オビトの何が間違っていたのか。
ナルトとオビトは何が違うのか。
信じること、つながり、諦めない思い――
正しい道とは何か――。
そこに答は存在するのか――。
この回は深く考えさせられます。

655『轍』

1.轍(1)

「約束を守ったな…!
 うずまきナルト
 オレ達を本当に助けやがるとはな!」

十尾から解放された尾獣たち。
四尾・孫悟空が最初に口を開きます。

「オッス! 孫!!」

とナルトも再会した友にかわすような軽い挨拶。
他の尾獣たちもナルトに感謝するかのように、
口々に安堵や驚きを表します。

「おっ…! おい!
 待て、サスケ!!」

と、突如倒れて動けないオビトの方に
刀を抜きながら走り出したサスケ。
とどめを刺すことで、
戦争の終りを明確にしたかったのでしょうか。

「そうか……
 負けか……」

肩の力が抜けたように、
今の状況を受け入れるかのようなオビト。
身体に全く力が入りません。
走りくるサスケに対して、
抵抗することはなく、
あるがままを受け入れる構えです。
その時、渦を巻くように空間が捻れ、
カカシが現れます。

「サスケ。積もる話は後だ…。
 急に出て来てすまないが、
 かつて…同期で友であったオレに、
 こいつのけじめをつけさせてくれ。」

《神威》によって空間を破り、
なんらかのアクションを取ることができるまで
ようやく回復させたカカシですが、
オビトに対して"けじめ"をつけなければならないという
義務感からの一連の行動かと思われます。

「カカシ先生! そいつは今…!」

クナイをかざすカカシを制止するように
ナルトは言葉を投げますが、
カカシの手は止まりません。
今、暗闇へと逃げていた自分を認め、
"光"を見ようとしているオビトに気付いていたからこそです。
しかし、カカシが自負する責任は、
その想いには気付きませんでした。
その刹那、カカシの手をせき止める何かが働きます。

「父ちゃん!」

四代目火影・ミナト。
彼がカカシの手を止めるのです。
今が止めを刺す時――
盛り上がり冷静さを失っている忍たちを
綱手が制します。

「オビト…。チャクラを引っ張り合った時、
 君の心の中を見せてもらったよ。」

皆が固唾を呑んで見守る中、
静かにミナトが口を開きます。

「ずいぶん息子がガミガミ説教したみたいだけど、
 …どうやらそういうとこは母親ゆずりみたいだね…。」

と一呼吸置いてから、カカシの方を向いて、

「…でも本来それをやるのは君の役目だ。
 オビトを本当に理解し、
 何かを言えるとしたら友達の君だと思うよ。カカシ。
 そうだろ。ナルト。」

とミナトはナルトとサスケを見やるようにして、
カカシに言います。
残酷な現実から逃げ続けて、
そしてその現実を否定することが
自身の正義としてきたオビト。
彼がその思想のもと、もたらした現実も
結局は憎しみを血で洗うかのような地獄だった――
絶望を口実にした許されざる大罪
その咎を背負ったかつての友に、
変わり果ててしまった友に、
ようやく目を覚ましかけている友に、
何か言葉をかけてあげられるのであれば、
それは他ならぬ自分しかいないはず。
今一度ミナトの言葉をかみ締め、
クナイをもつ手を緩めます。

「ナルト。お前達と連合は初代様のサポートへ行ってくれ。
 マダラを封印するんだ。」

そう言ってナルトをマダラのもとへ急がせるミナト。

「あっ! そっか!
 あいつがまだだ!
 行くぞ。サスケ!!」

ナルトもまたまだ戦いがすべて
終わったわけではにことを思い出し、
マダラのもとへとサスケを連れて急ぎます。

2.轍(2)

「今のナルトよりも、
 まだ小さかったかな……。
 覚えてるかい?
 4人でこなした任務の数々を…。
 リンは……
 医療忍者として君達2人を必死に守ってた…。
 こんな状態を望んじゃいなかったろうね。
 でもそうさせてしまったのはオレの責任だ。」

とミナト。
かつての自分の部下たちの不幸――
それは自分にあると言います。

「…死んだハズのオレが君たちの前に
 立っているのは偶然じゃない。
 リンがそうさせたのかもね。
 先生のくせに何やってんだって。
 リンを守れなくてすまなかった。」

頭を下げるミナト。
昔のカカシやオビトを誰よりも知っています。
そんなかわいい教え子二人がクナイを取り合い
向かい合う残酷な現実など認めたくないからこそ、
ただただ謝罪するかのような言葉を口にするしかないのです。
もちろん二人とも分かっています。
忍として戦場に立った以上、
己の責任と行動で、
命令と規範を破ってまで、
仲間を守ろうと戦った事も――
そしてその結果が別れとなった
現実の惨さも――。
誰かの責任だとかじゃなくて、
それを乗り越えていかなければならないのに、
ただただ受け入れられず、
それゆえ立ち向かわなければならないものから
逃げていた弱き心を、自分を、認められなかった。

