守鶴の人柱力であった僧侶、分福が掴んでいた一つの幸せの形。
そこに到達できる人は少ないかもしれませんが、
人間の本質は本来そこに行きつくのだと、
彼は見抜いていたのです。

660『裏の心』

1.裏の心(1)

「(そうだ。この九喇嘛状態を解けば…!!)」

首根っこをマダラに抑えられた九喇嘛とナルト。
しかし、マダラは完全にナルトを死に体にしています。

「無駄だ。一度捕えたら放しはせん。」

もはや万策尽きたか。
どう足掻こうにも自由がきかない事を悟るように、

「ダメだ!
 (九喇嘛がオレん中へ戻らねェ…!!)」

とナルトがこぼします。
無理矢理引きずり出されていく九喇嘛を
このままみすみす手を拱<こまね>いて待つだけか――

「ちくしょう…後ろへ!!」

いったん後ろへ退避したナルト。
なんとかマダラの手から逃れます。

「マダラ様!
 一尾から順に入れるんですよ!」

マダラがぞんざいに尾獣を扱う様子を見て、
確認するように白ゼツが言います。

「分かっている。」

とマダラ。もちろん外道魔像を理解しています。
己の力を誇示して見せただけのことです。

「人柱力から引き剥がす尾獣が
 ちょうど後半の八尾と九尾なら、
 その間、もう一尾から七尾までは
 ぶち込んじゃったらどうですか?」

と白ゼツ。

「なろオオッ!!
 九喇嘛を取られてたまっかよォ!!」

再び闘志を燃やすナルト。

「そうだな。
 思ったよりなばりそうだ…。
 まずは…こいつらからだ。」

マダラはいったん攻撃対象を変えます。
一気呵成で七尾以下の尾獣たちを
順番に仕留めていく構えです。

「守鶴は――渡さん!!」

そうはさせまいと我愛羅
《砂漠・叛奴》――渾身の砂の術。
砂の大きな手で掌握してマダラを捕えます。
守鶴とは良い思い出ばかりではありませんが、
今では大事な存在としてとらえている我愛羅

「お前が眠りに入ったら、
 オレ様がお前の心と体を乗っ取り、
 お前ら人間を皆殺しにしてやる!!
 うかつに熟睡しない事だ。」

守鶴は人間と理解し合う気など毛頭無かった――

「お前は…人間が嫌いなの?」

幼き我愛羅に守鶴が言います。

「ああ! 大嫌いだ!!」

しかし我愛羅は幼き心の純粋さからか、
不思議そうに訊き直します。

「…でも…お前はボクの里を
 守る為に居るんでしょ?」

しかし、それは人間たちの都合。

「誰が好き好んでお前らなんかを守るか!
 お前ら人間はオレ達以下だ!」

と守鶴は吐き捨てるように言います。

2.裏の心(2)

遠き昔のこと――
守鶴はかつての"特別な"人柱力を思い出します。
牢屋に封じ込められた一人の老いた僧侶。
そこに投げ入れるように食事を渡す砂の忍。

「何で上役になってまで、
 こんなうす気味悪い坊主の見張りを
 しなきゃならんのだ!?」

無下に扱われながらも
差し出された食事に感謝するように手を合わせる僧。

「まったくだが人柱力の見張りを任されるのは
 力を認められている証拠…。
 …今は我慢しろ。」

そんな尊厳を欠いた蔑みや
無情な会話がかわされる中、
この僧侶はけっして憎しみなどを表しません。

「クソ坊主…。お前はもう自分の名前ですら
 呼んでもらえなくなっちまったな…。」

見兼ねた守鶴が内面から語りかけます。

「それは別に良いのです。
 アナタが私の本当の名を知ってくれていますから。」

と僧侶。

「いくら坊主でもお前を嫌う人間共に手を合わせ…
 獣のオレ様なんかを相手にいいかげん寂しくねーのかよ。
 生まれてこの方、人間嫌いの獣と一緒に檻の中でよ。」

と守鶴はこの僧侶の境遇を
多少なりとも同情というか、
嘆かわしく思っている様子です。

「どの道私はアネタと離れた途端に
 死んでしまいます。
 人柱力ですから……。
 そもそも人間と獣…
 それらを分ける必要はないのです。
 何であれ心の友がいれば、
 心の平和が満たされるのです。」

と僧侶。
人間もまた獣。そこに何ら隔たりはないとします。
大切なのは、心の平和。
心の平和とは心の友の存在によって確立される――と。
いかなる災厄があろうと、それさえあれば、
自分という存在がいることが満たされている――
何かと争うとか、憎しんだり、恨んだりする心は
涅槃寂静の中に掻き消えるのです――。
でも、それは独りだけの世界での話。
大切なものはそれだけではないはずです。
もちろんこの僧侶は理解しているでしょう。
それゆえに"感謝"という形で、
外界へ働きかけているのかもしれません。
それが薄気味悪がられても、
その祈りと真心の証である合掌を辞さない理由でしょう。

