644『分かってる』

1.分かってる(1)

陽と陰の九尾のチャクラが重なり合います。

「お前らのチャクラがあって助かったぜ!
 思った通りだ。」

と陽の九喇嘛。
お前らとはナルトとミナトのことです。
彼らを媒介して、
引き離された自分の陰側のチャクラと
接続することができたというわけです。

「まぁな…。
 元々はワシ達は一つだったからな。
 それに…こいつらは親子だしな。」

陰側の九喇嘛も穏やかに返します。
過去の確執、
自分が二人いるこの不思議な状況、
すべてをもう受け入れ許している様子。
そしてナルト・ミナト親子に心から味方しています。

「結界で閉じ込めて、
 アレで結界内をオレ達ごと破壊する気だ!!」

一方外界では肥大していく4つの巨大な尾獣玉に、
忍たちがざわつきます。

「(火影達の結界でも尾獣玉を通しもしなかった…
  結界を見る限り赤色…
  おそらく火影達の結界と、
  同等レベルのものと見て間違いない…!!)」

状況を冷静に分析するシカマル。
《四赤陽陣》――
その強固な結界は尾獣玉を受け入れず、
十尾すら閉じ込めてしまう堅牢強固なもの。
しかし六道仙人と同等と思われる力を手にしたオビトは
それをいとも容易く破壊してみせました。
そして代わりに今度は自分たちを結界に閉じ込めたのですが、
前述のことを考慮すれば、この結界は、
《四赤陽陣》に勝るとも劣りはしないことが把握できます。

「(オレたちの力であれほどの結界を破るのは無理だ…
  なら…)」

必死に考えを巡らすシカマル――
しかしどの策をとるにしても、
充分な準備や時間を要することが目に見えてます。
もう王手をかけられているのです。

「くそ!! 何も思い浮かばねーよ、オヤジ!!」

ただただ立ち尽くすだけしか手は残されていないのか――
シカマルの頭に何も浮かんできません。

「どうする気だ、ナルト?」

とサスケはナルトに訊きます。

「今は……
 ちょっち集中させてくれ……」

そう言ってこの緊迫した状況の中、
ナルトは静かに心を落ち着け集中します。
その様子を見てナルトの成長を
肌で感ぜずにはいられないミナト。

「クシナはもう会ったかい?
 ……本当に大きくなったよ…ナルトは。
 ごめんなぁ……ナルト…
 ここまで本当に色々大変だっただろうに」

親心からか、
ナルトの集中を遮って話しかけたい想いを
遠いクシナに語りかけるように押し殺すミナト。

「大変なのはこっからだぜ、父ちゃん!」

まるで心を読んだかのように、
そうナルトは告げます。


2.分かってる(2)

「こ…これはナルトくんの!」

突如、湧き上がる力を感じたリー。

「コレ…。消えてなかったんだ!?」

サクラも気づきます。
消えたかと思われた九尾のチャクラの衣。
再び忍たちを包み込みます。

「気付いてるかよ、八っつぁん!
 二人の九尾を感じる明と暗♪」

ビーものりのりに韻を刻みます。

「こりゃ九尾だけじゃねーぞ……。」

と八尾・牛鬼は九尾だけでなく、
何か別の大きなチャクラを感じます。
ナルトとミナト――
彼らのチャクラにつながったのです。

「このチャクラで、
 あの攻撃からオレ達を守るってのか!?
 ナルト!」

とシカマル。
しかしこの状況はそんなに甘くありません。
九尾のチャクラを纏ったとはいえ、
莫大な4つのエネルギーを一気に受けたら
一溜りもないのは本能が訴えています。

「重吾か…。」

サスケのもとに駆けつけた重吾。

「サスケ。
 このままではマズイ…
 結界の外へ出るぞ。
 蛇の逆口寄せを使え。」

と助言する重吾。
もちろんサスケもその腹積もりでした。
封印を壊すことができないなら、
時空間転移で移動するしかありません。

「そのつもりだ…。
 お前とナルトを一緒に連れていく。」

ナルトも――
その言葉が自然に言えるようになったサスケ。
自分自身では気づいていないでしょうが、
自分以外の存在を受け入れることができるようになった証。
しかしこのままでは多くの忍を犠牲にしてしまいます。

