忍の生き様、死に様について一つの曲解を書きます。

1.自来也の選択

忍とは生き様でなく死に様である。
でも本当は死に様とは生き様です。
死ぬときにどれだけの偉業を達成していたかを死に様と捉えるならば、
生きていた時にどれだけの偉業を達成するかの生き様に等しいからです。
しかし、あえて生き様と言わずに、死に様を優先したのは、
自来也が死に場所を求めていたからだと考えられます。
自来也は火影のような偉業を達成してその死を迎えたかった――。
火影となって偉業を達する機会はあった。
でも、それは火影という立場としてでなくて、
気ままな一忍びという立場で成し遂げたかったのかもしれません。
それゆえに彼は火影の座に自ら望んで就こうとはしなかったのだと思われます。

「ワシらの役目は次の世代のために手本となり、手助けをすること。
 そのためなら笑って命を賭ける。
 それが年寄りの格好良さというものだろーのォ。」

終盤の自来也の人生観。
この自来也の人生観に理解をもてる人、もてない人の賛否両論あると思います。
それは読み取る私たちにも"それに従って生きていこうと思う何か"があるからです。
ある目的や理想を掲げてその為に人生を貫いていこうとすること。
生の輝き、希望あるいはポリシーとも呼べると思います。
それゆえ十人十色の解し方があるでしょう。でも、一つだけ言える絶対があるとすれば、
自来也もまたそれに従って生きて死にたいと思う理想を持っていたということです。
自分の人生を自来也豪傑物語に準<なぞら>えて、失敗をばねにして、
最後には偉業を成し遂げて自分に誇りを持ちながら人生を終える。
そのために、ペインの前に出て行く選択肢をとった。
私たちにとって見れば、最善の選択とはとれないかもしれませんが、
自来也にとっては至上最善の選択なのです。
運命とは酷なもので、その強き願いを挫くように、
自来也もまた自分の望むような展開は得られませんでした。
しかし、最後の最後まで諦めない――という思いは、
『次の世代のために手本となり、そのためなら笑って命すら賭ける』
という言葉まさしくそのものであり運命に潰されまいと必死に抗う、
自来也豪傑物語、人間自来也を生き通そうとする生の輝き、生き様とは言えないでしょうか。


2.アスマの選択

思えばアスマも"棒銀"という選択をして殉職しました。
アスマの死は冷静な判断の上にあえなく命を落としたものとは決して見えません。
"棒銀"しか打つ手がなかったわけではないからです。
しかし、敢えて"棒銀"となって、
敵陣突破の尖兵となることを選択したのは、玉を守る為――。
将棋では王、玉が動けないようにされてしまうと負けとなりますが、
反対に言えば玉を守るということは、上手相手の王将を取るということに通じ、
おそらくアスマも玉を守ると同時に、暁という王将を追い詰める上での"棒銀"を選んだのです。
となるとだいぶ見方が変わってくるでしょう。
紅のお腹の中にいる自分の子供。
その子が将来大きくなっても、暁という大きな脅威が、
再び木の葉を襲ってくることがないとはいえない。
その子の為にも、その子が育つであろう里の将来の為にも、
暁を突き崩す尖兵となりたい――そういう決心があったととらえられます。
シカマル。彼がいれば可能だと信じて。

3.生あるものの死に様

しかし勘違いしてはいけないと思います。
"それに従って生きていこうと思う何か"だけが、私たちが生きる意味や理由ではないはずです。
確かにそれは生の輝きでもありますが、私たち自身の100%の輝きではありません。
なぜなら私たちは他の生の輝きを食物や競争などによって奪って輝いていて、
そこには数多くの言い知れぬ"つながり"というものが存在するからです。

人の為、里の為――自己犠牲は単に善とは言えません。
その人を思う大切な人に大きな悲しみを招くからです。
自来也もアスマも当然分かっていたはずです。
しかしそれを承知で、敢えてそのような大切な人々を悲しみに陥れることに
つながるかもしれない選択肢を選んだのは、いったいどうしてでしょうか?
ただ自分を通そうとしただけなのでなく、"つながり"を理解していたからだと考えられます。
自分の意志は自分を大切に思う人々をやがてはその悲しみを克服し成長させ突き動かす――と。
つまり、"つながり"に自らの生の輝きを託しているのです。
こうして連鎖しあって輝いている生が"それに従って生きていこうと思う何か"を打ち立てるとき、
それはまた他に生の輝きは与え途絶えることなく生の輝きは連鎖していくのでしょう。
そして私たちの普遍的な本能、人の心というものがそれを善と認めるのだと思います。
また、その善を分別する本能の働きが狂った者を悪と仮に定義したとします。
ペインはまさしく悪です。それを凌駕する善となるべき予言の子に託された思い。
ナルトがしっかり受け取り、どのような成長をするのか――
今後の展開に一つ期待したいところです。