綱手が初代の血を継いでいるのに木遁を発現しないのはなぜでしょうか?
初代火影の血を継いでいない(と思われる)ヤマトは木遁を使えます。
この差は遺伝的性質というよりは、遺伝後の環境、
つまりその遺伝子を継いだ個体に差異があるという見方ができます。
血継限界の素質は受け継がれていても、発現しない場合です。

1.血継限界と酵素の触媒作用

血継限界を【性質変化6・血継限界(i)】*1では、触媒だと説明しました。
触媒とは【特定の化学反応の反応速度を速める物質で、自身は反応の前後で変化しない】ものですが、
一つの決まっているもの、というわけではなく、
その反応に適した触媒適した条件いうものが存在するわけです。
前回はアンモニアNH_3の生成について

  • \mathrm{N_2+3H_2 \rightarrow 2NH_3}

という反応を見ましたが、鉄系の触媒を用いて、高温高圧のもと反応を進めます。



全くの余談ですが――、
高圧にするのは反応物\rightarrow生成物という方向への反応を著しく進めるためです。
一方でこの反応は発熱反応であり、低音にするほどアンモニア生成の反応が進むのですが、
生成速度が遅くなるために、高温状態かつ高圧状態にすると一番効率が良いとされています。
また異なる触媒によって同じ反応物から別の物質ができてしまうこともありえます。
エチレン\mathrm{H_2C=CH_2}と酸素の反応では
塩化パラジウム(II) (\mathrm{PdCl_2}) と塩化銅(II) (\mathrm{CuCl_2})を触媒に用いた場合

アセトアルデヒド

アルミナを担体とした銀Ag触媒を用いた場合

エチレンオキシド

など、それぞれ異なる物質が生じます。
アセトアルデヒドは悪酔いや二日酔いの原因、
ハウスシックを起こす建築材に含まれる物質として有名ですが、
エチレンオキシドは主にエチレングリコールの中間体、
減菌剤としての用途で用いる扱いに注意を要する薬品です。
エチレングリコールはペットボトルの原料である
ポリエチレンテレフタレートの合成に用いられます。

生体内でも触媒と同じ働きをするものが存在します。酵素です。
酵素はタンパク質が主成分であるので、その主成分であるタンパク質の性質や構造により
酸性←中性→アルカリ性や温度などの適した条件が異なってきます。
例えば胃に含まれるペプシンは消化酵素の一つですが、
強力な胃酸の中でも働くことができるようにpH2.0*2付近でその触媒作用が最も働くようになっています。


血継限界も酵素と同じく働くのに最適な環境が必要だと言えるでしょう。
つまり綱手が初代の血を受け継いでるのにも関わらず、木遁を発現しないのは、

  • 綱手自身に内在する血継限界が働く最適な環境にないため

と考えられるわけです。

  • (土)+(水)+(血継限界)=(木)

と考えているので、最適条件とはおそらく、

  • 水と土、両方の性質変化を扱えること

だと思われます。逆に言えば、綱手は水遁と土遁の両方またはどちらかを扱えないということです。
また綱手がどちらの性質変化も扱えて、なお木遁が使えない場合においては、
木遁を扱う修練を積んでいない可能性などを挙げることができると思います。

2.カカシの写輪眼の場合

木遁を例にとって説明しましたが、写輪眼や屍骨脈などにもあてはまると思われます。
写輪眼がはじめて開眼される場合や、イタチの言う万華鏡写輪眼の条件においても
血継限界の働く最適条件が整うことによるものと考えられます。
ただし、血族でないはずのカカシがオビトの眼をもらった当時よりは
巴の数が増えていること、万華鏡写輪眼を開眼していることなどは、
血継限界の因果性と一見結びつかないかもしれません。
しかし、血族に比べて疲弊しやすい等、やはり触媒作用に深く関連があります。

生成物(=写輪眼開放)が反応物(=通常状態)よりもエネルギー的に高い場合の図です。
生成物を得るには反応物にエネルギーを与える必要があります。
実は触媒(=血継限界)を用いると反応が進みやすいのは
反応物と生成物とのエネルギー差が小さくなるからなのです。
つまりこの場合、触媒がないとエネルギーを余計に使うわけです。
そもそもカカシはなぜ写輪眼が使えるのでしょうか。
物語上では明らかになっていませんので、カカシにはうちはの血が流れている可能性もありますが
一番大きな可能性は、オビトから写輪眼と一緒に血継限界も移植された場合です。
触媒作用はある程度までは、その量に左右されます。
カカシが持つ血継限界触媒の量は血族のそれに比べて少ないはずです。
つまり十分な量の血継限界(=触媒)を持っていないため、
余計なエネルギーを使ってしまうというわけです。



触媒はあくまで
特定の化学反応の反応速度を速める物質で、自身は反応の前後で変化しない
ものですから、触媒なしで反応が起こる場合も数多く存在します。
貝殻(主成分CaCO_3)に塩酸をかけると二酸化炭素が発生しますが、
この反応は触媒を必要としません。

  • \mathrm{CaCO_3+2HCl}\rightarrow\mathrm{CaCl_2+H_2O+CO_2\uparrow}

写輪眼発現の反応についても触媒を必要とする場合もあれば、
そうでない場合もありえるのかもしれません。
もともとの開祖は写輪眼らしきものを使えても、
いきなり本格的な写輪眼を使えたわけではないでしょう。
何らかのコツを遺伝子などの形で後代に脈々と受け継がせてきたものが血継限界だと思われます。
そもそも血継限界はコピーできないと言っている様に、容易に体得できないものですが、
万に一つですがそのコツを全く別の形で編み出してしまう(血継限界を自力でつくる)ことも
可能であるとは言えるでしょう。
つまり血継限界に頼らず自分流に写輪眼を発現させている場合です。

しかし疲弊などの観点から前者のように考えるほうが適当でしょう。

*1:【性質変化6・血継限界(i)】

*2:【pH】:物質の酸性、アルカリ性の度合いを示す数値。
一般にpH=7.0で中性。pH<7.0だと酸性、pH>7.0だと塩基性