今話も深い内容でしたが、
遅れてしまい申し訳ありません。
忍の戦いの意味、死ぬことの意味――
幼き頃から柱間が考えてきたことが窺えます。

622『届いた』

1.届いた(1)

「誰だって聞いてんだコラ!!」

詰め寄るマダラに、柱間はボソッと答えます。

「名は柱間…。
 姓は訳あって言えんぞ…。」

煮え切らない受け答えに、
マダラは少し不満そうな顔をしますが、

「柱間……か…。
 よく見てみろ!
 次いけっから!!」

突如現れた好敵手に自分の実力を見せようと、
もう一度石ころを取ると川へ放り投げます。
投げ方を見てマダラが忍の者であることを確信した柱間。

「てめェ!!!
 オレの後ろに立ってわざと気を散らしたなっ!!
 コラ!!!
 後ろに立たれっと小便が止まる
 繊細なタイプなんだよォ、オレは!!!」

石は残念ながら向こう岸まで届きませんでした。
柱間が後ろで見ていたから気が散ったということにするマダラ。

「…ご…ごめん…」

丸くなって予想以上に悄気<しょげ>る様子の柱間を見て、

「……いや…そこまで落ち込むこたァねーだろ…。
 わ…悪かったよ…言い訳して…。」

と自分の非を認めるマダラ。

「…知らなかったから…。
 …お前にそんなウザイ自覚症状があるなんて…。」

小便が止まってしまうほど"ウザイ"繊細さ、
それでいて"自覚症状"とは病気扱いですが(笑)、

「てめェ。いい奴か、やな奴か、
 ハッキリしねェ――な。コラ!!」

そんな悪気のあるんだかないんだか分からない毒舌を聞いて、
再びマダラが憤るのも無理はありません。

「アハハハッ!!
 お前より水切りが上手いのは、
 ハッキリしてるけどね!」

と戯<おど>ける柱間が、
余計癇に障るものですから、

「てめェーで水切りしてやろーか。
 コラァ!!」

とマダラは喧嘩口調です。

「ご…ごめん…。
 怒らせるつもりはなかった…。
 その代わりに川へ投げられるのも覚悟しようぞ…。
 さぁ投げろ…。」

対して柱間は再び陰鬱な雰囲気を見せます。

「てめェは…
 自分のウザイ症状を自覚してるか、コラ!」

少し扱いにくい柱間の躁鬱気質。

「ただ…向こう岸へ届けばいいが…」

しかもボソッと挑発のおまけつきです。

「目障りだァ!!!
 どっか行っちまえェー!!」

と当然のマダラの態度。

「じゃ…」

と素直に去っていこうとする柱間。

「やっぱ待てェ――――」

何か違う、何か気に入らない
しかしやっぱり気になる。
複雑な感情が手を動かし柱間の肩を掴ませます。

「どっちぞ?
 お前の方こそハッキリしろよ。」

そう言いかけて、
上流の方から何かが流れてきたのに気付いた二人。

流れてきたのは羽衣一族の忍の遺体。
水面をチャクラを使って濡れずに渡っていく様子を見て、
マダラは柱間も忍であることを確信します。

「…ここもすぐ戦場になるぞ。
 もう帰れ。
 オレは行かなきゃならねェ…
 じゃあな…えっと…。」

去り際にまだ名前を聞いてなかったことを思い出す柱間。

「名はマダラだ。
 …姓を見ず知らずの相手に口にしねェのが…
 忍の掟だ。」

とマダラ。

「やっぱりな…。
 お前も忍か。」

この頃はお互いの姓を語り合わないのが、
忍世界に生きる者の掟だったようです。
こうして数奇な運命にある二人の男は出会ったのです。

「性格はりがったが、…この時奴に近いものを感じた…。
 …どうして川に来ていたのかも分かった気がした。」

と柱間は当時を振り返ります。

2.届いた(2)

「瓦間…」

千手の紋が刻まれた重々しい棺。
そこには柱間の弟が納められています。
悲しみを堪えきれない我が子たちに、
父親は強く言います。

「忍が嘆くな!
 忍は戦って死ぬ為に生まれてくるものだ!
 遺体の一部が帰ってきただけでもありがたいと思え!
 今回の敵は羽衣一族に加え、
 うちは一族もいたからな。
 特に奴らは容赦などしない!」

当時の忍のあった状況を垣間見ることができる
柱間の父親の台詞。

「…瓦間はまだ七つだった!!
 こんな…、こんな争いがいつまで続くんですか!?」

父の言葉に反発する柱間。

「敵という敵を無きものにするまでだ。
 戦いの無い世界とは簡単な道程ではできぬ!」

憎しみが殺戮を呼び、殺戮が憎しみを呼ぶ
まさに混沌渦巻く時代を端的に表した台詞。
柱間はこの修羅が歩むような現世に納得はできません。

「子供を犠牲にしてまで…!?」

柱間がぽっと出してしまった言葉が、
父親の琴線に触れます。

「瓦間を侮辱することは許さぬ!!
 奴は一人前の忍として戦って死んだのだ。
 子供ではない!!」

"子供"だから死んだのではなく、
千手を背負った一忍として死んだのだ――
別に瓦間のことを蔑ろにしていたわけではない。
その言葉は父なりの愛情であり、
子を想っているという証。
当時は個よりも全であり、
それが美徳とされていたのです。
父の拳が柱間をとらえます。
頬をおさえる柱間。

