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1.螺旋手裏剣
風遁・螺旋手裏剣は形態変化の至高の状態といえる螺旋丸と、
性質変化・風を組み合わせた絶大な破壊力をもつ禁術クラスの忍術です。
巨視的に見ると、4つの羽が回転しているように見えますが
者の書によれば、この手裏剣の刃のように見える風遁部分は、
実は微小な風遁の小さい刀の集合体で、これが高速回転をしているのだといいます。
その威力は凄まじく、直撃した者は瞬く間に全チャクラ系統を一斉に断ち斬られ、
写臨眼の能力を上回る桁外れの攻撃回数で塵芥にまで分解されてしまうほどです。
圧倒的破壊力を持つも、角都にゼロ距離で直撃させることしかできなかったナルト。
その風の刃の巻き添えを食らって、腕に大怪我をするというくらい
デメリットも大きく、まさしく起死回生を狙う逆転の一撃必殺的な存在の術でした。
ところが仙術を使えるようになったナルトは、
これをきっかけに螺旋手裏剣を飛ばすことに成功。
対ペイン戦で何発もの螺旋手裏剣を放っています。
つまりいくらチャクラ量の多いナルトでも、
螺旋手裏剣は自然エネルギーなしで飛ばすことなど、とてもできない代物だった…ということでしょうか?
2.螺旋手裏剣を飛ばしにくい理由(1)
螺旋手裏剣が飛びにくい理由は2つあります。
まずその理由の一つに質量があげられるでしょう。
「あれだけ高回転・高密度のチャクラを飛ばせるとは!」
フカサクによれば、螺旋手裏剣は高回転かつ高密度であるといいます。
質量と密度、体積には次の関係があるのはご存知の通り。
高密度であるということは、それだけ質量が増加する…
つまり非常に重たくなるわけです。
チャクラによって人型をつくりだす影分身。
つまりその人物の重さをチャクラでつくり出すことができることを考えれば、
フカサクの言う“高密度”がどれだけぎっしりと詰まっているか、
そしてそのぎっしりと詰まったチャクラがどのくらいの重さを作るか
想像することができないでしょうか。
重力の大きさ、質量、重力加速度には
という関係式があります。
“重い”…とはつまりそれだけ質量が大きいものは重力もよく働くということです。
重いので遠くに飛ばせる距離は短くなります。
相手に届く前に失速して螺旋手裏剣が墜落してしまう可能性が高くなるのです。
3.螺旋手裏剣を飛ばしにくい理由(2)
実はナルトは螺旋手裏剣を片手で突き上げながら、
高速移動したり空高くジャンプしたりしているので、
バカ重くても、実質質量はそれほどナルトの苦にはなっていないようです。
ですから大質量とはいっても、ハンマー投げのように工夫次第で飛ばせるはずです。
ところが角都戦では飛ばすことなど考えず、終始ゼロ距離で当てる戦法で戦っていました。
その時のナルトの技量ではどんなに手を尽くしても飛ばなかったのでしょうか。
螺旋手裏剣の飛ばしにくさのその実の正体は高回転にあると考えられます。
高回転であることは様々な飛ばしにくさの要因をつくっています。
その一つは遠心力。遠心力とは回転の影響を受けるある質点*1が、回転中心から遠ざかろうとする力のこと。
詳しくは【多重影分身の回転系3・遠心力と転向力】*2にありますが、
遠心力の大きさ、質点の質量、回転中心から質点までの距離、角速度には
という関係があります。高回転ということはが大きいということになります。
ところで螺旋手裏剣は螺旋丸を核として、その周りを一様な回転方向を保つ風遁の刃が回ります。
螺旋丸は乱回転していますが、形を球形に留められています。
ナルトが螺旋丸の修行をしていたとき、
圧縮、つまり球形に留める過程が大変であったことを思い出してください。
この風遁の刃は螺旋丸を核にして一定方向への回転を続けます。
つまり螺旋丸と風遁の刃はバラバラで動いているのではなく、
