1.憎しみ、兄弟の絆

兄への憎しみを貫いてきたサスケにとって、
兄を超えること、それが全てでした。
対してイタチの方はというと、サスケの眼を奪うといいながら、
あわせるような戦いを見せ、
真意は分からぬまま、兄弟対決は幕引きになってしまいます。
しかし、本当にサスケは兄を超えていたと言えるかどうか、
サスケがそう思っているかどうか――
サスケが最後、イタチに静かに微笑んだのはなぜでしょう?

「ただ…お前とオレは唯一無二の兄弟だ。お前の越えるべき壁として、
 オレはお前と共に在り続けるさ。」

イタチにとって、心を開いていた、許していたとも言えるべき存在は、
サスケだったと考えられます。
イタチが言うように優しい兄を“演じていた”――というのは不自然なのですが、
仮にそうであるにしても、自分を憎ませ、
形は歪んで憎悪となっても“共に在り続ける”ように仕向けたのはイタチです。
イタチにとって弟は特別な存在だったことが随所から窺い知れます。

「さあ来い! 弟よ!! 
 オレはお前を殺し一族の宿命から開放され本当の変化を手にする。
 制約を抜け己の器から己を解き放つ!
 オレたちは互いのスペアだ!! それこそがうちはの兄弟の絆なのだ!!」

と言ってはいますが、

「組織に執着し、一族に執着し名に執着する…
 それは己を制約し己の"器"を決めつける忌むべき事…。
 そして未だ見ぬ…知らぬモノを恐れ憎しむ…愚かしき事!!」

自分を呪縛しつづける“うちは”から抜けきれていないイタチは、
そのことに気づいていたからこそ、弟サスケに、
わざと自分を憎ませて自分とは違う道を歩ませるように仕向けた。
――そう、思えてなりません。
このあたりは、以前【真相へ2・忘れられた大切なモノ(i)】*1においても触れたところです。

2.イタチの背中

一方サスケは果たして“憎むべき兄”ばかり追いかけていたのでしょうか?

「お前が望む様な兄を演じ続けてきたのは…お前の"器"を量る為だ…」

突然変貌した兄。横たわる父母。無数に斃れている一族の人々。
サスケには確かに受け入れがたい事実でした。
しかし、根底からイタチがそれを全て一人で成し遂げた、
つまりまるっきり兄の仕業とは思っていませんでした。

「いくらアンタでも警務部隊を一人で殺れるハズがない。」

裏を返せば、兄でない他の人物が、この一族虐殺事件を仕組んだのではないか――、
そういった思いが片隅にあったといえます。
変貌してしまったイタチに、
“優しい兄”の部分を求めていたところがあったはずです。

「許せサスケ…また今度だ。」

幼きサスケには優しい兄が全てだったのです。

「それと…一つだけ言っておく…
 もう兄さんの後は追うな…」

父親に認めてもらえた後も、ずっと兄のことが気がかりでした。
兄ばかりに父の眼差しがいっているような気がして、
それをコンプレックスに思ってきた一方で、
兄のようになりたい、羨望と尊敬を持ってその背中をひたすら追いかけてきたサスケ。
兄と父の確執、同じように尊敬している父親から、兄を追うなと言われます。

「だって手裏剣術なら兄さんの方が上手だって…子供のオレでも分かるよ。
 …兄さんはそうやっていつもオレを厄介者扱いする。」

しかし、サスケは兄を追うことを止めませんでした。

「兄さん…アンタを殺すためなら、
 この先がどんな闇だろうとオレは突き進んでやる!
 どんな事があっても力を手に入れてやる!!」

優しい兄でなかったとしても、醜く生きのびても…
イタチの背中を追うことを決して諦めませんでした。

「………終わったぞ…!!」

そして持てる力を出し尽くした麒麟の雷。
ようやく兄を超えたと思った――しかし、イタチは倒れませんでした。
予想だにしない術・須佐ノ乎によって、
サスケは一気に追い込まれてしまいます。
眼を抉り出そうと迫り来るイタチの手。
サスケも思わず足が竦みます。最期を覚悟したときに、
その手がのびた先はサスケの眼ではなく額でした。
そう――幼き頃、よく小突かれ、兄を感じていた場所です。

偶然といえなくもありません。
しかし、その瞬間、サスケは“優しい兄”を感じたはずです。
ずっと、心の片隅にあった靄がようやく晴れたような心地だったのです。
あの“優しい兄”は演技などではなかった――
そう確信して思わず微笑んだのかもしれません。

「本当に…強くなったな……サスケ…」

イタチの本当に大切なモノ、それは弟サスケであることを示すように、
イタチの赤い血がサスケの額に残され、雨とともに眼へ。涙のようになります。
イタチの血がサスケの眼を、万華鏡写輪眼を覚醒させ――
やがてイタチの真意を知ることになるのでしょうか?