656『交代』

1.交代(1)

「(――ナルトの道か…。)」

今一度カカシの言った言葉の意味を
反芻しながら頷くオビト。

「…かもな。」

失敗うんぬんでなく、
支えてくれる人々の想いとつながり。
それが力となることを、
ようやく理解したのです。

一方で柱間とマダラの戦いも、
決着がつくような形です。

「お前からチャクラを吸収する木龍ぞ!
 これでお前のチャクラを吸収する忍術も意味をなさん!
 つまりもう動けず、必ず、
 次の忍術は吸収できんという事だ!!」

と柱間。

「いい間だぞ。四代目の息子よ!
 これを決めてそのスキに封印する!!」

ナルトの特大螺旋手裏剣が、
マダラをとらえようとしています。
そして螺旋手裏剣後、
弱ったマダラを封印しようと忍たちも動き出します。

「ナルトが投げたって事はあそこだ!
 あそこにマダラが居るぞ!!」

放たれた螺旋手裏剣。
ナルトはサイの《超獣戯画》によって生まれた鳥にのって、
マダラへと迫ります。

「守鶴…。
 …マダラを封印するのに、
 お前の砂の力を借りたい。」

また我愛羅もナルトに続くべく、
かつて宿していた尾獣――、
一尾・守鶴のもとへ赴き協力を要請します。

「砂漠層大葬か?」

気怠そうに守鶴が訊き返します。

「そうだ…。
 それも特大のな。」

と真顔の我愛羅を見て、
皮肉るように笑う守鶴。

「ワハハハ!
 人柱力に縛られる事もなくなったってのに、
 わざわざお前の言う事を今さら聞くと思うか?」

そんな守鶴に、
我愛羅は動じることもなく言葉を続けます。

「命令したんじゃない……。
 頼んでいるのだ。
 嫌ならばいい……。
 他の者の力を借りるまでだ。」

決して見下したり命令しているわけではない。
必要としているから協力してもらいたい――
その想いに守鶴は曲げていた臍を戻します。

うずまきナルトか……。
 あの化け狐のヤローと
 ずいぶんお友達になったみてーだな、我愛羅…。」

と守鶴。
しかし今は四の五の言っている状況ではありません。

「強力しないなら、話は後にしてくれ。
 オレは行く。」

我愛羅も守鶴の決断を急かすように言います。

「ケッ! そういう言い方されると
 カチンと来るな…!
 狐七化け、狸八化けってな!
 バカ狐に負ける化け狸様じゃねーぜ!」

もちろん守鶴も元から協力するつもりだったようです。
ただ、素直に協力しようにも、
プライドが邪魔をして素直になれなかっただけ。
でも、そのプライドの行き先を、
自身がライバルとする"化け狐"に向けるなら話は別。

「オレはお前の頼みを聞き入れたんじゃねェ!
 オレ様の意志で動く! 案内しろ!」

と意気込む守鶴。
そんな二人のところへ駆けつけた他の尾獣たち。

「オレ達も協力してやる。
 ――安心しろ。オレ達は気まぐれでやるんじゃない。
 ナルトを助けたいからだ。」

と尾獣たちを代表して四尾・孫悟空
我愛羅も心強い思いです。

「…感謝する。」

自分たちと同じように
ナルトへの特別な想いを感じたのか
孫がふと訊ねます。

「砂の忍の人間…。
 お前もナルトの知り合いか?」

その問いに我愛羅は力強く答えるのです。

「ああ…。
 最初の友だ。」

「! …そうか…!」

その答えに妙に納得するかのように孫。

「…よし急ごう!!」

尾獣たちの協力をとりつけて、
ナルトのところへ向かいます。

2.交代(2)

「(ナルトの術で倒せはしなかったが、
  これで奴の動きを完全に封じることができた…)」

《木遁・木龍の術》からのナルトの特大螺旋手裏剣。
マダラを完全に倒すまでにはいかないのものの、
力を削ぎ、《封十》のように鳥居を使った封印術で、
完全にマダラの動きを封じ込めた柱間。

