485 『近く… 遠く…』

1.近く…遠く…(1)

ナルトが現れ一瞬たじろいだサスケの隙を縫ってカカシが攻撃します。
サスケは橋に叩きつけられながらも、
三角跳びのような超反応でナルト、カカシから間合いを取ります。

「サスケェ…。サクラちゃんは同じ第七班のメンバーだぞ。」

サクラを救出したナルトはそう言ってキッとサスケを見やります。

「元…第七班だ。………オレはな。」

邪悪に微笑み返すサスケ。

「イタチの真実をトビって奴から聞いた!
 ウソか本当かはよく分からねェ…。
 けどどっちにしろお前のやってる事は…
 分かるってばよ。

制するカカシの前に出て、サスケに語りかけるナルト。
サスケに理解を示すナルトに、
カカシとサクラから一瞬戸惑いの視線が向けられます。
ところで、ナルトの前でうちはマダラと名乗っていたのに、
ナルトは“トビ”としているのは不思議ですね。

「ナルト…前にも言ったハズだ…。
 親も兄弟もいねぇてめーにオレの何が分かるってな…。」

ナルトの理解――
それは以前は同情に近いものだったのでしょう。
しかし、サスケを本当に理解していなかったと自覚したナルトが示す
新しいサスケに対する理解はもっと本質に近いもののはず。

他人は黙ってろ!!!

その証拠に、ナルトに向けられたこんな惨たらしい言葉にも、
ナルトの視線は揺らぐことはありません。

「ナルトはどんな想いでサスケくんを…!
 どんな悪い事を耳にしてもずっと仲間だと思ってた!
 それに今だって……」

黙っていられなかったのはサクラです。
しかし全く意に介さないといった様子でサスケは自分の構想を話し出します。

「さっきだ…。さっきやっと一人だけイタチの仇が討てた。
 木ノ葉の上役をこの場で殺した。…ダンゾウって奴だ」

ダンゾウをサスケが手にかけたことにカカシは驚きを隠せません。

「今までにない感覚だ。汚されたうちはが浄化されていく感覚。
 腐れきった忍世界からうちはを決別させる感覚。
 ある意味お前達木ノ葉がずっと望んできた事だ。」

サスケにはイタチがやったように、
あくまで汚れた黒をかぶることで白を守りぬき通す――
そういった正義のために暁としてトビと行動していた、
そういう期待を私はしていたのですが、
どうやら根本的からサスケは悪に染まることを望んでいるようです。

「昔からうちはを否定し続けたお前達の望み通り、
 お前達の記憶からうちはを消してやる。
 お前達を、木ノ葉の全てを殺す事でな!
 つながりを全て断ち切る事こそが浄化!
 それこそが本当のうちは再興だ!」

狂気に満ち満ちた嬉々とした表情でサスケが語るのを見て、
カカシは目の前のサスケが憎しみの積み重ねによって、
歪<いびつ>なサスケを形作っていったと認識します。
イタチは一族の中でたった一人残されたサスケに
兄である自分を憎むことで強くなり、
忍の世界で生きのびることを望んでいました。
死を目前にしても、サスケに一言も真実を告げなかったのは、
真実を告げることが憎しみを糧としてきたサスケを
このように変えてしまうことを危惧していたからなのかもしれません。

2.近く…遠く…(2)

「(…サスケもその時代の被害者なのだと、
  ナルトもサクラもハッキリではないが肌で感じてる。
  だからこそ………)」

影分身するナルトを制し、再びカカシが前に出ます。

「これはオレの役目だ。ナルト…、サクラ…、
 お前達はここから消えろ。」

反論するサクラに、決意を秘めたカカシが強く言います。

「ここに居れば見たくないものを見る事になる…。
 今のうちに行け!」

サクラが必殺の一撃に使おうとしている
シズネ直伝の毒付きクナイを見抜いていたカカシは、
大蛇丸によって植えられた毒耐性で
それが無効であることを指摘します。
同時にサスケの一瞬の隙を泣く泣く潰してしまった
サクラ自身の気持ちの戸惑いも示唆します。

「(サスケ…ウチが回復させたとはいえ…これ以上は……
  イヤ…もういいんだ…。サスケの事は…。)」

サスケの残存しているチャクラが少ないことを香燐は知っているのでしょう。
千鳥を繰り出すサスケを見て、サスケの心配をしますが、
再び自分自身で心の傷にふれてしまうと思ったのか、
サスケのことを忘れるために思い直します。

「カカシ先生それってば……、
 サスケを殺すって事か…?」

ナルトの問いにカカシはただ「行け」とだけ答えます。
ナルトもその意味を理解できないわけではありません。
そして、自分の望むような結果に決してならない事を瞬時に直感したのでしょう。
カカシをナルトの影分身が抑え、
螺旋丸を手にしたナルトが千鳥で突進してくるサスケに相対します。

「(もしかしたらサスケ…お前とオレが…
  逆だったかもしれねェ…)」

螺旋丸と千鳥の応酬の中、
ナルトはその“理解”を示します。

「お前も知ってんだろ…。…オレが昔里の皆に嫌われてた事…。
 その理由ってのがオレん中の九尾だ。
 ……オレも昔は里の皆を恨んでた。
 復讐してやろうと思った事もあるし……。
 一歩間違えば、お前みたいに恐ろしい事まで考えたかもしれねェ…。
 オレには誰ともつながりなんてないと思ってた。
 お前やイルカ先生に会うまでは。」

孤独な境遇。それはナルトを現在のサスケのように復讐者にしていたかもしれない。
現在映るサスケがもしかしたら自分の姿だったかもしれない、
だからこそ――ナルトにはただの共感にとどまらず、“理解”ができるのです。

「オレだっていつもお前が一人なのは知ってた。
 同じような奴がいるって安心した…。
 すぐに話しかけたかった…なんだか嬉しくてよ!
 けどそりゃ止めた…。何でもできるお前がうらやましくて…、
 オレのライバルに決めた! お前はオレの目標になった。
 何にもなかったオレがつながりを持てた。」

それは双方向のつながりでなかったかもしれない――
されども、それは紛れもなくつながりであった。
それによって救われていた自分があったことをナルトは認めています。

「何にもなかったオレがつながりを持てた。
 第七班で任務やってよ……。
 お前みたく強くかっこよくなりたくて、
 ずっとお前の後を追いかけてた。
 オレはお前と会えてホントによかった。

出会い、そしてつながり――
ナルトは自分を変えてくれたそのことに感謝の気持ちをあらわすように、
狂気と化したサスケを前にして生き生きと語ります。
しかし現在のサスケにはその想いは届くことはありません。
ナルトもそのことはよく分かっています。

「ナルト…、お前が今さらオレに何を言おうとオレは変わらねェ!!
 オレはお前も里の奴らも一人残らず全員殺す!!
 行きつくところ、お前の選択はオレを殺して里を守った英雄になるか!!
 オレに殺されてただの負け犬になるかだ!!」

そう告げるサスケにナルトは答えます。

「負け犬になんかならねーし!
 お前を殺した英雄なんかにもならねェ!
 そのどっちでもねーよ! オレは――」

近く感じているはずなのに遠い存在、サスケ。
“理解”したのに、どうにもできなかった――
なんて後悔はナルトの忍道にはあってはならないでしょう。
いったいどんな答を出すのか――
もはやサスケを光のもとに連れ戻すことができるのはナルトだけです。