469 『サクラの告白』

469話『サクラの告白』。
ポン太が熊であることが分かったり、
ダンゾウたちを追いかける青が、
フーの“心転傀儡呪印の術”を施された木偶と戦うはめになったり、
雷影が忍連合軍のリーダーと認められるに至ったことなど、
色々ありますが何と言っても、
今回の目玉はそのタイトルにもある通り『サクラの告白』。
なぜサクラはこのような奇異ととれる行動をしなければならなかったのか――
五影会談の後で挿入されると、ぶれてインパクトが薄いかもしれませんが、
この場面は物語のダークサイドを表出させるある意味核心部分であるだけに、
今回はここに焦点をあてて記事を書こうと思います。

1.サクラの告白(1)

「い……今…サクラちゃん…何て言ったの!?
 き…聞き違えたかもしんねーから…もう一度…」

あまりに唐突で不意をつかれたようなサクラの言葉にきょとんとするナルト。
一同も驚愕といった感じです。

「だから…ナルト。
 アンタの事が好きだって言ったのよ!」

少し視線を逸らしながら、捲くし立てて恥ずかしさを振り払うように言います。

「サスケくんなんて私にとってもう何でもないって言ったの!
 あんな人を好きでいた私がどうかしてたって。
 …人が告白してんだからちゃんと聞いてよね!」

嬉しいと捉えていいのかナルトは一瞬戸惑ったような表情を見せますが、
しかしよくよく冷静に考えてみると、何かおかしい――
サクラの気持ちの変化は女心に決して聡いとはいえないナルトも
怪訝な気持ちを感ぜずにはいられず、キッとした表情をしてサクラに問い質します。

「……でも何で…? どうしてだってばよ…?
 こんなとこで冗談言っても面白くもなんともねーってばよ。
 ……サクラちゃん。……一体……何があったんだってばよ…?」

思えば、サクラがサスケを恋い慕う様子はナルトからみても明らかでした。
最初は受け入れられなかったナルトも、サスケとの第7班での任務、
交流を深めていくうちに、無意識からか自分がサクラを恋慕する心とは別に、
サクラがサスケを慕うことを認めるような気持ちがあったのではないかと思われます。

「ナルト…。私の…一生の…お願い…。
 サスケくんを…サスケくんを連れ戻して…。」

そして、サスケの里抜け――悲しみに暮れるサクラの頼みにナルトは応じるのです。
サスケを連れ戻す――と。
その想いは継続、積年して消えうせるどころか重みを増し、
ナルトという人物の柱を支える一つの梁になってしまっていたのです。
そう、サクラの言葉はその梁を揺るがし、
今までのナルトを否定してしまいかねないものだったのです。
それはナルトには信じがたく、冗談としかとらえようがないものでした。

別に何も。……ただもう目が覚めただけ。
 抜け忍で犯罪者である人を好きでいる必要ないでしょ。
 私だっていつまでも子供じゃない。

サクラがなぜこのように考えるに至ったか、
その背景を知らなければとんでもなく嫌な女に思えてしまうこの台詞。

「だからナルト…アンタとの約束はもういいの……。
 ナルトもサスケくんを追いかけるのはもう止めにしない…?」

何かを堪えるようなサクラの笑顔。
なぜ急にそう思い立ったのか――ナルトには不可解に思えて仕方ありません。

「……何かあったのか…サクラちゃん?
 何で急にオレなんかの事……。」

困惑する様子のナルトに、サクラは言います。

「だから何もないわよ!
 …アンタを好きになった理由ならハッキリしてる―――――」

眉を顰めるナルト。
サクラがどんなにサスケのことを恋い慕っていたか、
その様子、その場面がまるで走馬灯のようにナルトを駆け巡ります。
そのサクラが簡単に気持ちを曲げるようなことをしないことも、
ナルトはわかっています。やはり、こんなことはありえない――とも。
ナルトに歩み寄り抱き寄るサクラ。
サクラの気持ちは全て嘘ではないでしょう。
でもサスケを否定する素振りを見せるサクラは違う。

いいかげんにしろサクラちゃん…。
 そんな冗談は笑えねーって言ってんだよ。

今までのナルトはサクラに対して、
こんなに荒い口調で語りかけたことは無かったでしょう。
サクラから罵られても、殴られても、
サクラに対してこんな荒げた態度をとることは無かった。

「何キレてるの……?
 私はただサスケくんからアンタに乗り換えただけの事じゃない…
 女心は秋の空って言うでしょ。」

乗り換える…その台詞をサクラ自身が口にするのは、
一途で素直なところがある性格が変わってしまったわけでないことを意味しています。
自己利益のために打算的で人の心を弄ぶことを厭わない、
そういう人格なら決してそんなことを自分では口にはしません。
ナルトは確信するのです。
サクラは嘘をついていると。