「柱間兄者…大丈夫…」
「…父上に歯向かったらどうなるか…
 分かってるだろ。」

心配そうに駆け寄る弟たちを傍目に、
父をキッと睨む柱間。

「(板間…扉間…。
  やっぱりお前達まで犬死にさせたくねェ……!)」

一忍として死ぬ――
確かに聞こえは良いですが、
そこに個人の意思があったかどうか…
何かを為しとげて悔いのない死であれば、
それはそれで"忍の死に様"と言い張ることができるでしょう。
しかし、弟は死にたいと思って死んだのか?
恐かったに違いない――
もっと生きたかったのに違いない――
そんな奪い取るような死ならば、犬死に他ならない。
このときの柱間には手に取るように
死んだ弟の気持ちを汲み取れたのだと思います。

「何が愛の千手一族だ!!
 何が一人前の忍だ!!
 大人がよってたかって子供を
 死に追いやってるだけじゃねーか!!
 こっちだってうちは一族に同じことしてるしな!!」

柱間の言葉に父は振り返らずに言います。

「それが相手への敬意だ。
 たとえ赤子とて武器を持てば敵とみなす!
 そして子を一人前にしてやることこそ
 親としての愛だ!」

ただの虐殺をしているわけではない――
相手に敬意があるからこそ、
同じ忍として命のやり取りをする。
それが"大人"であり"一人前"なのだと。

「一人前になるには死ななきゃならねーのかよ!
 やってやられてどこで恨みかってるかも分からねェ!
 危なくて姓も名乗れねェ!
 こんな忍世界はぜって――間違ってる!!」

そう喚く柱間に、

「お前のような奴を子供<ガキ>というのだ!!」

と死んでいった者を冒涜するかのような
我が子の言動を正そうと手を挙げた父親。

「父上…。
 今日は兄者も気分が沈んでるから、
 …もう許してあげてよ…。」

と見かねた扉間が割って入ります。

「少し頭を冷やせ、柱間。」

そう言って父親も振り上げた手を下ろします。

3.届いた(3)

「大人達はバカだ。
 戦いをなくしたいなら、
 敵と協定を結び戦いをやめればいい。」

扉間は言います。

「でも…それだと殺された親兄弟…、
 仲間の無念はどうするの!?」

と板間。

「そんなこと言ってるとお前も死ぬぞ。
 お前も大人も熱くなり過ぎだ。
 これからの忍は感情を抑え、
 きっちりルールを作って、それに則って、
 余計な戦いを避けていけばいいんだ。」

誰が無駄に戦って死んでいく世界を望んでいるのか――
扉間は無秩序な殺戮が蔓延る世に対して、
自分なりの考えを示します。

「本当の協定…、
 同盟はできねーだろうか。」

柱間もこの死が蔓延した忍の世界を
どうにか変えることができないか考えます。
当時、戦国時代と呼ばれた乱世。
忍と国民の平均寿命は30歳前後で、
多くの幼い子供たちの死が深くその問題に根差していたのです。
そんな中、板間も、
うちは一族との戦闘で命を落としてしまいます。

「よう…。久しぶりだな…。えっと…」

悲嘆にくれるように川辺で佇んでいた柱間の後ろから、
マダラが現れます。

「柱間だ。」

柱間の様子を見て、
どこかおかしいと気づいたマダラ。

「…何だよ。
 今度はいきなり落ち込んでんじゃねーか。
 …何があった?」
「逆に何だよ…。
 オレは元気ぞ!」
「…うそつけ…。
 何だったら話してみろよ。」
「別に…」
「いいから…。言えって…。」
「イヤ…何もねーって…。」
「イヤ…引っぱりすぎ…。
 聞いてやるっつってんだから…。」
「ホント何でもねェーって…。
 何でもねェんだぞ…」
「さっさと話せェ!!!」

こんなやりとりがあって、
やっぱり悲しみを堪えきれず
涙を流した柱間。
マダラは相変わらず煮え切らない調子に、
業を煮やします。

「…弟が死んだ…。」

重い口を開いて発した言葉。
マダラは静かになります。

「ここへ来るのは…
 川を見てると心の中のモヤモヤが
 流されてく気がするからだ…。
 マダラだっけか…。
 お前もそうだったりしてな。」

川に来た理由を話す柱間。
人々の死。その深い悲しみ。
洗い流してくれるように、
ゆったり穏やかに流れる川が、
柱間にとって心の癒しとなっていたのです。

「…お前兄弟とかいるか?」

無言になって何か考えるようにしていたマダラに、
話すきっかけを作るように柱間は言います。

「オレは…5人兄弟…だった…。」

その言葉に柱間はハッとします。
隣にいる男も同じ境遇にあるのだと。

「オレ達は忍だ。
 いつ死ぬか分からねェ。
 お互い死なねェ方法があるとすりゃあ…、
 敵同士腹の中見せ合って隠し事をせず、
 兄弟の杯<さかずき>を酌み交わすしかねェ。
 けどそりゃ無理だ…。
 人の腹の中の奥…
 腸までは見るこたぁできねーからよ。
 本当は煮え繰り返ってるかも分からねェ…。」

敵だからといって殺し合うのか――
理解し合うことはできないのか――
マダラも子供ながらに考えていたのです。

「…腸を…見せ合うことはできねーだろうか?」

お互いを理解して、
争いをやめることはできないのか?
柱間の疑問。
折よく気心知れそうなマダラという男にぶつけてみます。

「分からねェ…。
 ただオレはいつもここで
 その方法があるか無いかを願掛けしてる。」

そう言って投げ放った小石は
向こう岸まで到達します。

「今回は……、
 やっとそれがある方に決まったみてーだぜ。
 お前だけじゃねェ…。
 オレも…届いた。」