667『碧き日の終わり』

1.碧き日の終わり(1)

「てめー!! どこのどいつだか知らねーが
 サスケに何してやがる!?」

逸る香燐ですが、
よく見るとそこには見知った顔が――

「アナタだったのね…
 カブト。」

そこにはイタチの術に嵌められたはずのカブトの姿が。

「ここへ急ぐ一行を感知してました…
 やはり大蛇丸様でしたか。」

とカブト。
以前とは異質なチャクラを感知し、訝しがる香燐。

「色々と他人のチャクラを体に取り込んだあげく
 仙術チャクラまで取り込んだから…
 香燐でも別人と間違えたようね。
 ちなみにイヤな感じがしたのって
 私のチャクラがまだ残ってたからかしら?」

仙人モードとなるため
自然チャクラを吸収しすぎたからなのか、
他人のチャクラを取り込み過ぎたからなのか、
大蛇丸も"感知違い"をした理由を知りたがります。

「サスケから離れろインテリヤロー!!」

遮るように香燐が叫びます。

「カブトさん…。
 まさかサスケも取り込む気じゃないよね?
 カブトにサスケで、カブケかサストか知らないけどさ?」

水月も重吾もカブトの出方を窺うように慎重な構えです。

「てめーがサスケをやったんだな!?
 コノヤロー!!」

冷静でいられない香燐ですが、
ふとサスケに息があることに気付きます。

水月…。
 ボクはもうそんな事はしないし、
 香燐…
 ボクはサスケくんを奪おうとは思わない。」

とカブト。
彼はサスケのチャクラを吸収していたのではんく、
サスケにチャクラを与えていたのです。

「(…サスケのチャクラ…
  かすかに感じる!!! ま…まさか…!)
 カブト…、アンタがサスケを!?」

驚く香燐を無理もないというように、
カブトは続けます。

「そう…。
 ボクの医療忍術と研究しつくした
 あの柱間細胞。
 そしてある方の助言で
 彼の一命をどうにかとりとめたんだ。」

とするカブトに、

「そういう事だ。」

と肯定する扉間。

「これはこれは…。
 私が最も尊敬する火影…
 二代目扉間様。」

大蛇丸が扉間の方を一瞥します。

「しかし…カブト。
 アナタがここに居るという事は
 イタチのイザナミの術による
 無限ループから抜け出せたって事だけど…」

大蛇丸は尤もらしいこと、
しかし大変不可思議なことをカブトに訊ねます。
つまり無限に繰り返される幻の世界を
どうやって抜け出してきたのかということです。

「そうです…。
 …ボクは自分を認めず何者かも分からないでいた。
 それを簡単に教えてくれるアナタに利用され
 己を失っていた。
 でもイタチはその術でボクに気付かせた。
 ボクは他でもない――カブトなんだと。
 そして帰るべき場所も。」

とカブト。己があろうとした原点へと回帰し、
ようやく自分の弱さと自分自身を認めることができたカブト。

「なんかさ中身まで変わった?」

とする水月。チャクラが異なるのも、
イザナミの影響なのかもしれません。
弱さを認めそれを包み込む広さと強さを
今のカブトからは感じられます。

「それがイザナミという術なのよ。
 つまり己自身を見つめ直し、
 受け入れなければ術が解けない仕組みなのよ。」

イザナギという強大な力に溺れた者を
戒めるために編み出された究極の更生瞳術。
感慨深げに大蛇丸が頷きます。

「サスケ…」

虫の意気ですがほっとしたのか、
胸を撫で下ろすように見やる香燐。

「ボクは今…
 帰るべき場所を無くしたくないと
 心の底から願うようになった。
 イタチが死んでも守りたいと願った
 サスケくん……。
 その想いが痛烈にボクの心を貫いてきた。」

とカブトは言います。
死に代えても守りたい大切なもの――
それを理解できたのです。

「フン…! あのね!
 今さら言えた義理かよ!
 アンタさぁ偽物マダラと組んで、
 この戦争をおっ始めた主謀者なんだぞ!!」

しかしいくら理解できたところで、
罪に課せられる責任は小さくはなりません。
こうして起された戦争の一端を担った事実は
決して揺るいだりはしないのです。

「その通りだ…。
 ボクもそのオビトも、
 この世の中に自分の居場所が
 なくなってしまったと思い込み
 皆を巻き込んだ。
 だが、もう自分が何者か分かっている…。
 そして己が何をすべきかも!」

オビトはその罪過を受け入れる覚悟はあります。
それは自分が一体何者で何をなしたか、
それを理解しているところから来るある種の強さです。
それでは次に何を為すべきか――
最善と思える行動にカブトは出たのです。

2.碧き日の終わり(2)

「増援が来たところで、
 お前らはただの砂利…
 今さら何もできんぞ。」

とマダラ。はじめてマダラの姿を見るガイは、
カカシに確認をとると闘志を再び燃やします。

「カカシ大丈夫かい?」

カカシのダメージを心配するミナト。
《仙法・螺旋丸》は致命的な重傷を与えるはずです。
しかし、カカシは《神威》でなんとか直撃を避けたとの事。
それを聞いてほっとするミナト。

「仙法? …仙術ですか?」

ミナトに確認するようにガイが訊きます。

「そう…。奴は仙術しか効かない…。
 それともう一つ…
 体恤によるダメージ。」

ガイは段々と状況を把握します。

四代目火影の仙法と、
 ガイ…アナタの体恤しか
 今は手段がないということか…」

我愛羅も後を押します。

「…先生は確か…、
 その…仙法があまり…。」

しかしミナトが仙術を得意としていないことを
カカシは知っています。頷くミナト。

「…正直、仙術は苦手でね。
 チャクラの練り上げに時間がかかりすぎるうえ、
 長時間維持できない。
 実戦でもあまり使ってこなかったんだ。
 その上今は印が組めない状態だから、
 まともに闘う事もできないと思う。」

