561 『その名の力』

1.その名の力(1)

「隕石…どうやって…!?」
「これが忍術だとでもいうのか…!?
 …逃げ切れねーぞ…コレ…」

規模がまるで違う――
その強大な力に一介の忍では、
もはや何をして良いのやら、
金縛りにあったように身動きがとれません。

「まだ諦めの言葉を口にするな!
 何もせんうちから己を捨てるな!
 少しでもやれることをするんじゃぜ!!」

オオノキは痛めた老体に鞭打ちながら、
上空へふわりと舞い上がります。
そして空を覆い尽す巨大岩に一人立ち向かうのです。

「皆できるかぎりここから離れろ!!」

総員退避――我愛羅の声が混乱の中響きます。
しかしもはやすぐに逃げ切れるほどの範囲ではありません。

「ボク達ごと…?」

無に乗り移ったカブトは術の及ぼす範囲の大きさに、
自分たちも巻き込まれてしまうことに気づきます。

「当たり前だ…。
 穢土転生の術は本来こうやって道連れに使うものだ。
 オレ達は少しして元に戻る。」

と術の特性を理解したようにマダラは言います。
それもそのはず。マダラの時代の人間にもこの術の使い手はいました。
初代火影の弟で二代目火影・千手扉間。
現在のカブトほど洗練されていなく術の効力時間も短かったでしょうが、
その短いであろう時間と不死という特性を最大限に活かすために、
威力は最強でも術者の命を奪ってしまうほどの術を乱発できる
"道連れ"の術として本来使っていたのも納得いくところです。

「空を飛ぶ忍…。
 ならアレは両天秤の小僧か?」

隕石に一人立ち向かっていく忍を見て、
それがすぐにオオノキだと認識したマダラ。
この術の特性をよく知っているマダラだからこそ、
如何ともしがたい時の流れによって姿形が変わってしまった人物も、
何の抵抗もなく受け入れている様子です。

「土影のじいちゃん、何しようってんだ!?」

ナルトも心配そうにオオノキの方を見上げます。

「ぐっ…」

隕石を受け止めようと奮戦するオオノキ。
《土遁・超軽重岩の術》という質量操作を行う高度な忍術を発動します。
しかし島ほどの大きさがある超巨大亀を楽々持ち上げるオオノキでも、
落下するずっしりした巨大岩を受け止めるのはまさに骨が折れるほどの苦労。

「両天秤の小僧め…。
 少しはやるようになったな…。」

オオノキの奮闘の甲斐があって、
地面に衝突する寸でで、隕石をなんとか止めることができました。

「さて…2個目はどうする…。オオノキ?」

しかしそれもぬか喜びに終わります。
非情なマダラは、追い討ちをかけるように
2つめの隕石を1つめにぶつけます。
まさか立て続けに隕石が落下してくるとは思わなかったでしょう。
速度はそれほどなかったものの、
巨大な質量のハンマーに叩かれたように
1個目の巨大岩が地面を抉りこみます。

一方、綱手たちがいる本部。

「面の男はなぜ己をわざわざマダラと名乗ったのでしょうか?」

仮面の男がマダラでないという事実を突きつけられた現在、
その男が"マダラ"と名乗ったのはなぜでしょうか。
綱手はその見解を口にします。

「…マダラという存在がこの世に生きているのではないか?
 …欺瞞に満ちた存在でも、そう思わせておけば世界は恐怖する。
 その名が"力"なんだ。その名は注意を引き付け、
 皆を戦争に巻き込むだけの無視できないハッタリになった。
 私らは釣られちまってんのさ…。」

その強大な忍術とうちはの写輪眼の瞳力を極めたものとして、
伝説にまでなっている存在、マダラ。
その存在が今なおこの世にあり、
戦争を引き起こそうとしているというのならば、
十分に世界を震撼させるほど、"マダラ"とは畏怖されているものなのです。
仮面の男の狙いを皆が考え始めたとき、
非常に大きな地震が起こります。

