503 『ミナトの屍鬼封尽』

1.ミナトの屍鬼封尽(1)

攻撃を誘って飛雷神の術からの螺旋丸。
仮面の男は透過させる術を使えず、
実体化の隙をつかれ螺旋丸を直撃させられるも、
なんとか軌道をそらして致命傷は免れた様子です。
左腕から左肩あたりを負傷した様子。
血がどろどろと流れます。
仮面の男は離脱し間合いをとりますが――

「(飛雷神の術!! そうか…!!
  オレの体のどこかにマーキングを!!)」

瞬く間にミナトは再び飛雷神の術でとどめにいきます。
先ほどの螺旋丸で接触したとき、
飛雷神の術のためのマークを入れていたようです。

「!! 契約封印!!
 オレから九尾を引き離す気か!?」

と仮面の男。
ミナトが九尾と仮面の男がつながる契約の印。
これを解約させたようです。

「これで九尾はお前のものではなくなった!」

ミナトの解印と同時に里で暴れていた九尾は、
写輪眼による制御を解かれ自分の意思を取り戻した様子。
でも破壊の限りを尽くすことをやめません。
イルカも両親とともにいますが、母親が負傷し、
父親にイルカだけでも逃げるように言われます。

「イヤだ!! とーちゃんとかーちゃんを置いて
 一人だけ逃げたくなんかない!!
 ボクがかーちゃんを守る!」

負傷した母親をかばう様子を見せるイルカ。

「ガキが図に乗るな!!
 子供を守るのが親の役目だ!!」

でも父親が断固としてそれをさせない様子です。
手厳しく聞こえるかもしれませんが、
これは子を想う親の愛ゆえでしょう。
イルカの父親は、子供をなんとしてでも守るために戦います。

「里の外へは追いやった。
 次々にしかけるのじゃ!」

三代目の掛け声とともに、
陣を組み九尾へと向かっていく忍たち。
三代目はミナトの行方も同時に気にかけているようです。

「さすが四代目火影
 このオレに手傷をくれ九尾と引き離すとはな…。
 だが九尾はいずれオレのものとなる…。
 オレはこの世を統べる者…。
 やりようはいくらでもある。

そう不気味な言葉を残して、
空間の中へ渦を巻いて消えていく仮面の男。

「(……あの感じ…嘘で言ってるんじゃない…。)」

いずれ九尾よりも厄介な災厄となる可能性を秘めた男。
ミナトの認識は確固たるものとなっています。

「いいか。お前ら若い世代は九尾に近付くな…。
 これは他里との戦争ではなく、里内のゴタゴタだ。
 お前達が命をかけるものではない。」

その頃林の中に集められた若き忍たち。
カカシ、ガイ、アスマ、紅の姿もあります。
紅は自分の父親に異を唱えます。
どうやら彼らを取りまとめた忍は紅の父親のようです。

「お前だって忍だ。いつまでも生きてられる訳じゃない…。
 だが娘よ…。お前は女だ。
 せめてワシの孫となる子に火の意志を託せ!
 それを父との約束にしてくれ。
 ……お前を信頼してるぞ。」

そう紅に言い聞かせ、
若い世代を守るためにも、紅の父は九尾へ挑むのです。
しかし、里内のゴタゴタとは、
紅の父親は何かを勘繰っての発言です。
九尾は三代目火影とそれ以外の数名しか知らない、
三忍にも秘匿されていた事項である九尾の人柱力“クシナ”。
この事実を知らないとき、
なぜ降って湧いたように九尾が現れたのか――
考えないことはないでしょう。
この時、一般の忍たちには
どのように九尾のことが伝えられていたのでしょうか。
その昔初代柱間の妻が九尾の人柱力であったのは、
うちはマダラと柱間の戦いが知られているように、
広く一般認識であると考えられます。
しかし、そこからクシナに九尾が伝わったのは極秘事項。
その隔たりは、

