562 『己を拾う場所』

1.己を拾う場所(1)

「ワシが相手をする!1」

重傷の体を起こし、マダラの方を見るオオノキ。

「無茶だって!!
 ボロボロじゃねーかよ、もう!!」

その怪我を見てテマリも止めようとします。

「もう少し術を試したいんだが……、
 もう踊れそうにないな…。オオノキよ…。」

余裕綽々といった感のマダラを、
オオノキは諦めてはいないといった感じでキッと見据えます。

「……何だ、その顔は…。
 昔一度力の差を教えてやったハズだが…?」

とマダラ。
かつて敵わなかった絶対的な力の差。
オオノキは若かりし頃を思い起こします。

「なぜ!? …話が違う!!
 柱間殿は……」

話が食い違っていることを訴える無とオオノキ。

「同盟などない…。
 木ノ葉の力の前にただ従え!
 それと…オレの前でその忍の名を口にするな!」

マダラはそんな二人を一喝します。
柱間が提案した大国間の同盟……。
それはこの男によって歪められてしまっていたのです。
当時その凶悪なほどの力の差になす術はありませんでした。

「…ワシら忍はずっと戦いに明け暮れてきた。
 自国と自里の利益のためだけにずっと戦い続け、
 他国と他里など省みず、ただ奪う!
 奪っては奪われ…、奪われては奪い返す…!
 憎しみは膨れ上がり、三度も戦争をした!」

オオノキは言います。
他国や他里の事情など、自国や自里の利益の前には何の価値もなし。
――そうやって、醜い争奪を繰り返して、
連綿と続いてしまっている憎しみの歴史の一端を担ってきたのです。

「それが生きていくということだ。
 その齢まで生きて、過去の痛みから何も学んでいないとはな。」

見下したように話すマダラ。オオノキは強く否定します。

「アンタよりは長く生きてる! …学び、一回りした!
 過去の痛みを知るからこそ、
 どう先へ繋げていくのが最善かを考えることができる!」

無意味に繰り返される憎しみの歴史を、
ただ塗り替えているだけではいけないことを
とうにオオノキは気づいていました。
しかし踏み切る切欠がなく、捨ててしまった己を拾いきれずにいた。

「で…また四度目の戦争だ…。
 これが最善ですか?」

とカブトが冷ややかに言いますが、意に介さずオオノキは続けます。

「この戦争は違う!
 かつて戦争で奪い合ってきたものとは別のものを、
 皆が手に入れるための戦いじゃぜ!!」

手に入れるためだが、奪うことが目的じゃない――
守ることが目的の戦い――

「こいつらを見ていて時はただ刻むだけではないと分かった……。
 世界は過去を重ねてゆっくりとだが成長しておる。
 …平和へ向けてのう。」

我愛羅とナルト――他里の忍同士が助け合い支えあう姿、
それを見てオオノキは納得します。
憎しみがいたずらに繰り返さているだけじゃなくて、
そこには確かに何か大切なものが生まれていった――
それを大切にしていかないといけないし、
育てていかないといけないことに。

「世界はこれ以上成長する必要などない。
 無限の月読みの幻術の中で眠っていればいい。」

とマダラ。この発言から仮面の男トビが目標とする月の眼計画を
マダラ自身もやはり共有していることが分かります。

「…かつて…アンタがワシに己を捨てさせた…。
 じゃからアンタに勝ち…己を拾う!
 眠るのはアンタじゃぜ…!」

オオノキは覚悟を決めて立ち上がります。
憎しみに染まることで投げ出された己――
かつては同盟を信じ、戦争のない"平和"を信じていた自分を
拾いなおすときが来たのです。

「さあ…、一緒に拾うとしよう。」

よろめくオオノキを我愛羅が砂でそっと支えます。

「年寄りに若い奴らが世話をやきすぎると、
 文句を言うのが決まりなんだが…!」

オオノキを心配していたテマリも踏ん切りがついたように言います。

「フン! 今回ばかりはおせっかいも認めてやる!!」

オオノキも力を合わせる事に異存はない様。

「…まだ踊れそうだな。」

残酷かつおぞましい表情で一同を見るマダラ。

「己の為に! 未来の為に!
 お前はここで倒す!」

負けじと、オオノキはもう一度強く前を見据え、そう言うのです。

2.己を拾う場所(2)

マダラが戦場に現れたとあって、
本部の首脳二人もうかうかしてはいられない様子。

「マブイと言ったな。
 天送の術を用意しろ! 来い!」

雷影の秘書であるマブイ。
先の金角、銀角の戦いのときに、
琥珀の浄瓶を戦場に瞬時に送り込んだ天送の術の使い手です。

「天送の術は物を送るための術です!
 口寄せや逆口寄せと違って人は無理なんです! 本来!!」

天送の術は口寄せや逆口寄せのような時空間系忍術と思いきや、
実はそうではなかったようで、
どうやら契約やマーキングといった類のものは必要なく、
しかも術者次第で任意の場所にいくつでも届けることができる代わりに、
非生物でなければ転送時に肉体が耐え切れない
物凄い速度で駆け抜けていくようなもののようで、
ダメージは計り知れないのだと考えられます。
琥珀の浄瓶の例を考えると、
燃え尽きたり、破損したりという様子はありませんでした。
ナルトの世界においては、
質量や大きさの問題、空気抵抗や摩擦による熱の問題よりも、
瞬間的に物凄い速度になるときに強いGがかかることによる
ショック作用の方に言及しているのかもしれません。

