538 『詰問』

遅くなりました…
今回も大切なテーマが含まれているので、
少し長くなります。

1.詰問(1)

「ワシのチャクラをぞんざいに扱いよる。」

九尾モードで夜道を進むナルトを皮肉るように言います。

「お前の中にずっと居てお前をずっと見てきたが…、
 ナルト、お前はいつも甘い。」

九尾にしてみれば、
そう易々自分のチャクラを使ってほしくない、
ということなのでしょうか。

「オレのチャクラで少しは元に戻ったな。
 しかしめずらしいじゃねーかよ、九尾。
 お前の方から話しかけてくるなんてよ。
 いよいよ寂しくて話相手が
 欲しくなったのは分かっけど、
 今は忙しーんだ。後にしてくれ!」

と敢えて取り合うつもりはない様子のナルト。

「戦争を本当に一人で片付けられると思っているのか?
 そりゃ無理ってもんだ…。
 なんならワシの力を…。」

と詰め寄る九尾に、

「もうその手にゃ乗らねーよ。」

とナルトは外方を向きます。

「……フフフ…少しは頭が回るようになったか…」

と九尾。

「話は戦争の後だ…。
 じゃあな…!」

冷やかしには付き合ってられない、
という感じで背中を向けるナルトですが、
どうやら九尾はただ皮肉や冷やかしが言いたくて、
ナルトに話しかけたわけではない
様子です。

「仲間が殺されればそれに伴う憎しみが生まれる…。
 そうなる前に相手を全て倒すつもりか?
 どのみち相手を倒せば、敵からの憎しみを受ける…。
 それを全て自分で受け止められると、
 本気でそう思っているのか?
 お前もいずれペイン長門のように、
 憎しみに囚われるぞ。
 この戦争がお前をそこに近づける。

訓告する九尾。
憎しみに囚われ、自分を押さえつけるナルトがいなくなれば、
九尾にとってそれはそれで都合が良いはず。
にも関わらず、このようにナルトに言うということは、
どういうことでしょうか――?
背を向けたナルトは少し立ち止まって、
そしてキッと九尾を睨み返します。

いつまでもオレをなめてんじゃねーぞ!!!

その気迫に、九尾とはいえ、
少したじろぐように前足が下がります。

「お前は分かっていない! 甘いのだ!!
 お前は本当に皆の憎しみを消し、
 受け止める事ができるのか!?
 もう戦争は始まっている…。
 戦死者も多く出ているハズだ…。
 その分、憎しみもな。」

と尤もらしいことを言う九尾。
戦争はすでに始まっていて、
もう犠牲者も出ている状況で、
憎しみを全て鎮めるなどできっこない――
と九尾は思うわけです。

「そもそもだ…。
 お前の側にいたサスケは、
 ずっと憎しみに囚われていた。だがそのサスケも、
 お前がどうにかできた事があったのか?」

最も弱い部分をつっつく九尾。
サスケのことを出されて、
ナルトも顔が険しくなります。

「あの日だ…。
 そうだあの日からお前は気づいていたハズだ…。」

2.詰問(2)

アカデミーの忍組手の授業。
声援を浴びるサスケに対して、
それをやっかみながらも、
モチベーションを整えるナルトのコマ。
挑発的なナルトに対してサスケもはやくケリをつけたい様子。
逸る彼らにイルカは諭します。

「…たく! この忍組み手は昔から守られてきた
 伝統的な訓練方式だ!
 形式的すぎる作法もあるが、
 アカデミーでは基礎から教える!
 …これも大切な事だ!

 …まずは組手前に必ず片手印を相手に向ける行為だが、
 両手印で術を発動する所作の半分を意味し…、
 これから戦う遺志を示す! これが"対立の印"だ。

 組手が終わり決着の後…
 お互い"対立の印"を前に出し重ね合せ結び、
 "和解の印"として仲間である事の意思を示す。

 ここまでが忍組手の作法一式だ!」

術動作の印の手を見せあうことで、
相手と戦う意志を示し、
終わればその印の手で握手するように、
お互いの手を結ぶことで、
互いの戦いぶりを認めあい、絆を深める、
という意味がおそらくこの作法にはあるのでしょう。
もちろんそんな作法や心立てなぞ、
この気が合わない二人には無意味です。
開始の合図程度にしかすぎない印の見せ合いのあと、
すぐさま相手を倒してやろうと互いに向う二人。
結局、ナルトはサスケに組手で負かされてしまいます。

「(……この目。
  …いつものオレを見る…皆の目…
  …イヤ…それよりもっと強えェ…けど…
  オレを見てねェ…。)」

そこでナルトは気づくのです。
サスケのいやに冷たい目に――
目の前にあるものを見ていない、
憎しみに囚われた目に――
決着後"和解の印"を組めず、一悶着あった後、
再びサスケの方を振り返ったナルト。
やはりサスケの目には何も映ってないかのようでした。

「…そしてだ…。
 あれからサスケはどうなった?
 お前は憎しみを消してやれたのか?
 イヤ、違う。その逆だ。
 ますます奴の憎しみは大きくなった!

