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大震災のあの日から1年が経ちました。
長いようで短かった1年。
被災者の多くの方々が深い悲しみを抱きながらも、
1年前のあの日を忘れず、前が見えない中を歩み続けてきたと思われます。
仲間。今まで話したこともない人々がよりそって力を合わせること。
復興。強い思いや意志、心を持ち続けること。
そんな言葉だけで片付けられるほど生易しくはありません。
孤独。大事な人を失って独りになってしまった悲しみ。
絶望。生きる希望を失い前を歩むのを止めてしまったこと。
心の傷は簡単には塞げません。
絆。私たちができることがあるとすれば、
私たちにできることをできる限りしていくことしかないのでしょうか。
そうやって"少し"がより合わさって、被災者の方々のためになればと厚かましくも願っております。
1.憎しみの刃(1)
「柱間が死んで残したその意志とやらで、オレに勝てると?
力とは意志ではなく、物質の起こす事象のことだ。」
と語るマダラ。確かに物理学的見地から"力"とは次の式に表されるように、
物質の起こす事象、すなわち物体の運動量の変化率を表します。
<力、運動量、時間、質量、加速度 >
しかし、綱手が言わんとする"力"とは、このことだけではありません。
「違う! 死者の意志が残された者を突き動かし、力を現す!
私の作った医療忍術もその意志の中から生まれ、
…医療忍者と掟が構築された!」
意志による力の増大――。
この場合意志とはすなわち躍度に相当します。
"躍度"とは以下に示すように、加速度の時間変化、すなわち力の変化率を表すものです。
<力、躍度、時間、質量、加速度 >
つまり綱手が言いたいのは"力"の意志による変化――
時を経るごとに意志によって研鑽され続けた"力"――
です。さて小難しい理屈はともかく、
遺志は意志となり、連綿とした人のつながりのなかで飛躍的な力を与えて、
人を成長させていくということだと言えます。
「第一項、医療忍者は決して隊員の命尽きるまで治療を諦めてはならない!
第二項、医療忍者は決して最前線に立ってはならない!
第三項、医療忍者は決して小隊の中で最後まで死んではならない!」
綱手は医療忍者の心得を言い始めます。
小隊として互いを補い、互いの力を頼って任務を切り抜ける忍にあって、
医療忍者の役割は当然隊員たちの回復やサポートに徹すべき存在。
自衛できる力を持っていても、その力を以て自ら先陣を切って進むべき存在ではありません。
「弟子たちに教えたのはここまでだ。
だが掟はもう一つある!
第四項、忍法創造再生百豪の術を極めし医療忍者のみ上記の掟を破棄できる!」
《忍法・創造再生》またの名を《百豪<びゃくごう>の術》。
忍術について博識であろうマダラも聞いたことのない術。
「私だけの禁術…。
つまり私だけは戦えるってことだ!」
細胞活性状態で戦闘中に驚異的な力や回復を得られる綱手の禁術です。
「…花粉は塵遁で消し飛んだが…、医療忍者が一人増えたところで…」
綱手は医療忍者ゆえ、積極的に戦闘に参加していなかったのでしょう。
しかし、今回ばかりは陰封印にて蓄積してきたチャクラを解放し、
全力で戦闘に加わります。
「四人でダメなら五人でいく!
私をただの医療忍者だと思うなよ!」
マダラへ突進していく綱手。
「(スピードは雷影以下…。
パワーは雷影以上か…。)」
素早く綱手の力量を分析し、構えをとるマダラ。
そして《火遁・豪火滅失》で逃げ場のないほど炎の壁を放ちます。
その強力な炎の壁をこれまた強力な水の術で消火するメイ。
《水遁・水陣柱》で炎の壁を相殺した後、
《水遁・水龍弾》でマダラをとらえにかかります。
水龍が咢<あぎと>を閉じる前に、辛くもマダラは中空をさらに逃げ切りました。
しかしはさみうちするように後ろから質量を重くした雷影の《雷虐水平千代舞》が入り、
無敵かと思われたマダラの須佐能乎の鎧にもさすがに罅<ひび>が入ります。
そこへフルパワーの綱手の蹴り。
生半可な攻撃ではびくともしないはずの須佐能乎に包まれたマダラですが、
須佐能乎を破壊され、地面に勢いよく叩きつけられます。
「確かに…。か弱い女ではないな。」
と綱手の力を再認識するように瓦礫を押し分け出てきたマダラは言います。
「だが、お前が出しゃばり死ねば、他の影たちも終りだぞ。
回復役は貴様だけのようだしな。」
とマダラ。
「それは私が死ねばの話だ。」
と綱手は言い返します。
「柱間…お前が何を残したかは知らんが…、
…この程度…お前には遠く及ばん。
どうせ下っ端に引き継がせるなら、
オレのように復活のやり方でも教えておくべきだったな。」
とマダラは胸にある柱間の一部に語りかけるように呟きます。
ところで、これは何気に気になる一言です。
つまりマダラは復活の仕方を何者かに教えたということでしょう。
それがもし大蛇丸だったとしたら、随分と筋が通るところです。
自分の精神を他者の肉体に入れ替えるという《不屍転生の術》や、
生きた人間を器として死者の魂を宿らせ、塵芥が生前の姿を形成する《穢土転生の術》も、
マダラによるところだったとすれば――、
トビという存在や大蛇丸がどうやって不死にたどり着いたかなど、
様々な点が線でつながっていくと考えられます。
「お前が死んで残ったものは、
オレにへばりつく細胞の生命力でしかない。
弟が死んで残ったものはオレの両眼の瞳力しかない。」
そして、どうやらマダラの弟・イズナはすでに亡き者となっているよう。
この言動は協力者と目されるトビがイズナではないことを示唆しています。
と同時に弟イズナを失ったという悲しみや、それによって引き起こされる憎しみが、
マダラの心を焚き付けていることが窺い知れます。
「だから違うと言っている!!」
ただ単に"物"として残っていくと言うマダラ。
それを綱手は強く否定します。
「引き継がれるものがあるとすれば…、憎しみだけだ。」
綱手の言葉をすべて否定せず、一部を認めるように言葉を続けるマダラ。
あるとすれば"憎しみ"だと。
2.憎しみの刃(2)
「何!? あのマダラが穢土転生されたのか!?」
とチョウザが見守る結界の中でダンは現在の状況を知ります。
「本物のマダラが出て来た以上、
五影も悠長に構えてはいられなくなりました。
火影として綱手さまも応戦に出られてます!」
とチョウザ。
「綱手が火影…!?
