623『一望』

1.一望(1)

「戦乱のこの時代を変えようと、
 同じ考えを持つバカな子供が…、
 オレ以外にも居たのだ。
 驚いたというよりも、
 マダラは天の啓示だとしか思えなかった。」

そう柱間が振り返るように、
おそらく柱間とマダラの出会いは、
運命的なものだったということでしょう。
忍というシステムが、
それぞれの一族毎の争いで成り立っていた時代。
後に一国一里の合理的な忍のシステムを築いていくのですが、
その背景にはこのような凄惨な子供時代があったからです。

「…腸を見なくても分かるんだけどよ…。お前…」
「…何?」
「髪型といい服といいダッセーな。」

何気なくかわされる会話に、
"千手"と"うちは"の軋轢はありません。
彼らの関心は一族同士の確執の外にありました。
多少考えは違っても、大元の考えを共有できる――

「…全てが同じ考えって訳でもなかったが……。
 それからオレ達はちょくちょく会うようになった。
 姓はお互い知らないまま…。
 忍の技を競い合ったり、
 未来について話し合ったりした。」

お互いは"忍"であることは知っていた――
しかしそれは姓を明かさない、
すなわち一族を気に掛けないことで
個と個が色眼鏡抜きで対等に向き合えている
好ましい状況です。

「でも具体的にどうやったら変えられるかだぞ。
 先のビジョンが見えてないと…。」

そう口にする柱間に対して、

「まずはこの考えを捨てねェことと、
 自分に力をつけることだろが。
 弱い奴が吠えても何も変わらねェ。」

と答えるマダラ。
幼いながらにすでに"現実"が見えています。
つまり確固たる"信念"を持っていたとしても、
それが正義だと世に認められて、
何かを変えるには"力"が必要なのです。
もちろん問題はその力が
ただ単に強大であればよいわけではないのですが、
この頃の二人はただただひたむきに、
自分たちが一忍として強くなることに決めたようです。

「そだな…。
 とにかく色々な術マスターして強くなれば
 大人もオレ達を言葉を無視できなくなる…。」

と柱間。
忍世界を変えるには、忍として強くあらねば――

「苦手な術や弱点を克服するこったな…。
 …まぁオレはもうその辺の大人より
 強ェーけどよォ…。」

マダラも賛同します。

2.一望(2)

こうして二人は次第に交友を深めていきます。
マダラが本当に後ろに立たれると小便が止まるほど
繊細な(?)神経をもつ弱点を柱間が発見したり、
崖のぼりを競ったり、新術を見せ合ったり――
そこには確かな友情が芽生えていました。

「…ここだと森が一望できるな」

いつか競って登った崖の頂上。
疲れた体を座りながら休める二人。

「オウ…。遠くまでよく見える。
 目の良さならお前に負けねェ自信がある。
 …勝負すっか?」

とマダラ。

「急に何だぞ、それ?
 やけに目にプライド持ってんな。」

やや誇らしげにする様子を
不思議そうに訊ね返す柱間。

「そりゃそだろ!
 なにせオレは写…」

言いかけてマダラは止めます。
"うちは一族"を確定づけるような単語は
二人の間柄には持ち込みたくなかったのです。

「どした?」

言葉を言いかけて止めたマダラに、
また柱間は訊ねます。

「イヤ……。
 そうでもねーな…やっぱ。」
「何だぞ?
 …お前にしちゃやけに素直だな。」

いつもと違ってむきにならないマダラ。

「…だったら兄弟は死んでねェ。
 見守ることもできなかったくせに…
 何が……何が…」

眼が良いというのなら、
兄弟の危機を察知し助けに入ることもできたし、
それがたとえ叶わないにしても見守ることはできたはず。
自分の無力さをかみ締めながら、
神妙な面持ちをするマダラの表情。
何かを読み取ったように柱間を話しかけます。

「もう兄弟はいねーのか?」

自分も兄弟を亡くしている身。
隣にいる友もまた同じ境遇にあり、
同じ悲しみを心にしまっているのだと気づきます。

「イヤ…。
 一人だけ弟が残ってる。
 その弟だけは、何があろうとオレが守る。」

マダラの弟イズナへの執着は、
こういった背景から生まれてきたことが分かります。

「ここにオレ達の集落を作ろう!!
 その集落は子供が殺し合わなくていいようにする!!
 子供がちゃんと強く大きくなるための
 訓練する学校を作る!
 個人の能力や力に合わせて任務を選べる!
 依頼レベルをちゃんと振り分けられる上役を作る。
 子供を激しい戦地へ送ったりしなくていい集落だ!」

