550 『別天神

1.別天神(1)

イタチの万華鏡写輪眼に呼応するように、
ナルトの口から左眼に不思議な瞳を持った烏が出てきます。
その烏を見、以前イタチが自分に問いかけてきたことを
ナルトは思い起こします。
――"兄弟"のようにサスケを思うなら、
そのサスケがもし木ノ葉を襲うことになったとしても、
彼を殺してでも里を守ることができるのか…
ふと我に返ってイタチを見ると、
血の涙を流し力を溜めるように目を閉じています。
それを見た長門は天照が来るとナルトに促します。
見開かれたイタチの眼。烏の不思議な瞳を凝視します。

「こうなったか…」

一人納得するように呟くイタチ。
しかし一同は何が起こったのか理解できていません。
ただイタチを操っていたカブトは、何か異変を感じたようです。
再び見開かれたイタチの眼。天照が放たれますが、
その矛先は長門が召喚した頭が増える狼です。

「侮っていた…!
 うちはイタチ…。こいつは普通の奴とはあきらかに違う!
 この穢土転生の術まで…。」

とカブトも予想外の出来事に肝を潰した様子です。

「うまくいった…」

というイタチに、長門は事を理解した様子。
イタチの天照に身を焼かれることに疑問をもちません。

「うわ! 来た!!」

何故急にイタチが味方を攻撃したのか理解できていないナルト。
天照の黒炎もあって、急に接近してきたイタチに対して身構えます。

「落ちつけ…。もうオレは操られてはいない。
 この敵の術の上に新たな幻術をかけた。
 よって穢土転生の術は打ち消された。
 "木ノ葉の里を守れ"という幻術だ。」

イタチは穢土転生を打ち消す幻術を自らにかけ、
操り人形状態を解いたといいます。
といってもイタチが完全に蘇ったというわけでなく、
あくまで穢土転生の術によって塵芥が織り成す身体を
カブトという術者の命令に縛られず、
自分の意志で行動できるようになったということと思われます。
ですが、詳しくは記されていないものの、
幻術の名のもと、自身に起こった事象、
生死ですらゆがめてしまうイザナギよりも
さらに強力である幻術であることは想像できますから、
そもそもの穢土転生という術の枠を超えて、
蘇ったという方が正しいかもしれません。
つまりカブトがイタチに対して術を解いて、
穢土転生の効果を断ち切ろうとしても、
その命令は無効ということになります。

「そのカラスは……、
 オレの万華鏡写輪眼に呼応して出てくるように
 細工しておいたものだ。
 もしもの時の為にな…」

というイタチにビーも詳細を説明するよう求めます。

「そのカラスの左眼に仕込んでおいたのだ…。
 うちはシスイ、万華鏡写輪眼
 最強幻術"別天神"<ことあまつかみ>!
 その幻術でオレは元にもどった。
 どうやらもう万華鏡は切れたようだが…」

不思議な瞳をもった烏。
その瞳の正体はうちはシスイの万華鏡写輪眼でした。
役目を終え、烏の左眼は普通の写輪眼に戻ります。

「うちはシスイ?」

聞いた事ないといった感じのナルトですが、
ビーは知っているようです。

「うちは最強の幻術使い…
 瞬身のシスイか?」

なぜシスイの幻術は最強と呼ばれるのか――

「シスイの瞳力は対象者が幻術にかけられたと
 自覚する事なく、操る事ができる最強幻術を生む。」

とイタチは言います。
それゆえにダンゾウも欲した瞳力です。

「"木ノ葉を守れ"…
 という幻術をシスイの眼に仕込み、
 その眼をカラスの左眼に埋め込んで、
 お前に渡しておいたのだ…ナルト。
 まさか自分自身にかける事になるとは思わなかったがな。」

その"木ノ葉を守れ"と仕込んでおいた最強幻術を、
己自身に使ったイタチ。
もちろんなぜこのようなことしたかは明白でしょう。
サスケとナルトを衝突させずに、
イタチ自身がサスケをなんとかするつもりなのです。

ところで話は変わりますが、
眼軸ごと移植すれば写輪眼は機能するわけですが、
どうやらその対象は人間だけでなくてもよいようで、
烏などの他の動物でも扱えるようです。
以前【写輪眼対比11・独立機能】*1でも取り上げましたが、
眼軸とは角膜から網膜までの長さ、眼球の奥行きのことです。
それを視神経とつなげなければ、
"眼としての機能"、つまり見た情報を正しく捉えるなどの
視覚機能は果たさないはずですが、
写輪眼として働く場合においては、
視神経の役割は薄いと考えられます。

2.別天神(2)

「…なんでその眼をアンタが持って、
 オレなんかに渡したんだ?」

とイタチにナルトは訊きます。
しばらく沈黙ののち、万華鏡写輪眼を解いたイタチは、
静かに語りだします。

自己犠牲…。
 …陰から平和を支える名も無き忍…。
 それが本当の忍。
 シスイがオレに教えてくれたものだ。」

とかつて兄のように慕っていたシスイのことを語りだすイタチ。

「シスイは片眼を里を守る為に使えとオレに託し、
 眼の存在を隠すよう頼み死んだ。
 後、眼をめぐる戦いが起きぬよう、
 己の眼を潰したように見せかけ、己の存在を消した。
 オレはその手伝いをした。
 シスイが最後にオレと会った時は、
 すでにダンゾウに片眼を奪われた後だったが…。」

