今回は将棋でアスマがシカマルに負かされている場面から、
アスマの将棋の指し方と“玉”について書いてみます。
将棋に詳しくないけれど、今回の話に興味がある方は、
こちらで駒の動き方等を参照していただけますようお願いします。

1.アスマの負け将棋と玉(1)

35巻146ページ(317話「悪夢の始まり」)において、
アスマとシカマルは、将棋をしています。
まずは譜面を見てみましょう。
【図1】
?_1および?_2は指で隠れて見えなくなっているところで、
駒があるのかないのかは、わからないことを表しています。

「王手」
「ハァー! また負けたァ!」

この二人の会話のやりとりから
シカマルが王手をして、アスマはやられたーと俯く場面だと推定されますが、
この状況が生まれるのは、次のように銀をシカマルが動かしたときのみです。
【図2】
これ以外の状況では、このような譜面になることはありません。
龍(飛車成り)も銀も同時に王手をかけているため、上述の状況以外だった場合、
どちらも王手がかかってるのを忘れて将棋を進めてしまった場合だからです。
アスマもシカマルもこの対局が将棋初めてでないですし、
このミステイクなケースは除外して考えることにしましょう。
――さて、このときアスマの金に注目してみることにしましょう。
【図3】
この金。龍のまん前に置かれています。
龍は強力な駒ですので、金が置かれている前に指すことは滅多にありません。
金の餌食となってしまうからです。
つまりこの金は龍がこの位置に来た後に、持ち駒の金をアスマが指したものだと考えられます。
しかし、この金…何のつながりもなかったら非常に意味の薄い駒です。
アスマの玉は今にも詰まれそうで、どのみち危うい状況に変わりはなく、
シカマルは【図3】の状況から銀を前進させることができたわけですから、
この金をとってしまっても何の差し使いもない…という状況です。
ただ、アスマもみすみす金をやろうとは思っていないでしょう。
おそらく次の図のように金に対して、飛車か角がにらみを利かせていたのだと思われます。
つまりは金を取られても、相手の龍を取ってやろうというわけです。
(銀でとられてしまえば王手となり、この罠も全く意味がないのですが…。)
【図4】
つまり龍や銀を牽制する意図で金をここに指したのです。
このようにアスマの目は龍や銀にいってしまい、その結果玉に目がいっていなかったのでしょう。
この場合おそらく、?_2の位置には歩があったのでしょうが、
歩をあげて次の王手に備えて玉の逃げ道をつくるべきでした。
【図5】
どちらにせよ詰まれてしまう(玉が動けなくなる=負け)かもしれませんが、
最後まで諦めない…という意志は将棋においてはみられなかった、
いや、あるいはわざとそのように玉を動かさなかった。
負ける将棋と確信していつつも、巧妙に罠をはり(=金)、
相手の目を玉から背けようとしたのかもしれません。
ただシカマルはそんなに甘くありませんでしたので、アスマは潔く負けます。

2.アスマの負け将棋と玉(2)

「なら…“玉”は誰だか分かるか?」

アスマがシカマルに言った“玉”とは、後に木の葉を担う子供達を指すことがわかります。
【忍の生き様、死に様】*1でもちらっと触れましたが、
アスマは"棒銀"――銀を捨て駒に敵陣を攻める将棋の戦法――を迷わず選択しています。
しかしあの状況、いくら切羽詰まっていたとはいっても、
棒銀しか打つ手が無かったというわけではないはずですが、
敢えて棒銀を選択したこと、敵陣突破の尖兵となることを選択したのは、玉を守る為――。
その子が将来大きくなっても、暁という大きな脅威が、
再び木の葉を襲ってくることがないとはいえない。
その子の為にも、その子が育つであろう里の将来の為にも、
暁を突き崩す尖兵となりたい――そういう決心があった。
と前回書きました。しかし、尖兵となるということは、
逆に言えば相手の情報もよく分からず、無闇を要することも条件の一つ。
自分の命と引き換えに――という側面があります。
暁の飛段を相手にたときも、アスマの心境はまさしく先の対局のとき
龍の前に金を指した心境と全く似ていたものだと考えられます。
会心の一撃が全く効果のない相手。相手の出方は分からないが、自ら尖兵となる(=棒銀、前述の金)。
うまくいけば局を有利に進められるかもしれない――
でも、奇しくも先の対局のときと全く同じく、相手はそれほど甘くはなく、
負けることになりました(=詰み=死)…。
アスマはこの状況で自分たちが詰まれてしまうことを、直感的に感じ取っていたのかもしれません。
だからこのような負け将棋をしてしまった――ともいえます。
ただ、“玉”を守るという大切な精神はシカマルに受け継がせることができました。
先のシカマルとの対局とは違って、玉を動かせるように“歩”を前に進めていたわけです。
アスマは知ってて次につながるこの一手を指していたとみるべきでしょう。
棒銀や金打ちも何のつながりや効果もなかったわけではないのです。