子供ながらにずいぶんと達観した構想ですが――
柱間はすでにある程度、
自分が築き上げたいビジョンを組み立てていました。
もちろんこの時代の背景からみれば
それは仕方ないといえばそれまでですが、
"忍"としての枠を超えられない中で、
"憎しみの連鎖"だとか"平和への答え"だとかは
度外視されています。
それでも現在の好ましくない状況を変えるべく
二人は強くなろうと決心したのです。

「フッ…。そんなバカなことを言ってんの、
 …お前ぐらいだぞ。」

とマダラ。しかしどう考えているんだと訊かれて、

「その集落作ったら今度こそ弟を…
 一望できるここからしっかり見守ってやる…!」

と言います。
夢を共有し笑いあう二人。

「そこが後、木ノ葉の里となる場所だった。
 オレはこの時覚悟を決めた。
 先を見るために耐え忍ぶ覚悟を。」

柱間はこの誓いの場所こそ、
後に木ノ葉の里として
築き上げた場所だったことを明かしています。
川岸に戻った二人。

「2人とも届いたな。」
「その石…。水切りするにはいい石だ…。
 …次に会うまでてめェーに預けとく!」

それぞれが川に対して此方と彼方ですが、
お互いの水切石を渡し合って、
また会う日まで、とその日は別れました。

3.一望(3)

帰り際、弟の扉間と出会った柱間。
話があると言われ、父親のところへ顔を出します。

「お前が会っている少年がいるな…」

いかにも厳格な様相で、
柱間を問い詰める父親。
弟の扉間に様子を窺わせていたようです。

「あの少年をワシが調べた。
 うちは一族の者だ。
 我ら一族の大人達の手練もやられている。
 生まれながらに忍の才を持つ少年のようだ。」

父親の言葉を聞き、
自分の中で認めたくないわだかまり
呑み込まざるをえなくなった柱間。
お互いに一族の名を知らない体<てい>とはいえ、
言葉の端々、一挙手一投足から、
それを感じとってはいました。

「たいして驚かないところをみると…
 お前達すでに互いの一族の名を
 知っていたんじゃないだろうな?」

押し黙る我が子に父は詰め寄ります。

「イヤ…知らなかった。
 おそらく奴も…。」

と柱間は口を濁します。

「…これがどういうことか分かってるな。
 千手の者達にはまだ言っていない……。
 スパイ呼ばわりされたくなくば…、
 次にあの少年に会った後、奴を尾行しろ。
 うちは一族の情報を持って帰れ…。任務だ。
 …気づかれた時は…殺せ。」

柱間とマダラにとっては非情なまでの一族同士の問題。
いままで知らないように顔を背けていたものと
ついに向き合わされることになってしまったのです。

「ほ……本当にうちは一族なのか?」

思わずもう一度確認してしまう柱間。

「そうだ…。
 お前が千手だとバレていれば…、
 こちらの情報を盗むために気を許したフリをする。
 信用するな。」

と父親。

「イヤ…あいつはそんな」

否定しようとしますが、
頑なに認めようとはしません。

「腹では何を考えておるか分かったものではない。
 もしダマされれば千手の皆を
 危機に落としいれることになる。
 念のためワシと扉間も付く…。
 分かったな!」

二の句も継げないほどの切迫した展開。
子を想えばこその親の気持ち。
一族という柵<しがらみ>にあればこその問題。
二人の仲は強引に引き裂かれようとしています。
当日――。
川を挟み向かい合う二人。
挨拶代わりに水切石を交換します。
そこには、『にげろ』『罠アリ去レ』の文字が。
二人とも急用を思い出したかのように、
その場を立ち去っていきます。
状況はマダラ側も同じだったようです。
互いが互いを庇いあいますが、
親たちはそれを許しません。

「このスピード!
 逃げ切る気か!
 柱間め。考えたな!!
 行くぞ扉間!!」

深追いを掛けようとしたところ、
マダラの親とイズナがそれを迎え撃って出ます。

「考えることは同じようですね……
 千手仏間。」
「それと扉間だったか。」

対して千手側も負けてはいません。

「…のようだな。うちはタジマ。」
「それからイズナだな。」