遅れ気味になっておりますm(_ _)m
そろそろ月曜更新に戻したいところです。
今回は非常に密な内容となっております。

619『悪に憑かれた一族』

1.悪に憑かれた一族(1)

「これが…初代火影…。
 忍の神と謳われた柱間の本物か…。」

忍の神と崇められるほどの伝説の人物。
初代火影・千手柱間――その姿を前にして、
水月も思わず固唾を呑みます。

「また大蛇丸とかいう忍か…!」

四人の中で開口一番、不満を口にするのは
二代目火影・千手扉間。
一度、木ノ葉崩しの際に《穢土転生》にて
大蛇丸に御霊を召喚されたことを、
そして戦いを強いられたことを
扉間は覚えているのです。

「どういうことだ?」

一方で事態をあまり把握しきれていない柱間。
屍鬼封尽》を超えて再び《穢土転生》によって
呼び起されたことに対して腑に落ちないようです。
三代目火影猿飛ヒルゼンが口を挟みます。

「我々を封印していた屍鬼封尽の術…。
 おそらくはそれを解いたのでしょう。
 そしてその後、穢土転生を…。」

その可能性があるとすれば、答えは一つ。
屍鬼封尽》という強固な封印術が
解除されたことに他ならないでしょう。

「まさか…。あの封印術を解くなんて……。
 大蛇丸さん…どうやって?」

四代目火影波風ミナトも、
封印の強力さを身をもって知っているだけに、
とても信じられないといった表情を浮かべます。

「私を見くびりすぎよ、ミナト。」

大蛇丸

「元々はうずまき一族の封印術…。
 今は無き一族の跡地や
 散らばってしまった文献を
 ずっと研究したのよ…。
 術を失ってからね…。」

うずまき一族の封印術と突き止めてからは、
大蛇丸の手にかかれば、
いかに堅牢強固な封印とはいえ、
解法に至るのは至極当然というところでしょう。

「初代様…。
 どうやら我々は、この世に再び甦ったようです…。」

とミナト。
顔岩などで柱間を初代火影と認識できているのでしょう。

「ぬ!? 貴様は誰ぞ!?」

しかし、柱間は当然ミナトのことを知りません。
自分を知っているように話しかける若者を、
怪訝な様子で窺います。

四代目火影です。」

その事に気づき、
ミナトは羽織の後ろに書かれた文字を見せます。
《穢土転生》は死者の最期の装束の様子まで、
しっかりと再現されています。

「ほお!!
 四代目とな!!」

ミナトの背中の五文字を見て、
歓喜に心を躍らせるような表情を浮かべる柱間。

「うむ! うむ!!
 里も長く安定しておるようだな!」

自分の意志を継く"火影"が四代も在る――
木ノ葉隠れの里がいまもなお続いている――
柱間が嬉々とするのも頷けます。

「あの〜〜〜
 安定しているかどうかは私もよく分かりません…。
 なんせ私は三代目より先に死んで
 封印されてましたから。」

と言いにくそうにミナト。

「ぬ!? そうであったか!?
 猿飛と一緒に封印されたのとは別件でか!?」

複雑な事情があったであろうことは
柱間も想像に難くないといった様相。

「ハイ…。別の事件で…。」

お恥ずかしながら――
そんな様子で話すミナト。

「して五代目火影は誰ぞ!?」

気がかりなのは四代目の先。
ここには姿の無い、すなわち《穢土転生》されていない
五代目火影が存命であること。
そもそも五代目まで続いているのか――
柱間は問いかけずにいられませんでした。

「お孫様の綱手姫ですよ。」

大蛇丸

「綱か…。今…里は大丈夫ぞ?」

と急に不安げに肩を落とす柱間。

「な…何か心配でも…。」

ミナトも綱手の豪胆さを知ってはいるでしょうが、
それ以上に三忍としての武勇を知っているので、
柱間がそんなに肩を落とすのも不思議に映るでしょう。

「初孫だったんで、果てしなく甘やかした!!
 しまいにはオレの賭事まで覚えて、それはもう……
 ガハハハ!!」

綱手の賭け事の手ほどきは祖父である柱間がしたようです。
初孫、そして女の子とあって、
それはもう目に入れても痛くないくらい
可愛がったのでしょう。

「(忍の神…。想像してたのと少し違うな…。)」

乱世を治め、忍の神と崇められる凄腕。
しかし表情豊かで人間くささを感じるそんな人物。
口を大きく開けて豪快に笑う柱間を見て、
神々しさや厳格さを想像していた水月
拍子抜けしたような感じです。

2.悪に憑かれた一族(2)

「…また穢土転生の術か。
 ワシの作った術をこう易々と…」

死者を甦らせる《穢土転生》の術。
編み出した自分自身が、
二度までも呼び出されるとは、
腑に落ちないといった様子の扉間。

「それほど難しい術ではありませんよ…。」

大蛇丸

「ただ…作るべき術ではなかった……。」

柱間は言います。

「二代目…。アナタのしてきた政策や作った術が、
 後々やっかいなことになってばかりでしてね。
 今回も…。」

そんな大蛇丸の言動に、憤慨するように

「貴様…また木ノ葉を襲う気か!?」

と扉間。

「ワシの命と引き換えにしてまで、
 お前の術を奪ったというのに、
 …なんたることじゃ…!!
 今度は師であったワシまで穢土転生して、
 木ノ葉に仇なす気じゃな!!」

とやれやれと憂うようにヒルゼン。

「ハァ…。いつの世も戦いか。
 確かに…あまりいい術とは言えぬな。」

死者を操る《穢土転生》という術の愚鈍さを、
今さらながらに嘆く柱間。

「扉間よ…。だからあの時オレが言ったように…。」

扉間の方を指さし、
兄として忠言を聞かそうとしますが、

「兄者は少し黙っていろ。
 ワシはこの若造と話している。」

兄からの苦言は何度も聞き、
耳にたこができてうんざりだと言わんばかりに遮る扉間。

「しかしだの…」

と続けたそうな柱間に、

「黙れ」

と言って聞き入れません。

「(忍の神貫禄ねェ――!!!)」

弟に言い負ける様子を見て、
貫禄も箔も何もありません。

「勘違いしないで下さい…。
 私はもうそんなことをする気はありませんよ。
 だから人格も縛ったりしてないでしょう?」

しばらく彼らのやりとりを見守っていた大蛇丸が、
ようやく口を開きます。

「今回は少し事情がありましてね…。
 彼のたっての希望で、
 話し合いの場を設けたまでです。」

サスケを見やるように促す大蛇丸

「…オレはうちはサスケ
 アンタ達火影に、聞きたいことがある。」

全てを知る者たち。
彼らから何を聞きたいのか――
歴代の勇者たちを前に、
決して居竦むことなく
冷静な眼差しで彼らを見やるサスケ。

「サスケ…か!?」

ヒルゼンは驚きの表情を浮かべます。
が――、自分がこうしてわざわざ《穢土転生》によって
甦らされてまで彼が確かめようとしていること、
ヒルゼンにはすぐ分かりました。

「うちはの者か…。
 なるほど悪党に付くだけはある。」

扉間が辛辣な口調で吐き捨てます。
木ノ葉崩しを為すために自分たち死した火影を
利用しようとした悪党――
大蛇丸は扉間からしてみれば、
そういう認識を持たれています。

「扉間。そういう言い方はよせと言ったはずだぞ!!」

兄として弟の発言を諌める柱間。
扉間はもともとこういう物言いなのでしょうが、
しかしいまの発言には多少なりとも悪意があります。

「兄者は甘いのだ。」

と扉間。

「オレのことはいい…。
 三代目…イタチになぜあんなことを…。」

サスケにとってまず確認しておきたいことは、
兄イタチのこと。
里の命運のために、
悲劇を全て一人で背負い込ませるような、
孤高の生き方をさせたその理由を
やはり当事者の口から確認しておきたいのでしょう。

「もう…。知っておるようじゃな…。」

サスケの眼差し、そして言葉端から、
ヒルゼンは全てを読み取ったようです。

「イタチは…、
 …うちは一族の復讐として、
 オレが殺した…。
 その後、トビとダンゾウから本当の事を聞いた…。
 そしてオレは木ノ葉への復讐へと走った。
 だが…、だがアンタの口から聞いておきたい。
 イタチの全てを。」

自分の命を、人生を賭して、汚名を着せられてまで、
里を守り抜くことに何の意義があったのか――
イタチの生き様をその眼で見つめて、
木ノ葉へ復讐するという気持ちが、
単純なものではなくなった――
その複雑なしこりが不可解で、
いまは色々と確かめたい心中にあるサスケ。
ヒルゼンの言葉を待ちます。

「…そうなったか…。
 同胞を殺めさせたうえ…、逆賊の濡れ衣を着せ、
 さらには暁共を一人で監視させていた。
 …イタチは小さき頃から、
 誰も気に留めぬ先人達からの教えや印に気付き、
 一人でかつての忍達や里の起こりを感じとる
 繊細な子であった…。そのせいかイタチは、
 一族という縛りにとらわれることなく、
 忍の先…里の先について考えることができ…
 いつもそれら将来を危惧していた。
 7才にしてまるで、
 火影のような考えをもつ少年じゃった…。
 ワシらはイタチ一人に全てを任せ、
 イタチはそれを任務として完璧に果たした。
 同胞を抹殺し、反乱を止め…、
 それに繋がる戦争を一人で食い止め…、
 暁にスパイとして入り込んでまで里を守った。
 ワシにお前を里で守ることを条件に出してな。」

幼い頃に見た戦争という凄惨な光景。
そして"一族"という概念に縛られることで
うまれてくる不毛な確執や軋轢。
どうあれば皆が安寧平和のうちにいられるだろうか。
そのためにいったい自分が何を為すべきか。
里。一族。いったい何が正しいのか。
そもそも正しいという概念などあるのか。
常に自分に問いかけながら、
イタチはその生涯を歩んできたのです。
その生き様はやはり嘘などではなかった。

「…やはり……そうか…。」

サスケはイタチの想いを汲み取るようにして、
目を伏せます。

「うちはの呪われた運命というやつよ。
 壊滅状態だとはな…。
 クーデターまで企てるに至ったか。」

うちは一族が反乱を企てていたことを
抹殺することで阻止したという旨のヒルゼンの話を聞き、
自分が抱いていたうちはへの懸念が
やはり間違っていなかったと扉間は頷きます。

「いずれそのような事になるとふんでおった。
 マダラの意志をもつ反乱分子も
 くすぶっていたからな。」

しかし大蛇丸は首を振りながら、指摘します。

「そう。うちはを追い込んだのは二代目…。
 アナタの創ったうちは警務部んに
 端を発しているとも言えるわ。」

との大蛇丸の言葉に、

「何だと…?」

と思わず訊き返す扉間。

「犯罪を取り締まる側は時として、
 キラワレ者になりやすい…。
 さらにそういう組織は権限が強い分思い上がる。
 犯罪者を監視させる名目で、
 警務部を牢獄と同じ場所に作り、
 うちはの家族を露骨に里の隅に追いやった。
 アレがマダラ分子を助長したのよ。」

大蛇丸はまとめます。
力を持ち、権限を与えられた代償に、
里の隅に追いやられ、
いつの間にか嫌われ者扱いされる存在となっていた――
それこそが不穏分子を助長させる
動機づけになっていた、と。

「扉間!
 あれほどうちはをないがしろにしてはならぬと、
 念を押して!」

柱間もうちはとの不和を残していては、
いずれ里は崩壊すると考えていた――
だからこそ扉間にきつく言って聞かせたつもりだった。

「うちはにこそできる役職を与え!
 次のマダラが出てきたとしても、
 すぐ対処できるよう考えた結果だ!
 兄者も知っているだろ…。
 奴らうちはは…悪に憑かれた一族だ。」

しかし扉間は結果的に、
身内自身が監視し合うようなシステムを構築することで、
千手との不和を解決するよりもまず先に、
うちは一族の力をうまく留めることを優先したのです。
それは里が興ってまだ間もなく不安定な時期に、
短い期間で治めるなら確かにうまくいったでしょう。
長い機関で考えた場合――
徐々に無理していた部分から皹が生じて、
そこから憎しみは確かに生まれてきたのです。

「…まるでマダラはトラウマのようですね。
 そんなにうちはが恐いと…。」

大蛇丸の質問を愚問と切って捨てる扉間。
しかしサスケは聞き捨て成りません。

3.悪に憑かれた一族(3)

「二代目火影…アンタに聞く。
 うちは一族とは何なんだ?
 …何を知ってる!?」

そこまでうちはを無下に扱う論拠は何なのか――

「…うちは一族と我ら兄弟千手一族は、
 長きに渡り戦い続けた歴史がある。
 元来その二つの一族は、敵同士だった。」

と扉間。

「そこは知っている…。
 悪に憑かれた一族とはどういう意味だ!?」

サスケはぶらさせるつもりはありません。
考え深げな柱間を傍らに扉間は続けます。

「…千手一族が術ではなく、
 愛情を力としているのに対し、
 うちは一族はそれより術の力を
 第一とした考えがあった。
 だが…本当は違うのだ…。」

意外な言葉に大蛇丸も顔をあげます。

「うちはほど愛情に深い一族はいない。
 だからこそ、うちははそれを封印してきた。」

サスケも初めて聞く話に、
思わず訊き返します。

「いったんうちは一族の者が愛情を知ると、
 今まで縛りつけてきた情の解放とでも言うのか…
 千手をも超える愛の力というものに目覚めてしまう。」

愛情の力すなわち他者を想うゆえの力。
それは千手に特有のものではなく、
むしろうちはの方が強いというのです。

「…ならOKじゃん?
 千手とも上手くいくでしょ…。
 その強い愛情の力ってので。」

水月が素朴に思ったことを口にします。
横に首を振る柱間。

「ところがこれが厄介なのだ。
 その強すぎる愛情は…、
 暴走する可能性を秘めていた。
 愛を知ったうちはの者が強い愛情を失った時…、
 それがより強い憎しみに取って代わり、
 人が変わってしまう。
 ワシはそれを何度も見てきた。
 そしてそれにはある特別な症状が出るのだ。」

愛情ゆえにその対象を失ったときの感情の爆発。
そしてそれはある力を発現させるのです。

「うちはの者が大きな愛の喪失や
 自分自身の失意にもがき苦しむ時…、
 脳内に特殊なチャクラが吹きだし、
 視神経に反応して眼に変化が現れる。
 それが"心を写す瞳"…写輪眼と言われるものだ。」

そう、写輪眼の本当の意味――
それは強き想いの力、心の力が形となって現れたもの。

「写輪眼は心の力と同調し、
 個人を急速に強くさせる…。
 心の憎しみの力と共に…。
 …うちはには確かに繊細な者が多く、
 強い情に目覚めた者はほぼ闇にとらわれ悪に堕ちる。
 闇が深くなればなるほど瞳力も増し、
 手がつけられなくなる…。
 マダラのようにな。」

想いの力が強ければ強いほど、
それは力となって形に現れる――
心の力が無限ならば、その具現する力は、
おそらく無限大となろう――
そしてその力に溺れていくことになるのです。

「マダラは弟想いの男だった…
 貴様の兄以上だろうぞ。」

と柱間。イタチにも増して、
マダラは弟イズナのことを大切にしていた。

「ワシはうちはの力を里の為に貢献できるよう、
 形を整え、導いたつもりだ。
 だが…里のために自ら自滅したのだとしたら、
 それも仕方のないこと。
 奴らも木ノ葉の里の役に立ったということだ。」

結局のところ、力を導いたつもりで、
"憎しみ"の力を断ち切ることはできなかった――

「扉間そういう言い方はよさぬか!
 話を聞いてるのは純粋なうちはの子供だ!」

聞いていた柱間も思わず諌めるほど、
扉間の言葉はサスケの神経を逆撫でするように言いますが、
今回のサスケは冷静です。

「大事なのは里だ。里が要よ。
 兄者もそれは分かっていよう。」

現実は甘くは無い。
確執や憎しみの中で、統治することは、
綺麗ごとだけではまかり通らない――
扉間の主義にも一理はあります。

「気にしない。
 …純粋でもなければ、子供でもない…。」

万華鏡写輪眼を見開いて、
柱間、扉間をぐっと凝視するサスケ。
その紋様を見て、
二人ともそれが万華鏡写輪眼であることを理解します。

「初代火影…。
 アンタに聞く…。里とは何だ?
 忍とは…そもそも何なんだ?」

サスケの純粋な問いに、
柱間はどのように答えるでしょうか?