581『それぞれの木ノ葉』

1.それぞれの木ノ葉(1)

「おかしなものだね…。
 今こうして見ると、ずいぶんと仲が良く見える…。
 あれだけ憎んでハデな兄弟ゲンカをしてたハズなのにね…。」

イタチとサスケの即興のコンビ攻撃。
息のあった連携といえど、
いがみ合っていたという印象が強いカブトには、
何か釈然としないところがあるようです。

「君がイタチを倒す時に何かあっただろう事はうかがえるが…、
 一度死んだ人間に今さら何を聞きたいっての?」

カブトの言葉に、迷いが全くない様子でサスケは答えます。

「…真実だ。」

サスケが知りたいのは、イタチの真実。
イタチの真実らしきものは伝え聞いていても、
本人の口から真実を語ってもらいたいのです。
うちは一族事件の真相、自分を殺めなかったこと、その他諸々…

「アレレ…? もしかしてだけど、あ…イヤ、
 その言い方…疑ってるみたいに聞こえるね…イタチを。
 …サスケくん…君、
 すでにイタチの真実をもう知ってるってことかい?」

イヤらしく語りかけるカブト。続けます。

「道理でイタチを倒した後、
 君は木ノ葉の里に帰らず、
 逆に里を狙う暁に入る訳だ!」

サスケの表情は変わりませんが、
カブトは見透かしたと言わんばかりに笑みをこぼします。

「なるほど…。なら色々と今の君の行動にも合点がいく。
 …だからこそ君は、兄を苦しめた木ノ葉を潰す気でいるんだね?」

兄にうちは一族抹殺と言う大罪と重責を押し付けた木ノ葉の里が憎い――
今のサスケの原動力は確かにそこに集約されています。

「やっぱり否定はしないね…。
 とにかく偶然会った兄に真実を直接確かめようとここまで来た…。
 あの時はああだったのか? このときはこうだったのか? と細かくね。

サスケの表情は変わりませんが、
カブトは何か掴んだようにサスケに語りかけます。

「さっきも言ったけど…、まぁ嘘つきだからねぇ…君の兄さんは…
 ……分かるよ。なら…おかしいよね?」

ここで初めて目を丸くするサスケ。
おかしい――自分の行動に矛盾を指摘されたのです。

「イタチは同胞を殺してでも木ノ葉を守ろうとした男だよ。
 君のやろうとしていることと、敵対してないかい?
 いや、むしろボクの方が…君と同じ目的を持ってるんだよ…サスケくん!
 大蛇丸様が夢半ばで終わった"木ノ葉崩し"を継ぐ事でもあるからね。」

サスケの目的――木ノ葉への復讐。
それはむしろ大蛇丸の時、中途に終わった木ノ葉崩しの続きでもある――
なら大蛇丸の遺志を引き継ぐ自分こそ、
サスケの味方としてふさわしい、カブトはそう言おうとしているのです。

「さあ、よく考えて…。
 イタチを後ろから突き刺し、こっちへ来るなら今だよ。
 何…罪悪感を感じることはないよ…。
 そいつは本当は死んでるただの模造品だから。

勧誘めいた言葉を口にするカブト。
カブトもこの時点で本当にサスケが来るとは思ってはいないでしょう。
特に穢土転生とはいえイタチを模造品と言う輩の言葉が、
サスケの琴線に触れないわけがありません。
サスケを挑発し、連携を取らせない、"攪乱"を狙っていると見えます。

2.それぞれの木ノ葉(2)

場面は変わってサスケの回想。
兄弟対決後、仮面の男トビと共に行動しはじめてから、
ある居酒屋にて休憩をとっていた時のことです。

「暁のうちはイタチが死んだという情報が入った。
 お前らのビンゴブックにも対象外の印を付け、外しておけ。」

木ノ葉の忍と思しき4人組が卓を囲んで何やら話し合っています。
どうやら、イタチが斃されたことはもう伝わっている様子。
リーダーの男が仲間にそう伝えます。

「裏切り者もついに死んだか。」
「しかし、あのイタチをいったい誰がやったんです。隊長。」
「罰ですよ!
 それだけの悪行をやったんスからね!
 あげく暁にまで入って木ノ葉を襲う始末!
 あいつは木ノ葉の歴史上まれにみる大悪人ですよ!

口々に好き勝手を言う隊員たち。
真実も知らず、里を守るために死んでいったはずのイタチに汚名を着せ、
平気で侮辱する木ノ葉の忍たちに、
サスケは唇をカタカタと震わせて物言わずに黙っていました。

「こいつだけはオレ達の手で倒したかったぜ!」

しかしイタチの顔写真にクナイを突きつけ机を鳴らしたとき、
我慢できずに勢いよくサスケは立ち上がります。

「イタチほどの特S級犯罪者をやった男には、
 国と里からの勲章と多額恩給が出るよな。
 いったいいくらかな?」

サスケの神経を逆撫で続ける男の言葉。
隊長格の男が不謹慎だといって諌める言葉も、
もうサスケの耳には入ってなかったでしょう。
サスケは我を忘れて飛び掛かりにいこうとします。
しかしその寸ででトビに止められます。

「奴らは真実を知らん…。
 それにここでは人が多すぎる。」

しかしトビの制止を振りほどいて、

「オレが真実を語る!」

なおもサスケは飛び掛かろうとします。

「止めておけ…。
 こいつらがイタチの真実を上に確かめようが、
 木ノ葉上層部は必ずそれを否定する。
 今の火影でさえ、それは知るところではない。
 それに…イタチは事実、うちはを皆殺しにし、
 一度暁として木ノ葉を襲うフリをした。
 誰も真実は信じまい…。
 現にお前でさえなかなか…。」

