たいへん遅くなりました(x_x)
本当に申し訳ありませんm(_ _)m

624『相子』

1.相子(1)

「偶然にもうちは側も同じ考えだったようだ。
 まったく同じ状況…
 千手仏間とうちはタジマはほぼ同じ力だということは
 互いにいく度の戦いで分かっていた。
 忍は何があろうと戦場で心を乱さぬよう訓練される。
 一瞬の心の乱れがスキを生じ…、それが生死を分ける。
 だが大人の2人は分かっているのだ…
 目の前で我が子が殺されれば、
 ほんの僅かだが己の心に乱れが生じるであろうことを。
 つまりどちらかが……先手を取るかで勝負が決まることを。」

柱間がその時のことを振り返り端的にまとめています。
柱間の親である仏間。弟の扉間。
マダラの親であるタジマ。弟のイズナ。
不倶戴天の敵との偶然の遭遇。
互いが互いの先手を打ったつもりでいて、
鉢合わせてしまったわけです。
そもそもこんな状況になると予想できていたなら、
自分の子供を付き添わせるなどという愚鈍なことは冒しません。
互いに自らの子に経験を積ませる腹積もりがあったのですが、
裏目に出てしまったようです。
ならば彼らはこの状況を一つでも有利に進めるべく、
次に何を起こしたか――
相手の子供を狙って、動揺を誘い、
少しでも有利な状況を作ろうと試みるのです。
しかし寸ででそれは阻止されます。
死角から互いの子の絶命を狙って投げ放たれたクナイ。
それは水切用の石で二つとも弾かれます。
兄柱間、兄マダラが弟たちの危機を守ったのです。

「弟を…傷付けようとする奴は誰だろうと許さねェ!」

そう言って駆けつけるように戻ってきて、イズナの前に立つマダラ。
柱間も扉間の前に立って、うちはの方を見据えます。
互いに相手を探り合うような目で見合う柱間とマダラ。
そして静かにマダラは言うのです。

「オレ達の言ってたバカみてーな絵空事には、
 しょせん……届かねーのかもな…」

込み上げる虚しさを物語るように、
互いの危機を報せた水切石が、
クナイとともに川下に沈んでいきます。

「…マダラ…、…お前…!?」

言いかけようとした柱間を制するように、

「少しの間だったが楽しかったぜ。…柱間。」

と短く別れを告げ、牽制します。

「3対3か。…どうだ。いけるか、マダラ。」

マダラが加わり一気呵成をかけたい父タジマ。

「イヤ…柱間はオレより強い。
 このままやればこっちが負ける。」

と己の力に溺れることなく冷静に
戦況を分析してみせるマダラ。

「兄さんより…強い子供が…?」

と目を丸くするイズナ。

「…そうか。…それほどとはな…。退くぞ。」

息子の力を買っているのか、
タジマは息子の言葉を受け入れます。
そしていったん退くことを選びました。

「じゃあな…。」

そう言って背を向けるマダラに、
寂しそうに柱間は語りかけます。

「マダラ…。お前…!
 ホントは諦めちゃいねーよな…!?
 お前はやっとオレと同じ…」

ようやく巡り会えた理想を共有できる
仲間だと思いたかった――

「お前は千手…。
 できれば違ってほしかった。
 オレの兄弟は千手に殺された。
 …だからさお互い腑<はらわた>を
 見せる必要もねーだろ。
 …次からは戦場で会うことになるだろうぜ。
 千手柱間…。
 オレは……うちはマダラだ。」

そう言って見開かれた眼には巴の紋様が。
写輪眼を開眼して見せたマダラ。
結局のところどこまでいっても相容れぬ仲。
"千手"と"うちは"という呪縛。
そこにある拭えない憎しみは、
決して消えることはないのです。

「その時…写輪眼の開眼が何を意味するのか……。
 オレには分かった気がした。」

柱間とマダラはこれから永きにわたって続く、
千手とうちはの争いに身を投じていくのです。

2.相子(2)

「奴は友となったオレを……
 完全に消すことにしたのだ。
 それからオレ達は戦った。
 来る日も来る日も戦い続け…
 気づけばオレ達は互いに一族の長になり…
 成しとげたかった夢から一番遠い所に居た。」