「まったく変わったクソじじいだぜ。
 お前みたいな人間は
 これからもいやしねーだろうよ。」

と守鶴。そんな殊勝な僧侶を少なからず認めている様子。

人の心とは水鏡…
 …本心とは裏腹に口を開き、揺れ動くものです…。
 ですが元来人間の持つ裏の心は、
 受け入れあう事を望んでいるのです。
 獣ともです…」

水鏡のような波立ち揺蕩いながらも映し出す心。
それが人間の弱き姿であり、
そして理解を示そうとする裏の姿でもある。
波立つ波面を隠そうとしても、
決して穏やかにおさまることはありません。
時機に静まり、姿を綺麗に映し出します。
過ちの波が本来の人間の姿を揺らがせたとしても
映るべき姿は歪んではいない――
正しき心は誰しもあるはずなのです。
そしてその心は人間のみでなく、
尾獣たちにもあるとこの僧侶は見抜いています。

「お前やっぱ…
 六道仙人のじじいに似てるな…」

と嘆声をもらすかのように、
守鶴が言葉をかけると、
僧は涙を流します。

「ありがとう…。
 今までアナタから頂いた言葉の中で、
 一番うれしい言葉です。」

温かい贈り物を与えてくれる
心の友足り得る所以です。

「オラ! さっさと食えよじじい!!
 片付かねーだろ!」

心なき者の無情な言葉が聞こえます。

「ケッ…。
 本当にお前みたいな奴が
 他にいるとは思えねーんだがな…。」

と守鶴。

「きっといます…。
 そしてアナタにはアナタを守り、
 救済し導く者が必ず現れるでしょう。
 そしてその者の裏の心を受け入れた時
 アナタも悟るでしょう……。
 私の師が、私の手の中へ刻んでくれた
 言葉の意味を。」

僧は左の掌と右の掌を大事に合わせます。
左の掌には『受』。そして右の掌には鏡文字の『心』
二つを重ね合わせればそこには『愛』が生まれます。
そう。心を受けると書いて"愛"。
愛とはそういう事なのです。

3.裏の心(3)

守鶴への想いを強める我愛羅

「お前の事は今まで疎ましく思ってきた。
 だが人柱力であったからこそ、
 ナルトに会う事ができた。
 …お前に感謝することが一つだけできた。」

守りたいと思う大切な者――
その大切と思わせるものは何か――
心を与え受け入れてくれたもの。
その"友"と呼べる存在を想えば
我愛羅は感謝の念に包まれます。

「砂のガキめ…
 そんなにかつてのペットが帰ってきて嬉しいか?
 人柱力で死ぬ訳でもないのに
 邪魔しやがって!」

と白ゼツが喚きます。
須佐能乎を解放し、
術の詠唱中の我愛羅を攻撃するマダラ。

「オレ様のモットーは絶対防御だ!
 守鶴としてのプライドもあるんでな。」

それを砂の壁でガードしきる守鶴。
ここから我愛羅と守鶴の連携攻撃が
始まるかに見えましたが、
マダラは砂の掌から逃れると
有無を言わさず守鶴を捕えようと
チャクラの鎖を巻きつけます。

我愛羅。無理すんな…」

鎖を振りほどこうとする我愛羅に、
守鶴は声を掛けます。

「オレは人柱力でなくなった。
 やっと…お前と対等に夜更かしができる。」

やっと理解し合えた大切な存在。
我愛羅は守鶴を尾獣としては見ていません。
その心を素直に受け入れるように、
守鶴は微笑みます。

我愛羅…お前は、
 分福に似てるな。」

かつて自分の境遇に嘆くことなく
殊勝に生き抜いてみせたあの僧"分福"を
我愛羅に重ねるのです。
しかし抵抗の甲斐なく
無情にもすべての尾獣が
再びチャクラの鎖に囚われてしまいます。

我愛羅のガキ!!
 頼みがある!!
 分かったな…我愛羅!」

九喇嘛は外道魔像へ引き込まれる中
ナルトの実体を切り離し、我愛羅へ渡します。
ついに九喇嘛を引き抜かれてしまったナルト。
かつてない死の宣告がナルトを襲います。

2014年、明けましておめでとうございます。

旧年の特に後半は忙しさに感け、更新が滞るも、
なんとか更新していた事態です。
いろいろと考察したいことがありますし、
このブログの特徴でもある
数理的な部分からのアプローチも試みたいのですが、
なかなかそんな余裕もできませんでした。

NARUTO-ナルト-もいよいよ大詰めです。
本年で7年目に突入する本ブログ。
かつての勢いは衰えましたが、
なんとか物語の核心を掴んでいこうと考えております。
細々でもまだまだ活動していきたいと思いますので、
何卒よろしくお願い致します。

AG(銀イオン)

659『輪墓・辺獄』


非常に遅くなりましたが、
659話を挙げておきます。

1.輪墓・辺獄(1)

「この血の味…この痛み…
 オレの体だ…。
 やっと……闘いを実感できるぞ!!」

《輪廻天生》によって、
完全復活を果たしたマダラ。
穢土転生による偽の肉体ではなく、
痛みを感じ、血も漲る肉体の感覚を取り戻したことに、
再び"生きて"いることを実感します。

