635『新しい風』

1.新しい風(1)

「ゲェ…、でっかいなめくじ…。
 倒すのに塩どんだけいるかな?」

五影たちが戦い、倒れた場所に、
水月と香燐を連れてきた大蛇丸

「アレは湿骨林から口寄せされた
 カツユのほんの一部…。
 アレでもすごく小さい方よ。」

大蛇丸
高台からカツユの分裂体が治療している光景を見て
水月はショックを受けているようです。

「今はなめくじより五影の事だろ!
 大蛇丸様もいちいちそいつの言う事
 気にしないでいいから、
 さっさと用事済ませてさァー」

と不服そうに香燐。

「サスケくんと離して、
 こっちに連れてきたのが、
 そんなに不服?」

大蛇丸はおちょくって見せます。

「その通…じゃねーと、しィ!
 さっさ行くの…水月てめェー」

本心を突かれて取り乱す香燐。

「何でボクが責められんの!
 なめくじ見たら塩かけたくなるもんでしょ、
 誰だって!」

矛先を変えられて迷惑そうに水月が言います。

「まずは綱手ね…。行くわよ。」

大蛇丸の一言とともに、
綱手が倒れている場所へ下り立った三人。
力を失くした綱手は、現在の生命力を体現するように、
皺だらけの容貌です。
大蛇丸に気付いて酸を吐こうと身構えるカツユ。

「カツユ…。
 私は五影の処置をしにここへ来た…。
 敵じゃないわ。」

しかし、カツユは大蛇丸の言葉を信用しないかのように、

「信じられる根拠がありません!
 それにアナタは死んだはずです!!」

と強い警戒を表しますが、

「怪しい行動をしたと思うなら、
 酸で今度こそ本当に殺すといいわ…」

とする大蛇丸に、

「分かりました。
 アナタを信じましょう…。」

と、何か以前と違うものを感じたのか、
素直に従います。

「マンダと違って物分かりがいい…。
 さて…ではまず…他の影たちはどこ?」

辺りを見回して、他の影の所在を尋ねる大蛇丸

「私の分裂体の中で回復中です。
 皆さん重傷で…なかなか…」

と治療に手こずっている様子を聞き、

「しかし…カツユ…。
 アナタがいてなぜ回復がこの程度なの?」

大蛇丸が再び訊ねます。

「私は綱手様の百豪の力に呼応して、
 力を使うことができます…。
 今の綱手様はすごく弱っておいでで…
 私の力を充分に発動できないのです。」

とカツユはその理由を話します。
カツユの治療能力はカツユ自身の力だけでなく、
綱手の百豪の術によって高められていたのです。

「…そういうシステムだったかしら……。
 …まぁ、よく思い出してみても、
 ここまで弱った綱手を初めて見るから…、
 そうなのね…。」

と意外そうにする大蛇丸
術については博識な彼ですが、
そういった事実があったのは初めて知ったようです。

「口寄せが解けかかっているのをどうにかこらえつつ、
 回復に集中している状態です…。
 なので綱手様の体をうまく繋げることもできず…」

本来の力が出せないカツユの状況を知った大蛇丸は、
水月と香燐を協力させます。

「え〜〜〜〜!
 サスケ以外に噛まれるのはヤダなぁ…、ウチ。」

とふともらした香燐の言葉を

「あ!! サスケ好きを公言したね、今!!」

聞き逃さなかったというように、
身を乗り出してきた水月
言葉にならない言葉を発して必死で否定してみせますが、
もう手遅れの香燐。
一向にくだらない口論をやめない二人を、

「アナタ達…。さっさとなさい。
 変なのはお互い様でしょ。
 ケンカはよしなさい。
 さもないと私の蛇で縛り上げ、
 口から入り込んで体を乗っ取るわよ。」

と駄々をこねる子供をあやすように止める大蛇丸

「(アンタが一番変なんだよ!)」
「(変体で変態なんだよ!!)」

と二人は口には出せない言葉を心の中で押し殺します。

2.新しい風(2)

