652『ナルトの轍』

1.ナルトの轍(1)

「思った通りだ!
 お前がもらってた尾獣共のチャクラに呼応して、
 一撃で奴から尾獣チャクラを引っ張り出せたな!」

と嬉々と語る九喇嘛。
ナルトも頷きます。
ナルトが想いを込めた一撃は、
各尾獣たちからもらった特有のチャクラを呼応させ、
十尾として融合していた尾獣たちを分離させます。

「(あの時、尾獣共に気に入られ、
  チャクラをもらってなきゃできなかった芸当だ。
  …ナルト、お前って奴はホントによ……!)」

屈服させたのでなく、
心からの協力を得ていたナルト。
尾獣たちは人間を自らを利用してきた者として
少なからず良い感情は抱いていないのですから、
そんな事を為し得るナルトはやっぱり凄い、
九喇嘛は改めて認めます。

「ここからは分かってるな。ナルト!
 例の綱引きだ!
 そのまま尾獣共のチャクラを引き抜く!」

かつて九喇嘛と戦ったあのチャクラの綱引き。
今度も同じ。
一度経験している以上、
ナルトに有利な勝負です。

「オウ!!」

しかし、一尾・守鶴、八尾・牛鬼に関しては、
練り込まれていなかったため
引き合う前に弾かれてしまいます。

「元々はオレと繋がっていた一尾だ。
 オレがやる。」

そんな時は仲間というつながりが助けてくれます。

「(こっちへ来い。守鶴!!)」

我愛羅の砂には、生まれし時より共に歩んできた、
母・加瑠羅それと守鶴のチャクラが練り込まれているのです。

「やっと弱点を発見♪
 八っつぁんのチャクラはオレに任せろ♪」

八尾・牛鬼といえばビー。
彼らの協力もあって、
尾獣のチャクラの綱は順調にナルトの方へ引っ張られます。

「引き抜け!
 そうすりゃ、奴の力は十尾の抜け殻だけになる!
 大樹の花も開きはせん!」

核心をついた九喇嘛の叫び。
これにはさすがにオビトも表情を変えます。
忍たちを近寄らせないように
攻撃形態をとっていた樹木も、
遂にはその能力を失います。

「(これは…奴が大樹を
  コントロールできていないということ!)」

ヒルゼンもここが攻撃の起点となることを理解します。
そんな中、いのを通じて皆を駆け抜けるシカマルの言葉。

「(皆――
  …小さな力でも要は使いようだって言ったな。
  今が、その時だ!
  その力が世界を左右する…。
  聞いてくれ。)」

そんな折、十尾に吸収された尾獣たちのチャクラ、
十尾を通じてオビトの意識とつながったナルトは、
オビトの過去の出来事や想いに触れます。
かつてミナトを先生とした班で、
カカシをライバルとし、
リンに恋した日々――
彼らと育くんだ友情――
そしてリンとの別れ――
オビトという人間がこうも変わってしまった
その源流に触れるのです。

「奴とチャクラが繋がっているからだ!
 奴の心が入って来るが、惑わされるな!!」

と九喇嘛。

「六道仙人と等しい十尾人柱力の力をなめるな!」

とオビトは心の奥が暴かれていくからなのか、
いつになく怒気を露わに力を揮います。
一気にオビトの引きが強くなったことを感じたナルト。
その時、ふと背後から力が加わり、
より大きな力が出せていることに気付きます。

「いいから引け、ナルト。」

サスケの須佐能乎が九尾化したナルトを背後から
支えていたのです。

「ナルト!
 手を貸せっつったのはお前だ!
 最後まで手を出させてもらうぜ!!」

サスケだけではありません。
ナルトの同期たちも皆綱引きに参加します。
そして続くように忍連合軍の忍たち。

「皆さん!
 私のチャクラをつかんで下さい!!」

ミナトを媒介して、
ナルトへ力を伝えます。

「よっしゃぁー!!
 皆ァ!! 一斉にせーのォでいくってばよ!!」

ナルトの掛け声とともに、
皆がもてる力を一気に振り絞ります。

「せーーーのォ!!!!」

引き剥がされていく尾獣たち。
オビトは綱引きのチャクラを通じて、
みんなと意識が繋がります。

「(…オレが…、
  このオレが…後悔しているというのか…!?)」

もしかしたらあったかもしれない別の未来を
その中で見るオビト。
苦難を乗り越え、里とともに歩み、
火影となっていたかもしれない自分――

「お前は"誰でもない…誰でもいたくない"って
 言ったよな。」

オビトに語りかけるナルト。

「やめろ…
 オレの中に入ってくるな!」

先ほどまでのオビトと違うように、
戸惑い困惑しているかのような表情です。

「でも本当は…オレと一緒で、
 火影になりたかったんだな……。
 もしかしたらオレはアンタの後ろを
 追っかけてた場合だってあったかもしれねーんだ…。
 オレは火影に憧れてるから。」

そんなナルトの言葉を必死で振り払おうとするオビト。

「捨てきった過去と甘い自分だ!
 こんなものを…」

しかしナルトは続けます。

「なら何でオレに見えんだよ。
 面して自分隠したってダメだ。
 アンタはカカシ先生の友達で、
 父ちゃんの部下で、
 サスケの親類で、
 オレと同じ夢持つ先輩で、
 木ノ葉の忍だった。」

偽ることのできない事実――
そして偽ってきた自分――
現実を否定しようとして、
ふと立ち戻ったように思い返す過去。

「何なんだ…、
 いったい…お前はオレをどうしたい!?」

オビトの困惑、そして混乱は極まります。
ナルトという存在が大きく恐ろしく見えます。

「アンタはうちはオビトだ、って事だ!
 言ったろ!
 ぜってーその面ひっぺがしてやるってよ!!」

表面のだけじゃない――
オビトの心の仮面を今を剥がす時です。