それを聞いてガイは、
今求められているのは自分の力だと確信します。

「つまり今この碧き猛獣の出番という事になるな!!」

相手がマダラだからか、
いきなり八門のうち第七驚門まで開いて見せるガイ。
マダラすらその碧い蒸気に一瞬戦きます。

「赤い蒸気にはならぬとは…
 なめられたものだ。」

しかしそれは本当の全力ではないことを
マダラも知っています。

「黒い玉と棒に触れたらダメだよ!!」

ミナトのアドバイスを聞くか聞かぬかのうちに、
目にも留まらぬ速さで特攻をかけるガイ。
その凄さは我愛羅をおして

「人の動きじゃない。」

と言わしめるほどのもの。
そして隙をついて《昼虎》が発動し、
マダラを吹き飛ばします。
しかし土煙に隠れて飛び交う黒い玉。
マダラはまだやられていないことを確信したミナト。

「黒い玉に体当たりしつつ
 もう一度飛雷神しかない!!」

ガイを助けるべくカカシにクナイを要請しますが、
そこを割って入るようにナイスタイミングで
リーが助けに入ります。

「すまない…リー。
 テンテンはどうした?」

力を出し過ぎた反動からか、
少し回復に時間がかかる様子のガイ。
虚ろな様子でリーに訊ねます。

「少し確かめたい事があるから先に行けと…
 やっと追いついたとたん…急に昼虎が…」

と状況説明をするリー。
カカシも来て心配しますが、
どうやら左腕と肋骨の数本をやられたようです。

「頼みの綱の体恤もダメとなると……
 どうする…。
 奴は…強すぎる…」

人じゃない動きすら超越する動きで
ガイを軽くあしらったマダラ。

「待て…カカシ…。
 まだ体恤がダメと決めつけるのは早いぞ!
 オレ達の青春はまだ色褪せちゃいないよ!
 望みを捨てるな!」

納得がいかにというように、
ようやく立ち上がったガイが言います。

「確かに…望むことが全てできる訳じゃない…
 しかしやるべき事はいつも
 望んでからでなければ始まらん。
 お前への挑戦がそうだったように。
 そしてこれは決して強がりじゃない。」

臨んだことが全てかなう訳じゃない――
いつも準備をしていないときに状況は変化する。
でもその変化していく状況の中で
己が進むべき道、やるべき事を決めるのは自分。

「お前…まさか…!?」

決死の覚悟を見せる戦友の姿に
カカシは一瞬言葉を失います。

「木ノ葉の碧き猛獣は終わり、
 紅き猛獣となる時が来たようだ。」

うら若き碧い清秋の日々――
それは時期が来ると燃えるように紅く輝く時が来ます。
今こそその時だと、ガイは決意したのです。

666『二つの万華鏡』

1.二つの万華鏡(1)

「すり抜ける……
 お前本来の右目の力か」

身体をすり抜けさせるオビトの写輪眼の力。
オビトを引き離さそうと振りかざした右手を
いとも容易くすり抜けさせます。
いったん間合いをとるマダラ。

「オレから尾獣を奪い、
 弱体化を狙っているのか?
 オレと取り合って勝てると思っているとはな!」

マダラの中に封ぜられし尾獣たちの片鱗。
それらチャクラを掴みにかかります。
チャクラの綱引き――。
マダラとの勝負です。

「弱いな。
 一尾と八尾をほんの少し引きちぎった程度とは。」

手強い相手です。
十尾の人柱力とまでなり、
尾獣たちのチャクラに慣れたオビトといえど、
一尾と八尾の一部を引きちぎったに過ぎませんでした。

「カカシィ!!
 ナルトを時空間へ運べ!!」

と伝えるオビト。
オビトの行動と言動に信頼をもったカカシは
すぐさまオビトが何を為そうとしているか考えます。

「(オビトはあっちで九尾を渡すつもりなのか!)」

すぐさま《神威》の力を開放し、
ナルトを介抱するサクラごと異空間へ飛ばします。
追うようにしてオビトも自身に《神威》をかけます。
しかしマダラに実体化のタイミングと弱点を知られています。
その隙を突かれた攻撃を
六道の錫杖でなんとか防ぐものの、
このままでは亜空間へ移動することはかないません。
マダラの攻撃のスピードは、
空間転移するスピードより上なのです。

「一度仙人化しただけはある…
 ほんの少しだが
 オレからその力まで吸い取ったか…」

オビトはマダラから尾獣のチャクラを引きちぎっただけでなく、
どうやら六道の力を微かながらに奪い取ったようです。

「マダラ…あいつはいつでも私を殺せた…!
 あまりの恐怖に息をするのも忘れてた…!!
 アイツは…アイツだけは……
 次元が違う!!」

異空間の静寂に包まれ、
先ほどまで自分がいた環境にぞっとするサクラ。
ぎっとを歯を食いしばり、
冷静になるように努めます。

「ナルトは運んだ!
 後はお前が向こうへ飛べば
 ナルトは助かるて事だな!?」

なんとかオビトに接近したカカシは
オビトと連絡を取り合います。

「ああ。任せろ。
 そして今回はオレがメイン――
 お前はバックアップだ。カカシ。」

許しがたい敵に陥った戦友。

「久かたぶりのツーマンセルだな。
 しくじるなよ、オビト。」

そいつが帰って来た喜びを、
二度と来ないであろうこの瞬間を
噛みしめるようにカカシが頷きます。

「……覚悟はいいか。」

オビトの言葉に

「ああ…。最後の作戦が
 お前とでよかったよ。」

と頷くカカシ。
岸本先生はこのシーンをどれほど描きたかったのでしょうか。


2.二つの万華鏡(2)