二人はその日を境に幾度となく戦い、
勝負のつかないまま、
互いに一族の長となるまで実力を高めていました。
そして長きにわたって続いてきた戦いに
幕を下ろすときが来たようにも見えたのです。

「マダラ…お前はオレには勝てない…。
 もう…終わりにしようか……。」

扉間の《飛雷神斬り》がイズナをとらえ、
イズナは倒れ込みます。
すぐに弟の傍に駆け寄るマダラ。
柱間は幼い頃にマダラと語り合った夢を
忘れられないでいました。
それが柱間の信念でもあったのです。
こんな不毛な一族同士の争いを続けていても虚しいだけ。
前に進むには――

「忍最強のうちはと千手が組めば…
 国も我々と見合う他の忍一族を見つけられなくなる…。
 いずれ争いも沈静化していく。さぁ…」

そう言って手を差し伸べる柱間。
その言葉に一瞬戸惑うマダラですが、

「…ダメだ兄さん。
 …奴らに騙されるな…。」

千手の言葉を呑んだら、
いままで命を賭して失った者たちが皆、
犬死になってしまう――
はっと我に返ったマダラは、
とりあえず退くべきとみて、
煙幕を使って退却していきます。

「戦いはうちは一族が劣勢なのは
 誰の目に明らかだった。
 後、千手へ亡命する者まで現れ始めた。
 そしてその頃マダラも変わったのだ…。
 永遠の万華鏡写輪眼を手に入れてな。」

いく度の戦いで徐々に疲弊してきたのはうちは側。
そしてマダラは最愛の弟まで失ってしまうのです。

「この前の傷が元で弟は死んだ…。
 うちはを守るためにオレに力を残して!」

戦いの先に待っていた結末――
しかしもはやそれを"後悔"などと
生温い考え方では受け入れることはできません。
"復讐"の2文字しかマダラにありませんでした。

「休戦協定の書状を送ったハズだ!
 …うちはを守るなら、
 もうこんな戦いは止めようぞ。」

もはや"うちは"と"千手"という運命にある中、
憎しみの渦に巻き込まれるのは必至。
その中で互いを喰らい尽くすまで、
戦い合うことに意味があろうがなかろうが、
どうにも止まることなんかできないのです。

「柱間ァ!
 いつまでガキのような事を言っている!
 腑を見せ合うことなんてできやしねーのさ!」

須佐能乎を展開し、
力の限りを以て柱間に挑んだマダラ。
一日中戦い、柱間に敵うことはありませんでした。

「マダラ…終わりだ。」

地面に背をつけたマダラに止めを刺そうとする扉間。

「…待て、扉間。」

それを制止する柱間。

「なぜだ兄者!?
 今がチャンスだろ…!?」

長きにわたる戦いに幕を下ろす時のはず――

「手出しは許さん…」

しかし最強の男の怒気は、
その弟とはいえど怯まずにいられません。

「フン…いっそ…一思いにやれ…柱間…。
 お前にやられるなら……本望だ。」

無用な情けなどいらない、とばかりにマダラは言います。
その相手が敵ではありながら
自分の認める男ならなおさらです。

「かっこつけても無駄ぞ。
 長であるお前をやれば…
 お前をしたう若いうちはの者が
 また暴れ出す。」
「もうそんな芯のある奴はいねーよ。
 …うちはには。」
「イヤ…必ず居る…。」

柱間はマダラとは友として理解しあいたいのです。
そしてこの虚しい戦いの繰り返しに
終止符を打ちたい。

「また昔みてーに水切りもできねーか? 一緒に。」
「…そりゃ無理ってもんだぜ…。
 オレとお前はもう同じじゃねェ…。
 今のオレにはもう…兄弟はいねェ…。
 それにお前らを信用できねェ…」
「どうすれば……信用してもらえる?」

弟がもうこの世に居ないという状況。
一方で相手は弟を守り抜いています。
うちはと千手の軋轢を踏み越えることよりも
たいへん受け入れがたいその差は
マダラの心を柱間に対して固く閉ざしています。
柱間の問いにマダラは少し考えるようにして言います。

「腑を見せ合えるとすりゃ…
 今、弟を殺すか…
 己が自害して見せるか。
 それで…相子だ…。
 そうすりゃお前ら一族を信用してやる。」