498 『母ちゃんの赤い髪』

1.母ちゃんの赤い髪(1)

「何だ? どうしてこんなとこに人が!?
 それに何でオレの名前を知ってる!?」

と警戒するナルト。
それもそうか、とクシナ。
自分が誰であるか、当てるように言います。

「お前! 九尾の正体だな!!」

――と、ナルトが疑ってかかると、
クシナはお腹を抱えて笑います。

「なんという野蛮な笑い!!
 女に化けてオレを騙すつもりだったな九尾の…」

ナルトは本気でクシナが、九尾が化けた姿だと思ったようです。
九尾も狐だけに。

「違うってばね!!」

とすかさずグーで突っ込むクシナ。

「生まれつきせっかちで、早口だから、
 変な口癖が付いちゃって…。
 アナタは大丈夫だった…?
 私みたいに変な口癖が出てなきゃいいけど…。」

クシナのこの言葉でようやくナルトは、
目の前の人物が誰なのか、理解したようです。
「てばよ」というナルトに似た口癖があるのは、
やはり親子。

「……じゃあ…」

微笑みながらクシナは優しい口調で語りかけます。

「ミナト何も言わなかったのね。もう…。まったく。
 …そう、私はアナタの…」

言いかけたところで抱きつくナルト。

「……ずっと…、ずっと…会いたかったてばよ…。
 母ちゃん…!」

ナルトの同期の友達たちとその親を見るたびに、
親の顔を知らないナルトは、
自分の中の淋しいという気持ちを必死で堪えてきたはずです。
それが思わず噴き出した――そんな感じです。
ミナトの時もそうでしたが、
ミナト(父)に最近ようやく会った分だけ余計に
クシナ(母)に会いたいという気持ちは大きかったでしょう。

「…“てばよ”…かァ…。
 …やっぱり私の子ね…。」

とクシナ自身も何か感慨深げの様子です。
一方外ではナルトの九尾化が止まった様子。
クシナの登場で、ナルトが憎しみに飲まれずにすんだようです。

「母ちゃんに会ったら…聞きたい事がいっぱいあったんだ!」

と嬉々とした様子のナルト。

「…うん…。ゆっくり聞くわね…。
 …その前に九尾をおとなしくさせなきゃ!」

クシナとナルトがいる場所は、
ナルトの精神の中、という点は共通しているようですが、
どうやら九尾とナルトが戦っている場所とは違う場所にいるようです。
九尾の憎しみに飲まれそうになっていたナルトから、
なにやら鎖のようなものが飛び出てきて、九尾を縛り付けます。

「このチャクラ…。クシナか…!」

九尾はクシナのことを知っている様子。
九尾をおさえつけるチャクラの鎖の正体を、
鋭敏に感じ取っているようです。

2.母ちゃんの赤い髪(2)

再びクシナとナルト。

ミナトはアナタが九尾の力をコントロールする時の為に、
 私のチャクラを封印の式へ組み込ませていたの。

 ナルトの力になれるようにって…。」

ミナトによってクシナのチャクラも封印式の中に取り入れられたようです。
ナルトの世界では、他人の精神に自分の思念体を
チャクラを媒体として送り込むことで、
その精神世界での会話を可能としているようですが、
そこに登場する姿が若いことから、
送り込まれたチャクラが精神世界で形成する容姿等は
思念体を送り込んだときの術者の年齢
そのまま反映しているようです。

「母ちゃんが美人な人でよかった!」

そう笑みを浮かべながら話すナルト。

「そりゃどーも! フフ……。
 髪は父親似だけど顔は私に似ちゃってごめんなさいね。ナルト。」

とクシナは、ナルトに言います。

「何で? 美人の母ちゃん似なら、オレってば美男子って事だろ?
 それに母ちゃんの髪だってキレーな赤でストレートだし…、
 そっちも似たかったってばよ!」

母親の髪の色を見て、
ナルトはそんな風につぶやきます。

「私の赤い髪を褒めてくれた男はこれで二人目ね。」

一人目はもちろんミナト。
ナルトの父親です。
それを聞いてナルトは、ミナトとの馴れ初めをクシナに訊ねます。
何でも聞いていいよ、という姿勢だったクシナも
予想外だったのか少し当惑気味に頬を赤らめ、

「な…何か…恥ずかしいってばね…!」

とナルトのリクエストに答えて昔語りをはじめるのです。

「下忍の頃、私は他里から引越して来たから、
 木ノ葉の事はよく知らなくて…
 お父さんと初めて会った時はまだ二人共幼かったの。」

クシナが渦の国から“すでに忍として”越してきたというのは、
自来也綱手の会話から既知の情報でしたが、
ではいつ頃――というのが今回明かされるわけです。

「引越してきたその日のアカデミーの授業で、
 将来の夢を発表しなくちゃならなくて、
 私は皆になめられたくなくて、こう言った。
 女性で初めての火影になってやる!……ってね…。」