「オレは…自分に嘘をつくような奴はキライだ!」

どういうわけで自分の思いに反して嘘をつき、演じるのか。
ナルトにサクラが思うところは実際分かってはいません。
でも、今までのサクラの生き方を自ら否定してしまうようなその言動と態度、
そしてナルト自身をも揺るがしてしまうような現在<いま>目に映るサクラが、
ナルトには耐えられなかったのです。

2.サクラの告白(2)

サクラのサスケへの想い。
最初はかっこいいという憧れから入ったと思います。
何も知らないサクラは無邪気に近づこうとしますが、
孤独を抱えるサスケにはそれが鬱陶しくてたまらない、
ウザイとしか目に映ることはなかったのです。
でも第七班として活動していくうちに、
普段は見せないけれども、仲間を思いやるその優しさや
当時のサクラやサスケの年齢には不適当な表現かもしれませんが、
“男らしさ”にだんだん惹かれていった、というところがあるでしょう。
憧れから恋へ。サクラの気持ちは不動のものでした。
しかし一方で、自分がどんなに辛くあたっても、
懸命に自分を守ろうとしてくれるナルトのことも目に留まっていた――
サスケほどには惹かれないかもしれないが、“好き”といえる存在。
サクラはサスケ、そしてナルトそこにカカシ先生がいる第七班があることが
幸福であり、そして当たり前のことだとばかり思っていたのです。
しかし突如としてサスケが里を抜けてしまうのです。
その日からサクラはサスケがいないことによる悲しみに襲われ、
第七班としてあった幸福や温もりが一手に奪われてしまった。
厳しい忍の世界に身を投じたとはいえ
まだまだ幼いサクラの心を抉るには十分すぎる事件でした。
そしてその温もりを取り戻したい一心でナルトにお願いするのです。
サスケを連れ戻してほしい――と。
しかしその願いは叶わないまま月日は経っていきます。
その間もナルトは変わらぬままサクラに接します。
サスケを連れ戻す、その約束を決して曲げようとはしなかった。
そんなナルトを見て、サスケばかりであった恋心も揺らぐようになった――
描写は少ないですが、はじめはサスケ一辺倒であった恋心もだんだんと
サクラの中で確実にナルトの方にも向き始めていた側面がありました。
サスケとナルト、どちらをとると言われればサスケ。
その気持ちは変わらないとはいっても、ナルトも大切な人になっていた。

「ナルト! もう…もういいから!
 サスケ君は私が助け出してみせる!」

天地橋での大蛇丸との戦い。
九尾へと身を落としていくナルトを見て、サクラは涙を浮かべます。

「ナルトは君との約束をずっと背負っているようだった…。
 一生背負う気でいるみたいだった。
 君がナルトに何を言ったのかは知らない……。
 でもそれはまるでボクのされているものと同じ…。
 呪印のように感じた。ナルトを苦しめてるのはサスケだけど…
 君もなんじゃないのかい?」

そしてサイの言葉。
サクラはそんなナルトを苦しめ続けていたのは
自分自身でもあることを自覚します。
そしてこのままであればサスケどころかナルトをも失いかねない。
そんな漠然とした不安がサクラの中にはあったはずです。

「サスケくんはどんどん私から離れていくだけ…。
 でもナルト…アナタはいつも私の側に居てくれた。
 …私を励ましてくれた…。
 私…気がついたの…。ナルト、アンタの本当の姿に。
 里を守った英雄…今は里の皆がアンタを好きでいる…。
 私はただその一人になっただけ…。
 あのイタズラ好きの落ちこぼれ立ったアンタが…
 少しずつ素敵で立派になっていく…それを身近で私は見ていた。
 でもサスケくんは罪を重ね…私の心を砕くだけ…
 どんどん別の遠い人になっていく。
 でもナルト…アンタの事はこうして触れていられる…。
 安らぎをくれる…。今はアンタの事が心の底から――――」

自分に言い聞かせるようにナルトにその想いを伝えるサクラ。
嫌な女を演じるようでも大切な人であるナルトをこれ以上苦しめたくはない。
だからこそサスケを諦めなければ、そしてナルトを繋ぎとめなければ――
その悲痛な想いがこの台詞から垣間見えます。
しかし錯綜する想いは迷走してしまうのです。
自分との約束さえ破棄できれば、ナルトは苦しみから救われる――
でもその約束そのものがナルトの屋台骨となってしまっていて、
これを反故にしようとすることは、
そのままナルトの在り方を否定することになってしまっていたのです。
――思いやりのつもりで知らずに傷つけている。
ナルトから突きつけられた“キライ”という言葉。

「いつもそう…。
 私がナルトにしてあげれるのはほんの小さなことだけ。」

サスケとナルト、二人を追いかけるばかりでなく、
強くなりたいと願ったサクラ。
サクラはナルトの言葉を受け入れて成長することができるでしょうか。