645『二つの力』

1.二つの力(1)

「(…この感じ…。
  …懐かしい感覚だ。
  これほど追いつめられているのに、
  …何でもやれそうな…そんな…
  そうだ…まるで…クシナといる時みたいな…
  そんな感覚…)」

九尾すら友達にしてしまうほど成長した我が子。
その勇姿を目の当たりにして、
決して親バカな親心からでなく、
絶望的な状況と思われる中で、
ミナトは何か湧き上がる安心感や希望を、
感ぜずにはいられないようです。
まるで妻であるクシナと一緒に戦うような、
そんな懐かしい感覚。

「力が湧いてきたってばよ!
 このままいくぞ!!」

九尾の陰陽の力を合わせ、
ナルトは反撃に出ます。

「(…ナルトはこれほどのチャクラを…)」

九尾という人間では計り知れない量のチャクラを
自在に操るナルトに舌を巻くサスケ。

「ナルト。威勢のよい声を上げ、
 かっこつけるのはよいが…、
 まさかとは思うが仙術以外効かぬと、
 忘れてはおらぬだろうな…?
 …お前もバカではない…。」

陰陽のチャクラを併せて、
九尾の尾獣に匹敵するチャクラを操るナルト。
もはやまともに戦いあえる相手などほとんどいない
無敵モードともいえますが、今回は相手が悪い。
そのほとんどいない相手の中で唯一の例外――
十尾の力を有し、六道仙人に匹敵すると思われる
オビトが相手なのです。彼には仙術しか効かない事を、
つい先ほどナルト自身が証明して見せました。

「……
 そうでした〜!!!」

扉間の言葉を聞いてハッと思い返すナルト。
勢いに任せてすっかりその事を忘れていました。

「よし…。お前は兄者以上のバカだ。」

扉間が不動の太鼓判を押す一方で、

「…これほどのチャクラも持ち腐れとはな…」

とサスケもナルトを憐れむかのように思います。

「ガハハハ!
 もう先代のどの火影をも超えてるぜ。
 そういう意味じゃな!」

九喇嘛も愉快だと大声を上げて笑います。
この誰しもが悲嘆にくれる状況でも、
何事もなかったようにケロッとボケをかますナルトは
ある意味落ち着いていて、
なぜだかそんな危機的な状況への恐れを忘れさせ
それに向き合う力を与えてくれます。

「るっせーぞォォ!!!
 九喇嘛のバーカ! バーカ!」

もはや完全に九喇嘛はナルトのダチです。
からかわれたナルトは九喇嘛に言い返しています。

「ガハハハ! バカは親近感も抱かれやすい」

と孤高の存在と思われる尾獣の九喇嘛から
あまりにも人間味を理解した言葉が飛び出てくるとは
少し驚きですが――(ナルトの中で育んできたのでしょうが…)

「だが気にするな…。
 そんな心配いらん…。」

と九喇嘛。

「べ…罰にバカなのは心配してねーよ!
 オレってば!!」

少し拗ねながら答えるナルト。

「イヤ…そこじゃねェ……。
 その状態のまま仙人化できるかもしれねェ…。
 そういう意味で言ったんだ!」

九喇嘛はこの九尾のチャクラをまとった状態で
仙人モードになれる可能性を示唆したのです。

「いいか…。お前は忘れてるかもしれねーが、
 ペイン長門ってのと最後やり合った時だ。
 奴の言い分にワシも怒りが抑えられなくなってな…。
 あの時、お前はちょうど仙人の状態だったが、
 ワシのチャクラが出すぎて、
 ワシの力と仙人の力がうまく同調したことがあった。」

長門の前で見せた怒りによる潜在能力の開花――
仙人モードと九尾のチャクラがうまく同調、融合した
最強の状態にナルトは無意識的になっていたのです。
そういえば、あの時、ナルトの瞳孔は
十字のようになっていました。