「お前らにはオレのチャクラ渡してなかったな!
 こっち来てくれってばよ!」

と呼ぶナルトに、サスケは、

「フン…、そんなチャクラでどうにかなるのか?」

と懐疑的な態度を示します。
今さらパワーアップなどしても仕方ない――

「時間がねェ! 早くしろ!!」

しかし本質はそこではありません。
ナルトは急いでサスケと重吾にチャクラを渡します。

「忍の者、皆にチャクラを渡しておったとはの!
 チャクラ量はワシと張るの!
 イヤ! これは九尾のチャクラも一緒に…」

忍全体にチャクラを分割して渡すほどの
チャクラの海かと思われるナルトに感心しつつも、
そのチャクラに九尾のチャクラを感じとった柱間。

「そんなもので十尾の尾獣玉4つからなる
 共鳴爆破に耐えられはせん。消しとべ。」

ついにタイムリミットです。
オビトは自分を十尾のチャクラの衣で隠し、
結界内を消し飛ばすに十分なエネルギーを解放します。
放たれた尾獣玉は結界壁に衝突。
しかしびくともしない壁に、
エネルギーの逃げ場を求めて、
上空へと爆発は連鎖するように続いていきます。
やがてエネルギー全てが散逸し静けさが戻ります。
全てを塵ひとつ残さず無に帰した自信を持ったように、
悠々と姿を現したオビト。
しかし結界の外に忍たちがいることに気付きます。

3.分かってる(3)

「結界の外にいる。」

一瞬の出来事。
自分たちが消し飛んでいないことを確認し、
同時に結界の外にいることを認識しだす忍たち。

「瞬身の術だな。」

とシノ。

「ナルトの奴、こんなことまでできたか!?」

ナルトの力に驚くキバ。

「…ナルトくんのチャクラだけじゃない…」

ヒナタはナルト、九尾以外のチャクラを感じているようです。

「こりゃあ四代目火影の飛雷神の術で移動させたな!」

と八尾・牛鬼は気づきます。

「四代目…お前はこれで忍の皆を2度救った事になるな。」

と傍らにやってきた扉間が言います。

「…失敗の数の方が多いですから…
 まだまだこれからです。」

と肩で息を切らせながらミナトが答えます。
うまくいった、と微笑むナルト。

「何をした?」

と訊ねる重吾にナルトは答えます。

「父ちゃんが連合の全員を
 結界の外に飛ばしたんだってばよ。」

《飛雷神の術》――

「あの術で全員だと…
 …どうやって…」

その時空間移動によって瞬間移動したとしても、
その規模にいまいちピンとこないサスケは訊き返しますが、
何かに気付いたように、
言いかけた口をつぐみます。

「皆にはオレと九喇嘛のチャクラを前もって渡して、
 くっつけてあったんだってばよ。」

と種明かしを始めるナルト。

「とりあえず父ちゃんとチャクラと皆が…
 えっと…」
「間接的に…」
「そっ!
 カンセツテキにくっついてりゃいいんだから…
 父ちゃんのチャクラとオレと九喇嘛のチャクラを
 くっつけてみた…。そんだけ。」

とミナトから合いの手を入れてもらいながら、
説明します。

「影分身の原理を利用したのだ。
 己のチャクラを分散し離しても、
 少量でも消さずに残しておけば、
 本体が再びチャクラをコントロールしようと
 チャクラを練った時、
 分散したチャクラは共鳴を起して連動する。
 つまりナルトのチャクラに四代目のチャクラを接触させ、
 連合の皆に残っているナルトのチャクラを
 連結させたということだ。そうだな…ナルト。」

とより詳細に扉間が説明します。
影分身の術の正体はいずれ何らかの形で
まとめようと思っていましたが、
これがチャクラの共鳴によるものだとしたら、
ますますチャクラというものが、
周波数的な影響を受けているということを
意味していることになります。

「二代目のおっちゃんは、
 オレの影分身のことも詳しいんだな…!」

と話についていけなくなったナルトは呟きますが、

「ワシが作った術だ! ワシの術だ!」

とさも自分の術のように言うナルトに
呆れたように扉間は言います。
そんなナルトの様子を見て微笑むミナト。
ナルト、九尾の提案を受け入れたときのことを思い起こします。

「ああ…やってみよう。
 九尾…イヤ、九喇嘛の力を借りれば
 できないことはないよ。」

そう頷くミナトに、

「よし!
 じゃ4人で力を合わせてやんぜ!!」

とナルトが意気込む様子を見て、
陰の九喇嘛は微笑ましげに、

「…4人…か。
 ワシらを人扱いするとは…
 どう育ったらそうなった、ククク…。」

と呟いていました。

「ナルト…。
 今のお前と…もっとゆっくり色々話して……」

九尾にすら受け入れられた我が息子に、
語りかける父親ミナトですが、

「男はいちいち言わなくていい!
 もう分かってっから!
 …もう…母ちゃんのチャクラとは会ったんだ…。
 言いてェ事は口うるせェー母ちゃんと同じだろ!
 もう分かってっからなっ!」

と全てを受け入れ微笑んでいるナルトを見て、
その強さと逞しさ、大きさを我が息子とながら感じ、
思わず親心にも涙が込み上げてくるのです。