667『碧き日の終わり』

1.碧き日の終わり(1)

「てめー!! どこのどいつだか知らねーが
 サスケに何してやがる!?」

逸る香燐ですが、
よく見るとそこには見知った顔が――

「アナタだったのね…
 カブト。」

そこにはイタチの術に嵌められたはずのカブトの姿が。

「ここへ急ぐ一行を感知してました…
 やはり大蛇丸様でしたか。」

とカブト。
以前とは異質なチャクラを感知し、訝しがる香燐。

「色々と他人のチャクラを体に取り込んだあげく
 仙術チャクラまで取り込んだから…
 香燐でも別人と間違えたようね。
 ちなみにイヤな感じがしたのって
 私のチャクラがまだ残ってたからかしら?」

仙人モードとなるため
自然チャクラを吸収しすぎたからなのか、
他人のチャクラを取り込み過ぎたからなのか、
大蛇丸も"感知違い"をした理由を知りたがります。

「サスケから離れろインテリヤロー!!」

遮るように香燐が叫びます。

「カブトさん…。
 まさかサスケも取り込む気じゃないよね?
 カブトにサスケで、カブケかサストか知らないけどさ?」

水月も重吾もカブトの出方を窺うように慎重な構えです。

「てめーがサスケをやったんだな!?
 コノヤロー!!」

冷静でいられない香燐ですが、
ふとサスケに息があることに気付きます。

水月…。
 ボクはもうそんな事はしないし、
 香燐…
 ボクはサスケくんを奪おうとは思わない。」

とカブト。
彼はサスケのチャクラを吸収していたのではんく、
サスケにチャクラを与えていたのです。

「(…サスケのチャクラ…
  かすかに感じる!!! ま…まさか…!)
 カブト…、アンタがサスケを!?」

驚く香燐を無理もないというように、
カブトは続けます。

「そう…。
 ボクの医療忍術と研究しつくした
 あの柱間細胞。
 そしてある方の助言で
 彼の一命をどうにかとりとめたんだ。」

とするカブトに、

「そういう事だ。」

と肯定する扉間。

「これはこれは…。
 私が最も尊敬する火影…
 二代目扉間様。」

大蛇丸が扉間の方を一瞥します。

「しかし…カブト。
 アナタがここに居るという事は
 イタチのイザナミの術による
 無限ループから抜け出せたって事だけど…」

大蛇丸は尤もらしいこと、
しかし大変不可思議なことをカブトに訊ねます。
つまり無限に繰り返される幻の世界を
どうやって抜け出してきたのかということです。

「そうです…。
 …ボクは自分を認めず何者かも分からないでいた。
 それを簡単に教えてくれるアナタに利用され
 己を失っていた。
 でもイタチはその術でボクに気付かせた。
 ボクは他でもない――カブトなんだと。
 そして帰るべき場所も。」

とカブト。己があろうとした原点へと回帰し、
ようやく自分の弱さと自分自身を認めることができたカブト。

「なんかさ中身まで変わった?」

とする水月。チャクラが異なるのも、
イザナミの影響なのかもしれません。
弱さを認めそれを包み込む広さと強さを
今のカブトからは感じられます。

「それがイザナミという術なのよ。
 つまり己自身を見つめ直し、
 受け入れなければ術が解けない仕組みなのよ。」

イザナギという強大な力に溺れた者を
戒めるために編み出された究極の更生瞳術。
感慨深げに大蛇丸が頷きます。

「サスケ…」

虫の意気ですがほっとしたのか、
胸を撫で下ろすように見やる香燐。

「ボクは今…
 帰るべき場所を無くしたくないと
 心の底から願うようになった。
 イタチが死んでも守りたいと願った
 サスケくん……。
 その想いが痛烈にボクの心を貫いてきた。」

とカブトは言います。
死に代えても守りたい大切なもの――
それを理解できたのです。

「フン…! あのね!
 今さら言えた義理かよ!
 アンタさぁ偽物マダラと組んで、
 この戦争をおっ始めた主謀者なんだぞ!!」

しかしいくら理解できたところで、
罪に課せられる責任は小さくはなりません。
こうして起された戦争の一端を担った事実は
決して揺るいだりはしないのです。

「その通りだ…。
 ボクもそのオビトも、
 この世の中に自分の居場所が
 なくなってしまったと思い込み
 皆を巻き込んだ。
 だが、もう自分が何者か分かっている…。
 そして己が何をすべきかも!」

