474 『火影としての覚悟』

1.火影としての覚悟(1)

「サクラは告白しに来た訳じゃない…。
 木ノ葉の同期のメンバーで決めたある事を言いに来た…。」

サイが語ろうとするサクラの本心。

「……おかしいとは思ってたけど…
 やっぱり何か隠してたんだな。」

ナルトはやはりといった表情をします。

「君に言えなかったサクラの気持ちも…
 今のボクなら分かるよ。」

サクラの芝居めいた不可解ともとれる行動の
本当のわけを知っている様子のサイ。
ナルトは教えてほしいと頼みます。

「サスケを木ノ葉の手で処理する。
 君の同期メンバー全員がそのつもりで動く。」

サイから告げられた真実とは、サスケの処分。
そしてそれは同期のメンバー全員が納得した上でのこと。

「…サクラちゃんが、
 本当にサクラちゃんがそんな事納得したのか!?
 サクラちゃんはサスケの事が大好きなんだぞ!!
 なのにそんな事――――」

サクラはサスケについてらしくもなく犯罪者と言って、
何とも思ってないとまで口にしています。
その様子がナルトにとって引っかかってはいました。

「サスケはこの世界を闇へ向かわせる手助けをしてる。
 このままサスケを生かしておけば、
 国同士の戦争の火種を生むだけだ。」

雲隠れの忍たちの師を失い復讐しようとする想い。
復讐が復讐を生んで戦争へと発展しかねない――
もはやサスケは災厄の火種そのものなのです。

「今は犯罪者の一員だ。今回木ノ葉を襲った“暁”の一件で、
 木ノ葉の忍達は“暁”に協力しているサスケを容認できなくなった。
 サクラはバカじゃないし、それぞれの立場や状況が
 分からないほど子供じゃないさ。
 だから君にどうにかその事を伝えようとここまで会いに来たんだ。」

サイから告げられた真実に少し戸惑いを隠せない様子のナルト。

「サクラはサスケを諦め、君が好きだと告白する事で、
 君との約束の重荷を解いた。
 それでも君はサスケを助けたいと言った。
 だから本当の事を言えなかったんだと思う。
 君の気持ちを考えたからだよ。
 それに…君がそう言う事もおそらく分かってたんだ。

サクラもナルトがサスケを追うことを諦めないのは分かっていた。
でも、ナルトにサスケの処分まで言えなくとも直接気持ちを伝えにきたのは、
約束という重荷をナルトに背負わせて苦しめ続けてきた自責の念から。
そして、サスケに盲目であった自らを戒め、
本当に大切なモノ――それを守らんと動くため。
彼女なりのけじめだったのでしょう。
サクラの心は揺らぎながらも一つの決心として収束していたようです。

「君に本当の事を言うのは実はサクラに口止めされてたんだ。
 自分がどうにか伝えるって言ってね…。
 それが自分の役目だと言っていた。」

サスケを処分するという立場に立ったサクラ。
しかしサスケを追おうとするナルトを直接止めるようなことを
はっきりと口にはしませんでした。それは自分の約束だけでなく、
何かがサスケを追うようにナルトをせき立てていることを、
はっきりとかどうかは分かりませんがサクラが理解していたからでしょう。

「しかしナルトのリアクションが分かってたなら…、
 はなから本当の事を言うつもりはなかったって事だろ?」

とヤマトは言います。
そう――だからこそ、サクラはナルトが危ない目に遭ってまで
サスケを追わなくていい、追う必要はないくらいの言い方で、
追うなとまで言及していないのです。
(岸本先生のこの辺りの伏線の張り方は舌を巻くところです。)

「ここからはボクの想像ですが…
 おそらくサクラは――」

言い詰まったサイの話の核心をカカシが代わりに言います。

「一人でサスケを殺すつもりだな。」

かつて大好きだった人。
いや、いまも大好きであることには変わりない。
でも闇へと染まっていくその人を殺めてでも止めようとするサクラの想い。
それが今までナルトにばかり苦しみを押し付けてきた償いであり、
大好きなサスケに自分がしてあげられること。
物思いに耽る様子のサクラに言葉をかけたサイ。
作り笑いをして答えたサクラ。

