601『オビトとマダラ』

1.オビトとマダラ(1)

「こ…こいつは…マダラだ…!!」

力を誇示するようにして突如現れた人物、
その人物をナルトは影分身による情報共有で知っています。

「穢土転生の術に逆らうとは、
 実にアンタらしいな。」

とオビト。
そう言ってマダラを見やります。
敬語等はありません。
言葉端からオビトはマダラと対等か、
それに近い立場から話しているように思えます。

「……そんなことより」

マダラが何かを喋りかけたところで、

「何で…!!?
 何であっちのマダラがこっちに居んだよ!!?」

とナルト。
五影はその名にかけて、本物のうちはマダラを抑えることを、
そして仮面の男(オビト)をナルトが倒すように託しました。
その託された想いをナルトは心にしかと受け止めているからこそ、
うちはマダラがこちらに現れたということが何を意味するか、
その憤りや驚きを隠せない表情で叫びます。

「こいつも影分身だな…。
 本物はどこだ? オビト。」

そんなナルトを意に介さないかのように、
淡々と状況を分析するマダラ。

「おい! ナルト!
 だとしたら…」

八尾も事態を察知します。

「向こうの皆はどうした!!?」

不安と焦燥感がナルトの感情を焚き付けます。

「あそこか…」

非常に冷静なマダラ。
焦らすように間をとって言葉を続けます。

「どうしたかって聞いてんだ!!?」

ナルトは居ても立ってもいられないという形で、
九尾の衣を全開にします。

「さあな…。おそらく…無事ではあるまいな。」

まるで大した事もなかったかのように、
マダラは言ってのけるのです。

ーー場面はマダラが去った後の五影たちに移ります。
岩壁にもたれ座り込むようにしてぐったりとする雷影・エー、
俯せに倒れたまま動かない水影・メイ、
空を仰ぎみるように苦悶の表情を浮かべる土影・オオノキ、
地面をつかむ手が虚しい風影・我愛羅
大木の下敷きとなって動けない火影・綱手

「うっ…」

その中で綱手だけはなんとか意識があるようです。
無い力を振り絞ってなんとか印を結び、
カツユを口寄せします。
カツユは綱手の容態に驚きます。
綱手の下から半身が離れた場所にあるのです。

「…カツユ…頼みが…ある。」

綱手は絞り出すような声で言います。
頷くカツユ。すぐにでも、半身をつなげる治療を施そうとします。
しかし綱手は別の頼みがあるようです。

「違う…。私の半身は後で…いい…。
 それより…、私の…所へ、影たちを。
 私なら…まだ…救える…。」

綱手
自分の治療を後に回してでもーーということはすなわち、
治癒能力のない他の影たちの生命が
瀕死の状態に晒されているのを綱手が理解しているということです。
それは逆に自分の残された全生命を、他の影たちの治療に費やすーー
ということになってしまうはずですが。

2.オビトとマダラ(2)

再び場面はナルトたちへと移ります。
尾獣を封じ込めるための杭と鎖。
オビトがその封印を強める前に、
ナルトがそれを打ち破って、
逆にオビトの方へ跳ね返します。

「そいつは返す。
 アンタのものだ。」

オビトは手にしていた大きな扇をマダラに返します。

「フン…!」

そう言って、扇を受け取ったマダラは、
《須佐能乎》を展開し、撥ね付けられた杭を防ぎます。

「やっと動ける!
 サンキューだ、ナルト!
 さあ今度はオレの番だぜ!!」

八尾とビーは動きを取り戻します。

「オビト。八尾も九尾も入れこむ前に…、
 …中途半端に計画を始めたのか…。」

外道魔像の様子を見てマダラがもらします。

「(計画を知ってる…こいつらの関係は…)」

オビトの計画を知っているらしいマダラ。
協力的である二人の関係。
二人がいまこの場で初めて顔を合わせた訳ではないことは理解できます。
しかしカカシやガイと同世代の人物であるオビトと
方や初代火影の世代の人物であるマダラ。
しかも終末の谷で死んだと思われてた人物です。
その二人がどうして互いのことを知っているのか、
傍目から不思議に見える関係性に着目し、
いまのオビトを理解するヒントを得ようと試みるカカシ。

