647『後悔』

1.後悔(1)

月夜に聳え立つ不気味な神の樹。
大蛇丸に回復された五影たちは、
戦場の方へ移動中に塔と見紛うほどの
そのおどろおどろしきものを目の当たりにします。

「シカマル!!」

一方、戦場では十尾によってチャクラを奪われ、
シカマルは瀕死状態です。

「おい! おい!
 ヤベーじゃねーかよ!」

同期の死期が迫る様子に、
キバも思わず声をあげます。

「カツユ様!
 すぐに遠隔治療に入ります!」

駆けつけたサクラ。
戦場で倒れた忍たちを回復させるため、
遠隔治療を試みようとしますが――

「それは無理です。」

とカツユは言います。

「小さくなって皆様に付いていた
 私の分裂体のチャクラまで、
 全て吸収され死んでしまいました。」

いつでも治療できるように、
忍達にに携えさせていたカツユ分裂体。
しかし十尾の神樹は貪りつくすように
チャクラを吸収していき、瞬く間に
そこにはいくつもの骸が転がる状態と化していきました。

「(オウアジ…。すまねェ…。
  どうやら直ぐに…そっちに行きそうだ…。
  すまねェ…母ちゃん…)」

遠退く意識――
その中で、自分に託してくれた父親や母親に、
誤るようにして、シカマルは目を瞑ります。

「これじゃ…
 こんなんじゃ…
 戦う前に死んじゃうじゃない…!!」

何もしないよりは自分なりに戦って死ぬ――!
そう決意したサクラですが、
今や、残酷なまでの無情さに対する
自身の力の無さを悔いるばかりです。

「忍は終りだ…。
 もう続けることはない。
 抵抗しないならば殺しはしない。」

そんなことを平然とした顔をしながらオビトは言います。
悔しさと憤怒で涙が溢れ出てくるナルト。
守りたいものを守れない――
守ると誓ったものを守れない――
その事実は何よりもナルトに対して重くのしかかります。

「後悔したくなくば、
 もう何もしない事だ。」

そう吹聴するオビトに、
忍たちの心は揺らぎます。
絶対的に敵わない存在――
抵抗したところで何にもならない、
苦しむだけならいっそのこと――

「何も…しなければ…
 助かるって…事か…?」

こんな凄惨な現実を見たくない、続けたくない、楽をしたい。
その弱き想いがだんだんと忍たちを伝搬していきます。

「…そうだ…。
 もう死に怯え耐え忍ぶこともない…。
 …夢の中へ行ける…」

オビトはそれをさらに助長しようとします。

「諦めるな!!
 幻術の中に落ちれば死人も同然ぞ!!」

皆が自分を見失い、戦意を喪失する中、
一人声を張り上げる柱間。
諦めたら本当にそれで終わりなのです。

2.後悔(2)