「ぐだぐだ言ってるヒマはない!
 やってみなければ分からないだろ!」

綱手。ですが術者であるマブイは術のことをよく把握しているので、

「分かります!
 速すぎる転送に肉体がついていけず、
 ズタズタになって死亡するだけです!
 かつてこの天送の術で移動できたのは三代目雷影様だけです!
 三代目は強靭すぎる肉体があったからこそです!
 三代目の血を引く四代目雷影様ならともかく、
 火影様はまず無理です!」

と反駁します。

「少し考えがあります…。飛雷神の術です。
 ゲンマの小隊をここに呼び、
 カツユの一匹にマーキングを付けて天送させれば……」

とシカクが提案しますが、

「必要ない!
 …私はコレを使う。」

と一蹴。綱手は額に溜めたチャクラを指し示します。

「そういうことですか……。
 でも危ない賭けですよ…。
 だいたい綱手さまは賭けに弱いってのが…。」

と忠告し直すシカク。

「それは金を賭けた時だ…。
 命を賭けた時は別だ。だから今まで生きている。」

綱手は強気に出ます。
頑固な様子の綱手に異論を申し立てず、堪えるように溜め息をつくシカク。
術者本人が言い張るのだから、その情報こそ最大限に活用されるべきで、
シカクは冷静な観点から意見したまでなのですが。

「ら…雷影様!!
 火影様に考え直すようにと…。」

マブイはエーに綱手を止めるため助言してくれるように頼みます。

「マブイ。天送の術を準備しろ…。
 二人分だ!」

エーは綱手の強さを感じ取っていたのでしょう。
ただの出鱈目で無茶な行動とは取らなかったようです。
二人分の天送の術をマブイに用意するように言います。
戸惑うマブイは再びシカクの方を見ますが、
事態は一刻をあらそうことをシカクは理解しています。

「状況は最終段階まできている。
 今こそ総大将の出番だ。」

と納得。綱手を後押しします。

「…しかしマダラはうちは一族…。
 火遁をどうにかしなければ勝ち目はない…。
 飛雷神の術はあいつの為に使ってもらう。」

綱手


綱手が言うあいつとは黒ゼツと交戦中の水影のこと。
九尾チャクラを解放した状態のナルトでも苦戦しています。

「自信の力イコール斬った数…。
 …だから…斬らなきゃ…とにかく。」

と苦戦していた黒ゼツを一刀両断にする長十郎。
チャクラを溜め、ヒラメカレイを巨大変形させ、強烈な斬撃で真っ二つにします。

「コ…コレデハ動ケナイ…。
 一瞬デ…刀ノ形状ヲココマデ変化サセルトハ…。」

黒ゼツも流石に地べたにとどまったまま。動けないようです。
そのときゲンマらにシカクから交信が入ります。
事態は彼らが理解できる範疇を軽く飛び越えたところにありますが、
四の五の言わずに飛雷神の術を準備させます。

「一瞬で移動って…、四代目火影の術のハズでしょ?」

ゲンマ、ライドウ、そしてもう一人(新キャラでしょうか?)
三人が繋いだ手の中に、五代目水影、照美メイを閉じ込めます。

「オレ達は元々、四代目火影を守る護衛小隊の忍です…。
 今は五代目ですが…。
 飛雷神の術は四代目から教わったものです…。」

とゲンマ。

「ただ四代目と違って三人でやらないとできなくて…。
 きゅうくつですみませんね…。」

ライドウも続けて言います。
彼らは四代目の護衛小隊として活動していたようで、
そのときに飛雷神の術を教わっていたようです。
しかし高度な術ゆえ、三人揃ってやらないと無理なのでしょう。

「水影様…。マダラをぶっ倒してきて下さい!!
 ここは忍刀七人衆のボクが死守します!」

と長十郎。彼の逞しさを微笑ましく思いながら、
メイは決心します。

「了解よ。遅れるのは婚期だけで充分です!」

飛雷神の術のマーキングが施された綱手の到着に合わせる形で、
メイも戦場へ。これで五影全てが揃うことになります。

雷光とともに現れたエーと綱手
それぞれが無(カブト)とマダラに奇襲攻撃を仕掛けます。
ドダイが的確な座標を報告しておいたおかげです。
思わぬ攻撃に一旦引き下がるマダラとカブト。
すぐさま綱手は陰封印・解から創造再生の術で移動時のダメージを修復します。

「…皆まだ生きてるってことは…、
 遅れずにすんだようね……。」

と水影メイ。

「やっと暴れられる…。
 待ちくたびれたわ!」

意気込む雷影エー。

「さあ準備はできた…!」

再生も完了し、前をゆっくり見据える火影綱手

「………。」

物言わぬ様子で集中する風影我愛羅

「やはり…、長生きはしてみるもんじゃぜ…。
 まさか五影揃って…、共に戦う日が来るとはな!!」

最後に土影オオノキ。
マダラを打ち砕かんと最強の力が集結します。