「オビト…
 カカシ…」

教え子二人を固唾を飲んで見守る先生。
二人が力を合わせれば、
恐いものなど何もないことを知っています。

「…オビト。お前に預けたモノは全て返してもらう。
 特に左目がまだ入っていなくてな…」

とするマダラに、

「気になるか? マダラ。
 …写輪眼は左右揃って本来の力を発揮するもの…
 そう言ったよな。…なら…」

オビトは言います。
左右揃った写輪眼の真価を――

「違う。もう写輪眼ではない…
 輪廻眼だ。」

輪廻眼にしか興味のないマダラ。
オビトの言うことなどどうでも良いという様に
話を遮るかのようです。

「違う…こっちの事を言ってんだよ。」

と右眼を強く見開くオビト。
まだ写輪眼も開眼していなかったあの頃――
リンの気をひくことに夢中で、
カカシよりも上をいってやろうと意地を張っていたあの頃――

「お前の歩く道はいつもどんだけ
 曲がりくねってんのよ、ホント!
 真っ直ぐ来い!」

そこは神社の境内のような場所。
いつものように待ち合わせに遅刻してきたオビト。

「だから! 
 道すがら、色々あったって、
 言ってんだろが!!」

とカカシの言葉にムキになって返します。

「忍なら決まりを守れ!!
 お前のその怠慢が、
 仲間を危機に陥れる可能性だってあんだから!」

といつものように小言を言うカカシ。

「ならオレがお前らを守ってやる!
 決まりを守る代わりによ!!」

小言を真摯に聴かないのはいつもの事。

「どの口が言ってんのよ!!」

とカカシが呆れます。

「眼は口ほどにものを言う!
 オレの写輪眼が開眼したら
 黙ってねーぜ!!」

そんな二人の様子を心配に、
しかし微笑ましく見守るリン。

「お前の写輪眼なんて役に立つとは思えないし!
 そもそも開眼してないなら黙っといて!」

二人の言い合いはヒートアップしていきます。

「るっせー!!
 マスクで口隠してるくせに。
 口がものを言いすぎなんだよ。てめーこそ!!」

4人が揃いはしましたが、

「…なかなか足並みが揃わないね…」

やれやれと閉口気味のミナト。

「確かに…
 でもね、先生…。
 そこは私に任せて!
 私が2人をちゃんと――」

その過去から繋がるように、
リンの想いが二人を繋げます。

「行くよ。2人共!!」

見開かれたオビトとカカシの万華鏡写輪眼
オビトの輪廻眼を警戒し《輪墓》を使うことをやめ、
どちらか一方の陽動と読んで、
2人同時攻撃を選択したマダラ。
2つの《神威》は互いをそれぞれ意図するところへ移動、
しかも倍速で成し遂げます。

「お互いまったく同時に神威を……
 倍のスピードで飛ぶとはな。」

攻撃を外したマダラは、
口惜しそうに呟きます。

「大丈夫だ。オレがナルトを助けてやる。」

ナルトのところについたオビト。
身構えるサクラに言います。

「オレは昔から真っ直ぐ素直には歩けなくてね…
 だがやっと辿り着いた。」

最後の最後で辿り着いた気がする正しい道。
それにオビトは懸けるように、
ナルトに手を翳し、マダラから引き抜いた
尾獣のチャクラをナルトに入れるのです。
一方、カカシへの追撃を防ぐ男の影――
ガイです。

「今回ばかりはいい時に来てくれたよ。」

と素直に感謝するらしくないカカシ。

「大丈夫か? カカシ。」

ちらりと一瞥するとそこにはマダラ。
なにやらマダラには面識があるよう。
一方のガイはいつものように
覚えていないようですが――

665『今のオレは』

1.今のオレは(1)

藁に縋るようにつかんだ最後の望み――
それを一瞬にして吹き飛ばすような最悪の状況。

「ゼツ…。いつまでオビトにへばりついている。」

マダラの登場――
しかも十尾の人柱力となっています。

「スミマセン…
 デスガコイツラカラ九尾ノ半身ヲ
 奪ッテオキマシタ。」

と黒ゼツ。

「よし。左目と合わせて持ってこい。」

オビトにある輪廻眼。
それに加えて九尾が完全形態となってしまう――
もはや絶望を加速させるだけかのような状況。

「(仙人の力を感じる…
  これはオビトの時よりもさらに…)」

マダラの力を感知したミナト。
十尾やそれを人柱力としたオビトのときを
はるかに凌駕するような溢れ出る力を感じます。

「やはり四代目の九尾はあの黒い奴の中か…!」

我愛羅も最悪の状況をいやでも認識せざるをえません。

「マダラ様ガイルカギリコイツカラ離レテモ
 オ前ラハオレニ何モデキハシナイ」

黒ゼツは勝ち誇ったように
乗っ取ったオビトから離れようとします。
しかし、巧いようにはいきません。
その一瞬を狙ってオビトが逆に
黒ゼツを抑えつけたのです。

「まだだ……。
 マダラ。アンタに話がある。」

息を吹き返したオビト。
写輪眼を光らせ、
マダラを見据えます。
事態を知らない我愛羅
オビトの回復に身構えます。
それを制するカカシ。

「ナルトには奴の中の九尾が必要だ。
 失敗はできない。
 ここぞという時でなければダメだ…。」

黒ゼツにわたった九尾の力。
それはオビトにいま現在はあります。
もっとも確実に九尾の力をナルトに返すには――
カカシは最善の一手を思案します。

「アンタにとって……
 オレは何だ?」

と訊ねるオビト。
長年、マダラとして成り替わり、
限月読の計画に加担してきた彼を
マダラ本人はどう思っているのでしょう。

「クク…冗談はよせ。
 今さらくだらない事を聴くな。
 お前はオレにとって他でもない。
 マダラだ。」

とマダラ。

「この世界を否定する存在がマダラだ。
 その思想を胸に行動し、
 無限月読の計画を狙う者は全て
 マダラでしかない。」

この世は地獄――
幻の中に真の平和があると考えていたオビト。

「それはオレの道でもあった。」

道――
リンの居ない世界という地獄で、
絶望と戦うために歩んできた道。
しかし、いまは何かの違和感を感ぜずにいられません。

「オレが眠りにつき帰るまでの間、
 お前に全てを任せオレの先を歩かせてやったのだ。」

とマダラは言います。

「それはオレが示してやった道だ。
 お前は目的達成の為に
 マダラとして天寿を全うするハズだった。
 この…世界を救った救世主としてな。」

マダラとしての道を歩み
マダラとして全うする。
オビトという名は捨て、
その道を歩むことで、
耐えがたい悲しみと絶望に抗していたつもりだった。
この救いようのない世界と戦っていたつもりだった。
でも、そもそもその道の先は、
自分の望んでいた世界だったのか――
この地獄とも思えた世界を
果たして変えられるのだろうか――
オビトの中で自問が繰り返されていたのです。

