636『今のオビトを』

1.今のオビトを(1)

「オビト…。この手のひっかけはいいだろ…。
 …もうあきあきだ…。」

決着がついたかに見えましたが、
これは互いの幻術だったよう。
高等な戦いゆえに隙あらば幻術をかけ、
相手の虚を突いていくスタイル。
同じ写輪眼どうしの戦いです。

「幻術はもう終わりだ。
 だらだら闘う気はない。
 そう…。お前の未来は死だ。」

オビトを斃すことを決めたカカシ。
もう迷いはありません。
かつて幼き頃忍組手で闘ったように、
構えをとります。

「来い。」

それに応じるオビト。
そこからかつての戦いを思い起こすかのように
二人とも凄まじい応酬を繰り広げます。
オビトの《火遁・豪火球の術》。
そしてそれをすれすれで躱し、
間合いを詰めるカカシ。

「(オビト…。
  …かつてのお前の意志は今でも…
  オレの隣に居る!)」

忍の掟に縛られ、
一人の人間であることを忘れていた自分。
仲間の存在に気付かせてくれた、
あのときのオビトの言葉は、
カカシにとって大きなものでした。

「(今のオレにできることは…、
  今のナルトを守ることだ!)」

あのとき知ることができた仲間の存在とそのありがたさ。
ナルトはその仲間を守るために闘っています。
自分もナルトと同じように仲間を大事に想う。
だからこそ、ナルトを守り、
目の前の男を斃さなければならない。
それが自分を救ってくれたかつての友だとしても。

「(ナルト…。お前は……、
  決して迷わない……。
  オレより強く――お前だけのものがたくさんある。
  今のオレにはこれしかできない。
  オレはオレのできる事を…。
  かつてのオビトを守ることは…
  今のオビトを殺すこと!!)」

ナルトと幼き頃にオビトを重ねるカカシ。
そうすることで、自分の心を鬼と化し、
戦いに徹することを選択したのだと思います。
今のオビトがかつてのオビトを否定しようと、
カカシの中ではかつてのオビトの言葉こそが
唯一の真実です。
忍のシステムが一切合財賛成できるものとはいえない。
でもこの不条理がある現実を受け入れず、
全てのものを蔑ろにし支配するのが
オビトの正義だというなら、
その厳しい現実の合間合間にある
本当に大切なもの、言葉、想い、仲間に救われた
自分もその真実を信じて正義を貫かなければならない。
カカシは迷いなく雷遁が宿ったクナイを突き出します。

2.今のオビトを(2)

幼き頃の組手はカカシの圧勝でした。
しかし今回ばかりは捨て身の攻撃に出たため、
カカシも傷を負います。
しかし、確実にオビトに致命傷を負わせます。

「終わりだよ…オビト。」

そういうカカシに不敵に笑ってみせるオビト。

「この…闘いは…お前の勝ちでいい…。
 だが…戦争の勝ちは譲らん!」

そう言ってありったけのチャクラで《神威》を発動、
マダラの近くへ飛んできます。

「柱間よ。本体で力を集中しすぎだ…。
 分身に手応えがないぞ。」

とマダラは柱間の木遁の分身を蹴散らしていた中、
オビトが負傷して現れたのに気づきます。

「…アレはもう使いものにならんか…。
 人柱力になる前に柱間とやってみたかったのだがな…。
 しかたない…。」

どうやらオビトの何らかの協力なくして、
十尾の人柱力にはなれないようです。
マダラが何やら念ずると、
オビトの体内から黒い棒のようなものが
すっと伸びだし貫き始めます。
ペインシステムに見た棒に似ています。
苦しみからのた打ち回るオビト。

「オレを輪廻天生させる頃合いだ…。」

とマダラ。《穢土転生》ではなく、
《輪廻天生》を望んでいるようです。
苦しみの合間合間に見えるリンの笑顔。

「ウオオオオオ!!!」

辺り一帯を揺るがすような叫び声をあげ、
その尋常ならざる事態に皆が振り返ります。
オビトは"戦争の勝ち"のために、
自らを生贄と捧げるのでしょうか。