「どした、九喇嘛!?」

マダラが口寄せの印を結ぶと
何かを感じたように九喇嘛が固まります。

「…あいつの血…
 嫌な感覚を思い出しちまった。
 かつて、ワシを口寄せした…
 おぞましい血だ。」

と九喇嘛。

「ビビって尾を丸めてんなよ、バカ狐!
 たかだか人間一人によ!」

と九喇嘛のらしくない様子を見て守鶴。

「アレを人間だと思って
 甘く見ない方がいいぜ。」

と九喇嘛は忠告します。

「お前らしくねーな…。
 気にくわねェ!」

九喇嘛が普段見せない様子に
守鶴も多少の困惑を隠せません。
マダラの口寄せの術が発動すると、
オビトから外道魔像が剥ぎ取られ、
マダラのもとに現れます。
それを阻止すべくカカシは《神威》によって
外道魔像自体を異空間へ封じ込めようとしますが、
その巨大な容量を封じ込めることはできず、
たかだか右腕程度しか飛ばせませんでした。

「右腕がもがれたか…。
 向こうにもまだいい眼を持っている奴が
 いるようだな。
 …まぁ特に支障はない。
 これであいつらの小屋はできた。
 後はぶち込んでいくだけだ。」

とマダラ。
どうやら外道魔像は尾獣たちを詰め込んでいくだけの
単なる"小屋"的な役割に過ぎないようです。

「穢土転生の偽物輪廻眼でも
 アレを口寄せできんのかよ!?」

と孫。

「…奴は血を出し、傷を負っているわ。
 つまりもう穢土転生ではない…
 本物の輪廻眼を持っているのでしょう!」

とそれに対して猫又が答えます。

「どうやって生き返った!?」

と重明。彼らは輪廻天生を知らないようです。

「…まさか…オビトで。」

ようやく事の成り行きに気付いたナルト。
そう――オビトを媒体に、
《輪廻天生》が発動したということに。

2.輪墓・辺獄(2)

「シツコイナ…死ニカケノクセニ。」

黒ゼツに操られることに対して
必死に抵抗するオビト。

「コノ左目ハ長門ニ渡リ、
 オ前ニ行キ着イタガ…
 アルベキ本来ノ場所ヘ戻ル時ナノダ。
 コノ世ニ輪廻眼ヲ開眼シタ者ハ
 六道仙人トウチハマダラダケダ。
 オ前ノ様ナ者ガ持ッテイイ代物デハナイ。」

と黒ゼツは語ります。

「右目は隠した…
 左目は今ここでカカシに潰させる。」

とオビトは抵抗を止めません。
カカシもオビトの意志を尊重するように、
クナイを構えます。

「クク…右目ハ白ゼツガトックニ見ツケテイタ。
 スデニマダラ様ニ渡ッタ。
 死ニゾコナイノ用済ミガイチイチ抵抗スルナヨ。
 オレガ付イテイナケレバオ前ハ死ンデルンダゾ。」