2.今のオレは(2)

「六道仙人が示したこの世界は――失敗した。」

そう言い切るマダラ。

「いいか。六道の広めたチャクラとは
 本来"繋ぐ"力の事だ。
 人と人の精神エネルギーを繋ぐものだった。
 言葉無くとも互いの心を理解し合い、
 人々の安定を願うもの。
 その力を忍宗として説き、
 人々に伝え導こうとしたのが六道仙人だ。」

チャクラとは当初、繋ぎ止める一縷の糸のようなものだった。
人と人の間をつなぐ見えない力。
時として友情になり、信仰となり、博愛となり、
多くの人々をつなぎとめていた精神そのものだったのでしょう。

「だが人々はいつしか互いの心を繋げる為ではなく、
 己の中の精神エネルギーと身体エネルギーを
 繋ぐ為にチャクラを使った…
 己のチャクラを大きく練り上げ、増幅する方法だ。
 武力となる忍術へとチャクラを変換する為にな。
 皮肉にも六道の母カグヤが武力として
 チャクラを使用した道に戻った訳だ。」

いつしかチャクラは形を変え、
武力として使用されるようになった――
それが忍術であり、
忍宗とはこれを広めてしまった元凶に他ならない――
マダラはそう考えているようです。

「六道仙人の行いは人の矛盾を助長したにすぎん。
 そしてたとえ心と心を繋げたところで
 解り合えないのが分かるだけだったのだ。
 そちらにしろチャクラは争いを生み、
 まやかしの希望を生むだけだった。
 オレもお前達も平和を追い求めると同時に
 争いを求めてきた現実がある。
 この現実は"チャクラという力"によって
 無限の苦しみを強いられている。
 力があるからこそ争いを望み、
 力がないから全てを失う。」

とマダラ。
人々はこの"力"があるからこそ、
傷付け合い、憎しみ合うのだと。
戦いが生まれ、悲しみを繰り返し、
それでも何かを守れる気がして、
結局無力な自分を認めるだけだと。

「オレはそれを乗り越えた新たな世界を創る!
 無限月読によりいまわしきチャクラの無き
 夢の世界を創るのだ。
 最後にして最強のチャクラを持つ、
 このオレが導く!
 そしてお前はオレそのものだ!
 オビトではない!」

争いのなき平和な世界――
チャクラのなき夢の世界へ導くこと。
これがマダラの正義なのです。
そして柱間と理解し合えなかった
平和という真実であると自負しています。

「うちはオビトはうちはのチャクラがある故に
 はたけカカシに挑戦し火影を望み、
 のはらリンを望んだ!
 だがその力がまやかしだったために
 その全てを失ったのだ!!」

でもそれは正義でなく独善であり
ただ単に目の前の現実から
逃げているだけであることを
オビトはもう知っています。

「ここは地獄だ!
 忘れたのか!?
 来い! そう、マダラよ!
 今でもお前は救世主のハズだ!」

と差し出された手。
かつてオビトはその手を握り返しました。
でも今は――
攻撃の構えを解いたその一瞬を狙って、
《神威》でオビトをマダラから遠い距離へ離し、
続いて仙人モードを解放したミナトが
まず瞬身の術で仕掛け《螺旋丸》を構え
我愛羅が《砂漠波》で援護します。
しかしマダラは、何事もなかったかのように
三人をあしらうと、
オビトの方へ歩み寄り話を続けます。

「人を導く者は…
 己の死体を跨がれる事があっても
 仲間の死体を跨いだりはしないらしい…」

故事を持ち出しながらも、
差し出された手に自分の手を合わせるようにオビト。
オビトの腹はもう決まっています。

「…なら、それを確かめる為に、
 まずお前が死体にならねばな。」

とマダラ。

「オレはもうアンタに跨がれる事もない。
 己の名を騙らず、他人に全てを任せる事は――
 仲間に託す事とは違うと今なら分かる。
 オレはアンタじゃない。
 今のおれは火影を騙りたかった
 うちはオビトだ!」

自分がここに存在する本当の意味――
それは最期の最後で決められる。忍とは死に様。
六道の錫杖を奪い取り、
オビトは高らかに言い放ちます。
本当に大切なもの――それはリンの笑顔。
そのリンを守ろうとして誓った火影への想い。
この世界は果たして地獄なのか――
咲き誇る凛とした花の素晴らしさを認めずして
何を以てこの世界を語るのか。
他を否定して残る"平和"など
なんの面白味も輝きも素晴らしさもない。

生きることが輝くのはこの過酷な世界だからこそ。
つながりを感じられるのは自分が弱いからこそ。
オビトは目の前の現実からもう目を逸らしません。

664『父親だから』

1.父親だから(1)

「(…大蛇丸はサスケの状態によっては
  体を奪いにかかるかもしれない…
  それが君麻呂の願いでもあるが…
  香燐はそれを許しはしないだろう…)」

サスケのもとへと向かう道中。
大蛇丸の心中を理解しきれていない重吾は
懐疑的にこの状況を憂います。

「サスケのいた場所に誰かいる!」

と香燐が何やらサスケの近くに
何者かが近寄っていくことを察知しています。

「チャクラに覚えは?」

と言う大蛇丸に、

「ない! けど……
 このチャクラ……
 すごくイヤな感じがする!」

香燐は答えます。
誰と特定できないものの、
一つ言えることは
非常に邪悪な何かを感じるということです。

「ならもっと急がないとねェ。
 どこの馬の骨かも知れない輩に
 サスケくんが何されるか分からないものね。」

大蛇丸

「(…彼の風はここまでかしらね)」

と残念そうな大蛇丸
"うちは"が起こす風――
その風を見届けたいと思っていた矢先です。

「香燐!
 だからってそんなにとばすとすぐバテるわよ。」

もちろんそのまま見過ごすわけにはいきません。
香燐は大蛇丸の制止を振り切って
スピードアップします。

戦場の何処か。

「青春パワーマックスで行くぞ!! 
 リー!! テンテン!!」

ガイはリーとテンテンに支えられながら、
まだまだ何かできると発奮していますが――
案外ダメージや疲労は大きく、
ガイと言えど支えなしでは儘なりません。
そんな折、空を何かが駆け抜けていくのが映ります。

