642『突破口』

1.突破口(1)

「よっしゃあ…!!」

サスケとの連携術が見事に命中し、喜ぶナルト。

「あの黒いのでガードされる前に直接ぶつけた。
 …今度こそ効いてるはずだ!」

と扉間は分析します。
徐々に黒い炎が薄れていき、
そこには何事もなかったかのように、
オビトが現れます。
まるで長門の《封術吸引》のごとく、
天照という灼熱の炎でさえも、
あっというまに消えて無くなってしまったのでした。

「…まるで効いてないな。
 あの黒い変化する玉に触れてもいけない…
 攻撃を当てても効かない…
 攻撃も防御も速い…。」

何も隙が見えない状況に、
扉間も打つ手を考えあぐねている様子。

「オレが夢で想像してる自分より
 スゲーカンペキな奴だってばよ!」

とナルト。

「…まさに夢のような力を
 手にしたってことだね…」

とミナトが同調するように頷きます。
無駄のない攻撃と防御。
十尾を取り込んだことによる無尽蔵なチャクラ。
加えてダメージを与えることができない無敵さ。
何も打開の糸口はないかのように見えます。

「……おかしいな…」

と、扉間はあることに気付きます。

「片腕をもがれた程度なら…、
 そろそろ回復しようと
 塵が集まってきてもいいはずだが…」

確かにやられたミナトの右腕――
穢土転生体であるので、
すぐにでも回復するはずですが、
全くその気配を見せません。

「オレは今…、
 忍の祖と同じ力を手にしたのだ。
 今までのお前らの常識では計れはせんぞ。」

とオビトは愚弄するなと言わんばかりに
ナルトたちを見据えます。

「まさか…貴様の術…」

全てではないですが、
オビトがどのような術を使っているか
見当をつけたようです。

「どういうことです?」

訊ねるミナトに扉間は
忠告をまじえながら話し始めます。

「四代目…。もう二度と深手は追う名…。
 たとえ穢土転生の体だとしてもだ。
 こやつ…おそらく全ての忍術を無にする
 陰陽遁をベースにした術を使う…!
 つまり穢土転生体でやられても、
 転生できず…死ぬぞ…!」

ヒルゼンが見積もったように、
オビトが使うこの術は《塵遁》に似ているようです――
忍術を無にすることができる《陰陽遁》――
それは相対するものをぶつけて相殺することに
端を発する力だと思われます。
それを極めて、形態変化まで為し得るまでにしたのが
オビトの術だったとしたら、これは厄介です。

「…そしてその右腕は二度と治らぬとみていい…」

と扉間は結びます。
穢土転生の術も術者から離れたとはいえ
転生体は少なからず《忍術》の影響下にあるようです。

「サスケ…。」

呼び掛けるナルトに、

「何だ?」

と応えるサスケ。

「さっきよりもっとオレ達でやんぞ…。
 ついて来れっか?」

というナルトに、

「…うちはをなめるなよ。」

とサスケもやる気に満ちています。

2.突破口(2)

「よっしゃあ!!
 さらにクラマモード上げて、
 尾獣化だってばよ!!」

かくなるうえはもはや
尾獣級のパワーでぶち当たるしかないと考えたナルト。
しかしチャクラを練っていくうちに、
燃料切れのようにチャクラの衣が消えます。

「………」

静まり返る一同。

「ピンチを煽ってどうする?」

と扉間までも突っ込みに入ります。

「お前達親子はなかなかの天然だな…。
 奴まであきれているぞ。」

と扉間の言うように
オビトも出鼻をくじかれたように
呆然としている様子。

「す…すみません。」

と息子に代わって父親が頭を下げます。

「九喇嘛。
 もうちょいこっちにチャクラ回してくれってばよ!」

と九喇嘛に話しかけるナルト。

「九尾化は少し我慢しろ!
 完全な尾獣モードに早くなりてぇなら、
 少し普通の状態でいろ。」

と回復と供給の天秤を
回復の方に傾けるように促す九喇嘛。
一方外界では最後っ屁のように、
ガマ吉が《水飴鉄砲》を吹きかけます。

「ガマ吉。急にどうした?
 やるなら陽動か、連携攻撃を…」

言いかけたナルトを制して、
ガマ吉が答えます。

「悪ぃーけど、
 そろそろ口寄せの時間切れじゃ!
 その前に一矢報いてやろうと思ってのう!!」

ガマ吉は父親のガマブン太に比べて
まだ下界に居られる時間が少ないのでしょう。
ナルトに協力してやりたいのは山々ですが、
どうやら時間が切れかかっていることを
何らかの手段で感知しているようです。