「中継の情報部小隊からだ! 第4部隊の戦場に、
 空を覆うほどの大岩が落とされたという情報アリ!!
 この揺れはその影響だ!」

本部に第四部隊の情報が入ります。
さて、少し脱線して私見を述べておきます。
ナルトの世界でどうかは分かりませんが、
隕石とは地球に侵入してくる流星のうち、
大気圏で燃え尽きずに地表にまで到達する岩塊のこと。
マダラの術では、巨大岩塊が尾を引いていないことから、
時空間忍術か何かで瞬間的に座標転移、
あるいは空間移動させてきた大岩に過ぎないようです。
もはやマダラの術の効力は宇宙にまで及ぶのか、
と一瞬思いましたが、隕石と呼ぶほどのものではない様子。
そのあたり、冷静かつ正確に報告がなされている情報部隊に感心しました。
しかしその尋常じゃないスケールは、
巨大隕石衝突と比してさほど劣るということもなく、
本部を相当に焦らせるに足るものです。

「なんと…いうことだ……。
 一度に…これだけの人数を…!」

戦場を感知した青は、
非常に多くの忍が息絶えたことを悟ります。

「間違いない…。マダラの術か何かだ!
 綱手様、このままでは…」

とシカクも冷静沈着を崩し、言動に焦りがにじみ出ます。

「私が行く!!」

この緊急事態に綱手が動かざるを得ない状況です。

2.その名の力(2)

我愛羅など主要なメンバーはなんとか生き延びた様子。
オオノキも最後の瞬間、大岩の下敷きとなることなく、
なんとか逃げることができたものの、重傷です。

「これが六道仙人の力…。
 すばらしい。」

穢土転生の術によって再びその姿が再生されたマダラと無(カブト)。
カブトは眼前に広がる一瞬にして荒廃した風景を見て、
そう漏らします。

「フッ…。懐かしい風景だ。」

かつて猛威をふるった己の強大な忍術。
その健在ぶりに思わず口元が綻ぶような様子のマダラですが、
すぐにカブトの方をキッとした目つきで振り返ります。

「…カブトとか言ったな……。
 お前はどこまで知っている?
 …オレの事を。」

そう訊ねられ、カブトは答えます。

「おそらくですが……、
 初代火影柱間と戦ったあの終末の谷で、
 アナタは死んでなどいなかった。その時点では…。
 あの戦いで初代柱間に負けたものの、
 アナタは柱間の力の一部を手に入れた。
 …違いますか?」

マダラはカブトの話にすぐに頷きはしないものの、
自分の服をつまんで、くいっとその中を見やります。
柱間と戦って負けたあの終末の谷の決戦の時、
あの時マダラはまだ息絶えていなかったばかりか、
どうやら柱間の力を何らかの手段で手に入れ、
その生命力をもって生きながらえていたよう。
いつ亡くなったかは明かされませんが、
今後の展開で鍵となってくるところでしょう。

「だからか…。段取りのいい奴だ。
 オレ達の計画も知っているのか?

明らかに仮面の男とマダラは目的を共有しているという趣旨の発言です。
マダラが存命のときに、この偽マダラと接触していても不思議ではありません。
仮面の男がマダラの過去を非常によく知っているのも頷ける話。
ところで、この仮面の男は輪廻眼を自らの手で自らに移植できる人物です。
彼が仮面の奥から覗かせている右目の写輪眼について考えてみましょう。
この眼はマダラのものなのでしょうか?
穢土転生の術は生前の影響を色濃く残しています。
先の三代目雷影の古傷しかりです。
術の影響による補正とも考えられますが、
前回永遠型万華鏡写輪眼に変化したことから、
弟・イズナから移植された眼ですが、
この穢土転生されたマダラは両眼ともあります。
ということは仮面の男に生前にわたった可能性は低くなるでしょう。
逆にもし死後のマダラのものを移植したとするなら、
輪廻眼としても機能するはずですから、
わざわざ長門の輪廻眼を移植したりしないはずです。
今のところこの仮面の男の写輪眼は、
うちはマダラのものではなさそうだと言えるでしょう。
加えて、長門の輪廻転生による完全復活を目論んでいたことからも、
この仮面の男が死んだマダラの眼を移植することはありえないはずです。