「この大樹はオビトを密接に繋いでおるの…。
 まるでチャクラを引き抜く手足…
 うかつに近づけぬ。」

ヒルゼンはこの無限月読の大樹をそう分析します。

「ずいぶん弱腰ですね。
 アナタらしくない……。猿飛先生。」

そう言って駆けつけたのは大蛇丸
ならびに水月と香燐。

大蛇丸…。遅かったではないか!
 で…五影は!」

今は人手が欲しいところ。

「…回復してあげたから…、
 弱腰じゃなければ、ここへ来るでしょうね。」

大蛇丸

「フン…。皮肉を言うのは変わらんな。」

ヒルゼンは言いますが、この状況、
正直大蛇丸の加勢をヒルゼンも心強く思っています。

「しかし…。近くで見るとやっぱり大きいね、この木。
 切り倒すのにどんだけ時間かかるかな?」

と呑気に水月

「ンな事はどーでもいいんだよ!
 それより今は…」

などと突っ込む香燐ですが、

「(サスケン所に今すぐ行って、
  ハグしてなめまわしてぇんだよ。コノヤロ〜!!)」

と実は内心は誰よりも呑気です。

「連合忍者の回復だろ…君?」

と思いもよらず冷静に切り返され、

「そ…そうだよ!
 分かってコノヤローじゃねーかァ!?」

動揺を見せます。

「(不機嫌そうね…)」

自分の力を見せられぬまま、
ただ黙って蹂躙されるかのような状況に、
サスケが不満そうにしているのを見抜く大蛇丸

「なら…アレはいつ開く……?」

開花が儘ならないように見える神樹の無限月読。
その隙をついてオビトと取って代わろうとしている
マダラの言動を聞き、柱間は訊ねます。

「…八尾と九尾の人柱力がまだ生きてる。
 …分かるな?」

とマダラ。

「(…開花させ…術を完成させるには、
  …八尾と九尾のチャクラが
  不可欠だったということか…)」

と解釈する柱間。
しかしその考え読み取ったようにマダラは続けます。

「だが少なからず、
 その二匹のチャクラが入っていれば、問題にはならん。
 つまり開花できないわけではない。
 開花する時間が問題になるだけだ。
 タイムリミットは後約15分…。
 その前にオビトを止め入れ代わる。
 お前の仙人の力を利用してな。」

八尾と九尾のチャクラが完璧でなくても、
開花は時間の問題であることを知った柱間。
連合軍全体に知らせるために、
いのを使って全体に情報を伝えます。
柱間のチャクラを通じたためなのか、
皆に渡されたはたまたナルトのチャクラで通じやすくなったか、
いのの術は忍全体へと接続することができました。

「(おじい様!!)」

久しぶりに聞く祖父の声に驚くも、
戦況を把握するため耳を欹てる綱手
他の影たちも同じくです。

「おっと! 懐かしむのは後ぞ!
 それより連合もお前達にも伝えておくことがある!
 心して聞けい!!」

柱間は忍の皆に自分が知り得る情報、
マダラから得た情報を詳細にしかし手短に伝えます。
この十尾、神樹から得たチャクラこそが忍の始まり。
そしてそれを取り戻さんがために、
忍たちからチャクラを吸収していること。
自分たちはあの化け物の養分でしかないのか――
あと15分の開花の間、嘆くことしか、
到底できそうにありません。

「かと言って何もしなければ結局同じ…。
 時間内にあの木を切り倒すか、
 術者を倒すしかない。」

柱間は言います。

「諦めるなと、言ったハズぞ!!」

皆沈黙します。
しかし手立てもなく諦めるなと言われても、
何も行動を起せるわけがありません。

「そうは言うが、アナタはそもそも穢土転生だ……
 もう死んだ過去の人だ…
 だがオレ達は生きてる…」

一人の忍の切実な声が聞こえます。
諦めない――
その想いは心の中に希望が、光があるからこそ。
もう終わりだ――目を瞑ってしまえば、
もうそこには闇しかありません。

「こんなことならいっそ最初から…」

そう呟く者もちらほらと現れ始めます。

「そうだ…。そのままでいい…。
 悔やむことのない世界へ連れて行ってやる。」

オビトは心にもないことをつらつら言うだけです。
この絶対的な力の差は、
諦めないという思いの力だけでは覆らない。
そう確信しているからです。
しかし誰もが諦めかけたその時、
突然目の前の巨木が倒れる轟音が響き渡ります。

「ナルト…。もう終りか。
 オレは行く。」

《須佐能乎》を身にまとい、
颯爽と立ち向かっていく姿を見せつけるサスケ。
ナルトはハッと我に返ります。
そのときナルトの思い出が忍たち皆の心を流れていきます。
チャクラを共有しているためでしょう。
幼少の頃、サスケと出会ったときの思い出。

「あの時…、やっぱり声掛けときゃよかったって…
 後で何度も思ったんだ。だから…オレは…」

九尾の化け狐を封ぜられし子――
忌み嫌われていた幼少のナルト。
皆に牙をむきながら、
それでも本当は誰かに寄り添っていて欲しい。
少年はやがて成長し、忍となり、
里を救った英雄となります。
彼はそれまでにいろいろなことを見てきました。
聞いてきました。そして考え抜いてきたのです。

「後悔したくねーんだ。
 やっときゃよかったってよ!!!!」

奇跡だって信じぬく力――
力なくばその想いも貫けません。
必死で努力して力をつけ、
九尾と友達になり、
それを為すために前を向き続けてひた走ってきました。
そう。今さら後ろなんか向いたってそこに何もありません。
だから前を見るしか、諦めないことが、
いつだって彼の忍道なのです。

「それに…オレ達がやってきた事全部…、
 無かった事になんかできねェーんだよ!!」

サスケと肩を並べ、再び闘志を燃やしたナルト。
まさにナルトという命の、魂の咆哮です!