510 『まさかの禁術』

1.まさかの禁術(1)

「時空間移動は失敗のようね。
 アナタの隣りに、今まで、ただ居た訳ではない。」

小南が作り出す紙の海の中の空間。
起爆札がトビを覆い、あらゆる動作を封じようとします。

「(アナタは己を吸い込む時必ず実体化する
  そして…それは自分以外のものを吸い込む時より…遅い…。)」

トビの奇怪な術の正体はやはり時空間忍術だったようで、
しかも自身をその術の対象とするときは、
対称を他者や物体とするときよりも若干時間がかかるようです。

「時空間で飛ぶのを止めて、
 …爆発をすり抜ける方へシフトしなければ…、
 確かにヤバかったかもな…。」

トビの周囲を覆う起爆札は、
小南が意図する任意の時間に爆発できるようです。
いつ爆発が起こるか予想できず、
迂闊に術を発動するなら、
その術の効力が可能となる時間よりも速く
起爆札の爆発がトビにダメージを与えます。

「(…そしてアナタが物質をすり抜けていられる時間は約5分!)」

さらにトビの時空間忍術の効果時間があり、その時間は5分のようです。

「アナタを殺すために用意したこの6千億枚の起爆札…
 10分間起爆し続ける!!」

6千億 = 6 \times 10^11 枚ですから、
10分間、すなわち 6 \times 10^2 秒爆発し続けます。
誘爆等を考慮しなければ、
1秒間に10^9枚、すなわち千万枚が、
\frac{1}{10^{9}} 秒(=1ナノ秒)に1枚が爆発する計算です。
これはとてもじゃないですが、防ぎきれる速さではありません。
そしてついに爆発が一斉に始まったのです。

「(弥彦も長門も己の考えで動いた…。
  彼らはアナタのコマなんかじゃない!
  どんな形でアレ、己の意志のために戦って死んだ!
  だからこそ!! その意志は繋がっている!!
  邪魔はさせない!!)」

つながりを信じて託された意志。
それは平和への架け橋。
そして命を賭した二人の生き様を、
否定するようなことは断じて許してはならない。
小南の想いがすさまじい数の起爆札の爆発を制御し続けます。

「(神の紙者の術が…解けた…。ここまでのチャクラが…
  必要になるとは思わなかったけど…これで……)
 マダラは…確実に…」

膝を落として疲労困憊の様相を見せる小南。
それはトビを処理しなければならないという
使命感の解放からくる安堵だったでしょう。
――そう、最後の最後、小南は隙を見せてしまったのです。

「死んだ、かな?」

トビがその背後から現れ、言葉を継ぎます。
普段仮面で隠されていた左目の方にも写輪眼が――!!
長門と弥彦の死体が安置されている霊廟。
小南が弔いの供え物として捧げてきた紙の薔薇が
不吉な様子を表すように散っていきます。

2.まさかの禁術(2)

「どうして…。確実に死んだはず…。
 何度もシュミレーションして…この手順なら…
 アナタを倒せたはず…なのに」

貫かれた刃の激痛に耐えるように、小南が言います。
トビは答えます。

イザナギ…。光を失う事と引き換えに、
 幻と現実を繋げる事のできるうちはの禁術…。
 うちはと千手…。この両方の力を持つ者だけが許される瞳術!」

そう。トビもこの術を使うことができたのです。

「…うちはと千手…両方の力……?
 …それは…六道の力…。アナタにはそんな力は…」

小南もトビが千手の力まで手にしているとは思っていなかったようです。
かつてデイダラとともに現れたトビとサスケが対峙し、
トビをサスケが一刀のもとに斬り伏せるシーンがありました。
あのときも手ごたえや感触はあったはずなのに、
全くそんな事柄などなかったように、
トビは起き上がって見せたこともありました。
――あれもイザナギだったのでしょう。
しかも、リスクの高いイザナギ
そんなに易々披露できたのには理由があったのです。

「…イザナギとは、本来、お前の言う六道仙人の
 “万物創造”を応用した術の事だ。
 もともとうちはと千手は一つだ。
 その二つの始祖である六道仙人は、
 その二つの血と力を持ち、あらゆるものを創った。


 想像を司る精神エネルギーを元とする陰遁の力…
 それを使って無から形を造り、
 生命を司る身体エネルギーを元とする陽遁の力…
 それを使って形に命を吹き込む。


 尾獣達もその一つ…。
 十尾のチャクラから陰陽遁を使い、各尾獣達を創造した。
 想像を生命へと具現化する術。それがイザナギ。」

チャクラを自在に操った六道仙人。
その神憑り的な力は、無から有をつくりだすことに留まらず、
生命をも創りだしてしまうほどのものでした。
千手柱間の木遁にその片鱗を見る事ができるでしょう。
千手の中で歴代最高の力を開花したであろう柱間の力を
トビはどのように獲得したかはわかりませんが、
それゆえイザナギをも自在に操ることができるのでしょう。