「ん〜〜〜。
 そんなことあったっけ?」

ナルトの方はあまり記憶にないようですが、
関連してある出来事を思い出します。

「あ〜〜〜!!
 そう言うお前は仙人修行ン時に、
 じいちゃん仙人との仙人の術、
 邪魔しただろーが!!」

仙術の修行のとき、
九喇嘛にフカサクとの融合を邪魔されたことを思い出します。

「ワシは蛙なんぞとルームシェアする気はなかったからだ!
 それにな。お前がワシのチャクラが有りながら、
 仙術に頼るのも気に食わねーだろが!!」

この言い分を聞くと九喇嘛はこの頃から
本人が認めるか認めないかは別問題として
ナルトにもう傾倒していたことが窺えます。

「この意地っ張りヤロ〜!」

ナルトも理由を聞いてなんだか憎めない様子。

「だからそりゃてめーだろ!!」

まぁ、仲が良いのはいいことです。

「…つまり言いてーのは!
 今ならワシの力を使いつつ、
 仙人の力も許してやるって事だ!!
 それのどこが意地っ張りだコノヤロー!!」

と九喇嘛。
九喇嘛が協力的であれば、
仙人モードの状態のナルトに、
同調、融合させるように九尾の力を
加えるのは難しくありません。

「…素直じゃないんだから〜〜〜」

とニタっとしながらナルトが言うと、

「てめー。最近ワシの事ナメてねーか。コラ!!」

とやや焦り気味に九喇嘛。

「イヤ…。親近感ってやつだってばよ…。」

とナルトがダチなりのフォロー。
九喇嘛も納得せざるを得ません。
ミナトも陰の九喇嘛の力を借りて、
ナルトを最大限サポートするつもりです。
仙人モードとなって集中するナルト。
九尾の力を融合させます。

「これだと自然エネルギーの吸収が速ェー!」

そしてついに融合状態を完成させます。


2.二つの力(2)

「ナルト。螺旋丸に仙術を加えてくれ!!」

ミナトも反撃の体制を整えています。
九尾のチャクラを利用して巨大な螺旋丸を作り上げます。

「オーケー!!
 二代目のおっちゃん!!」

父の為さんとすることを理解し、
扉間にも合図を送ります。

「行くぞ!」

扉間は二人のチャクラを引っ付け、
いつでも《飛雷神の術》で奇襲攻撃をかける構えです。

「そのままいけ…。
 奴の攻撃はワシ達のチャクラで受け流す!!」

と九喇嘛。
一方、オビトもこれを警戒、
十尾の力を展開し、攻撃に備えます。
九尾の力と仙術の力を練り合わせた超々巨大な螺旋丸。
飛雷神により一瞬で奇襲しますが、
オビトは部分的に十尾化することで、
それを盾に直撃を免れます。
逆にその攻撃の合間を縫って、
黒いチャクラを解放し二人に対して反撃します。
激しいエネルギーのぶつかり合い。

「硬ってーなぁ。あの黒いの!
 くっそー!!
 今度はガードされちまった。」

しかしこれほどのエネルギーの螺旋丸を以てしても、
オビトが繰り出すチャクラの塊は、
非常に密度が高いのか、押し負けてしまいます。

「やはり読まれてたな…。
 ……飛雷神一辺倒の作戦では苦しいな…。」

と扉間。

「あの黒いのをぶっ壊すしかねーってばよ!」

とナルト。

「よォ〜しィ…!
 なら次はァ、
 この尾獣玉に仙術を加えてやるってばよ!」

今度は濃密な尾獣玉に仙術を加えることで、
オビトに対抗します。

「よし! いいぞ!
(お前はもしかすると兄者以上の火影に…。)」

とナルトの切り札の多さ、機転の良さに、
扉間も希望を抱きます。

「そっちの九喇嘛も協力してくれ!」

とナルト。
一手一手、無敵と思われた相手と戦うための
駒を進めていくナルト。
よく考えた慎重な作戦の上での行動ではなく、
機転の良さと行動力で事態を打破していくこの感じ。

「そうこなくっちゃね!」

でもそれが心地よく、
そしてやる気にさせてくれるのです。

「(…やっぱり…。
  ……懐かしい感覚だ!)」

ミナトもクシナを思わずナルトに重ねてしまいます。

「(…これが、今のナルト…?
  これほどのチャクラを完璧に…
  お前は…どこまで…)」

味方とはいえ、ライバル。
ナルトの力に畏怖を感じてしまうサスケ。
少し複雑な思いです。

「早めに手を打つにこしたことはない。
 始めようか。」

オビトも一手一手詰め寄られてくるのを
まずいと感じたのでしょう。
十尾の力を全解放し、
もう終止符を打つ構えです。