481 『ダンゾウ死す』

なぜダンゾウは火影という存在に執着していたか。
なぜ三代目にヒルゼンが着任して以来、
対立候補でありながら、静観する様子を見せていたか。
その理由が垣間見て取れる481話。
いろいろと奥深い内容かもしれません。

1.ダンゾウ死す(1)

扉絵はうたたねコハル、水戸門ホムラ、三代目火影猿飛ヒルゼン
うちはカガミ、志村ダンゾウ、秋道トリフの6人。
――ダンゾウの苗字は志村だったようですね。

「(サスケ…アンタにとって…)ウチは…」

香燐は呆然と今目の前で起こっていることが信じられない、
そんな眼でサスケに問いかけます。

「香燐…人質に取られるようじゃ、足手まといだ。」

おどろおどろしく見開かれた写輪眼が
流すように香燐を見やります。
倒れる香燐。しかしダンゾウは致命傷を負いながらも、
まだなんとか動ける模様。
途絶えそうな息と薄れ行く意識の中で、
ダンゾウは過去のことを思い出します。

――それは遠い昔。戦場での出来事。
二代目火影・扉間を護衛するダンゾウら6人。
うたたねコハル、水戸門ホムラ、猿飛ヒルゼン
うちはカガミ、秋道トリフ、そしてダンゾウです。

「この追跡力からして、雲隠れ…、手練れの金角部隊か。」

どうやら二代目火影・扉間ら7人は、
雲隠れの精鋭に追われているようです。

「敵はまだこちらの位置をハッキリとは把握できてない。
 ここは待ち伏せして不意を突き、逃げ道の突破口を。」

うたたねコハルの台詞。
それも火影含め優秀かと思われる木ノ葉の忍7人が、
応戦するという選択肢を持てず、逃げざるを得ない状況。
これら7人が集結している状態で、
敵に位置を感づかれていないといった状況から、
もっと多くの仲間がいたけれども雲隠れにやられ、
精鋭7人だけが残って撤退を余儀なくされる状況ではないかと推測されます。

「無理だ…。…この場合、誰か一人が陽動で気を引くしかない……。」

――とヒルゼン。振り切れない相当の数の忍が彼らを追跡している模様。

「(オレは忍だ…。忍らしく戦場で死ぬと決めていた……!
  ……猿飛…お前は今…何を考えてる?
  お前にはその覚悟あるのか…?)」

死ぬ覚悟は当にできていた。
里のため。そして守るべきもののため。
戦場で命を落とすこと、それがたとえ犠牲であっても覚悟はできていたのです。
しかしダンゾウは震えるその手をあげることができなかった。

「オレがやります!」

そのときヒルゼンは言ったのです。

「ヘッ! 心配するな!
 こう見えてもお前らの中じゃ一番できると自負してる…。
 死にゃあしないよ。」

そういって笑ってみせるヒルゼン。

「(…ちくしょう……。オレは弱腰だ…。
  心のどこかで…今…ホッとしている…。)」

ダンゾウは自らがその役を買って出たかった。
――でも、手を挙げることはできなかった。
そして、それをいつもライバルとしていた男がやるのは、
自尊心が許せなかった部分もあるのでしょう。
皆を代わりに頼むと話しかけるヒルゼンに、

「黙れ! オレが手を挙げようと思っていた!
 一人でいい格好をするな! 囮役はオレがやる!!」

とつい声を荒げてしまいます。

「オレの父も祖父も戦場で忍として死んだ!
 自己犠牲は忍の本分…!!」

意気込むダンゾウを制するように扉間が口を挟みます。

「囮役はもちろんオレが行く…。
 貴様達はこれからの里を守っていく若き火の意志達だ。」

自ら囮を買って出たのです。

「ダメです!! アナタは火影なんですよ!!
 里にアナタ以上の忍は居ない!」

ダンゾウが扉間を止めようとしますが、

「ダンゾウよ。貴様はサルといつも何かあるごとに張り合ってきたな…。
 だがこの身で必要なのは仲間同士の結束だ。私的な争いを持ち込むな。
 決断が遅かったのは事実。まずは己を見つめ、冷静さを欠くことなく、
 己を知る事だ。今のままでは仲間を危機に陥れる。」