「これで封印の忍を待つのみぞ!」

マダラを追い詰める包囲網。
余裕のないはずのマダラですが、
なぜかその表情には笑みが――
一方、十尾を抜かれ弱り切ったオビト。

「十尾の人柱力は他の人柱力と違う…。
 尾獣を抜いても死にはせん。
 十尾の殻…、つまり外道魔像が残るからな…。
 ありゃ相当の生命力だ。」

陰の九尾がミナトに知らせます。
十尾を九つに分かち、分散させた六道仙人。
その生命力の強さは並大抵の人柱力ではありません。
そしてそれは同じく十尾の人柱力となった
オビトにも当てはまると言える。
そのことをカカシにも伝えます。

「今までの行為に対してきっちり
 報いてもらおうと思っていたが…
 動けないなら仕方ない――
 お前はそこでじっとしていろ。」

とオビトに声を掛けるカカシ。

「先生…オビトを見張っていて下さい。」

そうミナトに託そうとした矢先、
何やら印のようなものを結び始めたオビト。

「何をしようとしてる!?」

訝しがるミナトに、
オビトは遠い目をしながら語ります。

「…かつてオレが…利用しようとした男が…
 オレを裏切った手段だ…」

とオビト。

「まさか――」

カカシはハッとします。
自分が甦ることのできた
ペイン――長門のあの術です。

「自分も同じ事をするとは…
 思いもよらなかったがな…。
 外道…輪廻天生の術だ。」

そう長門がナルトの想いに託し、
自らの命を擲って、
多くの命を返した術《輪廻天生の術》。

「…その術は、代わりにお前が…」

とカカシ。
大罪を犯した大敵とはいえ、
再び分かり合えた友をまた失くすかもしれないことに、
戸惑いのようなものを覚えたのか、
カカシは言葉を詰まらせます。

長門がかつて…
 なぜオレを裏切ったのか…
 今なら分かる気がする…。
 …数珠繋ぎの重なった人の想い…
 それも強い力になるんだな…」

かつて裏切った長門が、
ナルトに託したという想い。
なぜ、長門がそんな事をしたのか――
その繋がりを信じようとした彼の気持ちが、
いまようやく理解できたとオビトは言います。

長門もナルトも自来也の弟子だった……。
 オレは…自来也という人間に負けたとも言える…。
 先生…アナタの師であり、
 アナタを火影として育てた人…
 そしてオレは…アナタの弟子…
 火影をあきらめ…繋いだ想いを切った忍…。」

とミナトに謝るように、
そして自分のしてきたことを悔いるかのように
オビトは言います。

「向こうでリンに……
 合わせる顔が…ないか…。」

リンが信じてくれた自分を
それを裏切り続けてきた自分――
オビトはそんな自分が嫌になったのです。

「…本当に、それでいいのか…?
 生きて…償うことだってできるんだぞ…」

とカカシ。

「イヤ…そんななま易しい……」

言いかけたオビトを、
何者かが力強く抑えつけます。

「今度ハオレモ協力シテヤル!」

現れたのは黒ゼツ。
そう彼こそマダラの影そのもの。

「交代だ」

マダラの笑みは勝ち誇ったかのようになります。

「今度はこちらが攻める番だ。」

封印しようとしたサイとナルトを振り切り、
ついにマダラが本懐を遂げるべく、
動き出すのです。

「ナルト。お前には感謝している…。
 オビトから尾獣共まで抜いてくれた…。
 奴を弱らせる手間が省けた。」

黒ゼツに取り込まれていくオビト。
カカシもミナトも不意を突かれ、
ただ立ち尽くすばかりです。
廻天生の術――
それはもっとも恐ろしい人物を甦らせてしまうのです。

「やっとまともに戦える!
 やはりこの体でなければ!
 血湧き肉踊ってこその戦いだ!!」