470 『キラービー VS 鬼鮫

二部構成です。後編は【キラービーVS鬼鮫1・鮫肌覚醒】

.告白、そして

「私が…自分に嘘を…ついてるって?」

険しい目つきでナルトを見据えるサクラ。

「自分の本心は自分が決める!!
 私が嫌いなら正直に言えばいい!!
 勝手な言い訳を作るぐらいな――」

サクラが捲くし立てようとするところをナルトが遮ります。

「だっておかしいだろ!
 そんな事を言うためにわざわざこんなとこまで!」

ナルトにしてみれば、サクラの心変わりもさることながら、
サクラの気持ちをただ伝えにくるために、
キバやリー、サイを連れ立っての仰々しい様子は、
とても奇異に思えて仕方がなかったことだと思います。
だから、何か本当の理由を隠すための表面的な行動だと思えてしまう。
だから、そんな事、取るに足らないことだと
ナルトの言葉からは解釈できます。

「そんな事って! 女の子が告白する事がそんな軽い事だと思ってんの!!?
 わざわざこんなとこまでって!?」

サクラは<そんな事>と言われたことに腹を立てます。
それはサクラのナルトを思っての行動を
ナルトがなんとも思わなかったところに由来する部分もあるでしょう。しかし、

「こんなとこまで来るわよ!
 アンタはサスケくんサスケくんっていつもサスケくんを追いかけて、
 危ない目にあうばっかり!
 九尾の人柱力で“暁”に狙われてんのよ!
 少しは自分の心配をしたらどうなの!
 私はね…! そんな危ない目にあってまでサスケくんなんか
 追っかけなくていいって言ってんの!
 今すぐ里へ帰って来てほしいからアンタを追ってここへ来た!

 それだけよ!」

ナルトがこれ以上傷つくのは耐えられないという思いと、
そして約束という形でナルトを縛り付けてきた自覚。
そしてナルトがそのことに気付いてくれないことへの苛立ち。
様々な思いが錯綜し、それが溢れかえり、
かえって剣のあるような物言いになってしまいます。

「苦しい言い訳にしか聞こえねェってばよ。
 サクラちゃんの事はオレも分かってるつもりだ。」

ナルトはしかしサクラのなかにある真実を見抜いています。
つまりナルトはサクラがもっとも隠そうとするところ、
すなわちサスケの処分問題を、そこまででないにしても、
サクラがサスケを諦めざる得ない状況を確実に見抜いているのです。
それに揺らいでいるサクラの心も、
サスケを諦めようと自身に言い聞かせるような言葉も――
だからこそサスケを追いかけなくていい、
そのサクラの言葉をナルトは言い訳と捉えているのです。

「だから何で分かんないの!
 私はもう犯罪者になったサスケくんなんて何とも思ってない!
 だから私との約束ももう関係ない!」

でもサクラは自分の伝えたいことが伝わってないと感じたのか、
ついに自分との約束という言葉を出してナルトを引きとめようとします。
しかしナルトはサクラにとって意外なことを口にするのです。

「約束の問題じゃねーんだ。
 サスケの奴が何で復讐に取りつかれて暴れてんのか…
 オレにも少しわかる気がすんだ…。
 サスケは家族や自分の一族が大好きだった…。
 愛情が深けー奴だから余計に許せねーんだと思う。

ナルトがサスケに固執する理由。
最初はサクラとの約束もあったかもしれない――
でもそれは切欠に過ぎなかったのです。
ナルトはサスケを理解してやりたい、そしてできうるなら救い出してやりたい。
それだけなのです。
それは決して同性愛とかそんなのではなく、
ただ人間にある自然と発露する情のようなもの――
友情とも言えるかもしれませんが親切心に近いものかもしれません。
孤独の苦しみを知っているナルトは、
孤独という闇の中をさまよい駆け巡るうちに
復讐に取り憑かれてしまったサスケをただただ助けたいだけなのです。
そして今ならサスケが復讐に取り憑かれてしまったのも分かる。
本当に大切なモノを奪われた悲しみ――
それはあまりにも深かったのです。

「だったら何でその許せねーイタチを倒した後、
 “暁”に荷担する?」

キバの言葉にナルトはトビの話を思い出します。

「そうじゃなかった…本当は――」

言いかけたナルトをカカシが制します。
復興で混乱が生じやすい中、うちは一族事件が、
イタチを利用した上層部の仕業であるなどという
信用も曖昧な情報を無闇に共有するべきではない――
カカシの言葉が脳裏に浮かびます。

「サクラちゃんとの約束がなくなっても関係ねーよ。
 オレはオレ自身でサスケを助けたいと思ってる。」

ナルトの頑なな思いに眉を動かさないまでも、
サクラは内心驚いていることと思います。
本当のことを話したことがいいんじゃないかと耳打ちするキバの足を踏むサクラ。

「もういい! 私は帰る!!」

そう言ってナルトに背を向けます。

「ナルト…ごめんね!」

心の中でそう呟くサクラ。
サクラとしては気丈な様子を演じて、サスケを何とも思っていない、
ということを強調したかった
のでしょう。
でもそれはナルトの思いとは全くかけ離れたものでしかなく、
そしてナルトの本心を知ったいま、
サクラとしてはもうナルトを止める手立てはありません。
ごめんね…という彼女の気持ち、
ナルトを傷つけ苦しませる修羅の道に引きずる切欠を
約束という形で与えてしまったかもしれないことへの後悔および罪悪感と、
そして同時にそのサスケを処罰しなければいけないことで
ナルトの想いに沿わない行為に自分が出るかもしれない、
あるいは出たことへの申し訳なさ、
様々な想いが折り重なりサクラはそう感ぜずにはいられなかったのでしょう。

「これからすぐにサスケくんを探す! 協力して!」

サクラは決意します。
ナルトにばかり頼るわけにはいかない――
ナルトを苦しめるわけにはいかない――
今まで何もできなかった。けれど今度こそは自分がサスケを止めてみせる、と。