しかし、仮面の男は、

「全てが本来の形に戻るのだ…
 写輪眼の本当の力が…このうちはマダラの力が。」

と自分がマダラの力(あるいは写輪眼)を手にしていることもにおわせている。
非常に複雑で縺れたところです。

「あまり詳しくは…。
 …ただボクはアナタの味方です…。
 …あの偽マダラが、
 計画通り事を運ぶ気があるのかどうかは分かりませんが。

とカブトは話します。
カブトの言ったことが気にかかるのか、
マダラは無言のままです。

「ところで…まだ生き残りがチラホラいますね…。
 土影と風影はさすがにしぶとい……。
 どうしますか?」

先に口を開いたのはカブト。

「少し確かめておきたいことがある…。」

そう言ってマダラは口寄せの印を結びます。
突如として腹に熱感を感じるナルト。

「グルルル…。
 ワシを呼ぶこのチャクラ……。
 マダラか!!」

九尾も口寄せによるチャクラの変異を感じている様子。
そしてそれがマダラ特有のものだと分かります。

「九尾はまだ捕らえていないようだな。」

口寄せに失敗したマダラは、
九尾が人柱力に宿ることを突き止めます。

「そのための戦争ですよ。コレ…。
 ホラ…ちょうどあそこ…。
 あの少年が九尾の人柱力、うずまきナルトくんですよ。」

とカブト。ナルトを指し示します。

「うずまき…? ミトの一族か…。
 さっきオレを攻撃した…ガキじゃないか。」

うずまきと聞いて柱間の妻であるミトを思い浮かべたマダラ。

「ですがなかなかの奴でしてね…。
 捕らえるのはいいんですが、目の前の奴は分身です…。
 さっさと本体を取りに行きますか?」

とカブトは提案します。

「イヤ…試したい術がある。
 何もないところでやるよりは、
 人が居た方が絵になるだろう。」

そう言って印を結ぶマダラ。
《木遁・樹海降誕》という柱間しか使えないはずの術を使ってみせます。
もの凄い勢いで襲い来る木々。
その木々の生命に富んだ様子からヤマトのものとは違って、
術として完全であることが分かります。
チャクラも残り少ない――身動きがとれないナルトに、
九尾が話しかけてきます。

「ナルト…。今回は力を貸してやる。」

ナルトは当然警戒して難色を示します。

「また体を明け渡せって言いてーのか!?」

しかし九尾の様子はいつもと違います。

「違う…。チャクラだけをお前にやる…。
 マダラは好かん…。
 あいつに操られるぐらいなら、
 お前の方がマシだ!」

その言葉に意外だという反応をするナルト。
九尾の助けを借りて多重影分身から、
何個もの大玉螺旋丸の防壁を築くナルト。
襲い来る木々を全て粉々に打ち砕きます。

「お前の言うとおり…
 なかなかの奴だ…。」

とナルトの力を認めるマダラ。
しかし九尾から渡されたチャクラも、
木遁を防ぐのに精一杯で全て使い切ってしまった様子。

「ナルト…。もういい…。
 後はワシらがやる…。」

ナルトを気遣うように瀕死のオオノキが起き上がります。

「フン…やっと己を拾う場が来た…。
 そのための相手には十分じゃぜ。」

忍としての自分を捨てていたと、
五影会談のとき、我愛羅に気づかされてから、
老い先短い中"どのように忍として死すべきか"考えていたのでしょう。
その決死の覚悟とは――