南賀ノ川に入水自殺したとされるシスイ。
里の者たちはイタチの関与を疑っていましたが、
シスイの崇高なる志を知らずに、一族、一族といって、
本当に大切なモノなど見えていない器の浅い愚か者たちに、
イタチは普段見せないような怒りを見せました。
結局イタチはシスイの事件に一枚かんでいたようですが、
シスイが決意をした最期の日、
彼はダンゾウによって眼を奪われていたようです。
――ともすると、シスイはイタチが起こす任務を知っていて、
その左眼をダンゾウに捧げることで、
なんとかこの事態を防ごうとしたのかもしれません。
しかしその犠牲は報われず、結局、イタチによって、
一族抹殺は執行されてしまいます。
さて、もう片方の眼はイタチに預ける形となったわけですが、
一族でなく"里を守る為"にと言って渡されたのが、
気にかかるところです。

「もう片方はシスイと同じ気持ちを持っていたお前に渡した。
 …オレの残したサスケが里の脅威になったのだとしたら…、
 眼を預かった者として、それはシスイの気持ちに反した事になる。
 それを正す事ができる者はお前しかいなかった。」

そうシスイの眼を使った幻術を
ナルトに預けた経緯をイタチは語ります。

「お前はサスケを兄弟だと言った。
 だからこそサスケを止められるのは、
 ナルト、お前だけだと思った。」

兄弟のように強く思ってくれる気持ちがあるのなら、
弟がもし里を襲うようなことがあっても、
ナルトなら真摯にそれと向き合ってくれるだろう、と。

「本当の力…永遠の万華鏡を手に入れるために、
 サスケはオレの眼を移植するとふんでいた。
 そうなった時、移植したオレの眼に呼応して、
 お前からそのカラスが現れ、サスケに"別天神"をかける……
 "木ノ葉を守れ"と…。そういう手筈だった……。」

サスケとの決闘は――もとより負ける予定だったのでしょう。
ただ、サスケに取り入った大蛇丸を引き剥がす目的もあったので、
あそこまでサスケを追い込んだのだと思われます。
そしてもしサスケがそのまま兄である自分を倒したことで、
その憎しみを完遂せずに、他に向けるようなことがあれば、
更なる力を欲して自分の眼を移植するはずであることも
予想していたのでしょう。
だから決闘前にナルトに会い、シスイの力を託しておく、
いわば保険をかけていたのです。
――その使いたくない保険を使う事態に陥ってしまったことは、
イタチにとって残念でならないでしょう。

「……、なぜそのシスイの眼で、
 初めからサスケにその術をしなかった!?」

とビーは訊ねます。

「しなかったんじゃない…
 できなかったからだ…当時はな。
 シスイの万華鏡は再発動まで十数年かかる。
 千手柱間のチャクラでもないかぎりな……。」

自分の眼に呼応するように仕込んでおいたシスイの術。
冒頭、確かめるようにしていたイタチですが、
穢土転生によって万華鏡写輪眼の力すら再現できても、
本当にそれを"イタチの眼"と認識するかは
分からないところだったはずです。
しかし怪我の巧妙というか、
穢土転生は再現性が極めて高いので、
その問題点はどうやら回避された様子。
――というのも、シスイの万華鏡の瞳力は
極めて多大なチャクラが必要と思われ、その術を発動するには
イタチで十数年単位のチャクラの蓄えが必要と思われます。
つまりあのときサスケとの決闘で、
この借り物の術を使うほどの余力は無かった…ということでしょう。

「それに…サスケにはオレの死を利用して、
 色々としてやりたい事があった…」

と語るイタチ。もともとの目的は、
全力を振り絞って"別天神"を使うことでなく、
もっと別に色々サスケにやってあげたいことがあったのです。
それらが何か具体的には語りませんが、
"兄を超えさせること"、その憎しみの終着点を与えることが、
その目的の一つだったのではないでしょうか。

「イタチ…。信頼してくれてありがとう。
 もう心配ばかりしなくていい…。
 アンタは里の為に充分すぎるほどやったじゃねーか。
 後はオレに任せてくれ。」

そう力強く言うナルトに、

「……弟はお前のような友を持てて幸せ者だ。」

イタチは安堵にも似た感情を見せます。
もちろんイタチがナルトに全面的に任せてしまっては、
"別天神"まで使って穢土転生をキャンセルした意味がなくなってしまうんどえ、
イタチとしてはナルトの気持ちを、
ありがたく受け取っておくという感じでしょう。

3.別天神(3)

「(クク…シスイの眼まで…
  ますますボクに運が回ってきた)」

ほくそ笑むカブトは、黒炎に包まれた長門を回復させると、
呼び出してあったカメレオンに移動させ、
神羅天征を使います。
引きずられていくビー。
すれ違いざまに雷犂熱刀を放ちますが、
長門の"餓鬼道"が発動しそのチャクラを吸収してしまいます。
吸収したチャクラでいくらか若返る長門
続けざまにビーを助けにきたナルトは、
カメレオンに隠れて同じく擬態していた蛇につかまり
長門が人間道を発動。
魂を吸い取られそうになったナルトは…