564 『誰でもない男』

1.誰でもない男(1)

「くそっ硬って―…
 ヒビも入らねェ…」

仮面の男に頭突きするように激突したナルト。
ナルトが九尾チャクラを纏っていたにも関わらず、
面すら割ることができません。
仮面の男の周囲には特殊なチャクラが張られているのでしょうか。

「すり抜けてもよかったが…
 しょせん、面に傷一つも付けられないか。
 九尾をコントロールしたその力…、
 こんなモノではないだろう?」

すり抜けることもだったが、あえて衝突して自分の力を誇示してみせた仮面の男ですが、
ナルトの力がこの程度ではないことも理解しているというような物言いです。
そのやりとりが終わるか否か、飛んでくる炎をまとった岩々。
四尾の人柱力・老紫の《熔遁・灼河流岩の術》です。
奇襲をかわしたビーとナルト。反撃に転ずるために、
ナルトは螺旋丸、ビーは愛剣を構え突進していきますが、
三尾の人柱力・やぐらの《水遁・水鏡の術》が発動。
この術は鏡のように相手と同じ状態の像を瞬時につくりだし、
相手と衝突させることで相殺してしまうという代物。
跳ね返された二人は周囲を泡に覆われていることに気がつきます。
六尾の人柱力・ウタカタの《水遁・泡沫の術》によるもので、
ただの泡というわけではなく、触れれば爆発する厄介な術。
ウタカタが指を弾くと、泡が連鎖して爆発。
辺り一面を吹き飛ばすような攻撃でしたが、
ビーの部分尾獣化によって、木にぶらさがり、ナルトをとらえることで、
二人はなんとか猛攻を凌いだようです。しかしほっとしたのも束の間。
今度は七尾の人柱力・フウの《秘伝・鱗粉隠れの術》によって、
周囲は煌く鱗粉に覆い尽くされることによる光の乱反射で視界が撹乱されます。
その隙をぬって二尾の人柱力・二位ユギトと五尾の人柱力・ハンが奇襲。
防御することで手一杯の二人です。

「このサングラス♪ 遮光最高クラス♪」

とビー。サングラスで乱反射によるちらつきも低減できたようです。

「悪意はちゃんと見えてんだってばよ!!」

ナルトはチャクラを感知して防いだ模様。
ハンの拳をなんとか受け止めたナルトですが、
蒸気を利用した爆発的なパワーは正に常軌を逸したもののようで、
九尾のチャクラを纏っていても力負けしてしまうほどの勢いです。
一方ユギトと相対するビー。
特殊な術で手足の爪を伸ばすことができるようで、
つばぜり合いを繰り広げますが、
ハンとともにいったん距離をとります。

「ユギトも居る…。
 こいつらは元人柱力どもだ!
 しかも全員片目は写輪眼でもう片方が輪廻眼……。
 命を奪われコマにされたあげく両目をあんなキモイもんにされて…
 かわいそうなユギトだ。
 お前ももしかしたらあっち側であんなになってたかもしんねーな…。
 笑えねェ…」

と八尾もその惨状を見て、思ったことをビーに語りかけずにいられない様子。

「あんなヒドイ目にあわせやがって激怒♪
 でもあんなキモイ眼にされなくて安堵♪」

韻はフんでふざけているようですが、
口元はキッとして、めずらしくビーにしては怒りが表情に出ています。

「てめーはどのみちグラサンだけどな。
 ああなりたくなきゃ、気ィ抜くなよ!」

と八尾。友達同然のビーにそんな有様になってほしくはないようです。

2.誰でもない男(2)

「マダラの目も同じだってばよ…。
 前してた面と違って穴が二つある!」

ナルトがいうこのマダラは仮面の男を指しています。
その仮面の穴からは操られている人柱力たちと同じように、
片目に写輪眼、もう片方に輪廻眼が見えます。

「…この面は前のと違って特別製でな。
 頑丈な戦闘用だ。」

仮面の男は余裕といった様子で、面についてのご高説をナルトにしてやります。

「いつも隠してた左目は、
 長門あっちのマダラと同じ輪廻眼だったって訳か…」

ナルトの言葉の端から、
現在どのような状況にあるか感づいた仮面の男。

「お前らマダラはオレ達が止める!!」

ナルトのその言葉に確信をもった仮面の男。

「お前…だと…」

うちはマダラを穢土転生させてみせたカブトを思い起こします。

「カブトめ…」

あっさり本物のマダラを召喚したカブト。
仮面の男もさすがに裏をかかれたといった様子です。

「お前らってどういうことだ!? コノヤロー!
 マダラってあいつのことだろ!? バカヤロー!」

事態を把握しきれていないビーはナルトに聞きなおします。

「ククク…クク…。
 なんならかつての名トビでもいいぞ。
 戦争の始まった今、名前などどうでもいい…。
 マダラ…。トビ…。好きに呼べ。」

と突如仮面の男は笑い出します。
本物のマダラでないことが割れた以上、
"マダラ"と名乗る意味もないと考えたようです。
どうやら"トビ"というのも仮の名のようです。(十尾を捩ったのでしょうが…)

「……お前…、
 いったい誰なんだってばよ!?」

一転して不気味な様相をかもし出す仮面の男に、
ナルトも怪訝に様子を窺いながらも冷や汗が出ます。

オレは誰でもない。誰でもいたくないのさ…。
 ただ月の眼計画を成せれば…それでいい。」

と嘯<うそぶ>いて、不気味な目を見開く仮面の男。

絶望しかないこの世界に存在する価値はない

この世界に絶望しかない、そう付け加えます。

「お前達人柱力は尾獣を取り付けさせられ絶望ばかりを見てきた…違うか?
 お前達だったらこの絶望を…少しは理解できるだろう。」

そう問いかける仮面の男の考える絶望は、
ナルトたちが経験してきた悲劇とはズレていたようで、

「…尾獣と一緒に居ることが、
 不幸せだと勝手に思い込むんじゃねーよ…。」

と強く反論します。
九尾も意外そうにナルトの言葉を受け止めます。
ビーもナルトの言葉に首までは振らないまでも、
肯定するように視線をナルトに送ります。

てめーにとっちゃあ価値のねェ、この世界でも!
 勝手に戦争まで起こしておいて誰でもねーなんて、
 そんなんでごまかして通用すると思ってんのか!!
 そんなダッセー面付け変えて色々な名前語っていくらごまかしても、
 てめーはてめーだコノヤロー!!

ナルトの言い分は至極真っ当です。
この世の中全てが憎く思えるほどの絶望を味わったとしても、
だからといってこの世の中全体を巻き込んで戦争を起こそうなど、
悟ったような独善の極みもいいところでしょう。
木ノ葉の里では赤子であるナルトをさらって、
母親であるクシナから抜き取った九尾を使って里を襲った挙句、
霧隠れの里では三代目水影やぐらを裏から操り、血霧の里に変えました。
また暁を裏から操り、各国に火種を生み続け、
この世に憎しみを増やし続け、絶望を広め続けてきた張本人なのです。

「頭きた…。ぜってーその面をひっぺがしてやる!!」

と意気込むナルト。

「まずはオレが行く!!
 ウィイイイイイイイイイ―――
 ――イイ……ィ!?」

ビーも意気込みは同じです。
――が、人柱力たちの全員尾獣化を見て、
少し肝を冷やし気味。

「……この面をはがすには…骨がおれるぞ。
 八尾…九尾…。オレはお前らを手に入れて…
 月の眼を手に入れる!!」

仮面の男も徹底抗戦の構えです。