と黒ゼツ。
もはや外道魔像を抜かれ虫の息の状態です。

「だったらオレから離れろ。
 オレが死んでから輪廻眼を取ればいいだろ…。」

というオビトに対して、

「離レタトタン、
 オレハコイツラ二人ニ命ヲ取ラレル…
 輪廻眼ヲ取ル前ニナ。
 オレハ暁ノ情報収集屋ダッタノヲ忘レタカ?
 コイツラ二人ノ力モ分析済ミダ。」

と黒ゼツ。非常に狡猾です。
オビトに寄生し手出しできない膠着状態をつくり、
隙を見て左の輪廻眼をマダラのもとに
持っていくつもりです。

「左目はもう少しかかりそうだな。」

黒ゼツの事態を白ゼツから把握したマダラ。

「ペットを連れ戻すのに
 何年もかかったガキと一緒にするな。」

とマダラ。輪廻眼一つでも過ぎるくらいでしょう。

「…血だらけですけど…」

心配するように白ゼツ。

「柱間の治癒の力があると分かっている分…
 戦い方に優雅さが欠けてしまう。」

とマダラ。
自分の肉体を実感する為に、
わざと攻撃を喰らっていた節があります。

「もう少し丁寧にいく。
 輪廻眼本来の力を使えば、
 高尚な戦いに見えよう。
 数秒だ…よく見ておけ。」

とマダラは外道魔像の天辺に場所を移します。
そして輪廻眼を見開き《輪墓・辺獄》を発動するのです。

「何かしてくるかも。注意を――」

猫又が警戒したのも束の間、
突然見えない何かに攻撃されたように
尾獣たちが吹っ飛び、地面に倒れます。

「少しはおとなしくなったな。
 これでやっと首輪をかけられる。」

とマダラは畳み込むように、
外道魔像からチャクラの鎖を伸ばします。
チャクラの鎖に掴まれた九つの尾獣たち。

「まずは八尾と九尾を…
 人柱力から引きはがす!」

喉元をチャクラの鎖に掴まれ、
抵抗するにもできない九喇嘛とナルト。
絶体絶命です。

658『尾獣 VS マダラ』

1.尾獣 VS マダラ

「…ここに居るのは…」
「ああ…マズイな。」

尾獣たちとマダラが睨み合う中、
連合軍の忍たちは一旦退却します。

「ここから離れろ!」

とシーが呼び掛けます。
守鶴と共に我愛羅が見据える先にはマダラ。

「守鶴! 仕込め!」

我愛羅の言葉を皮切りに、
一気に動き始めます。

「暴れるぜェ!!!」

《風遁・砂散弾》――
ショットガンのようにして飛ばされた砂霰が、
マダラを際限なく襲います。

「いい術だ。だが決定打に欠けるぞ!」

と全てを受け切りながらも前進してくるマダラ。
しかし狙いは決定打ではなく、
マダラの体内に忍び込んだ砂をコントロールして、
動きを鈍らせることです。

「お前の砂を埋め込み、
 自由を奪う術だったか。」

まるで第三者が鑑賞するかのように、
その場その場を楽しむかのようなマダラ。
絶対的な力に裏打ちされた自信です。
その隙を二尾・又旅が強烈な叩打。
トスアップされたマダラを三尾・磯撫が
硬い殻で打ち返します。
すかさず四尾・孫悟空が掌打で打ち上げると、
五尾・穆王が突進からの頭突き。
上空に打ち上げられたマダラは七尾・重明によって
はたき落とされて六尾・犀犬の粘り沼へ。

「今だ。守鶴!!」

我愛羅の掛け声とともに、
守鶴が自身の身体を砂化して、
沼ごと覆ってしまいます。
そして印を張り巡らせ、
《砂漠層大葬封印》を完成させます。

「オレ様の砂体と呪印模様を使った大層封印だ!
 もう二度と空気に触れる事はねェーぜ。
 ギャハハハ!!」

と守鶴。
しかし喜んだのも束の間、
《須佐能乎》を宿らせ、
その強固な封印を突き破り出てくるマダラ。
目を開いていないのに、
万華鏡写輪眼の術を軽く使うとは恐るべしです。

「すぐに首輪をかけたやる。
 一匹も逃がしはせん!」

ゾンビのように這い出てきたマダラに
たじろぐ一同ですが、

「させっかよォ!!」
「てめーに尻尾振る奴はいねーよ!」

すかさず九喇嘛とナルトが叩きます。

「遅くなってすまない!
 負傷者を移動していた!」

と八尾・牛鬼も加わり、
ついに尾獣九体が揃います。

「大丈夫!
 もう負傷者が出る事もないわ。決着よ!」

と二尾・又旅も必殺の構え。

「尾を重ねろ!!」

九喇嘛の合図とともに尾獣たちが
一斉に自らの尾を振り翳してそして下ろします。
尾獣九体が力を合わせた渾身の一撃。
マダラとはいえ粉微塵でしょう。

「惜しかったな。クソ狸!」

と九喇嘛。

「フン…
 えらそうに命令しやがって、バカ狐が。」

と守鶴。
しかしそんなやりとりも束の間、
何事もなかったかのように、
折り重なった尾を吹き飛ばして見せるマダラ。

「…しつこい奴だ!」

四尾・孫も呆れ顔です。
ちょうどそんな折、
地中より白ゼツが現れます。

「遅くなりました…マダラ様。」

そういって握りしめた右腕ごと手渡された何か。

「やっと来たか。…持っているな?」

ちょうど負傷した右腕を入れ替えるように、
受け取ります。

「これで…少しは楽しくなるか……。」

徐に閉じられた右眼へそれをもっていき、
しばらくして見開きます。
そこにはマダラのオリジナルの輪廻眼があります。

657『うちはマダラ、参る』

1.うちはマダラ、参る(1)

とうとう《輪廻天生の術》により甦ってしまったマダラ。
しかし起き抜けのもっとも隙があるときを狙わない手はありません。
突如、マダラの身体を黒い炎が包みます。

「旧時代の遺物がしゃしゃるな。」

サイの墨絵で描かれた鳥で飛来するサスケ。
万華鏡写輪眼を見開き《天照》の黒炎を操ります。

「オレに届きもせん砂利ごときが…
 それはこちらのセリフだ。」

しかし黒炎に包まれながらも、
まるでその熱さを感じることのないかのように
涼しげな様子のマダラ。
流石にマダラには《天照》すら全く効果の無い忍術です。
そんな最中、マダラが敢えて目を閉じたことに気付く柱間。