あいつ…火影になったのか!?」
そこで初めて綱手が火影であることを知ったダンは驚きます。
「話してませんでしたっけ?
まあ綱手様もあなたが亡くなられてから色々ありましたが…、
結局アナタを慕っていましたから…。」
火影となったという綱手に想いを馳せるダン。
あの悲劇的な別れのあと、どんなに綱手に深い悲しみを与えただろうと考えると、
複雑でやり切れない気持ちでいっぱいだと思われます。
「綱手様が負ける訳はありませんよ!
だからこそ、三忍の中で唯一あの歳まで生きてらっしゃる!」
チョウザは続けます。
一方、マダラと影たちとの戦闘はさらに激しさを増しています。
なんとか綱手の一撃必殺級の強烈な拳打がマダラに入ります。
「(お前は死んでる…。
だからこそそれ以上、憎しみをばらまかないでくれ…。)」
決定的な一撃のあと、我愛羅がピラミッド状に砂を固めて、
マダラを封縛することに成功します。
しかし喜んだのもつかの間。
非情にも須佐能乎の剣が綱手を貫きます。
「柱間が使っていた木遁分身だ。
よくできていてな…。
…かつて敵としてこれを見抜けたのはオレだけだった…。
この瞳力でな…。
さて…これで他の影も終りだな…。」
言わぬことではないと、力の差を淡々と見せつけるマダラ。
場面戻ってチョウザとダン。
「マダラをなめたらダメだ!
マダラを止めるには大本に居る穢土転生の術者を止めるしかない!」
何か悪い予感でも過ったかのように、チョウザに忠告します。
「…マダラ…そこまでの忍なのですか?
こちらは五影で相手をしているというのに…。」
と悠長に構えるチョウザに対して、
綱手がマダラの相手をしているということもあってか、
ダンに余裕はまったく見当りません。
「おそらくマダラと戦って勝てる忍は……、
今は亡き初代火影様をおいて外に無い。
オレの見張り役と結界役以外はすぐに、
穢土転生の術者探索に回した方がいい!」
見張り役をおいて、それ以外は穢土転生の術者を探知するようにダンは忠告します。
マダラを斃すためには、根源を断つより他にない。
本部にそう言って対応をとるようにとチョウザに迫ります。
そしてただただ綱手の無事を祈るのです。
イタチを執拗に追いかけるサスケ。
「…お前はここに居ろ。」
そう言ってイタチは口寄せで烏を召喚。
不意を衝く攻撃でサスケから距離を引き離します。
そして辿り着いた先は穢土転生を操るカブトの根城。
分厚い壁を須佐能乎で破って、
探知から逃れていたカブトを追い詰めたかに見えます。
「ボクの結界を通り抜け…、
よくここが分かったね。」
とカブト。
「お前に操られている間…、
お前のチャクラがどこから来ているかはハッキリ感じていた。
これも…術のリスクだ…。
覚えておく必要はもうないがな。」
とイタチ。
「…勉強になったよ…。
この術を撥ね退けるような奴はまずいないから、
そういう心配はしていなかったからね。」
しかしカブトは余裕の体を崩しません。
「ああ…。代わりに覚えておいてほしいことがあるんだ。
この穢土転生の術はボクを殺しても止まらない…。
けど、この術を止められるのはボクしかいない。
つまり…君はボクを殺せないのさ…。
ボクが死ねば二度とこの術は止めることができなくなる。」
穢土転生の止め方――
トビにそれを教えるのをためらったのも頷けます。
カブトとしては大きな切り札の一つなのです。
「ククク…アハハハ!!
運が回ってきたところじゃないみたいだね。
このボクは!」
そして、イタチの後を追ってサスケが姿を現します。
サスケを狙っていたカブトとしては、願ってもない好機です。
トビの監視の目もありません。
「…思うようにはいかないものだ。まったく…。」
そう言って目を瞑るイタチ。
しかし策が全くないとも思えない表情です。
カブトから情報を聞き出すしかないとあれば、
あのうってつけの瞳術しかないでしょう。
月読――また見られるのでしょうか。