397 『真実を知る者』

1.真実を知る者

うちはイタチの真実を知る者だよ」

仮面をとって右側の顔を覗かせるトビ。
やはりどことなくオビトの面影があるような――
初代と戦った頃のうちはマダラと違って、
そんなに険しい眼をしてはいません。
トビを見るサスケの左眼。
その眼からじわじわと血の涙が溢れ、
そしてイタチと同じ万華鏡写輪眼へと
その写輪眼が変化していきます。
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そしてイタチの天照の紋様へ。
黒い炎がトビを襲います。

「ぐおおおぐっ!!」

トビの仮面が完全に外れますが、
その全体の素顔は闇に隠れてしまいます。
サスケの写輪眼が元に戻ります。

「な…何だ…今のは?」

しばらくたって何事も無かったかのように、
落とした仮面をつけなおして、再びサスケの前に姿を現し、
その疑問に答えます。

「イタチがお前に仕込んだ“天照”だ。」

イタチはトビの写輪眼を見たとき、
天照が発動するようにサスケの左眼に、
自分の瞳力を注ぎ込んでいたようです。
お気づきのことと思われますが、
注ぎ込む――つまりイタチがサスケの額を小突いた際に、
左眼に流れ込んだ血こそがこの仕掛けの種ではないかと考えられます。
そのことを示すように、サスケ自身の万華鏡の紋様ではなくて、イタチのそれでした。
サスケはイタチと違って右眼でなく左眼で天照を放ったことから、
術の発動に右眼も左眼もあまり関係ないのかもしれません。
イタチは月読を左側で、天照を右側で使い分けていたということでしょう。

「お前に術をかけていたのだ。オレを殺すため…
 いやお前からオレを遠ざけるためとでもいおうか…」

イタチはトビ(マダラ?)に従っているようでいて、
本当はトビから弟を守ろうとしていた――というわけです。
殺そうと思えばイタチはサスケにいつでもとどめを刺せた。
にも関わらず、サスケを殺めることはなく、
結果自らの命を落としました。
このようなことをするのは――“見せかける”ため。
イタチはゼツの存在に気づいていたことになります。
しかしトビはそのイタチの真実を見通していました。

「どうしてイタチがそんなことを…」
「分からないのか。
 お前を――守るためだよ。」

何の冗談かと取り合わないサスケ。
そんなサスケに自分がうちはマダラだと名乗るトビ。

「うるせェ!! そんなことはもうどうだっていい!!
 オレの前から消えろ!!」

大部分を憎しみで包んでいた兄の像が揺らぎ、
混乱と疲労からか、冷静に考えられずにいるサスケ。
そんなサスケにイタチの真実を知ることは、
義務であると言って聞かせるトビ。

「忍の世の為、木ノ葉の為、
 そして何より弟のお前の為に全てを懸けた――――
 兄うちはイタチの生き様を!!」

2.真実の断片

トビが明かすイタチの真実。
体よくサスケを利用しようとしているなら、
真実を伏せずに曝け出すトビの真意は分かりかねますが、
しかしイタチがサスケを守ろうとしていたのは随所から読み取れます。

「一族などと…ちっぽけなモノに執着するから、本当に大切なモノを見失う…。
 本当の変化とは規制や制約…予感や想像の枠に収まりきっていては出来ない。」

【真相へ2・忘れられた大切なモノ(i)】*1【真相へ4・忘れられた大切なモノ(ii)】*2でも触れましたが、
イタチにとって本当に大切なモノとは、サスケだったのです。
一族という考えに縛られ、あるいは万華鏡写輪眼という力に縛られ、
身近にある本当に大切なモノに気づかないでいること――
本当の変化は、身近にいるものに目を向けることだった。
でもそれは規制や制約の中では、全く当たり前すぎて、
深く考えてみることすらしなかった大切なモノ。
イタチはそのことに気づかない一族を見限っていたのかもしれません。

「ただ…お前とオレは唯一無二の兄弟だ。お前の越えるべき壁として、
 オレはお前と共に在り続けるさ。

決して弟想いを演じていたわけではなかった――。

「貴様など…殺す価値も無い。…愚かなる弟よ……。
 このオレを殺したくば恨め! 憎め!
 そしてみにくく生き延びるがいい………
 逃げて…逃げて…生にしがみつくがいい。」

自分を憎ませて、そして自分を殺すように仕向けたこの言葉。
逆に言えば生にしがみついてまでも生きろ――
憎しみを糧に強くなれ――というメッセージでもあり、
憎むべき兄という形で、サスケの心に深く刻み込まれ
サスケと共に在り続けることを果たしています。
そして実際に兄を超えたい一心で、サスケは強くなっていきました。

「…人は誰もが己の知識や認識に頼り縛られ生きている。
 それを現実という名で呼んでな。
 しかし知識や認識とは曖昧なモノだ。
 その現実は幻かもしれない。人は皆思い込みの中で生きている。
 そうは考えられないか?」

イタチもまた“弟”という思い込みの中で生きていました。
自分を捨ててでも弟を守りたいという気持ち――
ですが、それはいちいち理由づけする必要がないことのはずです。
それはイタチの本能であって愛情であって、
本当に大切なモノを守ろうとした結果生じた矛盾。
【変貌と疑惑2・兄としての自己】*3では、
イタチは弟にだけ心を開いていて、サスケが消えてしまえば自分を失ってしまう、としました。
なぜならイタチはサスケを拠り所にしている部分があるからです。
そしてそれはやがてイタチの生き方、生きる意味における中核を担うようになったわけです。
かけがえのない大切なモノであるからこそ、何にかえてでも、憎まれようとも守り抜きたかった――。
と同時に何かを守り抜く、生きる信念を貫くということは何かを奪ったり壊したりすることです。
【忍の生き様、死に様】*4において、
他を奪った分だけ自らも輝かなければならないとしました。
ただし、奪うものを間違えてはいけません。
奪うことでくすんでしまい、生の輝きを失ってしまってはだめなのです。
イタチはどうでしょうか?

「これでお前の眼はオレのものだ。ゆっくりと頂くとしよう。」

と言いながら、結局はサスケの眼を奪うことはしませんでした。
その想いはくすむことなく、弟を守るという信念を貫き通したといえます。
そしてそのイタチの想いはサスケの中で輝かなければいけません。
それが“つながり”のはずです。
イタチも一人の忍であり人間であった――そのことが段々と像を結んできたように思えます。

しかし一つ不可解なことがあります。一族虐殺事件です。
傍から見れば“奪い間違え”といえるこの事件。
イタチにはいったいどういう理由があったのでしょうか?