「サスケ!
 こいつにただ術をぶつけても
 意味はねェーってばよ。
 こいつは忍術を吸収すんだよ!」

ナルトが言ったのも束の間、
黒炎のエネルギーはみるみるうちにマダラに吸収され、
黒炎は徐々に消えてしまいます。

「!? それは!?」

黒炎に隠れていたマダラの胸腹部が露わになり、
驚愕する柱間。

「"相反する二つは作用し合い森羅万象を得る"。
 柱間。かつてうちはの石碑の前で
 お前に語ったのを覚えているか?」

とマダラ。

「相反する二つの力が協力することで
 本当の幸せがあると記されている石碑だと。」

マダラがどのようなことを考えていたか
結局分からずじまいだったあのやりとり。
それを思い起こすように、柱間は言います。

「だが…別のとらえ方もできると言ったな…。
 うちはと千手…
 両方の力を手にした者が本当の幸せを手にする。
 そういうとらえ方もできやしないか…? 柱間よ。」

露わになった柱間の一部。
それを見せつけるようにマダラは言います。

「里を離れてなおも色々と画策していたようだな。」

千手とうちは――
その強大な二つの力を協力するのではなく、
無理矢理得ることを望んだマダラの結論。

「イヤ…。これは部下の仲間が
 偶然仕組んだものだ。
 オレと同じ様な事を考えた輩がいたらしいな。」

カブトによって柱間を融合した状態で
再びこの世に甦ってきたマダラ。
しかし考え方に相違はないようです。

「だが…再び生を受けた事は計画通りのものだ。」

《輪廻天生の術》――
それによって生まれ変わることは、
マダラの当初の計画通り。

「順序が逆になったがまぁいい……」

印を結び穢土転生体の柱間の動きを封ずると、間合いをつめ、
柱間が何やらチャクラを吸収するかのように手を翳します。

「これが仙術チャクラか……
 …なんだ。この程度の力か…
 簡単に扱えそうだな。」

ぼろぼろとなった柱間から
勝ち誇るように顔を背けるマダラ。
その背後からサスケが剣を突き出します。

「それこそこちらのチャンスだ。
 これで確実に殺して
 あの世に送り返す事ができる。
 穢土転生のままが良かったと…
 悔やみながら逝け!」

甦ったばかりとはいえ、
やはり忍として最高峰だったゆえに
サスケの鋭い剣線も空を斬るばかりです。

2.うちはマダラ、参る(2)

「マダラが…、…生き返って…しまった…」

異変を察知したカカシにオビトが言います。

「オビト…
 コレデオ前モ用済ミダ
 輪廻天生ヲシタオマエハ死ヌ。」

と黒ゼツ。

「サテ最後ノ仕事ダ。
 左眼ハ返シテモラウ。」

ミナトもカカシも揃って止めようとしますが、
オビトの左半身に黒ゼツが完全に融合し、
何かする手立ても奪われます。

「オレガ取リ付イテイル間、
 少シハ長持チスルダロウナ
 コイツモ。」

と黒ゼツ。
そのあまりにも異様で不気味な生命体に、
ミナトも思わず訊きます。

「君は何者だい?
 人……ではないね。」

むくっとオビトの身体を起き上がらせると、
薄ら笑みを浮かべながら言います。

「オレハマダラノ意志ソノモノダ。
 マダラノ邪魔ヲスルモノハ排除スル。」

と黒ゼツ。
オビトの過去を知っている読書の我々は知っていますが、
カカシもオビトもこの事は初耳です。

「コノオビトモソウダガ、オ前達ハ、
 マダラノ計画ヲ甘ク見スギダ。
 ソシテオレノ事モナ。」

長次郎が取り押さえたかに見えましたが、
黒ゼツは強かにも次の行動を窺っていました。
マダラの命令があるまで、
地中を通りオビトのところで待機していたのです。

「オビトガ死ヌマデノ間、
 コノ体ヲ使ッテオ前ラト戦ウ。
 マダラノ策ニ裏目ニ行動シオッタ役立タズダ。
 最後グライハ役ニ立ッテモラワネバナ。」

見開かれる輪廻眼。
疲弊し生気もない右半身とは対照的です。

一方、サスケとマダラ。
サスケ刺突に向かったその刀を
白刃取りされて動きを止められます。

「…だが…殺すには惜しい眼だ。
 どうだ…同じうちはの生き残りとして、
 オレと組む気はないか?」

と訊ねるマダラに、
キッとした目で睨み返すサスケ。

「勘違いするな。
 お前は死んだ人間だ。」

とサスケ。

「まあいい…。
 どのみちお前に残された時間は少ないぞ。」

とマダラ。
《火遁・灰塵隠れの術》で辺りを熱気を帯びた
灰で覆ってしまいます。

「(マダラはかつての力を取り戻している。
  マズイ…。奴が次に狙うのは――)」

マダラの狙いに気付く柱間。
横たわる忍連合軍の忍たちを足蹴にし
チャクラを吸収して広い荒野を見渡すマダラ。

「さぁ、次はお前らをいただくぞ。
 畜生共。」

見据えたのは尾獣たちです。

656『交代』

1.交代(1)

