらんようじゃぜ!」

素直に状況が好転したことを喜ぶオオノキ。

「お前の側にもやれる忍がいたようだな。
 ………仕方ない…。」

一転して逆境に立たされたマダラです。

2.リスク(2)

「結界を解いてくれ、チョーザ…。
 もう大丈夫だ。」

ダンを結界の中に封じ込めていたチョウザ。
穢土転生が解かれたことを感じたダンは、
その必要がないことをチョウザに伝えます。
チョウザも頷いて、

「皆、結界はもう必要ない!」

結界を解かせます。

「その印…。霊化の術ですね…。
 分かってます…。
 早く綱手姫の所へ行ってあげて下さい!」

何やら印を結ぶダンを見て、
チョウザは何を為そうとしているか悟った様子。

「…多くの忍を殺めてきたこの術が…
 まさかこんな風に役立つとは思いもしなかったよ。」

ダンの《霊化の術》。
穢土転生によって、術者の意志で縛り付けられていた魂も、
いまはダンの意志のまま操ることができます。

「思った通りだ。
 穢土転生解放後の昇天する魂も、
 この霊化の術ならコントロールできそうだ。」

穢土転生の術が完全に解放されるまであまり時間はないでしょう。
《霊化の術》――、チョウザはその術の特性を術を知らぬ若者に話します。

「生き霊となって距離を越えて相手にとりつき殺す術だ…
 本来はな…」

本来は暗殺に用いられるという《霊化の術》。
霊体(幽体)が取り憑くことで相手を操ったり、様々な影響を及ぼせるのでしょう。
しかし術は使いよう、ということです。

「じゃあな。チョーザ…。
 色々ありがとう。」

何かを伝えるために、ダンはチョウザに一礼し、綱手のもとに急ぎます。

「消える前に一発喰らわせようという腹じゃ!
 気をつけい!!」

場面は再び影達とマダラの戦いに移ります。
穢土転生が解放され徐々に力を失っているはずのマダラですが、
その翳りを見せることなく、猛攻の手を緩めません。
《火遁・龍炎放歌の術》――
メイも対抗して《水遁・水龍弾》を放とうとしますが、
水影ですら反応が間に合わない驚異的な速度で火竜が襲い来る術です。
綱手は火傷覚悟で火竜たちを打ち払います。
そして《百豪の術》による再生――
しかし乱用によってチャクラは思った以上に減っており、傷を癒しきれません。
マダラから魂が抜けていく様を見た綱手は、
勝利を確信し気が緩んだのか、意識が遠退いていきます。
一方マダラは流石で、これしきでは何事もないかのようです。
幽体として離れていく魂の方にチャクラを集中し、
再び塵芥を引き寄せると、
部分的な《須佐能乎》で綱手に止めを刺そうとします。

「しまっ…」

絶対絶命の綱手
他の影たちが一目散に綱手を助け出そうと動きますが、
わずかばかりマダラの攻撃が届くのが早い――
その時です。

「(私はもう動けなかった。どうして!?)」

完全に意識を失っていたはずの綱手
何か不思議な力が包み込み、寸での所で回避させます。

「(久しぶりだな…。オレだ綱手。ダンだ。)」

頭の中に響くどこか懐かしく温かい声。
そして綱手にその姿がはっきり見えてくるのです。

「………」

微笑みかける最愛の人を前に、
一瞬言葉を失う綱手

「ダン…! 何でここに!?」

目を丸くする綱手

「穢土転生が解かれたんだ…。
 で、霊化の術で飛んで来た。
 しかし、今のは危なかったよ!」

とダン。

「………。…ダン。」

再び言葉を失う綱手に、ダンは微笑みます。

「変わらないね……。綱手…。」

そう優しく言葉をかけます。

「ダン…。私は…ずっとアナタの」

思いがけない形でダンと再会を果たした綱手
ずっと逢いたかった存在。
伝えたいことは山ほどあります。
でも何から伝えたらいいのか、言葉に詰まってしまいます。

「時間がない…。
 感傷に浸っているヒマはないんだ。
 もう行かなくちゃいけない。」

残された時間は少ない。
本当はもっと傍に居たい気持ちはダンも同じです。

「ダン! 私はアナタが死んでから、
 ずっとアナタの想いから逃げてた。
 でも変わった!
 そして今ならアナタの無念を、やりたかった想いを確かめられる!
 私は火影になった! でも…」

里や大事な仲間を守るため火影になりたかったというダンの想い。
その想いを継いで、火影となった綱手
でもいま、かつての恋人を前にして、
本当に火影としての器であるかどうか、
ダンの想いを成し遂げられているかどうか、
いつもの自信がなくなったように振る舞う綱手

「ありがとう綱手…。
 君はオレのやりたかったことを充分成し遂げてくれているよ。」

ダンは綱手に力強く微笑みかけます。

「君には辛い思いばかりさせてしまったね…。ごめん…。
 向こうで待ってる。でも当分は来ないでくれよ。
 君はボクの夢そのものだから…。」

そして綱手の顔を確かめるようにそっと手を添え、
額に口づけするのです。

「最後に君を守ったんだ…。
 穢土転生されたかいも少しはあったかな…。」

そう言って、満足げに消えていくダン。
伝えたい想いは伝えられました。
そして綱手を後押しするように、
その想いは綱手の力となります。

「生気が戻ったな…。
 チャクラをもらったか?」

額の印が再び戻った綱手を見て、
マダラが言います。

「ちょっと昔の知り合いに会ってな…」

綱手。ダンのチャクラが《霊化の術》を通じていくばくか渡されたようです。

「離れかけてたマダラのチャクラがしっかりと体にへばりついてる…。」

マダラの魂が塵芥をしっかりと引きつけていることに疑問をもつメイ。

「なぜだ!? なぜ消えない!?
 …穢土転生は解除されたハズだ!」

エーも同じ思いです。
穢土転生が解除されたにも関わらず、
マダラは一向に消える気配がありません。
それどころか、先ほどまであがっていた光の柱も消えています。

「この術にはただ一つリスクが存在する。
 それは印さえ知っていれば穢土から呼んだ死人側から、
 穢土転生の口寄せ契約そのものを解除できるということだ。

 そうなってしまえばこれほど厄介なことはない。
 死なぬ体…無限のチャクラ…。それが制御不能で動き出す。」

とマダラ。
まさか穢土転生された魂をとどめておける術があるなど、
全くもって、これほど恐ろしいことはありません。

「術者に言っておけ。
 禁術を不用意に使うべきではないとな。」

穢土転生の契約の解除――
もちろんマダラはその方法、結ぶ印を知っているのでしょう。
術が切れる前にこの方法を使わなかったのは、
術が切れるまでは術者との契約を有効にしておいた方が
おそらくマダラにメリットがあったからだと思われますが、
術者が穢土転生を解いてから魂が消えるまで
のタイミングでは、術者との契約が有効だと、
消滅――"穢土より浄土へ還る"という選択肢しかありません。
だからこそ、こんな飛びぬけた裏技を今使ってくるのです。