「大好きだからこそ、このまま悪へ突き進むサスケを
 放ってはおけないんだと思う。」

サイはサクラの心中を察します。

「大好きだからこそそのサスケを悪の道から救いたいと思ってる…。
 その方法が大好きな人を自分の手で
 殺めなければならない事になるとしても
 それがサスケを好きになった彼女なりの――覚悟なんだと思う。
 そして…その事で、ナルト……君に恨まれる覚悟もしている。
 それが君に一生の重荷を背負わせようとした
 償いでもあると思ってるんだよ。」

サクラにとって大切なモノ――。
それは里であり、仲間であり、そしてサスケ。
しかしそれをどうしても秤にかけ本当に大切なモノを選ぶとしたなら――。
サクラはもう迷うことはありません。
それが大好きな人を殺めることになったとしても――
それがその人の為であると信じて――

「サクラは今まで君に頼りすぎた。
 …だから今度は自分ひとりで全てをやろうとしてる。」

ナルトに全てを話さなかったのは、
ナルトに頼らないためでもあったのでしょう。
ふいにナルトはなぜサイがその真実を自分に話してくれたのか訊きます。

「ボクの意ではなかったとは言え、
 そうサクラを仕向けてしまったのはボクのせいでもあるから。
 だから君に言ってしまった…。
 サクラは放ってはおけないと思ったし…
 ボクは第七班の一人だから。」

結果的にこのような事態を招いてしまった。
事の顛末をナルトに知らせないわけにはいかない――と思ったのでしょう。

「そうか…。」

ナルトは俯きながら、そう一言呟きます。
カカシのもと自分がいてサクラがいて、そしてサスケがいた第七班の構図が
ナルトの中で音とともに崩れ去っていくようです。
ナルトにとってはその日々や思い出それらが、
何にも代えがたいかけがえのないものであるのです。
いつかまた、あの第七班で再び…という願いが脆くも崩れ去っていく予感――。
新しい第七班があることが、
もうかつての第七班は戻ってこないかのように皮肉るようです。

2.火影としての覚悟(2)

そんなナルトのもとへ、風影我愛羅が姿を現します。
五影会談での顛末、殊にうちはマダラを名乗る男によって
戦争が起こるかもしれないことが告げられます。

「オレは火影ってのはあまり乗り気じゃないんだけどさ。
 …状況がこれじゃあ仕方無いとしても…。」

そして当座の火影代理的役割を担うような話を、
カカシはしぶしぶと受け入れます。

「ナルト…言っておくがこれは八尾と九尾、
 …つまりお前を守る戦争でもある。
 そして忍の世界の為…風影としてオレは命がけでお前を守る。
 “暁”の灰かとしてうちはサスケ
 オレ達忍連合の前に立ちはだかるなら…容赦はしない。」

先ほど感じた予感に拍車をかけるような我愛羅の言葉。

「サスケはお前を見ようとはしていない。
 自ら闇を求めている。

我愛羅は先の一戦で相対したときのサスケの様子を思い出しながら喋るようです。
光を見ずに、孤独と憎しみに取り憑かれた目。
もはやナルトの言葉が届く状況にあるとは思えない――というわけです。

「ナルト…お前はオレに“自分は火影になる男”だと言ったな。
 ……オレは風影になった。」

ナルトは当惑したように俯きます。

「影の名を背負う覚悟を決めたなら、
 サスケの友としてお前が本当にやるべき事をやれ。

その言葉に目を見開きます。
覚悟――、サクラは殺めてでも止める覚悟をした。
自分の覚悟は――ナルトははっとした様子です。


一方、ダンゾウたちはトビと遭遇します。

「久しぶりだなダンゾウ…
 うちはの事件以来だな。

ようやくトビとダンゾウが対峙する構図となりました。
もちろんトビ≠ダンゾウであるのですが、
トビとダンゾウはやはり何らかの接触があったのは事実。
そしてそれはうちは一族事件以来――とのこと。
入水自殺したというシスイの目をもつダンゾウ。
そしてマダラを名乗るトビ。
睨み合いの間もなく、爆風が辺りを包みます。

「フー、トルネ援護しろ。右腕の封を解く。」

黒い衣から普段隠されている右腕を露にしたダンゾウ。
環状のおもりのようなものが右腕に装着されています。
ダンゾウとトビとの戦いが始まるようです。