「(――ナルトの道か…。)」

今一度カカシの言った言葉の意味を
反芻しながら頷くオビト。

「…かもな。」

失敗うんぬんでなく、
支えてくれる人々の想いとつながり。
それが力となることを、
ようやく理解したのです。

一方で柱間とマダラの戦いも、
決着がつくような形です。

「お前からチャクラを吸収する木龍ぞ!
 これでお前のチャクラを吸収する忍術も意味をなさん!
 つまりもう動けず、必ず、
 次の忍術は吸収できんという事だ!!」

と柱間。

「いい間だぞ。四代目の息子よ!
 これを決めてそのスキに封印する!!」

ナルトの特大螺旋手裏剣が、
マダラをとらえようとしています。
そして螺旋手裏剣後、
弱ったマダラを封印しようと忍たちも動き出します。

「ナルトが投げたって事はあそこだ!
 あそこにマダラが居るぞ!!」

放たれた螺旋手裏剣。
ナルトはサイの《超獣戯画》によって生まれた鳥にのって、
マダラへと迫ります。

「守鶴…。
 …マダラを封印するのに、
 お前の砂の力を借りたい。」

また我愛羅もナルトに続くべく、
かつて宿していた尾獣――、
一尾・守鶴のもとへ赴き協力を要請します。

「砂漠層大葬か?」

気怠そうに守鶴が訊き返します。

「そうだ…。
 それも特大のな。」

と真顔の我愛羅を見て、
皮肉るように笑う守鶴。

「ワハハハ!
 人柱力に縛られる事もなくなったってのに、
 わざわざお前の言う事を今さら聞くと思うか?」

そんな守鶴に、
我愛羅は動じることもなく言葉を続けます。

「命令したんじゃない……。
 頼んでいるのだ。
 嫌ならばいい……。
 他の者の力を借りるまでだ。」

決して見下したり命令しているわけではない。
必要としているから協力してもらいたい――
その想いに守鶴は曲げていた臍を戻します。

うずまきナルトか……。
 あの化け狐のヤローと
 ずいぶんお友達になったみてーだな、我愛羅…。」

と守鶴。
しかし今は四の五の言っている状況ではありません。

「強力しないなら、話は後にしてくれ。
 オレは行く。」

我愛羅も守鶴の決断を急かすように言います。

「ケッ! そういう言い方されると
 カチンと来るな…!
 狐七化け、狸八化けってな!
 バカ狐に負ける化け狸様じゃねーぜ!」

もちろん守鶴も元から協力するつもりだったようです。
ただ、素直に協力しようにも、
プライドが邪魔をして素直になれなかっただけ。
でも、そのプライドの行き先を、
自身がライバルとする"化け狐"に向けるなら話は別。

「オレはお前の頼みを聞き入れたんじゃねェ!
 オレ様の意志で動く! 案内しろ!」

と意気込む守鶴。
そんな二人のところへ駆けつけた他の尾獣たち。

「オレ達も協力してやる。
 ――安心しろ。オレ達は気まぐれでやるんじゃない。
 ナルトを助けたいからだ。」

と尾獣たちを代表して四尾・孫悟空
我愛羅も心強い思いです。

「…感謝する。」

自分たちと同じように
ナルトへの特別な想いを感じたのか
孫がふと訊ねます。

「砂の忍の人間…。
 お前もナルトの知り合いか?」

その問いに我愛羅は力強く答えるのです。

「ああ…。
 最初の友だ。」

「! …そうか…!」

その答えに妙に納得するかのように孫。

「…よし急ごう!!」

尾獣たちの協力をとりつけて、
ナルトのところへ向かいます。

2.交代(2)

「(ナルトの術で倒せはしなかったが、
  これで奴の動きを完全に封じることができた…)」

《木遁・木龍の術》からのナルトの特大螺旋手裏剣。
マダラを完全に倒すまでにはいかないのものの、
力を削ぎ、《封十》のように鳥居を使った封印術で、
完全にマダラの動きを封じ込めた柱間。

「これで封印の忍を待つのみぞ!」

マダラを追い詰める包囲網。
余裕のないはずのマダラですが、
なぜかその表情には笑みが――
一方、十尾を抜かれ弱り切ったオビト。

「十尾の人柱力は他の人柱力と違う…。
 尾獣を抜いても死にはせん。
 十尾の殻…、つまり外道魔像が残るからな…。
 ありゃ相当の生命力だ。」

陰の九尾がミナトに知らせます。
十尾を九つに分かち、分散させた六道仙人。
その生命力の強さは並大抵の人柱力ではありません。
そしてそれは同じく十尾の人柱力となった
オビトにも当てはまると言える。
そのことをカカシにも伝えます。

「今までの行為に対してきっちり
 報いてもらおうと思っていたが…
 動けないなら仕方ない――
 お前はそこでじっとしていろ。」

とオビトに声を掛けるカカシ。

「先生…オビトを見張っていて下さい。」

そうミナトに託そうとした矢先、
何やら印のようなものを結び始めたオビト。

「何をしようとしてる!?」

訝しがるミナトに、
オビトは遠い目をしながら語ります。

「…かつてオレが…利用しようとした男が…
 オレを裏切った手段だ…」

とオビト。

「まさか――」

カカシはハッとします。
自分が甦ることのできた
ペイン――長門のあの術です。

「自分も同じ事をするとは…
 思いもよらなかったがな…。
 外道…輪廻天生の術だ。」

そう長門がナルトの想いに託し、
自らの命を擲って、
多くの命を返した術《輪廻天生の術》。

「…その術は、代わりにお前が…」

とカカシ。
大罪を犯した大敵とはいえ、
再び分かり合えた友をまた失くすかもしれないことに、
戸惑いのようなものを覚えたのか、
カカシは言葉を詰まらせます。

長門がかつて…
 なぜオレを裏切ったのか…
 今なら分かる気がする…。
 …数珠繋ぎの重なった人の想い…
 それも強い力になるんだな…」

かつて裏切った長門が、
ナルトに託したという想い。
なぜ、長門がそんな事をしたのか――
その繋がりを信じようとした彼の気持ちが、
いまようやく理解できたとオビトは言います。

長門もナルトも自来也の弟子だった……。
 オレは…自来也という人間に負けたとも言える…。
 先生…アナタの師であり、
 アナタを火影として育てた人…
 そしてオレは…アナタの弟子…
 火影をあきらめ…繋いだ想いを切った忍…。」