「アレは我愛羅くんの砂…
 サクラさんもいたような気が……」

とリー。
それは引き返すような邦楽。
テンテンが疑問に思います。

「カカシはまだオレ達を追い抜いてはいないな。」

と確認するようにガイ。

「うん…」

とは答えるものの考えるようにテンテンがしていると、
ガイが続けます。

「ナルトにもらった九尾のチャクラが消え…
 医療班であるサクラが移動しているとなると…、
 どうもカカシの方で何かが起こりかけている気がする…」

長年連れ添ったライバルの身辺に何かを感じるガイ。

「引き返すぞ、リー! テンテン!!
 オレの熱い血が騒ぐのだ!!」

スーパー胸騒ぎというやつを感ぜずにはいられないよう。
そんなガイとリーのテンションに
ついていけないと言わんばかりの表情を浮かべるテンテン。
ですが、状況にまかせるしかないようです。

「少しばかり体が重いな。
 何か胸でつかえてやがる…」

その頃、上空をマダラも滑走していきます。
琥珀浄瓶と紅葫蘆――
六道の忍具と呼ばれるそれらを
何の躊躇いもなく捨てていきます。
ちょうどその捨てられた忍具が
上空から降ってきて頭を打つリーとガイ。
二人を気遣いながらも、
テンテンはそれらの忍具に気付きます。

2.父親だから(2)

「オ前ラモシツコイナ…」

オビトの身体を乗っ取り、
暴れ回る黒ゼツ。

「もう…オビトの意識がはっきりしてない…」

ミナトは螺旋丸、カカシは雷切を構え、
目の前の許しがたい敵を討つために覚悟します。

「カカシ行くよ。」

その時、ミナトの内なる九尾が留めます。

「待てミナト!
 チャクラを感知仕様に変えてみろ!!」

そう言われて落ち着いて感知に切り替えたミナト。

「ま…まさか…」

チャクラが抜けきったナルトを、
ミナトはしっかりと感じとります。

「こっちに気を取られ過ぎたな。
 …間違いなくワシの半身を抜かれちまってる!」

と内なる九尾。
ちょうどそのとき上空に
我愛羅とサクラが現れます。
悪い予感の通り、
九尾を抜かれて意識がないナルトを見たミナト。

「ナルトの九尾から伝言だ。
 四代目火影
 アンタの中の九尾の半身を
 ナルトの仲へ入れてやれと。
 それでナルトは助かると…!」

我愛羅は九喇嘛から預かった言伝を、
ミナトに伝えます。
それを聞いていた黒ゼツ。
なにやらニタリとほくそ笑みます。

「カカシ奴を頼む。」

カカシに黒ゼツの相手を任せ、
ナルトの蘇生に尽力したいミナト。

「オレもだ。」

カカシに協力するように
我愛羅も肩を並べます。


――ナルトが生まれる前の光景。
それがなぜだか急にミナトによみがえります。

「気を付けて。」

そう気遣う妻・クシナ。

「ああ。子供の顔を見るまでは
 絶対に死ねないよ。」

ですが憂いを秘めたようにクシナは遠い目をします。

「この子が産まれたら、
 心配事は2つになるわね。」

火影の任務に赴く夫を気遣う妻を
逆に労わるように言葉をかけるミナト。

「大丈夫!
 この子はオレが守るよ!
 どんな事があっても。どんな手を使っても。」

少し安堵した表情を見せるクシナ。

「…でもアナタは火影で忙しいし、
 この子はやんちゃで火影になりたいって
 無茶ばかりして聞かないと思うし…
 女心もどんかんで、先生に歯向かって!
 それに――」

とまだ先の未来を、
然る事のように語るクシナ。

「もう産まれる前から心配してるし…
 心配し過ぎだよ。
 何でこの子が男の子で…
 しかも火影になりたいって
 産まれてもないのに分かるの?」

と困惑するようにミナト。

「だって、母親だから。」

とクシナはきっぱり言います。
母親だからこそ、
生まれる子がどんな子に育つか――
感じていると言うのです。
妙に納得してしまったミナト。

「とにかくボクは火影だよ。
 簡単には死なないし、
 その子は火影のオレが何があっても守るから!
 大丈夫!」

といつも歯切れの良くない様子を知っているクシナは
夫のそんな頼りがいのある言葉に

「この子の事になると、言い切るわね!」

と目を丸くします。

「父親だから。」

とかっこよく言い切って見せるミナト。

簡単には、そんな言葉を守らせてくれないような未来を
この夫婦は乗り切らなければならなかったのですが、
巡り巡って、ようやく親らしい事ができると、
意気込むミナト。

「…今のオレなら、今度こそ――」

陰の九尾をナルトへ戻す――
そのことでナルトを救うことができる
――はずだった。

「九尾…コレデオ前ヲヤット奪ッテヤッタゾ。

手に集められナルトへ注がれるチャクラを割って入るように
地中から突如現れた黒ゼツが横取りします。
応戦しようにも、完全に隙をつかれ、
簡単に逃がしてしまいます。
唖然とする一同。

「ナルトはどうなんだ!?」

心配する我愛羅
ですが事態はさらに困窮します。

「マダラ様…」

突如大地を裂くように現れたマダラ。

「遅いぞ黒ゼツ。
 こちらから出向いてやったわ。」

と最悪の事態です。

663『絶対に』

1.絶対に(1)