連動していると考えることが出来ます。
連動しているからには、乱回転を留める球形の境界と風遁の回転は同一方向に回転しなければなりません。
もしこの境界が風遁の刃と無関係の方向に回転していたなら、
風遁の刃は一様な回転方向を見せません。螺旋丸の回転につられてしまうのです。
つまり乱回転を発生させながらもある一定方向の回転状態を保つ球形にしなければなりません。
ナルトが風の性質変化を加えるのに苦労した理由は、
螺旋丸圧縮過程(第三段階)よりさらに難度が高いこの技術にあるかもしれません。
ある一定方向の回転状態を保つ球形の螺旋丸の境界は、
螺旋丸の中心から距離が離れているので、その境界が回転すれば遠心力を受けます。
――が、乱回転を抑える力に比べれば微々たるものです。
しかしそこに風遁の羽刃が加わることで質量が増加し、
遠心力の影響をもろに受けやすくなります。
風遁の羽がその回転の中心に対して均等質量であればよいのですが、
おそらく未熟であるナルトの技量ではチャクラ密度分布が不均等と考えられます。
すると遠心力の作用で螺旋丸を形作っていた境界は、
どんどんどんどん外(風遁の刃がつくる平面全方向)へと引っ張られていき、
やがて乱回転の形を保てなくなった螺旋丸核が崩壊、
つまり“ホピュー”などと間抜けな音をたてて消えてしまうのです。
そこでナルトはこの遠心力に打ち勝つように、常に境界を保っていなければいけません。
つまり螺旋手裏剣の形と回転速度を保とうとすればするほど、
螺旋手裏剣の高速回転の速度に比例してナルトのチャクラが奪われるのです。
とても螺旋手裏剣を投げるなどという余力はないのです。
そしてもし投げれたとしても、すぐに崩壊してしまうわけです。
つまり“遠心力によって推進力をつけられない”のです。
しかし仙術チャクラにより自然エネルギーが加わって、
螺旋手裏剣を飛ばすだけの余力ができ、
またナルトの手を離れても螺旋手裏剣の回転と形を維持できるくらいのチャクラ量を
螺旋丸核に組み込むことができ、飛ばせるようになったというわけでしょう。
あるいはこの風遁の羽を形作るチャクラ密度分布を
均等にできるようになったと考えられるでしょう。
4.螺旋手裏剣を飛ばしにくい理由(3)
螺旋手裏剣のように扁平で一様方向に高回転である場合、
フリスビーのように、すーっと直線方向に飛んでいきそうなイメージです。
ところが螺旋丸の形状は乱流を作り出し、その作用を受けやすい形をしています。
螺旋手裏剣は密度が高いとはいっても、空気と接する面積は割と大きいです。
空気は粘性*3をもった流体で、
空気が静止状態では二つの間に力は働かないけれど、
空気に流れがあることで揚力を生んだり、乱流を生んで抵抗となったりします。
実際、風など何らかの要因で物体の下層と上層で流れが違う場合、
その圧力の差分だけ上や下に力を受けます。これが揚力です。
また乱流とは渦が生じ不規則な流れが生じることであり、多くは抵抗となります。
具体的に螺旋手裏剣を飛ばそうとした場合、
この形は進行方向後部が最も乱流の影響を受けにくいといわれる*4涙の雫の形とは、
螺旋丸核が球状に出っ張っているせいで似ているようでとてもかけ離れています。
つまり乱流の影響を受けやすいわけです。
この高速回転はかえってナルトが投擲しようとしたときに、
そのわずかな姿勢のぶれでその大きな表面積との空気の摩擦で揚力や乱流を作り、
予測不可能の力が多方向からかかってナルトのバランスを激しく奪うおそれがあり、
また仮に投げられたとしても、乱流で失速したり乱れたりして、
螺旋手裏剣をコントロールして目標にあてるのが難しくなります。
投擲姿勢やその目標へのコントロールも
『動くな!』の絶妙なバランス感覚を身につけたナルトなら
容易いこととなったというわけでしょうか。
この様に考えてみると、やはり螺旋手裏剣はなかなか難しい術だと思います。