とミナトに謝るように、
そして自分のしてきたことを悔いるかのように
オビトは言います。

「向こうでリンに……
 合わせる顔が…ないか…。」

リンが信じてくれた自分を
それを裏切り続けてきた自分――
オビトはそんな自分が嫌になったのです。

「…本当に、それでいいのか…?
 生きて…償うことだってできるんだぞ…」

とカカシ。

「イヤ…そんななま易しい……」

言いかけたオビトを、
何者かが力強く抑えつけます。

「今度ハオレモ協力シテヤル!」

現れたのは黒ゼツ。
そう彼こそマダラの影そのもの。

「交代だ」

マダラの笑みは勝ち誇ったかのようになります。

「今度はこちらが攻める番だ。」

封印しようとしたサイとナルトを振り切り、
ついにマダラが本懐を遂げるべく、
動き出すのです。

「ナルト。お前には感謝している…。
 オビトから尾獣共まで抜いてくれた…。
 奴を弱らせる手間が省けた。」

黒ゼツに取り込まれていくオビト。
カカシもミナトも不意を突かれ、
ただ立ち尽くすばかりです。
廻天生の術――
それはもっとも恐ろしい人物を甦らせてしまうのです。

「やっとまともに戦える!
 やはりこの体でなければ!
 血湧き肉踊ってこその戦いだ!!」

オビトの何が間違っていたのか。
ナルトとオビトは何が違うのか。
信じること、つながり、諦めない思い――
正しい道とは何か――。
そこに答は存在するのか――。
この回は深く考えさせられます。

655『轍』

1.轍(1)

「約束を守ったな…!
 うずまきナルト
 オレ達を本当に助けやがるとはな!」

十尾から解放された尾獣たち。
四尾・孫悟空が最初に口を開きます。

「オッス! 孫!!」

とナルトも再会した友にかわすような軽い挨拶。
他の尾獣たちもナルトに感謝するかのように、
口々に安堵や驚きを表します。

「おっ…! おい!
 待て、サスケ!!」

と、突如倒れて動けないオビトの方に
刀を抜きながら走り出したサスケ。
とどめを刺すことで、
戦争の終りを明確にしたかったのでしょうか。

「そうか……
 負けか……」

肩の力が抜けたように、
今の状況を受け入れるかのようなオビト。
身体に全く力が入りません。
走りくるサスケに対して、
抵抗することはなく、
あるがままを受け入れる構えです。
その時、渦を巻くように空間が捻れ、
カカシが現れます。

「サスケ。積もる話は後だ…。
 急に出て来てすまないが、
 かつて…同期で友であったオレに、
 こいつのけじめをつけさせてくれ。」

《神威》によって空間を破り、
なんらかのアクションを取ることができるまで
ようやく回復させたカカシですが、
オビトに対して"けじめ"をつけなければならないという
義務感からの一連の行動かと思われます。

「カカシ先生! そいつは今…!」

クナイをかざすカカシを制止するように
ナルトは言葉を投げますが、
カカシの手は止まりません。
今、暗闇へと逃げていた自分を認め、
"光"を見ようとしているオビトに気付いていたからこそです。
しかし、カカシが自負する責任は、
その想いには気付きませんでした。
その刹那、カカシの手をせき止める何かが働きます。

「父ちゃん!」

四代目火影・ミナト。
彼がカカシの手を止めるのです。
今が止めを刺す時――
盛り上がり冷静さを失っている忍たちを
綱手が制します。

「オビト…。チャクラを引っ張り合った時、
 君の心の中を見せてもらったよ。」

皆が固唾を呑んで見守る中、
静かにミナトが口を開きます。

「ずいぶん息子がガミガミ説教したみたいだけど、
 …どうやらそういうとこは母親ゆずりみたいだね…。」

と一呼吸置いてから、カカシの方を向いて、

「…でも本来それをやるのは君の役目だ。
 オビトを本当に理解し、
 何かを言えるとしたら友達の君だと思うよ。カカシ。
 そうだろ。ナルト。」

とミナトはナルトとサスケを見やるようにして、
カカシに言います。
残酷な現実から逃げ続けて、
そしてその現実を否定することが
自身の正義としてきたオビト。
彼がその思想のもと、もたらした現実も
結局は憎しみを血で洗うかのような地獄だった――
絶望を口実にした許されざる大罪
その咎を背負ったかつての友に、
変わり果ててしまった友に、
ようやく目を覚ましかけている友に、
何か言葉をかけてあげられるのであれば、
それは他ならぬ自分しかいないはず。
今一度ミナトの言葉をかみ締め、
クナイをもつ手を緩めます。

「ナルト。お前達と連合は初代様のサポートへ行ってくれ。
 マダラを封印するんだ。」

そう言ってナルトをマダラのもとへ急がせるミナト。

「あっ! そっか!
 あいつがまだだ!
 行くぞ。サスケ!!」

ナルトもまたまだ戦いがすべて
終わったわけではにことを思い出し、
マダラのもとへとサスケを連れて急ぎます。

2.轍(2)

「今のナルトよりも、
 まだ小さかったかな……。
 覚えてるかい?
 4人でこなした任務の数々を…。
 リンは……
 医療忍者として君達2人を必死に守ってた…。
 こんな状態を望んじゃいなかったろうね。
 でもそうさせてしまったのはオレの責任だ。」

とミナト。
かつての自分の部下たちの不幸――
それは自分にあると言います。

「…死んだハズのオレが君たちの前に
 立っているのは偶然じゃない。
 リンがそうさせたのかもね。
 先生のくせに何やってんだって。
 リンを守れなくてすまなかった。」