綱手様はもう大丈夫です!」

水月、香燐が治療に協力し
ようやく起き上がった綱手

綱手。少しは私に感謝なさい。」

と突如目の前に現れた大蛇丸に、
綱手は怪訝な念を拭えません。

「里を裏切ったお前が今さら……、
 なぜだ?」

そもそも短冊街での一件以来、
大蛇丸に対して良い印象を持っていないのです。

「今は色々と興味の幅が広がってね、
 …昔は自らが風となり、
 風車を回したいと思ってたわ。
 でも今はいつ吹くかも分からない、
 他の風を待つ楽しさも知れた…。
 その風を楽しむ前に密封されたくはないからね。」

と身辺の"風の吹き回し"を説明する大蛇丸

「…相変わらず訳の分からんことを…。
 だが、少し変わったか…。」

大蛇丸がかつてとは違い、
何か穏やかさや柔和になったような印象を受けた綱手

「人は…変わるものよ。
 …それか…その前に死ぬかの2つ…。
 彼はそのままで逝っちゃったけど…。」

亡き自来也の話題を出す大蛇丸に、

「…大蛇丸…。
 お前がもっと早くそうなってくれたなら、
 自来也も死なずに…」

と言いかけた綱手を制するように、

「それはそれで自来也が変わってしまったかも…」

大蛇丸は結びます。

「(だからこそ、サスケくんの行く末を
  見てみたいのかもね。
  彼の風を…ゆっくりと待ちながら。)」

大蛇丸にしてみれば、
もうサスケの身体を乗っ取り
どうこうぢようとは思っていないのでしょう。
むしろサスケの親や保護者のようになった気分で、
サスケという人間がどのように成長していくか
見守りたいというのがいまの心境のようです。

「まあいい…。
 回復させてくれた事には感謝する。
 で…戦争の事は知ってるのか?」

綱手

「もちろん…。
 だからこうして、協力してるのよ…。
 アナタに。」

大蛇丸は語ります。

「私が近況を報告します。」

大蛇丸ばかりに気をとられていましたが、
そこにはカツユの姿が。

「お前どうやって戦場に!?」

言いかけた綱手は誰がどのようにカツユを呼び出したか、
何かを察知した様子。
去っていく大蛇丸たちを見届けます。

百豪の印をもつ弟子がいる戦場に場面は移ります。

「あのでけェ奴の中には尾獣達が入ってんだ!
 弱りきったら黒い炎を止めてくれ!
 オレと九喇嘛で尾獣達を引っ張り出すから!!」

とサスケに協力を求めるナルトですが、

「ダメだ。このまま焼き尽くす。」

とサスケは言います。

「(…今までの負のシステムは、
  全てオレが始末をつける。
  そして新たな…)」

尾獣を力の根源としてきた
醜い忍の負のシステムを根絶やしにしたいようですが――
十尾はそこまで甘い相手ではありませんでした。
黒く燃え盛る部分だけを分離し、
本体へのダメージを軽減させます。

「サクラ…、少し聞いていいかな?」

と事態が少し落ち着き、サクラに話しかけるサイ。

「ボクは彼をよく知らない分、冷静に見える。
 サスケくんは本当の仲間として信用できない。
 君は本当はどう思ってるんだい、サクラ?」

掌を返したような態度が未だに信用できないサイ。

「大丈夫…。サスケくんはちゃんと帰ってきてくれた…。
 私はその事が嬉しいし…、
 彼の事を信用もしてる。」

と言い切るサクラですが、
その笑顔の裏に何か不安を隠すような様子を
見逃さなかったサイ。

「(君の言葉は嘘じゃないのかもしれない…。でも…。
  君の笑顔が嘘だってのは…もう分かるんだよ。)」

3.新しい風(3)

カツユから近況を聞いた綱手
十尾が復活したという状況に――

「そこまで…なら…、
 我々も急ぐとしよう!!」

その言葉に賛同する五影たち。
いつのまにかある程度の回復を果たしています。

「オレの砂で皆を運ぶ。
 チャクラを温存してくれ。」

と風影・我愛羅

「話途中からだ。詳しく知りたい!」

と雷影・エー。
彼らが回復して起き上がってきたタイミングは、
それぞれ異なるようです。

「移動中にでも聞け。」

と土影・オオノキ。

「早く行きましょう!」

と水影・メイが皆を急き立てます。

一方その頃、《神威》の異空間で、
かつての友との決闘を繰り広げるカカシとオビト。
決着がついたかのようですが――