574『闇を見る眼』

1.闇を見る眼(1)

「やっぱカッケ〜〜〜!!
 …でもよくもウチを殺そうとしやがったな!! コノ〜〜〜
 〜〜ヤロ〜〜〜!! やっぱいい〜〜〜
 イヤッ!!! このやろーはウチを…許してなるものかァ〜〜〜」

サスケのブロマイドを見つめて恍惚に浸ってみたかと思えば、
突如踏みつけようとしてみたり、また恍惚に浸ったり。
その香燐の病的な気性の激しさに、牢番の忍も哀れな目を向けます。

「あいつ…さっきから何やってんだ?」
「お手製のブロマイドだと…。
 一人でずっとアレに語りかけてる…。
 かわいそうに…。相当な目にあったんだ…きっと……。」
「ああ…あのサスケのブロマイドか…。
 …アレを没収しねーといけねーんじゃないのか?」
「そうしようとしたら、暴れた、暴れた!
 ああやってる方がおとなしくしてるし…」
「なら…オレ達もおとなしく札ゲームでもやるか…。」

木ノ葉に囚われの身となった香燐ですが、
見張りの牢番たちがいなくなった隙をぬって、
何やら画策しているようです。
メガネのフレームの片方は外れるようになっており、小さい鋸が出てきました。
それを使ってサスケのブロマイドの写真をめくると、
写真の下にはいろいろな盗賊道具がおさまっています。
脱獄を試みようとしているのでしょうか。

「戦争に巻き込まれる前に、
 さっさとサスケを探した方がいいね!」

一方、水月と重吾。
水月は小鳥の知らせを受け取った重吾の言葉を待たずして、
現在どのような事態に陥っているか推測します。
降りしきる雨。足早に蛇の頭を模したような洞窟の中に入る二人。
そこは大蛇丸のアジトの一つでした。

「このアジトにサスケが居てくれるといいんだけどね。」

そう語りかけた水月は、
何やら苦しそうにしている重吾の表情に気がつきます。

「(もしかしてまた暴走じゃないよね?)」

重吾の呪印による暴走を心配しつつも、

「(…サスケに香燐に重吾…蛇だか鷹だか知らないけど…、
  まったく…、ボク以外ろくでもない奴ばっかだよ。)」

と身の上を嘆きます。

「お前について一つ気になってたことがあるんだが?」

と重吾。

「あっそ! オレは常に君を気にしてるよ…。
 ビクビクしながらね。」

水月は重吾に返します。

「オレは君麻呂との約束だからだが…
 お前は何でわざわざサスケと香燐の邪魔をしたいだけで、
 "鷹"に居る?」

君麻呂との約束を律儀に果たすため――
とはいえもっともらしい目的を持っている重吾に対して、
忍刀集めなどサスケや香燐とは関係ない目的を持っているのに、
なお"鷹"に身を寄せる水月に重吾は当然のごとく疑問を持ちます。

「ククッ! くっつきそうなあいつらの間を、
 ぶった切るのがたまんなくてさァ…!
 なんかこう…全てのものをぶった切って、
 二つにしたい衝動にかられるんだよね…ボクって!!」

おぞましい薄笑いを浮かべながらそう話す水月に、

「…お前……ろくでもない奴だな…。」

と呆れたように重吾は言います。
先ほどまで"ろくでもない"と思っていたのは
こっちの方だと言わんばかりに、水月は鼻を鳴らすと、

「フン…。これに関しては、
 サスケの方がろくでもないを通り越しまくってヤバいよ!」

と何やらサスケを遠回しに心配しているかのような素振りを見せる水月
サスケと香燐の仲を裂くという目的がどこまで本気か分かりませんが、
少なくとも"鷹"に身を寄せている理由はそれ以外にもありそうです。

「…ボクは君らがキライだ!
 話をすれば水かけ論!
 何かやろうとすると決まって水をさす…だから」

言いかけた水月を重吾が奇声をあげて襲いかかります。
呪印の暴走がおさえられなくなったのです。

「ボクは中でも君が一番キライだ!!」

水化してやり過ごした水月
重吾は勢い余って水月の後ろにあった壁を破壊します。

「こ…これは…。……。
 今まで何度もここに来たけど…、知らなかった…。」

中から現れたのは隠し部屋。
何度も訪れたことがあった水月でも知らなかったほどのものです。
中に入り、大蛇丸が書き残していたと思われる資料を手に取り、
水月は驚愕します。