血を吐き倒れ込むサスケ。
一方で、尾獣を抜かれ意識の回復が見られないナルト。
そんなナルトを必死で蘇生治療を施そうとするサクラ。

「心音も…脈もない…」

しかしナルトの心臓からはもはや拍動すら感じられません。

「しっかりしろナルト!」

我愛羅も必死です。

「何で!?
 医療忍術が効かない!!」

想い通りにいかないことに、
焦るサクラ。

「九尾を抜かれてしまっているからだろう。」

我愛羅の言葉を聞いてはっとします。
人柱力が尾獣を抜かれるとどうなるか――

「マダラにやられた…
 だが助かる手はある。
 だからこうして急いでいるのだ。」

我愛羅はナルト救出のため、
ナルトの父である四代目火影・ミナトのもとへ急いでいます。

我愛羅のガキ!!
 頼みがある!!
 そいつの父、四代目火影ミナトの体の中に
 ワシの半身が封印されている。
 そいつをワシの代わりとして入れろ!!
 それでナルトは助かる!!
 四代目の所へ急げ!!」

マダラに封印される直前に、
九尾から与った秘策。
屍鬼封尽された陰の九尾を、
ナルトに新たに入れるのです。

「奴には瞬身の術がある。
 どうにか連絡して向こうから。」

「それは無理だ!!
 奴の瞬身の術はワシの封印式に書き込まれたモノ…
 ワシが抜かれた時点でそれは消え…くっ!」

もはや一刻の猶予もならない状況。
しかしミナトの瞬身の術には頼る事はできません。

「とにかく四代目火影の所へ連れて行け!
 分かったな。我愛羅…。」

我愛羅が急ぐ理由はここにあるのです。
サクラも事情が飲み込めた様子。

「そこまで後どのくらい?」

サクラたちがいたところから、
ミナトたちがいるところまでは
だいぶ距離が離れている様子です。

「まだ数キロある!」

戦場エリアはわりと規模の大きかったもののようです。

「(残り少ないチャクラでできる事…)」

数キロを持たせるためにサクラは考えあぐねます。
我愛羅の砂雲の速度も全力疾走とはいえ、
ナルトがもつかは分かりません。
サクラは手にチャクラを集め、皮膚を切り裂くと、
ナルトの下肋部から胸膜と横隔膜、肺を押しのけ、
縦隔を通り心臓を直接手揉みして刺激します。
肋骨と胸骨で覆われるところから行う心臓マッサージよりより強力です。
細菌感染などの影響があるので、
おそらくサクラのチャクラコントロールにより
無菌が保たれているものと思われます。

「この私が看るかぎり簡単には死なせやしないわ!!」

刹那をあらそうとはいえ、
流石に我愛羅も息を呑みます。

「とばすぞ!」

我愛羅も砂雲の上という不安定な状況ですが、
サクラに全幅の信頼を置き到着までの医療を任せます。

2.絶対に(2)

「せめて……ワシの禁術で魂だけでも…」

横たわるサスケを前に扉間。

「(もう…チャクラが感知できぬ。)
 …瞬身どころか…身体が動かぬ。
 マダラめ!」

何もできない自分が歯がゆい――
ただただこの状況を見つめているだけしかできないようです。
一方でサスケのもとへと急ぐ大蛇丸一行。

「ウチをなめんなぁ!!
 サスケン所へ行くんだ!!
 どけェ!! !コノヤロー!!」

力を暴走させた香燐は、
チャクラの鎖を縦横無尽に引き延ばし、
ぐるぐるが作り出した木遁の仏像を破壊します。

うずまきクシナと同じ力……
 (今になってやっと…)」

大蛇丸
香燐に秘められた力とは
ナルトの母であるうずまきクシナの力を
移植したものだったようです。

「うそ…
 すっげーな香燐…!」

敵の術なんか無視するように
暴れ回る香燐を見て目を丸くする水月
木遁の剣に刺されてもお構いなしです。
虚を突かれたぐるぐる。
その隙を見計らって、
水月が高圧水鉄砲をかまします。

「やるね。」

仮面が割れ、耳を覗かせるぐるぐる。
しかし連携はこれだけでは終わりません。
さらに背後から首を伸ばした大蛇丸
肩口に噛み付き、呪印を施し、行動不能にします。

「ハハ――残念でしたァ――!!」

予定通りで爽快だと言わんばかりに水月
圧倒的な力を誇って忍たちの前に立ちはだかっていたぐるぐるを
ものともせず通り抜けて行く大蛇丸一行に一同は賞賛の目です。

「大丈夫か、香燐?」

人一倍タフとはいえ、
臓器を貫かれたはずの香燐を心配する重吾。

「ああ…ンなことより、
 サスケが!! サスケが感知できねーんだよ!!」

香燐は自分のことよりサスケが心配で必死です。

絶対に(3)

簡単に尾獣をすべて引き戻し、
十尾として再構築したあと、
これもまた容易に十尾を人柱力として自らに封じ込めたマダラ。

「これが六道の力か……
 後は左目だな。」

六道仙人の装いや、錫杖を具現化し、
もはや輪廻眼片方を残すのみとなったマダラ。
一方で事態の救世主となるはずのナルトは、
いつもと似つかわしくない生命の危機です。
サクラの人工呼吸もまったく功を奏しません。

「かつてのアンタのバカげた夢は……
 今はもう…。
 逝かせない…。逝かせてたまるか!
 絶対に死なせる訳にはいかないのよ!!
 今はもう目の前なんだから!!!」

火影になって、皆に認められたい――
その夢はもう叶いかけています。
ナルトを夢半ばで逝かせはしない。
サクラも蘇生治療を必死で行います。
何者かが一方でサスケのもとに迫ります。
はたして――

662『本当の終わり』

1.本当の終わり(1)

「マダラ…貴様という奴は!」

サスケを貫く刃――
同じうちは一族とは言え、
容赦のないその様に辟易とするように
扉間は吐き捨てます。

一方、その頃、黒ゼツと一体となり
"ぐるぐる"と化したオビト。
木遁によって千手観音を作り上げ、
忍たちを攻撃し始めます。

「くっ…術が発動しない…!」

とメイ。

「こんな輩に足止めされるとは……」

オオノキも万全でない現状を
歯がゆいように言います。
意外にぐるぐるはやるようです。

「ここから先へは簡単には
 行かせやしないって言っただろ。
 …それに…ボクの質問にマジメに
 答える奴は一人もいないって事?
 便意ってどんな感じか聞いてんだろ。
 まぁ…人を殺した時の…
 スッキリ感に似てるって思うんだけどね…。」