どうやら描写から察するにクシナは下忍として、
アカデミーに来た際にミナトと知り合ったようで、
しかも同期の様子です。
そんなわけで、赤い髪に丸顔の様子から
クシナもクラスの男子にトマトといってからかわれ、
そんな男子を半殺しという修羅の道(?)を歩むうちに、
トマトはいつのまにか激辛のハバネロへと進化。
(ナルトはこのエピソードを聞いて、恐れおののき、
 キバやシカマルが語る母親像を思い浮かべ妙に納得しています。)
“赤い血潮のハバネロ”なる仰々しい通り名がつけられた逸話も
ナルトに話しています。

(本人はこのように語っていますが、
 後述のミナトの通り名“黄色い閃光”のように、
 忍としての活躍があって仰々しい通り名がついたとも考えられます。)

――そんなクシナですが、ミナトを意識するようになったのは、
ある事件が起きてから。その事件とは、
雲隠れの忍にクシナが拉致されるというものです。

「…私には少し特別なチャクラがあってね…。
 それを狙って雲隠れの里が私をさらった事があったの。
 その時つれさられていく中で私は敵の足取りを残すため、
 とっさにこの赤い髪を切って道に落としていった。
 敵に気づかれないように…。」

木ノ葉からの捜索隊も難航していた様子。
国境間際まで連れて来られていた、その時――

「そうミナトが唯一駆けつけて私を助けてくれたの。
 ただ一人…私の赤い髪に気付いてくれた。
 キレイな髪だからすぐに気付いたって言ってくれた。
 その時のミナトはとても立派な忍者に見えた。
 夢を叶える人だと思わせてくれた。
 そして何より彼は私を変えた…。」

ミナトが自分の赤い髪を、ただ一人追って助けに来てくれたこと。
コンプレックスだった赤い髪を綺麗だと言ってくれたこと。
クシナの中でミナトの存在がとても大きなものへとなっていったのです。

「この大キライだったただの赤い髪は、
 私の中で運命の人を連れてきてくれた…。
 “運命の赤い糸”になってくれた。
 それ以来、自分の髪を好きになった…。
 そして何よりミナトを大好きになった。」

つまりこの事件までは特別にミナトを意識することはなかったわけで、
本人の口からも、そのような事実が語られています。
この頃、下忍であったことから、ミナトは自来也に師事していたはずです。
ミナトの班にも女の子の忍がいますが、*1
クシナとは違って髪は短めで結わえています。
(実は今回の498話でもミナトが火影の夢を語るときに、
 ちゃっかり後ろの席に座っています。)
何より髪の色が違います。
したがってこの女の子はクシナではありません。
綱手がクシナのことをよく知っているような発言からすると、
クシナは綱手に師事していた可能性が高いと思われます。

「私の髪を褒めてくれた男にだけ私から贈る、
 大切な言葉があるの…。ナルト…受け取ってくれる?」

託<かこつ>ける形でクシナは言いますが、
母子ですからそんな前置きはいらないでしょう。

「アナタを愛してる。」

少し照れながら、下向きになるナルト。
小さい頃、孤独だったけれど、
見放されたわけではなくて、
両親はちゃんと自分を見守っていてくれた。

「木ノ葉の黄色い閃光と、
 赤い血潮のハバネロが合わさったら…」

とのクシナの言葉にナルトは待ちきれずに、

「木ノ葉のオレンジ火影だってばよ!!」

と自分の橙色のジャージを見せ付けて言うのです。

3.クシナの生死

ナルトが生まれて間もなく九尾は封印されました。
クシナは産後間もないころだったはずですから、
封印式にクシナのチャクラをクシナ自らでなく、
ミナトが組み込んだ状況は考えやすいです。
ではミナト屍鬼封尽後、クシナはどこへ行ってしまったのでしょう。
封印式に組み込むといっても、まさか全てではないはず。
もしクシナのチャクラ“全て”を封印式に組み込んだのなら――
ミナトがナルトの中で登場後すぐに消えなければならなかったのに、
クシナは長期間ナルトの中に存在し続けているということが、
組み込まれたチャクラの量を表しているかのよう。
その可能性もありますが、
九尾との戦い――そして屍鬼封尽によって、
ナルトにとって父親がいなくなってしまうのがわかっている状況だけに、
母親としてクシナはたとえナルトの中から見守るとはいえ、
ナルトの目の前から消える選択肢を選ぶでしょうか。
――否、選ばざるを得ない状況であったのか。
もしくはナルトが乳児ぐらいの頃は面倒を見ていたのかもしれませんが、
その雲隠れも目をつける特殊なチャクラゆえ、
何か事件に巻き込まれたとか――
この段階では依然としてクシナの生死がはっきりしません。

*1:122話『受け継がれゆく意志』14巻94P