 つまり…お前は誰であろうと、
 憎しみを消してやる事も、
 受け止める事もできやしない!

と九尾は断言します。

「で…話は終りか?」

ナルトは静かに言います。

「だからってオレが怖じけづいて何もしねーとでも?
 そうなりゃお前の思うツボだもんな……九尾…。
 オイ……お前こそ甘いんだよ!!!

そう言って手を翳し、
九尾を封じ込めるナルト。
何も分かっていないのは九尾だと言わんばかりに!

「何でお前はサスケ一人救えてもいないのに、
 そんな強気でいられる!?」

苦しそうに九尾が言います。

自分が決めた事に疑問持ったら終りだ!
 サスケは何とかしてみせるし、
 戦争だってどうにかしてみせる!!

ナルトは九尾の大きな目玉の前で、
その姿を焼き付けさせるように
そう宣言するのです。


さて九尾にはナルトが自信の行き過ぎに見えています。
今までだってサスケをどうにかできたわけではないし、
憎しみだってどうにもできるものじゃない。
だからこそ甘いと指摘しているのですが、
逆にナルトからすれば、何も理解していない九尾が甘いわけです。
【貫き通す覚悟と想い】*1や、【呪われた世界で輝くもの(後編)】*2
にも書きましたが、結局、
何ともならないだろうと思って動かない
よりも
何とかする、できると思って動く
ことの方が大切だと、ナルトは理解しているのです。
長門だって出せなかった平和への答え。
憎しみの渦を断ち切る答え。
易々ああだこうだなんて出るわけない。
答えなんてないかもしれない。
それに対してナルトは信じるとしています。
ならば何とかしようとする自分を信じられなくて、
何とかできるのだろうか――ということなのです。

結果を出すことは大切です。
それに対して努力することは非常に重要です。
なんとしても結果を出さなければという求心力は
人に時として希望や力を与えて、
そこから望まれる結果や成果が出ます。

ですがすぐに結果が得られるものじゃなければ、
結果がもしかして得られないものならどうでしょうか?
やる気は出ますか? 出ませんね。
結果が見えてしまうので、
何にもする必要がないように思います。

この戦争に対するナルトの姿勢も同じ。
ナルトが愚者や自信過剰に見えるのであれば(=九尾)
その状況に対して何もする気力がでないだけの、
ただの悲観主義か無関心かです。
もちろん九尾は平和や憎しみなどどうでもいいので、
無関心ということになりますね。
我武者羅でもなんでも、自分を信じて動く!
状況を変えるために!!

これが岸本先生が今回言いたかったことだと思います。
もちろんただ突っ走っただけではいけませんが…(笑)
(これが"若い"ということなんでしょうね。
 そして先が見える反面動かないようになるのが
 "老い"かもしれません…ふぅー)

長門が惜しまれるのは、
誰もが諦めるものに向って邁進したものの、
最後の最後で絶望にのまれ、
平和などない、憎しみは消えない、と、
自分の目指したものが信じられなくなってしまったことです。
ですがそれに対してナルトは"信じる"と答えを出した。
だからこそ自分が見失っていたことに気づいているナルトに
長門は自分の想いを託したんです。

前の記事の繰り返しになりますが、
それに従って生きようとする何か――
貫くべき"信念"や"覚悟"がナルトの中に備わっているからこそ、
そのように言葉として出てくるのです。

3.詰問(3)

さてこの一連の話の中で、
九尾に2つの変化があったことが見て取れます。
今まで九尾はナルトよりも立場が上でした。
いやいやながらもナルトに力を貸す立場であり、
九尾の一存でナルトなどどうにでもなる存在だったはずです。
しかしそれが現在では逆転し、ナルトには手が出せない状態です。
一部の頃とはまるで構図が逆転しています。力関係の変化です。
そしてもう一つの変化が、
九尾はナルトのなすことに対して考えるようになった、ことです。
今まではナルトなど知らぬ存ぜぬで構わなかったからです。
しかし、そうもいかなくなった。
九尾はナルトに口出ししています。
ナルトの行動に対していろいろと考え、
それではダメだ、と訓告しているのです。
大雑把には"九尾の弱体化"と言えますが、
実は裏に"ナルトへの理解"が見え隠れしています。
サスケとその憎しみに対するナルトの苦悩を、
明らかに考慮した口調で九尾は語りかけてきています。
一瞬ではありますが八尾とビーの関係に似たものが見てとれます。
火花を散らしてはいますが、
九尾とナルトとの関係の進展とも言えるでしょう。