シスイ殺害疑惑、三人の警務部隊員が来る前まで、
イタチは微笑んでいました。
これは演技でしょうか?

1.シスイ殺害疑惑の直前

場面は成績表を傍に、縁側でサスケとイタチが語らうシーン。

「父さんは兄さんの事ばかりだ…」
「オレがうとましいか?」
「………!」
「別にいいさ…。忍ってのは人に憎まれ生きてくのが道理ってもんだからな。」
「そ……そんなふうには……………」

弟が兄である自分を疎ましく感じていても別に構わないさと笑うイタチ。

「…クク…優秀ってのも考えものさ。
 力を持てば孤立するし傲慢にもなってくる。
 最初は望まれ求められていたとしてもだ。」

「ただ…お前とオレは唯一無二の兄弟だ。
 お前の越えるべき壁として、
 オレはお前と共に在り続けるさ。」

という悟りを得ているかのようなイタチの台詞。

2.イタチの言葉

「…クク…優秀ってのも考えものさ。
 力を持てば孤立するし傲慢にもなってくる。
 最初は望まれ求められていたとしてもだ。」

とはイタチが自分自身のことを表現していると捉えてよいでしょう。
優秀であるがゆえに、常に周りから期待され続け、そしてその周りの期待に応えてきたイタチ。
しかもその優秀さゆえに周りから疎まれ、憎まれるゆえの孤独。
それも木の葉の同じ仲間であるはずの忍から。
それでも自分自身が崩れてしまわないように、肯定するために“傲慢”になる。
サスケに「オレが疎ましいか?」と訊ねたときに笑っていたのは、
自分がそういう存在であるとある種割り切っていたのかもしれません。
その上で自分はどうあるべきか、いろいろと考えあぐねた事でしょう。
イタチもこの頃は、ちょうど自己形成で揺れるとき。

  • 必死に自分という存在を考えていた

に違いありません。でなければ、後々でてくる“自分の器”などという言葉は、
彼の口から発せられることは無いと言えるでしょう。

しかし一つだけ確かなことは、
全てが全て彼の言う“演じていた兄”ではないということ。
彼の本音が垣間見える言葉、それが、以下の台詞です。

「ただ…お前とオレは唯一無二の兄弟だ。
 お前の越えるべき壁として、
 オレはお前と共に在り続けるさ。」

唯一無二と、サスケの存在を肯定しています。他ならぬイタチ自身が。
これは、「オレを越えろ」と言っているに等しい。

  • イタチは弟であるサスケだけには唯一心を開いていた。

のは確実でしょう。
つまり演技なんかでは片付けられない、心からの言葉であり、

  • イタチの弟への心からの思いやり

でもあり、事実この言葉は現在のサスケにも
皮肉にも“憎しみ”という形で繋がっていて、
サスケは常に越えるべき兄イタチを意識させられているのです。


もしも演技からの言葉だったとすれば、
サスケの心に残らずに、イタチはいつまでも遠い存在だと思われます。
サスケが雲のような存在のイタチに対して諦めずに、
躍起になってそれを越えようとするのは、当然、
サスケが兄であるイタチを追いつき追い越そうとする気持ちが、
兄には敵わないと負けを認めてしまう気持ちより強いからです。
それはサスケが父に認められたいから、というのもあったでしょうが、
実際父に認められ、なお兄を越えんとするのは、
この言葉がサスケの根底に響いたからといっても過言ではないでしょう。
そして同時に、そうあらんとする弟の姿は、
“自分”が何者か悩むイタチ自身をも奮い立たせ、
“サスケの兄”としての“自己”を確立できることになります。
ようするにサスケがあってのイタチなのです。

  • イタチはサスケが消えてしまえば、自分を失ってしまう。

ことになるのです。


兄弟というものは難しいものです。
これが、暗部と言う激務にあり、
無理やり押し付けられた一族としての重圧から、
自分を失いかけるイタチが、
自分という存在を考え続けてきた結果、
イタチが考える最も良い幼い弟に対しての接し方として、
あの台詞は彼の奥底から言葉になったものだと考えられるのです。
決して“演じる”などと打算的なことではないのです。
むしろ必死だったと思われます。
そして、自分を失いかけていたイタチは、
弟という拠り所以外にも手を伸ばしてしまったところがあるのです。
暁――ではないでしょうか?