405 『遺されたもの』

1.遺されたもの(1)

フカサクは背中の自来也が最後の力を振り絞って書き残した
暗号メッセージを一同に見せます。
ペインに気づかれないようにそうしたのだろう、とフカサクは言います。

「………バアちゃんが…行かせたのか…?」

ナルトは突然の出来事で、気持ちの整理がつかないというのもあるでしょう。
「そうだ。」と答える綱手にあたるような口調になってしまいます。

「何でそんな無茶を許したんだってばよ!!
 バアちゃんはエロ仙人の性格良く分かってんだろ!
 たった一人でそんな危ねー所に……」

そんなナルトをカカシが制します。

「五代目の気持ちが分からないお前じゃないだろ」

どうしても自来也の死に納得ができないナルト。
綱手の気持ちが分からないわけではないし、
綱手が悪いわけではないのはわかってはいる。
けれど、やり場のない気持ちが、自来也の死という現実を受け入れさせず、
その原因なりを追い求めさせてしまうのでしょう。

「エロ仙人が五代目火影になってたら!
 綱手のバアちゃんにこんな無茶はさせなかった…
 ぜってェー…」

――という似合わない言葉を残して、ナルトは部屋を出ていきます。

「“暁”相手に無理はするな…」
「あいつらオレに用があんだから、
 今度こそこっちから出向いてやらァ!」
「確かにお前は強くなったがのォ…
 冷静を欠けば必ず墓穴を掘ることになるぞ。
 すぐに熱くなるのがお前の悪い癖だのォ!」

冷静になれ、無茶はするな…そういつも自分のことを制してくれていたのに、
自来也に対する「どうして?」という思いが、
ナルトには似合わない「無茶」という言葉につながったのかもしれません。
この台詞は綱手に向けられたもののようで、
その実、自来也に対して向けられた台詞にも思われます。

「さっき説明した“予言の子”についてじゃけどの…
 あの子が自来也ちゃんを真っ直ぐに慕っとったのが良く分かった。
 “予言の子”はあの子であって欲しいと…そう願わずにおれんの。」

フカサクはナルトの振る舞いや気持ちを理解しているようです。
ナルトに予言の子やペインのことを伝えるのは、
別の機会をとる形になりました。

2.遺されたもの(2)

両親がいないナルトにとって、
自来也は父親のような存在だったのかもしれません。
口寄せの術を覚えさせるために突き落とされたり、
螺旋丸のコツを教えてくれなかったりと、
時として冷たくあしらわれ、
真剣でない態度を見せ付けられることもありました。
でも、それは単なる意地悪ではなく、
ナルトを思って、愛情があったからこその態度だったのです。
そしてナルトもそれを感じ取っていた。
べったりでなく、また放りっぱなしでもなく。
時に厳しく、時に優しく。
そういった程よい愛情をもって接してくれた自来也は「父親」そのものでした。
152話『第二段階』(18巻)では、
螺旋丸の第二段階修行中、ナルトは自来也に昼飯を買いにいかされますが、
街中、父親とその子供がアイスを2つに分けて食べているのを目撃します。
そんなナルトの気持ちを知ってか知らずか、修行で疲れたナルトに
自来也はその二つ割りのアイスを買ってきて分けてくれますが、
このときナルトは嬉しさを隠しきれずにいます。
そんな自来也との修行の日々、思い出――
今となっては悲しみにしか変わりません。


道中イルカが一楽のラーメンに誘ってくれます。
自来也の死を知り、ナルトの気持ちを察してのことでしょう。
しかし、いつもなら飛びつくナルトも、
今回ばかりは沈み込んだ元気のない様子で断ります。
夜更け、商店二十四時(コンビニ?)であのときと同じ
二つ割のアイスを買ったナルト。
アイスを割らずに手にもったまま、一人考え込むようにベンチに腰掛けます。
ナルトの頬を涙が伝っていきます。
長い間そうしていたのでしょう。アイスも涙を流すように溶けて、
その雫が地面へナルトの涙とともにぽとぽとと垂れていきます。

ふいにイルカがやってきて腰掛けます。

「オレのこと…ずっと見てて欲しかった…
 オレが火影になるとこ見ててもらいたかったのに…。
 エロ仙人にはかっこわりーとこばっかしか見せられなくて…オレってば…」

豪語してはいても、ナルトは内心、
自分が自来也に認めてもらう段階に達してはいないと思っていたのでしょうか。
傍でいつも見守ってくれていた、
そして誰より認められたいと思っていた人をナルトは失ったのです。

自来也様はお前のことをいつも褒めていたよ。
 自分の孫のようだといつも鼻高々に話してくださった。
 お前が自分の意志を継ぐ存在だと信じてた。
 いずれ立派な火影になると信じて疑ってなかった。」

イルカはナルトが自来也に認められていたこと、
孫のように思われていたことを伝えます。

自来也様はお前をずっと見てるさ…今だってどこからかな。
 あの人はお前が落ち込んでるのを見ても褒めてはくれないぞ。
 だから…今まで通りの褒めてもらえるようなお前でいればいい。
 いつまでも落ちこんでんな!」

そう言ってイルカは立ち上がります。

「お前はあの三忍、自来也様が認めた優秀な弟子なんだからな。」

ナルトの手に握られた溶けかけのアイスを二つに割って、
ナルトに渡すイルカ。

「ありがと…イルカ先生」

認められていた――いや認められようとしていたナルトが、
自来也の死をようやく受け入れ始めようとしているのかもしれません。
"turn over a new leaf"という英語の格言があります。
心機一転する、何かをきっかけに良い方向へ変わることを意味しますが、
木ノ葉(leaf)の新しいページをめくる(turn over)ことができるようなそんな忍へと、
ナルトはこの悲しい出来事を乗り越えて、成長していかなければならないでしょう。

3.遺されたもの(3)

別の案件で綱手に呼び出されていたシカマル。
自来也の残した暗号を、暗号解読班に解読させるよう伝えます。
そしてシカマルの言葉を振り切って、席を外し外へと出て行く綱手
事情をいまいち飲み込めていないシカマルをサクラが制します。

「ワシらの役目は次の世代のための手本となり手助けをすること。
 そのためなら笑って命を懸ける。」

「はじめましてだな…。オレ自来也ってんだ!
 ラブレターは後でいいぜ。よろしく!」

火影の部屋へと続く回廊。
綱手は力なく壁に寄りかかります。
走馬灯のように次々と自来也のことが思い出されます。
堪えきれずに溢れ出す涙。

「バカヤロー……」

止めることができなかった――。そして、伝えられなかった――。
綱手もやりようのない思いで溢れかえっています。