「リンは…
 リンはオレにとっての唯一の光明だった。」

とオビト。
リンを失ったあの日を振り返ります。

「リンを失って後…、
 オレの見る世界は変わってしまった。
 真っ暗な地獄だ。
 この世界に希望はない。
 マダラに成り代わって世界を歩いたが…
 さらにそれを確信するだけだった。
 この写輪眼をもってしても結局は何も見えなかった。
 何もなかった。」

とオビトは言います。

「オレもハッキリは分からない…。」

それに答えるようにカカシ。

「なら…オレの新たな道は――」

と今一度、あの日以来絶望しか見えなかった自分が
必死に歩んできた道のりとは――

「確かにお前の歩こうとしたのも
 一つの道だろう…。
 …本当は間違いじゃないのかもしれない……」

カカシも見えない答に自信はありません。
オビトが彼なりにもがき苦しんで出した答えを
否定しきって良いものなのかも迷います。

「オレだってこの世界が地獄だと思ったさ…。
 オレはお前を失ったと思っていたし…
 …すぐ後にリンを失い…、
 そしてまたミナト先生まで失ったからね。
 でも…、ハッキリとは分からないが、
 「眼」をこらして見ようとはしたんだ。
 お前がくれた写輪眼と言葉があれば、
 見える気がしたんだよ。」

あの別れの日、
オビトがくれた写輪眼と言葉。
それに報いるように、
必死で現実を見続けてきたカカシ。
背を向けたくなりそうなときも、
そう――リンを殺めてしまったあの時も、
目を背けずにしようとしていたんです。
でも、カカシだって完ぺきではない。
心のどこかではやはりこの現実の辛さに怯えていた――
何かに縋<すが>りたい肖<あやか>りたい気持ちだってあった。
孤独に打ちひしがれることもあった。
その中で、絶対と呼べる答は今だって見つかったかどうか――

「――それがナルトだってのか。
 …あいつの道がなぜ失敗しないと言いきれる!?」

オビトの言葉にカカシは首を横に振ります。

「イヤ…。
 あいつも失敗するかもしれないよ。
 ――そりゃね。」

とカカシ。

「…オレとナルトは何が違う?
 なぜ奴にそこまで…」

納得できないかのようなオビトに、
カカシは言います。

「オビト…。
 今のお前よりは失敗しないと
 断言できるからだ。」

もちろんオビトには分かりません。

「…なぜだ…?」

と呻くように言います。

「あいつが道をつまずきそうなら、
 オレが助ける。」

とカカシ。

「なぜ…奴を助ける…?」

根本的な違いとは――
カカシは続けます。

「あいつは自分の夢も…現実も、
 諦めたりはしない。
 ――そういう奴だからさ。
 そしてあいつのそういう歩き方が
 仲間を引き寄せる。
 つまずきそうなら助けたくなる。
 そのサポートが多ければ多いほど、
 ゴールに近づける。そこが違うのさ。」

何かを変えようと思えば、
必死で頑張らなければならない。
その努力が報いることもなく失敗があることも当たり前。
そこで別の何かのせいにするのでなく、
諦めることなく、精一杯踏ん張り続ける強き心。
それを保つ信念なり意志の力。
それに従って生き、または死にたいと思える何か。
本当に大切なもの。
それら生きる輝きを放つ者の魅力は
仲間をつくり、つながりとなります。
やがてそのつながりを持つ者は本当に何かを変えることができるのです。

「…この真っ暗な地獄に…
 本当にそんなものが…あると…。」

俄かに信じがたい、というようにオビト。

「お前だって見ようとすれば見えたハズだ…。
 オレとお前は同じ眼を持ってんだからな。
 信じる仲間が集まれば希望も形となって
 見えてくるかもしれない…。
 オレはそう思うんだよ…オビト。」

カカシはそう答えます。

何が正しくて何を為さなければならないか――
それは人によりけりでしょうし、
基準があったとしても、
果たしてその基準はその人に受け入れられるのでしょうか。
何かが正義であり同時に不徳でもあるのが現実です。
問題はつながりの形。
いくら生きる輝きを放つ魅力的な存在や
それに群がる仲間も、
目指すべきところが望むべきでないものに
向かおうとしているのであれば、
今回のオビトのように、
暁という組織も崩壊し、十尾の力を以てしても
敵わない大きな抗力が自然と作用するようです。
つながりの輪とは諸刃の剣であり、
その誰かが欠ける事で生ずる悲しみや憎しみもあります。
ですが、皆が望み、信ずる形を実現するのも、
またつながりであることに変わりはない。
それを無視することはできないのです。