扉間はそういってダンゾウを諫めます。
しかし、それは“口実に過ぎない”のかもしれません。

「とにかく……ダンゾウ…サル…、その歳で焦る事はない
 いずれその時が来る。その時まで、その命……とっておけ。」

扉間はこの時を望んでいたのでしょう。
次代に自分の意志を託すことができる時を。

「サルよ…。里を慕い、貴様を信じる者達を守れ。
 そして育てるのだ。次の時代を託す事のできる者を…。
 明日からは貴様が……火影だ…!!」

木ノ葉崩しで大蛇丸との戦いの時、
三代目火影となった猿飛ヒルゼンが思い出した二代目火影・扉間の言葉。
――この場に、ダンゾウもいたのです。

「お前はいつも…オレの先を歩きやがる……。」

ダンゾウはヒルゼンを疎ましく思いながらも、
その実力を認めているところもあった。
先の囮に誰がなるかについても、
本当はヒルゼンに対して悔しかったわけではない。
手をあげることができなかった、
勇気がなかった己自身を一番悔いたはずです。
だからこそ、ダンゾウは“火影”という存在に固執していたのです。
ヒルゼンが火影の時にできなかったことを
いつか自分が火影になったときにしてやる――と。
そういう負けず嫌いなところというか、
この頃から理想が高かった――というのは分かります。

2.ダンゾウ死す(2)

「忍の世の為、木ノ葉の為。
 お前らは決して生かしておけぬ!」

死期を悟ったダンゾウは、裏四象封印術を用いて、
トビとサスケを巻き込み滅しようとします。
ダンゾウから迸る血液が球をつくり辺りを包み込みます。

ヒルゼン…。次はワシの番のようだ…。
 だがワシは…結局……火影にはなれなかった…。
 どこまで行っても、お前には追いつけなかったよ………」

しかし、無情にも“今度こそ”という思いは叶わなかった。

お前は光を浴びる木ノ葉。オレは…闇の中の根。
 こんなオレをお前はどう思う?
 なあヒルゼン……。お前にとってオレは……」

幼少の頃、何かを楽しそうに語り合う二人の絵。
ダンゾウとヒルゼンはライバルである前に、
“つながり”をもった仲間だったのです。
だから扉間の言葉があった後、
三代目の座を巡って張り合ったけれども、
結局、ヒルゼンにその座を譲り、以来、
長い間ヒルゼンが三代目としてあったことを、
またミナトが四代目として着任しても、
煮え切らないだろう思いの中、静観できていたのは、
ヒルゼンを誰よりも認めていたからでしょう。
地中深く光が降り注ぐことはなかった根。
見上げると高々とそびえ立つ樹には生い茂る葉。
決して対等ではなかった――追いつこうと必死だった。
けれど――その思いは叶わずに終わるのです。
扉間が言ったように、ダンゾウはヒルゼンを何かと敵視した。
しかしそれは憧れの裏返しでもあったのです。
でも、自分が何をすべきか、
何が本当に大切なものか、守りたいものなのかは分かっていた。
理想を実現する器は持ち合わせてはいなかったけれど、
最後の最後でダンゾウはその思いを果たそうとしたのです。

3.ダンゾウ死す(3)

サスケを見つけたサクラたち。
サクラは隊を一度とめ、キバにその方角を確認します。
そしておもむろに眠り玉を投げようとしますが、サイに止められます。
サクラは皆を巻き込まないように…、というよりは、
今までナルトにばかり頼り
何もしてこれなかった自分の責任を感じていたのでしょう。
単独で討ってでようとしたところを止められたのです。

「サイ…一度しか言わない…。
 そこをどいて…!」

手袋をギュッとはめなおし、
力ずくでも通ろうというサクラですが…。

「アレは自分の死体に引きずり込んで封印する道連れ封印術……。
 己の死に際で発動するように術式を組んでいたようだ。
 危なかったな…」

橋を半球状に抉り取り、
その中心に横たわるダンゾウの死体を見つめるトビとサスケ。
香燐の姿はありません。
あの状況では裏四象印に引きづられた可能性が高いです。

「次だ…。木ノ葉へ向かう。」

サスケは言います。