その言葉に歯を食いしばり、
ようやく自分の激情を抑え込んだサスケ。
この頃はまだサスケも"イタチの真実"というやつを信じ切れてない――
とトビの目には映っているようですが、
イタチ関係のことになると見境がなくなっているのは明らかです。

「…こんな…奴らの為に…、
 …裏切り者の烙印を押すような奴らの為に…、兄さんは。」

とサスケ。悔しさを滲ませるように、
歯ぎしりの合間に言葉を漏らします。

「イタチの望んだ結果だ。
 それがイヤならお前は何を望む…」

そうトビに肩を叩かれ、宥められたところまでで、回想は終わります。

3.それぞれの木ノ葉(3)

「……。一緒にするな…。」

カブトの追及に静かに答えるサスケ。

「オレの木ノ葉崩しはオレだけのものだ。」

兄が守りたかったはずの里は、守られるに値しない
兄に大罪と汚名を着せ、その上に成り立つ木ノ葉の平和などまやかしでしかない――
あの居酒屋の一件以来、サスケの眼には木ノ葉の里がすべてそう見えてしまうのです。
だからこそ、守るべきでなかったものだからこそ、
徹底的に壊そうとするのです。
それが兄の汚名を雪ぐことになるとサスケは考えているのです。

「イタチの生き様はぼくもよく理解できる。
 ボクもイタチと同じさ…。
 木ノ葉の忍に拾われたはいいが、
 出生の分からないボクはすぐにスパイとして育てられ…、
 敵に信用されるようにと、医療忍術をたたきこまれた。」

突然、昔語りをカブトは始めます。
カブトも、悲惨な生い立ちを抱えた人物です。

「ずっと他里をあちこちスパイして回った。
 偽りの自分をずっと演じ、ずっと嘘をつき通し、
 本当の自分の居場所すら無い。
 本当の自分を知る仲間も無く、自分を消す作業がずっと続く。
 そして己が何者か分からなくなった頃、
 木ノ葉の里はボクを信用できなくなり、任務から降ろした。
 イタチもボクも木ノ葉の里の為に働いたのに、
 見返りはただの汚名と不名誉だ。
 木ノ葉の里がいったいボクらに何をしてくれたって言うんだい?」

自己を磨滅してまで、里にささげた功績は、
成し遂げたことはいったい何だったのか――
里への恨み辛み――抱かない道理はないでしょう。

「イタチの生き様があって生き残りの、今の君が形成された。
 ボクはまだ死んでいないだけで、君と同じものが形成された。
 ボク以上に君を理解できている者は他にいない。
 だから今度はボクが兄として君の側に居よう…。
 …さあ一緒に。」

手を差し伸べるような言葉で、
サスケにイタチから離反するように促すカブト。

「サスケ。耳を貸すな。」

しかし、自分を差し置いて、兄のように振る舞うカブトに、
さすがのイタチも黙ってはいません。

「奴はオレ以上のスパイだった。
 …つまりオレ以上に嘘が上手いってことだ。」

身から出た錆――、
見せしめとばかりにカブトの言動の矛盾をたたきつけます。
確かにそういった過去を背負ってカブトが苦しんできたことは本当でしょう。
しかし、その過去をにやけて美談風に話すカブトは、
実はそんなことはどうでも良いのです。
それで心の傷を負っただとか、復讐を考えているとか、そういうものではなく、
ただ単にそういう事実があったから、そういう事にして、
自分の狂気を正当化しようとしているだけの話です。

カブトの言葉は非常に軽い。

「里がどんなに闇や矛盾を抱えていようと、
 オレは木ノ葉のうちはイタチだ。」

イタチは短い言葉に自分の真実を詰め込みました。
真摯に、純粋に里の平和を願って、
汚名を着せられて、そのまま果てたとしても、
それも辞さない覚悟のもと、信念と本当に大切なモノを守ることを貫きました。

「サスケ…。
 お前をそうしてしまったのは、他でもない。オレだ。
 今さらお前の決断にどうこう言える立場ではないのかもしれない。
 だがこうなってしまった以上、
 一言だけちゃんと言っておきたい言葉がある。」

と最愛の弟に伝える言葉があるとイタチ。

「ちゃんと場を整えてからな。
 だからまずは奴を止めるぞ。」

目を大きく見開き驚くサスケを諭します。

4.それぞれの木ノ葉(4)

「…ボクが穢土転生の術者である以上、ボクは殺せない。
 手傷を負わせてもこの体の回復力がある限りそれも意味をなさない。
 ボクは視力を断った。…君ら自慢の瞳力の幻術も一切効かない。
 君たち兄弟に勝ち目はないよ…!
 このボクだからこそ、この穢土転生の術が無敵なのさ。」

カブトは嬉々と語ります。

「奴の演説は聞くに耐えんが…、状況説明は一理ある。」

イタチの言葉に頷きつつも、

「言われなくても分かってる…。
 で…、どうする?」

と次の言葉をサスケは待ちます。

「奴はうちはの本当の力を知らない。
 うちはには相手の五感に訴えることなくはめる瞳術がある。
 光を失う事と引きかえにな…」

サスケは一つ心当たりを口にします。

「…イザナギ…?」

ダンゾウと戦ったときに、その術を見たことを話すと、
イタチはよく生きていたなと感心します。
イザナギを使うのかと訪ねますが、イタチは首を振ります。

イザナギではない。それと対になるもう一つの禁術。
 すでに仕込みは整った。
 奴の運命を握る究極の瞳術…イザナミだ。
 イザナギが運命を変える術なら、イザナミは運命を決める術!
 サスケ。オレから離れるな。」

カブトの当身をサスケの刀身を使ってやり過ごしながら、
対象の運命を決定する禁術、イザナミの仕込みは終わったと語るイタチ。
サスケに自分の傍を離れないように言います。