「アナタは…一体何者……なの…?」

そう思わずには居られないでしょう。
誰もが知らない六道仙人やその真実を知り、
誰よりも写輪眼の力を使いこなす人物。

「うちはマダラは世間では千手柱間に負けたとされている。
 ……しかして、真実はどうなのか?
 勝者とは先を見据えた者…。
 本当の勝負はこれから……。
 かつての戦いは奴の力を手に入れるためのもの。
 オレは千手柱間の力を手に入れたうちはマダラ
 二人目の六道にして今は唯一の存在。
 クク……柱間の力を制御できずに、
 不完全なイザナギを披露した輩は数いたが…。

このトビの台詞は2,3の疑問を生みます。

    • 本当の勝負はこれからだが、柱間の力は手に入れた

柱間との勝負に敗れたマダラ。
しかしなんとか柱間の力を手に入れ使いこなせるに至った。
でも――完全勝利とは言いがたいのでしょう。
月の眼計画がトビの本懐、勝負なのです。

    • 千手柱間の力を手に入れたうちはマダラ

しかし、トビは千手の力を制御できてはいても、
うちはマダラの力は不完全であるようなことを言っています。

「全てが本来の形に戻るのだ…
 写輪眼の本当の力が…このうちはマダラの力が。」

という台詞は記憶に久しいでしょう。

    • 不完全なイザナギを披露した輩は数いたが…

イザナギという術に挑んだのはダンゾウだけではなかったでしょう。
かつて万華鏡写輪眼開眼のために
親兄弟をも歯牙にかけることを厭わなかったうちは一族。
イザナギという禁術に挑戦しては、
不完全に終わった人物はたくさんいたと推測されます。
論点はここではなく、柱間の力を制御できずにという点です。
つまりダンゾウ以外に柱間の力を取り込んで
イザナギを体得しようとした人物が他にもいたようです。
それはダンゾウと大蛇丸の人体実験によるものか、
はたまたマダラを支持した同門うちは一族の誰かか…
マダラの弟のうちはイズナは、兄に眼を差し出したとはいえ、
移植等の可能性も残されているので、
最も当てはまる人物といえそうですが。

「そろそろ長門と会えそうだな。
 向こうに行ったら二人で後悔するといい…。
 ナルトの戯れ言に乗せられた事を。
 本当の平和など無い!
 希望など有りはしない!
 長門はナルトを信じる事で、
 哀れだった自分を慰めたかっただけだ。」

そう言い切るトビ。
絶望しかける小南の目にふと空が晴れ渡っていくのが見えます。
止むことのない雨隠れの里の雨が、止みます。

「弥彦! 長門! …彼らの意志は消えない!
 私もナルトを信じてる! 
 今度は彼が…平和の架け橋になる男だと!!」

平和への架け橋を表すように空に架かる虹の橋。
虹を見て、小南の決心は再び確固たるものとなります。

「(ありがとう長門…………
  死んでなお私に希望を見せてくれて!)」

小南は長門に心の中で感謝して、
最後の力を振り絞ってトビを倒そうとしますが――

「お前はオレの事を闇だと言ったな。
 ならオレがお前を枯らせる…。そして…、
 七色に輝くこの虹の架け橋とやらも…闇の中に消してやろう。

敢えて光(希望)を求めない――
その生き様はサスケと重なります。
トビにはここまで言わしめるほどの
絶望のようなものが心の中にあるのかもしれません。

「幻術をかけ終わった時、お前も終わる。
 …輪廻眼の場所を吐かせてからだがな…。」

――そして小南は覚めることのない眠りにつくのです。


霊廟に足を踏み入れるトビ。

「お前は…三人目の六道…。
 うずまき一族の末裔の証である赤い髪
 白に変色するほど力を…。」

なんと長門はうずまき一族の流れを汲むようです。
赤い髪をもつからと言って、
必ずしもうずまき一族とは限らないでしょうが、
長門はその強靭で膨大だったチャクラの量といい、
どうやら確実でしょう。
ナルトに自分の平和への意志を託したのも、
そういう縁<えにし>によるものもあったかもしれません。
余談ですが赤い髪といえば香燐も――ですね。

「裏切ってなおオレを笑うか。」

長門が何をもって自分を裏切ったのか、
トビは理解に苦しんでいるところでしょう。
輪廻眼をもち、六道仙人の再来とトビ自身が認める長門
その意志は託され、心持ち朗らかに見える死に顔に、
トビは自身が目指す世界を否定されるようで
心穏やかではいられないようです。