頭を下げるミナト。
昔のカカシやオビトを誰よりも知っています。
そんなかわいい教え子二人がクナイを取り合い
向かい合う残酷な現実など認めたくないからこそ、
ただただ謝罪するかのような言葉を口にするしかないのです。
もちろん二人とも分かっています。
忍として戦場に立った以上、
己の責任と行動で、
命令と規範を破ってまで、
仲間を守ろうと戦った事も――
そしてその結果が別れとなった
現実の惨さも――。
誰かの責任だとかじゃなくて、
それを乗り越えていかなければならないのに、
ただただ受け入れられず、
それゆえ立ち向かわなければならないものから
逃げていた弱き心を、自分を、認められなかった。

「リンは…
 リンはオレにとっての唯一の光明だった。」

とオビト。
リンを失ったあの日を振り返ります。

「リンを失って後…、
 オレの見る世界は変わってしまった。
 真っ暗な地獄だ。
 この世界に希望はない。
 マダラに成り代わって世界を歩いたが…
 さらにそれを確信するだけだった。
 この写輪眼をもってしても結局は何も見えなかった。
 何もなかった。」

とオビトは言います。

「オレもハッキリは分からない…。」

それに答えるようにカカシ。

「なら…オレの新たな道は――」

と今一度、あの日以来絶望しか見えなかった自分が
必死に歩んできた道のりとは――

「確かにお前の歩こうとしたのも
 一つの道だろう…。
 …本当は間違いじゃないのかもしれない……」

カカシも見えない答に自信はありません。
オビトが彼なりにもがき苦しんで出した答えを
否定しきって良いものなのかも迷います。

「オレだってこの世界が地獄だと思ったさ…。
 オレはお前を失ったと思っていたし…
 …すぐ後にリンを失い…、
 そしてまたミナト先生まで失ったからね。
 でも…、ハッキリとは分からないが、
 「眼」をこらして見ようとはしたんだ。
 お前がくれた写輪眼と言葉があれば、
 見える気がしたんだよ。」

あの別れの日、
オビトがくれた写輪眼と言葉。
それに報いるように、
必死で現実を見続けてきたカカシ。
背を向けたくなりそうなときも、
そう――リンを殺めてしまったあの時も、
目を背けずにしようとしていたんです。
でも、カカシだって完ぺきではない。
心のどこかではやはりこの現実の辛さに怯えていた――
何かに縋<すが>りたい肖<あやか>りたい気持ちだってあった。
孤独に打ちひしがれることもあった。
その中で、絶対と呼べる答は今だって見つかったかどうか――

「――それがナルトだってのか。
 …あいつの道がなぜ失敗しないと言いきれる!?」

オビトの言葉にカカシは首を横に振ります。

「イヤ…。
 あいつも失敗するかもしれないよ。
 ――そりゃね。」

とカカシ。

「…オレとナルトは何が違う?
 なぜ奴にそこまで…」

納得できないかのようなオビトに、
カカシは言います。

「オビト…。
 今のお前よりは失敗しないと
 断言できるからだ。」

もちろんオビトには分かりません。

「…なぜだ…?」

と呻くように言います。

「あいつが道をつまずきそうなら、
 オレが助ける。」

とカカシ。

「なぜ…奴を助ける…?」

根本的な違いとは――
カカシは続けます。

「あいつは自分の夢も…現実も、
 諦めたりはしない。
 ――そういう奴だからさ。
 そしてあいつのそういう歩き方が
 仲間を引き寄せる。
 つまずきそうなら助けたくなる。
 そのサポートが多ければ多いほど、
 ゴールに近づける。そこが違うのさ。」

何かを変えようと思えば、
必死で頑張らなければならない。
その努力が報いることもなく失敗があることも当たり前。
そこで別の何かのせいにするのでなく、
諦めることなく、精一杯踏ん張り続ける強き心。
それを保つ信念なり意志の力。
それに従って生き、または死にたいと思える何か。
本当に大切なもの。
それら生きる輝きを放つ者の魅力は
仲間をつくり、つながりとなります。
やがてそのつながりを持つ者は本当に何かを変えることができるのです。

「…この真っ暗な地獄に…
 本当にそんなものが…あると…。」

俄かに信じがたい、というようにオビト。

「お前だって見ようとすれば見えたハズだ…。
 オレとお前は同じ眼を持ってんだからな。
 信じる仲間が集まれば希望も形となって
 見えてくるかもしれない…。
 オレはそう思うんだよ…オビト。」

カカシはそう答えます。

何が正しくて何を為さなければならないか――
それは人によりけりでしょうし、
基準があったとしても、
果たしてその基準はその人に受け入れられるのでしょうか。
何かが正義であり同時に不徳でもあるのが現実です。
問題はつながりの形。
いくら生きる輝きを放つ魅力的な存在や
それに群がる仲間も、
目指すべきところが望むべきでないものに
向かおうとしているのであれば、
今回のオビトのように、
暁という組織も崩壊し、十尾の力を以てしても
敵わない大きな抗力が自然と作用するようです。
つながりの輪とは諸刃の剣であり、
その誰かが欠ける事で生ずる悲しみや憎しみもあります。
ですが、皆が望み、信ずる形を実現するのも、
またつながりであることに変わりはない。
それを無視することはできないのです。