便意を感じない――
それは何かをおいしく食べ、排出するという
生きていると実感する"大切さ"を知らない証。
彼らのような疑似的に与えられた生命は、
たとえ人のように振る舞おうとも、
本質的には異なります。

「五つの属性全てを一度に…!」

角都の比ではありません。
ぐるぐるが立つのは木遁の千手観音の頭部。
その額部分には小型の顔像が5体あり、
それぞれが繰り出す1つ1つの術が
非常に強力であることが予想できます。

「分かっておる!」

プロフェッサー(教授)と呼ばれたヒルゼンが
対抗するように影分身しチャクラを練り始めます。

「一度に同じ術出して相殺させちゃうとはね…」

ヒルゼンも同じように五遁の力を使い、
ぐるぐるの術を相殺してしまいます。

「へへ…
 三代目様をなめんなってんだ!」

と得意げにキバが言います。

「(とは言っても皆さすがにチャクラが枯渇してやがる
  穢土転生の三代目しか対応できなくなってるって事だ。
  三代目が倒れたら…ここもヤバイ…
  マダラに向かうどころじゃない…
  こいつも何とかしないと…)」

冷静に現状を分析するシカマル。

「(正直…綱手様も私も……
  シズネ先輩も…
  …もう医療忍術は使えないと考えて戦った方がいい。)」

一方、サクラをはじめとすると医療忍者たちも
回復などのサポートをしながら
応戦しなくてはならないため疲弊の色が隠せません。

「(あまりにも大技での戦闘が長すぎる!
  …だが、ここへ来て立て直す時間はない。
  マダラはナルトの小僧に託すしか…)」

苦戦を強いられる状況――
思いの外、梃子摺りマダラどころではなくなっています。

「今がチャンスですよ。大蛇丸様!」

と催促する水月
大蛇丸たちは奇襲を狙っているようです。

「まだよ…」

逸る水月を制しながら、
大蛇丸は何かに気付いたようです。

「そ…そんなっ…
 うそっ…! これって…!」

そんな折、頭を抱え震えだす香燐。

「サスケに…
 何かあったのか?」

訊ねる重吾に香燐はただただ震えるのみです。

「やっぱり早めにやった方が
 よさそうね……」

事態を早めに打開した方が良いと
決断した大蛇丸
どのように動くのでしょうか――

2.本当の終わり(2)

一方、ナルトの同期達は
何か異変があったことを察知します。
我愛羅とともに連れてこられたナルト。

「ゆっくり話をしている暇は無い!
 火影。お前も一緒に来い!
 道中、ナルトを少しでも回復するんだ。」

と一刻も儘ならない状況を
その切迫した様相が表しています。

「私にもう医療ぬんじゅつを使うチャクラはない。
 サクラを連れて行け…
 サクラならまだ少しは」

綱手。満身創痍です。

「何でナルトが…こんな!?
 向こうで何があったの!?」

サクラもさっきまで生命力に溢れ
みんなを引っ張っていたナルトが
こんなに息も絶え絶えとなって、
驚きを隠すことができません。

「いいから来い!
 ぐずぐずするな!
 説明は後だ!」

ナルトがやられ、
意気消沈といった一同に喝を入れつつ、
我愛羅は九尾から託された何かを果たす為、
催促します。

「ナルトくんがいるの?」

ただならぬ様子――
そこから何かを感じとったヒナタ。
白眼で遠くを見渡します。
そこには、ぐったりとしながら、
サクラに抱え込まれるナルトの姿。

「(ナルトくんの心臓の鼓動が…
  どんどん弱く…!
  ナルトくん!!
  兄さん…ナルトくんを守って下さい!!)」

祈るような思いで、
一目散にナルトのもとへ向かうヒナタ。

「うずまき…ナルト…
 うずまき一族だから
 粘りはするだろうけど…
 もうその子に何をしても無理だよ。
 人柱力が尾獣を抜かれたら死ぬ…」

ぐるぐるのところに現れた白ゼツ。

「それは絶対のルールだからね。」

剽軽なまでに、軽い感じで頷くぐるぐる。

「死ね…るか…
 オレは…死ね…ない…」

イタチに託された想い――
その想いを理解し、
一族の再興を誰よりも願うサスケ。

「イタチの…生きた…意味を…
 こんな…ところで。」

遠退いていく意識の中で、
はじめて生へとしがみつこうとする
自らを感じるサスケ。
自分こそイタチの生きた証。
その想いの結晶――
それを理解したからこそです。

「(本当の里を…創る…。
  本当の影を示すまで…)
 オレは…死んでたまるか!!」

しかし想いとは裏腹に、
身体から力が抜けていきます。

「しっかりして!!
 負けないで!!
 アンタは強い!
 必ず…必ず助かる!!」

ナルトを助けるために、
チャクラが枯れ切るまで注ぎます。

「このままじゃ……
 このままじゃ、ナルトが…死――」

「…サ…サスケが…
 サスケが本当に…本当に…死――」

大切な存在に差し迫る最悪の事態。
必死に頭の中を振り払いながらも、
祈るような思いが虚しく木霊します。

661『失敗した世界』

初更新遅くなりましたm(_ _)m
2話更新です。
前話については非常に良い話だったので、
少しばかり熱く書いております。
お時間がありましたら是非読み返してみてください。
http://d.hatena.ne.jp/naruto_AG23/20140122/

1.失敗した世界(1)

九喇嘛を引き抜かれたナルト。
生命力がいかに強いナルトと言えど、
次第に意識が遠退き、
立っているのもままならないようです。
我愛羅はなんとか宙に放り出されたナルトを
砂の雲で包み込み、大きな衝撃を回避させます。