    • (a)“誰かが人柱力になっている”という認識

か、あるいは多くの人が天災と考えたように、
また自来也が何者かの口寄せと考えたように

    • (b)“里の外に九尾がいる”という認識

のどちらかによって埋められているはずです。
ここで紅の父親は里内のゴタゴタと言い切っています。
この九尾の問題が(a)、(b)どちらの観点に立つにしろ、
そこには何者かの故意があるのでは、
と見ることができるでしょう。
そして紅の父親はその何者かの故意に気づいているからこそ、
里内のゴタゴタと限定した言い方をしたと見て取れます。


九尾と写輪眼に関する南賀ノ神社本堂の隠された碑文。
それを読めるのはうちは一族だけ――です。
つまり九尾を操っているのはうちは一族――
と断定するまでの情報は持っていないでしょう。
しかし何かしらこの頃からクーデターに向けて
不穏めいた動きがあったのではないでしょうか。
そして、九尾と直接は結びつかないにしろ、
もしかしたらうちは一族が関係しているのではないか、
と紅の父親が勘繰ることは可能です。


出かけていたというフガクやミコト。
その他うちはの警務部隊の面々――
彼らは描かれていませんが、
いったいどこへ行ってしまったのでしょうか。
紅の父親も同じことを考えていたはずです。
ひいてはそれが後々ダンゾウに目をつけられる理由となり、
九尾事件がうちは一族によるものだと――思われてしまった。
その理由は鶏が先か卵が先かにもなりますが、
うちは一族のクーデター画策は、
戦争終結間もないこの頃に始まっていても、
むしろ自然なタイミングだと思えます。
しかし、もしそうだとするなら、
四代目火影の妻であるクシナと
楽しそうに会話していたうちはミコトが、
少し恐ろしいですね。

2.ミナトの屍鬼封尽(2)

脱線しますが、
カカシの誕生日は9/25かつ九尾事件はx-13年10月10日より、
カカシはこの時14才*1で、
この九尾事件の前年はあの神無毘橋の事件があった年です。
カカシはミナトの班で任務をこなし、
戦友であるうちはオビトを亡くしました。
そのときはミナトは四代目火影ではなかったと考えられます。
――ということはこの一年ほどで、
ミナトは四代目に就任したと考えることができるでしょう。
忍界大戦が終結し、新しい時代を新しい世代にたくすという形で、
うら若きミナトが四代目火影として選ばれたのでしょうか。

「(ひどい……!!)」

さてそのミナトですが、木ノ葉へ戻ってきて、
九尾の暴れぶりを改めて認識させられます。
三代目も負傷しています。
九尾は口を開けチャクラを凝縮し、
いまにもその凄まじいエネルギーを解放しようとしています。
ミナトはすかさず口寄せの術でガマブン太を口寄せ。

「これほどの大きなものを飛ばすのは、
 それなりのチャクラがいる!」

ガマブン太に時間稼ぎをしてもらって
その後、何とか九尾とともに飛雷神の術で移動。
木ノ葉の里から離れた場所へ。
九尾がチャクラを凝縮しいまにも放とうとしていましたが、
なんとか木ノ葉での爆発は防ぎます。

「……私はまだ…やれるわ……。
 ミナト…。」

そこにはクシナの姿が。ナルトもいます。
チャクラの鎖のようなもので、
九尾の自由を封じます。
飛んできた先はおそらくミナト-クシナ夫婦の自宅。
里からは離れたところにあったのでしょう。
ただならぬ気配を察したか、
寝ていたナルトが大きく泣き喚きます。

「起こしちゃった……わね…。
 ごめんね…ナルト…。」

息も絶え絶えのクシナ。

「このまま九尾を…、
 引きずりこんで…死ぬわ……。
 そうすれば…、この先九尾の復活時期を……
 伸ばす事が…できる。
 今の残り少ない私のチャクラで、
 アナタ達を助けるにはそれしかない。」

クシナにとってはそれは非常に辛い決断でしょう。
生まれたばかりの我が子。
もっとずっと一緒にいたいのに――
3人が幸せである家庭が垣間見えたはずなのに――
それでも、愛する我が子と愛する夫のために。
自分はやらなければならない。

