480 『犠牲』

1.犠牲(1)

ダンゾウとサスケの相打ち。

「サスケの力…まあこんなところか。」

トビはなぜダンゾウとサスケをわざわざ対峙させたのか、
その真意をほのめかす一言を放ちます。
単なる力試し…ではない、
だいぶ後で述べますがもっと邪悪なものへの伏線と言えるでしょう。

「早過ぎたな…。まだ眼は開いている…。
 イタチの所へ行って、説教でもされてくると…よい…。
 ワシの勝ちだ。」

勝利を確信するダンゾウ。
イザナギの効果時間があと眼を一つ分残してのぎりぎりでの決着。
しかし、イザナギの効果が現れると思ったその矢先、
ダンゾウは激痛に苛まされます。
サスケはあとイザナギの発動時間が眼一つ分だけ残っているかのように、
すなわち本来の術効力時間より長いように幻術にかけていたのです。

「ダンゾウ…お前の言う通り、
 “幻術時間を自在に操ったイタチの月読”とは天地の差だ……」

さてこのトビの台詞(実際は発言してるわけでなく、思っているのですが)
トビが強調している“”で囲まれた部分、すなわち

  • 幻術時間を自在に操ったイタチの月読

とサスケの幻術が天地の差であるということなのですが、
このサスケの幻術とは、結果的に時間を錯覚させたという
“月読”らしき特徴がある幻術ではないでしょうか。
須佐能乎を自在に使いこなすサスケが、
なぜ天照と対をなす月読を使わないのか長らく疑問でした。
須佐能乎とは、者の書によれば*1

『“万華鏡写輪眼”の開眼者のみが使用を許される二つの瞳術――
 「物質界と光」を示す“天照”と、「精神界と闇」を象徴する“月読”。
 これら、双方を掌握した者だけに宿る、荒ぶる神の力』

とあるのでサスケも月読を使えておかしくはないはずなのですが、
月読とわかるような決定的な描写はありませんでした。
この記述は一般的な万華鏡開眼者のうち須佐能乎まで開眼したものであり、
(うちはの中でも万華鏡開眼は非常に少数であり、
 須佐能乎までとなると稀有なので、一般的とするのも難ですが)
サスケは特殊例で、他所では天照の炎を自在に操る炎遁など、
月読の代替となるような新しい瞳術をサスケが獲得しており、
それによって須佐能乎を得たという場合も考えられました。
しかし炎遁は天照の派生とした方が筋が通りますし、
万華鏡写輪眼を主体とした幻術をサスケが使う節もありますので
やはりサスケが(微弱な)月読を使えると考えることもできそうです。

「…だが、少ししかもたない小さく弱いその幻術も、要は使い所だ…。」

それは月読という術名を名乗るにはあまりに幼稚なものなのでしょう。
得物で刺し合う直前、イザナギの効果時間が切れ、
眼が閉じかける寸前に開いているように見せかける幻術をかけた――と。
しかしその僅かな時間を錯覚させることができる幻術、というわけです。

「お前自身イザナギ不安定な効果時間を右腕の写輪眼を見て、
 幾度も確認し判断していた。
それをサスケは見逃さなかった。」

ダンゾウほどの忍であれば、研ぎ澄まされた時間感覚があるはずですが、
イザナギの効果時間は右腕にある個々の写輪眼で個体差があるのでしょう。
正確に1分ではなく、誤差があるのです。
つまり前回の記事*2で用いたk個目の写輪眼が閉じる時刻T_kは、
時間誤差\sigma_tを伴って






T_k=T_{k-1} +60 \pm \sigma_t \, [s ]

1つ前の写輪眼が閉じてから次の写輪眼が閉じるまで、
60秒から最大で\sigma_t秒だけずれた時間がかかる。




と表され、サスケはその恐るべき観察力をもって、
ダンゾウの仕草とこの\sigma_tを見逃さなかったわけです。
\sigma_tがほんの1〜2秒であるとしても、
幻術をかけたあとのタイムラグとして利用し、
決着の一瞬をつくることができる――
イザナギに過信したダンゾウを欺いて、致命的な一撃を与えられます。

