四代目が九尾を封印する際に用いたという、究極の封印術・屍鬼封尽。
今回は木の葉崩し時における三代目と大蛇丸の戦いを中心に考えたいと思います。

1.封印術・屍鬼封尽(1)

屍鬼とはゾンビあるいは食屍鬼グール、グーラのことをさすと思われます。
死した者を封印し尽すという意味の術名です。
ナルトの世界においては、
塵芥<ちりあくた>が死した者の魂によって姿を形作り、
見目までも本当に死者が蘇ったように感じられる、禁術・穢土転生に見られるように、
魂を束縛する器として生きている人間の体を生贄に使い、
死した者の魂を再び現世に拘束できるようです。さて、

「この術によって…魂を封印されたものは……永劫成仏することなく、
 死神の腹の中で苦しみ続ける。封印した者とされた者…
 お互いの魂が絡み合い憎しみ合って永遠に闘い続けるのじゃ……」

三代目によれば、穢土転生で用いた器が生きた人間の生贄ならば、
屍鬼封尽の場合においては、死神の腹こそが魂を拘束する場所です。
しかしその死神の腹の中に入れられた魂は成仏することはなく、
つまりは輪廻転生の鎖から解き放たれたり、
新しい魂として新たな命を持ったりすることはなく、
永劫死神の腹の中にとどまり続け苦しみ続けると言います。

「術の効力と引きかえに己の魂を死神に引き渡す……
 命を代償とする封印術じゃ。」

ところが大蛇丸との戦いにおいて、三代目は四代目から譲り受けたこの術で、
初代火影、二代目火影の二人の魂と、あわよくば大蛇丸の分まで、
三人の魂を一人が封じようとしたことが分かります。
これは三人に影分身し、それぞれに封印しようと試みた結果生じたもので、
魂の分割を許していると考えられます。
つまり術者である三代目火影の魂を一口で入れるのか三口で入れるのかに相当します。
影分身とはチャクラを分割して実体をつくりだす術。つまり、ナルトの世界においては、
個人が持つチャクラの総和=魂
であると考えられるわけです。

「三代目は昔と違いチャクラの量が……
 現存するチャクラを均等に分散してしまう影分身は…
 ヘタをすればチャクラを捨てるようなもの…」

とある通り、三代目のチャクラ量は三体の影分身によって、
少量ずつに分けられてしまったと考えられます。
この術の凄いところは、影分身体を駆動するチャクラが少なかろうと、
初代火影や二代目火影といった魂をとらえさえすれば引きずりだしてしまうことです。
しかし大蛇丸をとらえはしたものの、引きずり出しはじめるや否やのところで、
三代目を草薙の剣が貫き、その“引きずり出す力”は弱まってしまいます。
つまり、本来使うべきでない生命維持エネルギーをチャクラ供給にまわしてはいても、
あるチャクラ量以下になってしまうと、この“引きずり出す力”は弱まり、
究極封印術かつ超強力な屍鬼封尽と言えど無効、失敗になってしまうと考えられます。
三代目の場合は何とか魂の腕にあたる部位を引きちぎりましたが…

2.封印術・屍鬼封尽(2)

それでは初代火影や二代目火影を封印する分影分身にチャクラを回さなければ、
刀は刺さっていても、大蛇丸の魂を全て引き抜くことが可能だったのでしょうか?
ギリギリ術が成功する量の限界チャクラ量Q_{min}に対して残存チャクラ量Q
Q{\ge}Q_{min} (術成功)
Q{\lt}Q_{min}  (術失敗)
であるとしましょう。
そして、影分身および屍鬼封尽術発動直前の三代目のチャクラ量をq_0として、
大蛇丸との折衝時を時刻t=0とする
三代目のチャクラ量qと時刻tに関して、
ある時刻における減少量がそのときのチャクラ量に比例すると考えれば、
次の簡易な微分方程式を得ます。ただしa(\gt0)は比例定数。


\frac{dq}{dt}=-aq
…(1)  


at={\Bigint}- \frac{1}{q}dq=-lnq+C_0 (自然対数lnq=log_eq
lnq=-at+C_0
q=C_1e^{-at}
ここでt=0のときq=\frac{q_0}{3}ですからC_1=\frac{q_0}{3}
したがってqの時刻tにおける関数は、


q=\frac{q_0}{3}e^{-at}
…(2)  
で表され大蛇丸の魂腕部分を引きちぎり、絶命した時刻t=Tとすると、

Q_{min}=\frac{q_0}{3}e^{-aT}
…(3)  
T=-\frac{\,1\,}{a}ln\frac{3Q_{min}}{q_0}
また同様にして、影分身を使わなかった場合の時刻t=T^'
 T^' =-\frac{\,1\,}{a}ln\frac{Q_{min}}{q_0}
ですから、

T^'=T+\frac{ln3}{a}
…(4)  
となりln3=1.0986ですから、この時間の単位が

時間(hour)単位ならば\frac{1.1}{a}(時間)
分(minute)単位ならば\frac{1.1}{a}(分)
秒(second)単位ならば\frac{1.1}{a}(秒)

だけ三代目が大蛇丸と張り合える時間が延長されます。
e^{-at}は比例定数aの値が大きいほど、
早い時間でチャクラ量が0に近づいていきます。
この消耗戦の状況ではaは大きい値と見なしたほうが適でしょう。
また数時間もこのような膠着状態が続いていたとは考えにくいですし、
秒単位の世界だとすればあまりにも描写が長いです。
数分の世界が適でしょう。
このように見るとチャクラ量が3倍あったからといって、
飛躍的に時間を延ばせるわけではないことから、
影分身していなくても負けてしまった可能性は十分あり得ます。

ここで例えばa=1として、1.1分の延長を得られるとします。
術の効力時間は大蛇丸の体力も奪っていましたので、
1分という時間で、逆転劇が起きた可能性はないとは言えません。

「あと十年若ければ……私を殺すことも出来たでしょうにねェ…クク…」

もしもこの1分で逆転できるとして、
10年前同じ条件(影分身三体使用、草薙の剣貫通)で屍鬼封尽を用いたとすれば、
影分身してなおq_0のチャクラがあったわけですから、
当時の三代目のチャクラは3q_0
この10年で三分の一にまでチャクラが減ってしまった
――ということになります。