497 『九尾 VS ナルト』

1.九尾VSナルト(1)

「……八尾と組んだようだな…。
 九尾の人柱力ともあろう者が情けない!」

とナルトを揶揄する九尾。


少し横道にそれますが、
九尾は自分を“九尾”として認識しているのでしょうか?
つまりややこしい言い方になりますが、
九尾のアイデンティティは“九尾”であるのか、ということです。
九尾が言い放ったこの台詞は、
九尾は九尾というものを第三者的に見ている発言にもとれます。

  • 「“ワシ(私)”の人柱力ともあろうものが情けない!」

ではなく、

  • 「“九尾”の人柱力ともあろうものが情けない!」

となっていることに着目すると、
“九尾”というのは九尾から見ればもちろん自分のことを差しますが、
一般名詞的な意味合いを強く含んでいるものと認識しているように見えます。
分かりやすい例えを出すと、
総理大臣Aという人物がいて、総理大臣とはAのことをさすけども、
Aのパーソナリティなりアイデンティティなりは、
“総理大臣”という一般名詞によって表されないということです。
アイデンティティは周囲によって形成される側面をもつために、
この言葉自体を持ち出してくると、いろいろな歪が見受けられるものですが、
要は一尾“守鶴”のように、九尾にも、
例えば九尾“妖狐”のような、
具体的に九尾を表す別名があると考えられ、
どちらかといえば九尾はそれを自分として認識しているかもしれません。


さて、九尾は自分の九本の尾先を自分の頭上のある一点に向け、
そこでチャクラを凝縮しはじめます。
かつて九尾の衣を抑え切れなかったナルトが見せたあの技です。
九尾の憎しみに囚われることなく、強い自分の意志でその憎しみを阻むように
九尾の意志から取れるだけ九尾のチャクラを取り込むこと。
ビーからアドバイスをもらうナルト。

九尾の口から弾丸のように吐き出されたチャクラの凝集体を、
ビーが受け止め掻き消した隙に、ナルトが攻勢に出て行きます。
座禅状態で精神を集中していることを利用して、仙人モードへと変化。
『仙法・超大玉螺旋丸』を仕掛けます。
――が、九尾は自分の九本の尾を盾に防御。
螺旋丸を一喝するだけで掻き消してしまいます。

「ワシに勝てると思っているのか?」

降りかかってくるような九尾の連続攻撃を
なんとかかわし続けていくナルト。

「じゃねーと封印開けたりしねーだろ。それに…」

隙を縫って別のナルトが九尾の尾を掴み、
仙人モードによる尋常じゃない力で九尾をなんと投げ倒します。
さらに追撃で螺旋手裏剣。
九尾はこれをまともに喰らいますが、そこはさすが九尾。
かなりのダメージは受けたけれど、致命的とはなりません。

2.九尾VSナルト(2)

九尾のチャクラを引っ張るチャンスを手に入れたナルト。
しかし、九尾はそのチャクラにどす黒い憎しみを込めます。
ナルトの中で小さくなっていた憎しみが膨れ上がります。

「お前にワシの力をコントロールする事などできん!
 お前はワシの憎しみの小さな一部にすぎん!

と九尾。なぜ九尾などの尾獣にこれほど強い憎しみが存在するのか。
それはまだ明かされていませんが、(明かされるべきと私は考えています)
おそらく人などという自分に比べれば到底小っぽけな存在に、
人柱力なる形で、自由を奪われて利用されていることに起因するのでしょう。
ナルトに浮かんでは消える人々の呪いの声は、
この九尾の憎しみによって再び掘り起こされたナルトにある憎しみの源です。

「九尾の憎しみ、思ったより強すぎる!!
 本当にヤバイかもしれん! かなりの試練!!」

憎しみに包まれるように、ナルトを九尾の衣が包んでいきます。

「消えていなくなれ!!」

ナルトを包む憎しみは、ナルトを飲み込もうとします。
ビーの言葉を聞いて、ヤマトが抑えにかかろうとしたとき、

「いいえ……ここに居ていいのよ…。ナルト…。」

ナルトの心の中に母・クシナが現れるのです。

3.クシナ

さて、このクシナの登場として考えられるのは、

  • (1.1)九尾の封印にクシナが関わっている
  • (1.2)幼い頃のナルトの記憶

です。ここで、
自来也とミナトとクシナ】*1にて、
なぜナルトに波風姓を名乗らずうずまき姓を名乗らせたか、

  • (2.1)波風ミナトが渦の国の人と結婚し子供が出来ていたことを伏せるため。
  • (2.2)九尾を封印されたばかりの赤子の頃のナルトはクシナが引き取って育てていたが、何らかの事情ですぐにクシナが死去し、孤児となった。

と考えました。
まず(1.1)について考えてみましょう。
うずまきクシナ*2では、
クシナはもともと元渦の国出身者であることに触れました。
このときクシナがなんらかの理由で、
幼い頃(とはいっても元渦の国の忍であったのでそこそこの年齢)に、
木ノ葉へとやってきたということが自来也綱手の会話で読み取れます。
ここで、もしクシナが九尾の人柱力であれば語られると思うので、
この時分で(つまり自来也綱手が話題に上げる彼女の年代では)、
クシナは九尾の人柱力でないことが濃厚になります。
および、モトイの言葉、

「人柱力というのは裏切りがないよう、
 昔から五影の兄弟や妻など、
 近い血縁関係にある人物が選ばれるのが常だ。
 人柱力は里長である影を守る力であり、
 影の力を誇示する存在でもある。」

とあるので、クシナと九尾が関わるとすれば、
四代目・波風ミナトと夫婦となった時以降
です。
しかも夫婦となって以降、九尾の人柱力になった可能性もありえません。
もしもクシナがこの段階で九尾の人柱力であったら、
ミナトが仮面の男による策略で九尾が里を襲った、
とだけしか言わないことはないはずです。*3
母(クシナ)が殺され、九尾が解放された――
という事実がすっぽり抜け落ちることはないでしょう。
それにミナトは生まれたばかりのナルトへと九尾を封印するわけですが、
そのナルトが生まれるためにはクシナが生きていなければいけないわけで、
九尾の暴動→ナルト誕生→九尾封印の決定的事実があるわけです。
その九尾封印の段階、
こちらにクシナが関わっていた可能性が高いでしょう。
この母と子の再会は、ミナトとナルトの対話のように、
クシナが思念体としてナルトの中にあったとすれば、
(つまりこのクシナとナルトが精神世界で会話するようであれば)
(1.1)は揺ぎないものとなります。
九尾解放の寸前でミナトが出てきたのに対し、
九尾解放状態でクシナが出てきたことには深い理由<わけ>があるでしょう。


――さて、一方で(1.2)ですが、
幼少のナルトは四代目の息子であることを伏せられて育てられていました。
なぜ母方の姓を名乗らせたのかは(2.1)(2.2)のような理由が
考えられますが、主な目的として不要な危険などを避けるために、
四代目の息子であることを伏せる、ということが直結するでしょう。
(事実ミナトも三代目が何も言わなかったのは、
 上述の理由であると推測しています。)
もし(2.2)のように幼少のナルトが母と暮らしていた期間があれば、
(1.2)のようにナルトの記憶の中で母の言葉としてよみがえるのが
もっとも考えられうることです。
「消えていなくなれ!!」との心無い言葉に呼応するように、
クシナが「ここに居ていいのよ」とナルトを肯定する発言をする、
その流れはふと思い出した記憶の一コマで自然であるように思います。