イザナギの効果時間がまだあるように、
 ほんの少しの間見せかける程度だが、
 一瞬の間でも幻術にかけられる事を前もって確認していた。
 それを利用しないサスケではない。」

イザナギの効果時間中でも、幻術にかけることはできた――
それは術者が“不利な状況と認識しないうちに陥る”からでしょう。
サスケはイザナギのことを既知であったし、
それに対して幻術が効くか、
どれだけの効果時間がダンゾウ相手に持続するかを
前もって測るために、あのイタチが現れる幻術を使ったというのです。


ダンゾウ相手にそこまで先読みして戦っていたサスケに
そして戦闘シーンを細やかに配置していた岸本先生に脱帽です。

2.犠牲(2)

地面に崩れ落ちるダンゾウ。

「これが眼で語る戦いだ。
 うちはを…なめるな。」

本元でないダンゾウが借り物の力である写輪眼の
奥義を心得ているかのような態度は、まさに奢りそのもの。
眼で語る戦い…などサスケ相手によく言えたものです。

シスイの眼が使用できなかったにしろ、
 ダンゾウをよくここまで追い込んだな…サスケ。
 そろそろシスイの眼をいただけそうだ。
 根は土に隠れているべきだった。」

さてこのトビの台詞。480話最大の重大発言です。
ダンゾウはこの戦いでシスイの眼があることを明かしてはいません。
従ってトビがダンゾウの右目にシスイの写輪眼があることを知っているのは、
おそらく五影会談の騒動を通じて――というのが妥当ですが、

  • シスイの眼がいただけそうだ

という台詞はシスイの眼を奪うことがトビの計画の一部であり、
したがってダンゾウにシスイの眼があることを会談以前から知っていた
ことをにおわせる発言でもあります。
そして何より最も重大な問題はシスイの眼を奪うことで、
トビになんの利益があるのか――
やはり、仮面で隠された左眼はなく、
その穴埋めを求めているということでしょうか。
しかし右眼を左眼へ移植する――ということになります。
この辺りは眼球を眼軸ごと移植すれば
どちらの眼でも構わないのかもしれませんね。

「このワシが…! こんな…小僧に……!
 ワシはまだこんな所では死ねん!!!」

ダンゾウは衰弱しそれゆえ制御が利かなくなった柱間の細胞を
右腕もろとも切り離します。
香燐によってチャクラの回復を図るサスケの前に、
ダンゾウは再び立ちはだかります。
ダンゾウもただ戦っていたわけではありません。
奥の手としてシスイの眼の回復を図っていた――のです。
千鳥を放ち突進するサスケをかわし、香燐を人質にとります。
その瞳力の狙いは弱ったサスケではなく、
高みの見物を決め込んでいるトビ。

「瞳力を使いすぎたな。」

サスケの右目の万華鏡の模様が消えます。

「自己犠牲を語ったお前が…人質とはな。」

サスケの皮肉にダンゾウはこう答えます。

「自分の…命が……惜しい訳ではない。
 木ノ葉の為…忍の世の為、ワシはこんな所で…
 死ぬ訳にはいかん…。どんな手を……使っても…生き残る。
 ワシは……この忍の世を変える唯一の改革者となる者…。
 この女はその為の犠牲だ。」

サスケが戦いに身を投じる理由も決して評価できませんが、
しかしダンゾウのそれは、その浅い器の割には、
あまりに自分を過大評価しすぎた、
為しえない偽善を語る愚か者――感が否めなません。

「動くな香燐。」

サスケに助けを求める香燐にそう告げるサスケ。
次の瞬間、サスケは邪悪な笑みを浮かべ、
香燐ごとダンゾウの急所を千鳥で貫きます。

「そうこなくては…。」

サスケの様子に満足げの様子のトビ。
悪魔が乗り移ったような狂気の表情を浮かべ、

「兄さん……まずは一人目だ…。」

と薄気味悪くサスケは呟<つぶや>くのです。
トビがサスケをダンゾウにぶつけた目的。
その一端が垣間見て取れます。