オビトはその罪過を受け入れる覚悟はあります。
それは自分が一体何者で何をなしたか、
それを理解しているところから来るある種の強さです。
それでは次に何を為すべきか――
最善と思える行動にカブトは出たのです。

2.碧き日の終わり(2)

「増援が来たところで、
 お前らはただの砂利…
 今さら何もできんぞ。」

とマダラ。はじめてマダラの姿を見るガイは、
カカシに確認をとると闘志を再び燃やします。

「カカシ大丈夫かい?」

カカシのダメージを心配するミナト。
《仙法・螺旋丸》は致命的な重傷を与えるはずです。
しかし、カカシは《神威》でなんとか直撃を避けたとの事。
それを聞いてほっとするミナト。

「仙法? …仙術ですか?」

ミナトに確認するようにガイが訊きます。

「そう…。奴は仙術しか効かない…。
 それともう一つ…
 体恤によるダメージ。」

ガイは段々と状況を把握します。

四代目火影の仙法と、
 ガイ…アナタの体恤しか
 今は手段がないということか…」

我愛羅も後を押します。

「…先生は確か…、
 その…仙法があまり…。」

しかしミナトが仙術を得意としていないことを
カカシは知っています。頷くミナト。

「…正直、仙術は苦手でね。
 チャクラの練り上げに時間がかかりすぎるうえ、
 長時間維持できない。
 実戦でもあまり使ってこなかったんだ。
 その上今は印が組めない状態だから、
 まともに闘う事もできないと思う。」

それを聞いてガイは、
今求められているのは自分の力だと確信します。

「つまり今この碧き猛獣の出番という事になるな!!」

相手がマダラだからか、
いきなり八門のうち第七驚門まで開いて見せるガイ。
マダラすらその碧い蒸気に一瞬戦きます。

「赤い蒸気にはならぬとは…
 なめられたものだ。」

しかしそれは本当の全力ではないことを
マダラも知っています。

「黒い玉と棒に触れたらダメだよ!!」

ミナトのアドバイスを聞くか聞かぬかのうちに、
目にも留まらぬ速さで特攻をかけるガイ。
その凄さは我愛羅をおして

「人の動きじゃない。」

と言わしめるほどのもの。
そして隙をついて《昼虎》が発動し、
マダラを吹き飛ばします。
しかし土煙に隠れて飛び交う黒い玉。
マダラはまだやられていないことを確信したミナト。

「黒い玉に体当たりしつつ
 もう一度飛雷神しかない!!」

ガイを助けるべくカカシにクナイを要請しますが、
そこを割って入るようにナイスタイミングで
リーが助けに入ります。

「すまない…リー。
 テンテンはどうした?」

力を出し過ぎた反動からか、
少し回復に時間がかかる様子のガイ。
虚ろな様子でリーに訊ねます。

「少し確かめたい事があるから先に行けと…
 やっと追いついたとたん…急に昼虎が…」

と状況説明をするリー。
カカシも来て心配しますが、
どうやら左腕と肋骨の数本をやられたようです。

「頼みの綱の体恤もダメとなると……
 どうする…。
 奴は…強すぎる…」

人じゃない動きすら超越する動きで
ガイを軽くあしらったマダラ。

「待て…カカシ…。
 まだ体恤がダメと決めつけるのは早いぞ!
 オレ達の青春はまだ色褪せちゃいないよ!
 望みを捨てるな!」

納得がいかにというように、
ようやく立ち上がったガイが言います。

「確かに…望むことが全てできる訳じゃない…
 しかしやるべき事はいつも
 望んでからでなければ始まらん。
 お前への挑戦がそうだったように。
 そしてこれは決して強がりじゃない。」

臨んだことが全てかなう訳じゃない――
いつも準備をしていないときに状況は変化する。
でもその変化していく状況の中で
己が進むべき道、やるべき事を決めるのは自分。

「お前…まさか…!?」

決死の覚悟を見せる戦友の姿に
カカシは一瞬言葉を失います。

「木ノ葉の碧き猛獣は終わり、
 紅き猛獣となる時が来たようだ。」

うら若き碧い清秋の日々――
それは時期が来ると燃えるように紅く輝く時が来ます。
今こそその時だと、ガイは決意したのです。