「その気持ちだけで嬉しいってばよ!
 後はゆっくり休んでくれ!」

ナルトの言葉をもらって、
「すまんのう!」と言ってガマ吉はいったん消えます。
さて、その水飴鉄砲を喰らったオビトですが、
術を掻き消さずに、
受け流すようにしてやり過ごします。
掻き消そうとしてくっついた黒い球体は、
水飴に粘つくようにして、
思うように動かせていません。

「ん? これは…」

そこにあることを見出した扉間。
そしてナルトももちろん気づきます。
《水飴鉄砲》はただの水遁ではなかったのです。

「オビト。お前が成りたかったのは火影のハズだ。
 どうしてこんなことを…!?」

ミナトもくどいことは分かっているでしょう。
しかし時間稼ぎをするためか、
昔の話題を持ち出します。
その隙にチャクラを練り始めるナルト。

「今さら説教か。
 遅すぎやしないか……。先生。
 アンタはいつも肝心な時に遅すぎるのだ。
 オレの師が火影でよかったよ。
 おかげで火影を諦められた。」

そう言い切るオビトに、
自分の不甲斐なさを思い起こすミナト。

「(…確かにあの時、
  すぐにオビトだと気付けていれば、
  オレがオビトを止められたかもしれない…!)」

忘れもしない――
ナルトが産まれた10月10日。あの九尾事件の日。
木ノ葉を襲った仮面の男。
その正体がオビトだと分かっていれば、
二の足を踏むことなく、全力で止めにいったはず――

「(そうしていれば、
  クシナを死なせずに済んだかもしれない…!
  ナルトを九尾の人柱力にしなくても
  よかったかもしれない…!)」

クシナを死なせることも、
九尾を我が子に封ずることもしなかった――

「(オレが…オビトだと気付けていれば…!!
  そもそもこの忍世界が
  こんなことにならなかったかもしれない…!!)」

ミナトを後悔の念と自責の念が襲います。

「オレの師でありながらオレに気付きもしなかった。
 しょせんそんなもんだ…アンタは。」

と見透かしたようにオビトは詰め寄ります。

「哀れだな……。
 英雄火影として死んだアンタが
 息子の前で生き恥さらしてる。
 そう…火影など、
 今のオレと比べれば哀れな存在でしかない。」

とオビトはわざと高らかにしてみせます。
過去と決別するため――
その象徴である師であり先生である
ミナトと決別するため。

「(ただの天然ではなさそうだな…。
  …コイツは気付いてる。)」

そんな虫唾の走るやりとりの中、
今か今かと虎視眈々とチャクラを爆発させる
準備をしているナルトに扉間は気づきます。

「火影になれなかったお前が、
 火影をバカにすんじゃねェ…。」

凝縮した怒りを螺旋丸に込め、
ナルトは言います。
扉間はナルトとの連携攻撃のため、
すっとナルトに近づきます。

「何より…火影になった……
 オレの父ちゃんをバカにすんじゃねェ!!!」

ナルトも扉間が何をするか分かっていました。
《飛雷神の術》――
一気に間合いを詰めたナルトは、
その湧き上がる怒りを込めた螺旋丸を
オビトの背後からぶつけます。

「(手応えあり…。
  やはりそうだったか!
  忍術はダメでも…、
  仙術攻撃はいけるようだな…!!)」

扉間はやはりと頷きます。
妙木山のガマ吉が放った仙術――
それが手掛かりでした。
なぜかは分かりませんが、
人工的な忍術チャクラは効かなくとも、
自然チャクラを含んだ仙術は
オビトも一筋縄にはいかないようです。

「(自来也先生と同じ仙術まで…!?)」

息子の成長ぶりに驚きを隠せないミナト。
そんなミナトに何やら内なる声が語りかけてきます。

「親想いのいい息子<ガキ>に祖だったな…ミナト。
 ワシの半身を説き伏せただけはある。」

それは《屍鬼封尽》にて封印した九尾の半身。
そう――
ミナトが《屍鬼封尽》から解かれたことは、
陰のチャクラをもつ九尾も封印から解かれているはず。
思えば九喇嘛は半分の力しか出せていないのです。
更なるパワーアップがるということでしょう。