「守鶴!」

チャクラの鎖に囚われた尾獣たちは
順に外道魔像へ取り込まれてゆくのです。

「すまねェ…ビー!!」

もちろん八尾・牛鬼も。

「…頼んだぞ…風影のガキ!」

九喇嘛も。
いとも容易く、
マダラはやってのけます。

「まぁ…今の力ではこんなところか。」

とマダラ。

「数秒じゃあ無かったですねェ…?
 あ。でもオビトよりは早かったんで…」

と白ゼツ。
その絶対的すぎる力をもった主を
皮肉ってやりたくなったのでしょうか。

「フン…。
 本当にベラベラとよく喋る…
 お前らはオレの作った失敗作だな…。
 主の揚げ足ばかり取りおって…」

とマダラも軽くため息をつきます。

「黒ゼツは別名"毒舌"
 ボクら白ゼツは"饒舌"で通ってますから
 ハハァ〜♪」

と憎たらしいばかりに調子がよい者です。
そんな軽々しさも、
凄絶な力をもった今のマダラにとっては
もはや寛容に受け止めることができます。

「向こうの戦闘は大丈夫だろうな?」

向こうとはオビトを取り込んだ黒ゼツのこと。
白ゼツは絶対の自信をのぞかせるように頷きます。
そんな隙をついて二代目ホカゲ・扉間が
《飛雷神の術》から瞬間移動攻撃を仕掛けます。
しかししなやかにかわすと、
逆に扉間のクナイを奪い取り、
形勢を逆転させてしまいます。

2.失敗した世界(2)

「お前を…絶対死なせはしない!!
 死なせるか!!」

瀕死のナルトを担いで、
戦場から遠ざかる我愛羅
ナルトを死なせまいと懸命です。

「相手が勝利を確信したタイミングで…
 そこを狙うのがお前の常だった。
 ガキ共にやらせ、やはりお前は姑息な奴だ…。
 扉間。」

決定的な必殺のタイミング。
それを逆手に取っていたマダラ。

「お互いにな。」

と奇襲は失敗したものの
笑みをこぼす扉間。

「フフ…。だが天が味方したのはオレの方だ。
 忍一の速さを誇っていたお前がこのザマだ。」

とマダラは扉間にとって屈辱的なこの状況を
いま一度確認するかのように語りかけます。

「お前ら兄弟がかつての力を出し切れないのには
 理由がある…。
 偶然にしろ必然にしろ、
 オレに分があるのさ。」

穢土転生による影響か、
はたまた十尾による影響か――。
柱間や扉間は力を出し切れていないと
マダラは見抜いています。

「そして新しい"眼"も育っている…。
 こちら側に付くかは分からぬがな。」

とマダラ。
その新しい眼とはサスケのことです。
大鷹にを駆り、上空から様子を窺っています。

「待て! …うちはの少年…。
 お前に…術を渡す…。」

マダラを追いかけ、柱間のもとを去ろうとした折、
柱間に呼び止められます。

「術だと?」

怪訝そうにするサスケに、

「…そうだ…。
 マダラは…奴はオレの仙術チャクラを奪った。
 …その仙術チャクラに呼応して奴をしばる術だ。」

柱間は説明します。

「お前にオレの残りチャクラ全て渡す…。
 マダラを止めてくれ…。」

と柱間。

「なぜ、うちはのオレに。」

とサスケ。

「…お前は似ている…。
 マダラの…弟…、うちはイズナに。」

柱間はそう答えます。

「…それがどうした?
 奴を止めるのに何の関係がある?」

いくら似ているとはいえ、
そうそう情に絆される男ではないことは
柱間も分かっているはず。

「…マダラは…元来…優しい男だ。
 …弟想いで…願掛けをする信心深い奴だ。
 だからこそお前に助かるチャンスを与えた。
 お前なら力でなくマダラを止める事が
 出来るかもしれない。
 さあ…オレの前へ…。」

サスケはかくして柱間より力――
術を授かったのです。
事態は刻一刻とマダラに傾いています。

「正直な…。
 ずっとお前にこうしてやりたいと思っていた。
 お前は…イズナを殺めた男だ。」

とマダラ。
弟の仇とばかりに、黒き棒を扉間に突き刺します。

「動く死体にいくらやっても、
 虚しいだけだが…。」

と扉間。

「…お前は…生き返ってまで何を望む?
 ワシらの時代はとうに…終わっている…!」

その問いかけにマダラは
滾る想いを返します。

「柱間の成し得なかった国作りを
 代わってやるだけだ。
 だがこの世界は失敗した前任者柱間のものだ。
 死にかけの患者には荒療治が必要だ。」

とマダラ。
柱間が目指していたという理想――
しかしそれは残酷で冷淡にある現実にすぎない。
それを叩き壊して、再構築することで、
マダラの理想は為し得るのです。

「…無限月読とやらは…
 お前の考えか…?
 それが治療だってのか?」

扉間は"無限月読"という言葉を出します。

「そうだ。柱間の国作りは矛盾を抱えていた。
 人は平和を望む…
 しかしその一方で争いを望んでもいる。
 その2つを持ちえているのが人間だ。
 平和だけを望み、争いだけを摘み取ることは
 人でなくなるという事に他ならない。
 そしてその2つは隣り合わせにある。
 何かを守る為には何かを犠牲にしてしまう。
 本当の夢の世界以外はな。」

とマダラ。

「…確かに一理ある。
 だが、お前の出しゃばるべき夢じゃない。」

と扉間はマダラの理屈に異は唱えませんが、
しかし、絶対的な力を揮ってまで
傲慢に叶えるまでの夢でもないと言うが如く、
マダラに含み針を浴びせます。
須佐能乎で難なく防ぐマダラ。
その死角をついて、サスケが奇襲にかかります。
しかしお見通しです。

「…この世界は…言わば柱間の矛盾した世界だ。」

突如金縛りにあったように身体の自由が奪われたサスケ。

「何かを守る為には何かを犠牲にしてしまう。」

蜘蛛の巣にかかったようなサスケ。

「止めろマダラ!
 これ以上次の――」

扉間の声も届きません。

「たとえそれが友であろうと兄弟であろうと…
 我が子であろうと……。」

その凶刃がサスケの胸を貫きます。

「時間は充分やっただろう。
 残念だ。」

何もできなかったサスケ。
このまま死に絶えるだけでしょうか――