「………クシナ。…君がオレを……、
 四代目火影にしてくれた…!
 君の男にしてくれた…!!
 そしてこの子の父親にしてくれた…!!
 それなのに…!」

ミナトは最愛の妻の離別の言葉に、
悲痛の想いでいっぱいです。

ミナト…そんな顔しないで。
 私はうれしいの…。
 アナタに愛されてる…それに……

でもクシナは悲しい表情を浮かべません。
最愛の人に愛されていると実感できる。
――それだけでも、嬉しい。

「今日は…この子の誕生日なんだ…から……。
 なにより…もし……私が…生きてて…、
 家族三人で暮らしてる…未来を想像……したら、
 幸せだって事以外…想像できないんだもん。

そしてその最愛の二人を守ることができる。
未来は幸せでいっぱいだと実感できる。
その想いだけで十分。いまの自分も幸せだと感じられる。
悔いはありません。

「ただ…心残りがあると……すれば…、
 大きくなったナルトを…
 見てみたかったなぁ……。」

クシナのその言葉を聞いて、
ミナトは一念発起します。

「クシナ…
 君が九尾と一緒に心中する必要はないよ。
 その残り少ないチャクラは、
 そのナルトとの再会のために使うんだ…!」

クシナはミナトを見ます。

「君の残りのチャクラを全てナルトへ封印する。
 八卦封印に組み込んでね。
 そして九尾はオレが道連れにする…。
 人柱力ではないオレができる封印術は、屍鬼封尽!」

それは自分の命を犠牲にするということ。
我が子のこの先を見守ることができない。
親として助けてあげることもできない。
それはミナトにも非常に悔しいことに違いありません。
でも、いずれはあの仮面の男が災厄を引き連れてくる――

「それにもう一つ…。オレに封印する九尾は半分だけ…。
 これだけの力は物理的に封印しきれない…。
 そして戦略的にもできない…。
 君を道連れにした九尾の封印は、
 復活まで人柱力が不在となって、尾獣バランスが崩れてダメだ。

 屍鬼封尽ならオレと一緒に九尾を半分だけ永久に封印できる。
 だから九尾のもう半分は…」

自分たち夫婦の、我が子を信じて、
九尾をも凌駕する力をもつと信じて、
ナルトならあの仮面の男を止めることができるはず。
九尾を我が子に封印することが、
結局は回りまわってこの子を守ることになる。
ミナトは断腸の想いで決断するのです。

「ナルトに封印する! 八卦封印でね!」

ここで少し脱線しますがどうやら、
九尾を一時的にこの世から消し去るようなことはできても、
しばらくたてば復活することができるらしく、
しかもこのやり方では、一時的に尾獣バランスを崩すらしいです。
つまり九尾不在というのは、
五大国の関係か、はたまたナルト世界の自然の関係か、
よくないということらしいのです。
しかし、ミナトの屍鬼封尽では、
物理的に全部は不可能でも半分を永久封印し、
半分を九尾が存在する形で残せるというわけです。

「君の言いたい事も分かる…。
 でも自来也先生が言ってた世界の変革の事…
 そしてそれに伴って起きる災いの事!
 今日……確信した事が二つある
 君を襲った面の男…奴は必ず災いをもたらす!
 そしてそれを止めるのはこの子だ。
 人柱力として未来を切り開いてくれる。
 なぜかそう確信したんだ。」

なにか直感めいたものが、
ミナトにはぱっと閃いたのでしょう。
閃き――というより使命感に近かったのかもしれません。

「この子を信じよう!
 なんたってオレ達の息子なんだから!!

ナルトを想いながら、屍鬼封尽の術を発動します。
自分が妻を犠牲に生きてこの子を守り抜く
という選択肢よりも、
九尾をこの子に封印する
という選択肢を選んだミナト。
それはある意味で正しくもあり、ある意味で誤りでもある。
どちらを選んでもそうなのです。
ただの子煩悩で選択してはいけない。
子を考え、妻を考え、里を、世界を考え、
ミナトの複雑な心境が伝わってきます。