「え…!? コレ…。大蛇丸こんなことまで考えてたってことか!?
 だとしたら…この資料は今の戦争をも左右しかねないものじゃないのか!?」

資料の巻物を懐に入れる水月
その内容は月の眼計画に直結する何か――が推測されます。

「これって…。サスケにいい手土産ができたかもね!
 ボクら偶然すっごいもん見つけちゃったかもよ!
 …さっきのパンチは水に流すよ、重吾!」

2.闇を見る眼(2)

誰もいない雨が降る荒野を一人歩くサスケは、
白ゼツたちに出くわします。

「さっそくオレを追ってきた……訳じゃ…なさそうだな。」

なぜ外を出歩いているのか問い質そうとする白ゼツたちに構わず、
サスケは自分の言いたいことだけ話します。

「…ここへ来るまで、二つの街を通ったが、誰一人居なかった…。
 外の様子が変だと思ったが…何か知ってるか?」

どうやらサスケは戦争が起こっていることは、
まだ"意図的に"告げられていなかったようです。

「聞いてるのはこっちだ!
 何でお前が外に出てんだよ!?」

息巻く白ゼツですが、

「そんなにオレが外に居るのがイヤなら捕まえたらいいだろ。
 今度は人数もいることだしな。」

と言ってサスケは挑発します。

「お前…まさかボク達のオリジナルを…!!」

白ゼツのコピーたち。
サスケがここに居る、という意味に感づきます。

「束になった分、今度は手ごたえがあるといいが……」

とサスケ。どうやら白ゼツのコピー元ととなる本体を
手にかけてきたといった感じです。
束になって襲い来る白ゼツたちですが、
見開かれた万華鏡写輪眼のその圧倒的な力の差を前に為す術はありません。
須佐能乎で完全防御を築いたサスケ。それだけではありません。
須佐能乎の手にはめらめらと燃える黒い炎。間違いなく天照の黒炎です。
倒れた一体から戦争が起きていることを把握したサスケ。
ナルトが活躍していることも聞き出します。

「お前もオレと同じ、孤独の痛みを知る者だ。
 そして…その痛みが人を強くする。
 だからこそ…この繋がりを断つ事で、
 オレはさらなる強さを手に入れる!」

終末の谷での決闘。かつてナルトに対して言った言葉を思い出しながら、

「忘れたかナルト…。本当の強さが何なのか……。」

とナルトに語りかけるように呟くサスケ。
うちはを否定してきた木ノ葉という組織、街、
そこにのうのうと暮らす人々――すべてが憎い。
木ノ葉からのつながりを全て断ち切り、
木ノ葉のすべてを抹消、抹殺することがうちはの再興。
狂信的なまでに"うちは"に偏執するサスケの出した"答"です。

「オレもお前のところへ行くとしよう…。
 お前を切りに!!」

そう言って鞘から刀を抜き放ち、捕えた白ゼツを切り捨てます。

「お前が木ノ葉に攻めてくりゃ…
 オレはお前と戦わなきゃならねェ…。
 憎しみはそれまでとっとけ…。
 そりゃあ全部オレにぶつけろ。」

憎しみを全てナルトにぶつける為に。
サスケはナルトのもとに向かうのです。
黒炎にかからなかった白ゼツの一人が逃げ出します。
それを察知したサスケは、須佐能乎が手に持つ黒炎から
一部を巴状にして手裏剣のごとく投げつけます。

「お前らは木ノ葉の忍ではない…。
 約束の内には入らん…。」

木ノ葉の忍ではない――約束とも違う――
しかしそんなことはお構いなしで、
躊躇なく手にかけるサスケ。

「いい眼だ。どんどんなじむよ兄さん…。」

修羅が乗り移ったような表情を浮かべます。

「(…この兄さんの眼に焼き付ける光景はことごとく……、
  酷たらしく…悲しく…重いものになる…。
  だがそれが正しいんだ…。見ていてくれ。兄さん……。)」

サスケは、そう心の中で兄に語りかけます。
イタチはサスケのところへ向かっている様子。
狂気に呑まれたサスケを、イタチは抑えることができるのでしょうか?