「焦ったな…オビト。
 オレをこんな形で復活させたのもそのせいか?」

話を続けるマダラ。
それに対してオビトは黙ったままです。
穢土転生の術者であるカブトのことは、
二代目土影・無を通じてマダラにも伝わっていますが、
なぜ《穢土転生》によって復活したのかーー
それがただ純粋にカブトの虚栄の意思によるものだったことと、
オビトが《穢土転生》を解除する方法を知りながらも、
その事態を放置していたことはマダラの与り知らぬところです。
さてこの沈黙の描写以外に、もう一つ。
オビトの右腕が印も結ばずに消えていく描写があります。
顔の右側、大きな皺が残るほどの傷は癒えないままなのに、
右腕の傷が消えていくというのは、どういうことでしょうか?
まるで《穢土転生》によって召還された人物の傷が
塵芥が覆い癒えるが如く、治癒されていく様は、
オビトの右半身が部分的に《穢土転生》されているのか、
もしくは何か別の術がかけられ、
元々のオビト自身の体ではないかのようです。

「…まぁお前のことだ…。
 何か考えがあるんだろうが…。
 今まで何をやっていた…。
 長門はどうした?
 時を見計らい、輪廻天生の術でオレは蘇る…
 そういう手筈だったハズだ。」

とマダラ。
560話『うちはマダラ』における記事*1にも書きましたが、
マダラの協力者であるオビト(仮面の男)は、
マダラの信頼を得ており、それなりの実力を兼ね備えた人物であるといえます。
長門のことも知っている様子です。
後に述べますがこれはある"状況"を意味しています。

長門を…利用しようとしてたのか!」

ただ純粋に平和を願っていた長門
その想いを利用しようとしていたようにナルトには映ります。

「奴は…裏切った。
 その術で里の者共を…」

《外道・輪廻天生の術》ーー
それはうちはマダラを復活させるための術だったのですが、
長門はナルトに平和への想いを託し、
その代わりに里の人々を蘇らせたのでした。

「どいつもこいつも…。
 まあいい…。
 今からでも遅くはない。
 …八尾と九尾はオレが捕る。」

マダラは里に迎合していく一族に背かれ裏切られた過去があります。
それゆえに、「どいつもこいつも」と、
このような言い方になったのでしょう。

「死んでた奴がひっかき回すな!!」

影たちの事に加え、長門のことも重なって、
堪忍袋の緒が弾き飛んだナルト。
山一つを抉り飛ばす尾獣玉をさらに圧縮して携え、
なりふり構わず突っ込みます。
対して大団扇でナルトの攻撃を止めるだけのマダラ。
一瞬、何も起こりませんが、少しのタイムラグがあって、
尾獣玉の凄まじい破棄力と衝撃がナルトにそのまま跳ね返ります。
マダラの《うちは返し》です。

「オレが八尾と九尾をやる…。
 オビト。お前はこいつらをやれ。」

追い討ちをかけるようにナルトを追っていくマダラ。
去り際にオビトがカカシたちを片付けるように言っていきます。

「オビト…。
 お前に何があったんだ…?
 どうしてあんな奴と…。」

とカカシ。
その問いにオビトは黙したままですが、
少しだけ過去を頭に過らせます。

「(オレは死んだ…のか?)
 ……ここ…は……?」

岩の下敷きになっていたはずの自分。
目を開けてみると、何者かがこちらを見ています。
右半身には痛々しいほどの縫合。そして寝台にいる自分。

「あの世との狭間だ…。
 …うちはの者よ…。」

白髪のその老人には写輪眼がーー。
うちはマダラでしょう。
つまりこの時までマダラは生きていたということになります。
そして彼がなぜオビトを助けたのかーー
徐々に明かされていくと思われます。

*1: