デイダラはサスケを発見し、ターゲットにします。
これは偶然でしょうか?

1.芸術への偏執(1)

「オイラを…アートをナメんじゃねーぜ…。
 オレの忍術は何よりも崇高な芸術だ! うん!!」

暁の面々と初対面し、暁の新しいメンバーに抜擢されるきっかけとなる場面。
初対面の相手に対し、自分の爆発系忍術の芸術性などを誇らしげに語ります。
そんな話にまるで興味を示さないように、イタチが淡々と戦闘態勢へ。
いかに自分の芸術が素晴らしいか、デイダラはこの戦闘によって明かそうとしていました。
ところが、イタチの幻術にはまり、あやうく自分自身を攻撃するや否やのところで、
我に返り、ふとイタチを見たときに飛び込んできた光景――、
イタチの二つの写輪眼の紋様と
飾られている像の光背*1の紋様が重なって、
相手の能力に“芸術性”を感じてしまいます。
自分の能力こそが至高の芸術だと考えるデイダラにとって、
このことはプライドを傷つけられ、何よりも耐え難い屈辱となってしまったのです。

「オイラが他人の能力に見入っちまうなんて…。
 アレが芸術だと!? そんなワケあるか! 認めねェ…認めねーぞ!!」

このことを受け入れることは、今までの自分自身の“芸術”を崩してしまうことになりかねないからです。
ここから、写輪眼に対する執着が始まるのです。

2.芸術への偏執(2)

いつかはイタチに報復したいと思っていても果たせなかったデイダラ
因縁か――その弟サスケと対峙します。

「冗談じゃねぇ…“九尾”の人柱力には殴られた借りがある。
 カカシには右腕やられたしな…うん。
 オイラが殺すハズだった大蛇丸を殺りやがった、うちはサスケも許せねェ…」

デイダラにはターゲットとするべき相手が複数いました。しかし、

「見つけたぞトビ…うん」
「マジッスか!? 速!」
「で、どっちすか?」
「フッ…ついて来いトビ。」

デイダラ・トビ組は、偵察の際にうちはサスケを見つけ、真っ先にサスケの前に姿を現します。
でもこれは偶然サスケを発見したから、サスケに照準を定めたのでしょうか?
いえ、もしもサスケを偶然発見しても、自分が復讐を望む優先順位が低ければ、
サスケは後回しにするはずなのです。

「イタチとやり合った日からオレの左目は対写輪眼用として鍛えてたのさ。
 幻術を解く訓練を怠るワケねーだろ!!」

明らかにデイダラ写輪眼との対決を望んでいました。
しかしカカシも写輪眼使いです。
しかも万華鏡写輪眼によって右腕を奪われてしまったわけですから、
カカシに対しても“写輪眼への借り”があるはずなのです。

3.芸術への偏執(3)

それではカカシの優先順位が下げられた理由(=サスケをターゲットにした理由)
とはいったい何だったのでしょうか?
ここでデイダラが戦う理由をもう一度考えてみたいと思います。
デイダラにとって最初に写輪眼への敵意を持ったのは、芸術への“偏執”です。
つまりは認めない、次やれば必ずオイラの芸術の方が上だ、という片意地なのです。
術比べという意味でなく、芸術として上であることを示したかった。
それは結果としてデイダラのパーソナリティをかけることに値します。

「その目だ! そのよゆーこいた目が目障りなんだ!!
 オイラの芸術を否定するかのようなその目が許せねェ!!
 オイラの芸術を見て少しの驚嘆も表さないその目が…
 オイラの芸術を無視するその目が許せねーんだよ!!」

デイダラの芸術性など全く無関心であるサスケ。
イタチの写輪眼に敗れた後、奥の手である最高芸術C4カルラを編み出し
対写輪眼用に鍛えてきたはずの左眼と写輪眼対策に心血を注いだのに、
やはりサスケの眼――写輪眼に敗れてしまいます。

「ハハ…何で?」

心の片隅、脳裏を掠めるくらいの知覚だったかもしれませんが、
デイダラはこの瞬間、以前感じた通り写輪眼はやはり芸術だと思わざるを得なかったはずです。
しかも自分の芸術よりも写輪眼の方が上であると。
認めたくはない――。決して。

「そーゆーとこがむかつくんだよ!!
 てめーら兄弟のそーゆーとこがァア!!!」

自分の存在、価値を認めてもらえていない――。
自分の芸術は全く認めてもらえていない――。
しかしデイダラの怒りはイタチの分もサスケに向かっています。

「イタチに礼を言わなきゃな…クク…」

暁の仲間として何年か活動しているうちにイタチには敵わないと思って諦めた――
とも考えられるかもしれませんが、そもそもデイダラにとって
イタチ本人というよりは、写輪眼が敵であり、
イタチに認めてもらえなかったデイダラは、その弟を倒すことで、

  • イタチに自分の芸術性を認めて欲しかった

と考えられます。あるいは、

  • イタチには認められなかった芸術性もサスケの写輪眼には認めてもらえる

という淡い期待を抱いていたとも考えられます。
これこそがカカシへの復讐の優先順位が下である理由、つまり
芸術性という勝負での接点が薄かったカカシよりも、
芸術性という勝負での接点が濃いサスケを選んだため
であると言えるでしょう。

「そいつら色々面白そうだな。うん…」

サスケの取り巻き、水月について鬼鮫の話を聞いたとき、
すでにこの時点でサスケと戦うことを望んでいたのではないでしょうか。

4.芸術への偏執(4)

しかし認めてもらいたいという淡い期待は、打ち砕かれます。

「そんなものは眼中にねーよ。
 それよりイタチの居場所を教えろ。」

この言葉で完全にデイダラは自分自身とその芸術性を否定され、
しかも今回は自分の芸術が写輪眼より下であることを認めざるをえない状況でした。
デイダラは“絶望”したことでしょう。
そしてそれを認めてしまっている自分も嫌で仕方なかったはず。
しかし、それでも認めたくはなかった。そして、頑なに拒絶するのです。

「これからオイラは自爆する!!
 死んでオイラは芸術になる!
 今までにない爆発はこの地に今までに無い傷跡を残し…
 そして、オイラの芸術は今までに無い称賛を受けるだろう!」

デイダラは自分を、自分の芸術を認めさせることに必死だったのです。
【忍の生き様、死に様】*2で扱いましたが、芸術こそがデイダラにとっては、
他人には決して譲れない偏執、
それに従って生きていこうと思う何か大切なモノ”だったわけですから――。

「同じ物造りとして旦那…アンタは尊敬するが、
 芸術ってのは美しく儚く散っていく一瞬の美をいうんだよ。…うん。」

自分の死に様にすら儚く散る一瞬の美を求めたくらいに。

*1:【光背】:仏像の後光を表したもの。

*2:【忍の生き様、死に様】